風刺・戯文

ファーストの先

行列に並んでいると、男が私たちの前に割り込んできた。私たちのひとりがそのことを注意すると、男は「ここは日本なのだから日本人ファーストだ。黙ってろ」とすごんだ。

「私たちも日本人ですが」とこっちも負けない。

「じゃあ、証明するものを見せろ」

「いや、なんであなたに見せなくてはならないのですか」

「ほら、これだ。だから外国人どもてのは!」

あんまり悔しかったので私たちはそれぞれ自分の証明書を取り出してみせた。すると男は見もせずにあざ笑った。「おいおい、俺は入管じゃないぜ! どうせ偽造だろ! お前らは在留カードでも握っておとなしく並んでろ!」

「じゃ、じゃ、そっちの証拠を見せろよ!」 と私たちのひとりがたまらず声を荒げた。すると男は胸のポケットからラミネートされたカードを取り出して、突き出した。日本人ファースト党の党員証だった。

私たちはもう黙ることにした。すると、男は何人か先に年配の女性が並んでいるのを見つけ、今度はそこに割り込んだ。女性の抗議の声と、男がこう怒鳴りつけるのが聞こえた。

「子どもの産めないババアは黙ってろ! この日本じゃ日本人ファーストなのは子どもを産む若い女だけだ!」

そのうち男はさらに割り込める場所を見つけて、どんどん先に行ってしまった。あんなふうにおかしくなると、と行列に並ぶ私たちは思った。地獄に落ちるのも日本人ファーストらしい。

風刺・戯文

練馬変態クラブの憤慨

練馬区の変態たちがつくる練馬変態クラブは、1974 年には活動をしていた変態市民団体の草分け的存在だ。月一回で行われる会合では、誰もが公式の衣装、つまりブリーフいっちょうで参加するのが決まりとなっている。集まると、会員たちは互いにブリーフを誇らしげに見せ合いながら元気よく叫ぶ。

「ぼくはライオン!」「ぼくはゴリラ!」「ぼくは象!」

ブリーフの正面真ん中には、それぞれお好みの動物の顔が描かれていて、その動物を報告する。これが、練馬変態クラブの決まりなのだ。だが、普段は明るい会員たちが近頃どうも落ち込み気味なのだという。

その原因は最近のニュース、小学校の教師たちが盗撮した児童の写真をネットで共有していたという報道にあった。会長のへんいちさんに話を伺うとこう答えてくれた。

「私たち変態が問題視しているのは、この見出しです。『変態教師グループ逮捕』 ひどいではありませんか。変態は犯罪者ではないのです」と会長は憤る。

「私たち変態も、この教師たちのしたことに怒っていることには変わりはありません。ただ、彼らは変態ではなく、犯罪者なのです。こうした書き方は、変態は犯罪だという誤解を与えます。私はメディアに問いたいです。教えてください。変態は、罪ですか? メディアの差別的な姿勢に断固抗議いたします」

練馬変態クラブは、抗議文を記したブリーフを履いてメディアに乗り込み、脱ぎたてを公式プレスブリーフとして報道関係者にじかに手渡す予定だ。

風刺・戯文

関税が吹けば桶屋が儲かる

トランプ米大統領の関税攻勢が止まりません。当初の 24 %から最大 35 %の関税を課す可能性に言及したからです。市場関係者の間では、トランプ政権がさらに関税を上乗せし、200 %にまで上昇する最悪のシナリオの懸念が高まっています。経済シンクタンクは「米国がくしゃみをすると日本も関税をひく」状況になったと指摘します。

国民の生活にも大きな打撃を与える高関税状況を踏まえ、石破政権は国民に冷静な対応を呼びかけるとともに、関税の影響を最小限に抑えるための「行動指針」をまとめました。

《行動指針の骨子》
・人から人へうつる関税を予防するために、人混みを避け、衛生面に配慮する。
・咳やくしゃみからうつることもあるので関税をひいている人に近づかないようにする。できるだけマスクをする。
・電車のつり革や室内の家具などから関税に感染することもあるので、手洗いや手指の消毒を徹底する。
・夏関税はとくに治りにくいので、この時期はできるだけ感染源には近づかないようにする。
・睡眠をしっかりとり、栄養のある食事をして、免税力を高める。関税に負けない体をつくるために、毎日、関布摩擦をするとよい。
・熱や咳、ゼーゼーするなどの関税の初期症状がある場合は、税務署に連絡する。

今後、関税がさらに広がった場合、政府は、コロナ禍以来となる緊急事態宣言と関税防止等重点措置を発出する予定です。

風刺・戯文

日本人ファースト党宣言

(以下は『日本人ファースト党宣言』からの抜粋)

……日本はどうしてかくも無惨に壊されてしまったのか。それには2つの理由があります。

ひとつは日本を壊したい勢力が存在し、この日本で活動しているからです。いやそう言うだけでは十分ではありません、この日本の政治とメディアを支配しているのです。これらの反日本勢力は、日本人のふりをして日本のために働いていると見せかけ、日本を破壊してきたのです。日本人ファーストの国を作るためには、私たちは、これらの敵対勢力を日本から一掃してしまわねばなりません。

では、そのためにはなにが必要でしょうか。私たち日本人が力を合わせること以外にありません。ですが、これこそが、日本が破壊されたもうひとつの理由なのです。日本の教育と伝統が破壊されたため、私たちは醜い個人主義者となり、国のために命を捧げる犠牲心を失ってしまったのです。

戦後、日本が高度成長を遂げたのはどうしてでしょうか? どうして、私たちは、戦後に勝利したのでしょうか? それはかつての日本人が自分を犠牲にして国のために働いたからです。考えてみてください、高度成長期の日本がどれだけ素晴らしかったか。外国人犯罪もなく、また闇バイト事件やネット詐欺もなかったのです。セクハラもパワハラもありませんでした! もし、私たちが自分を犠牲にして国のために尽くすならば、今にも日本は高度成長期に突入するでしょう。そのためには、日本人ファーストになって、国のために命を捧げなければなりません。

今の日本人に必要なのは、この自己犠牲の日本人ファースト精神です。全国民が一丸となって戦い抜く覚悟です。全員野球といいますが、全員が力と心を合わせれば、アメリカだろうが中国だろうが負けっこありません。なにしろ日本人ファーストの野球チームは、全員が1番ファーストなのですから……(以下略)

風刺・戯文

日本人ファースト

日本人ファーストの党が政権を勝ち取ったとき、誰もが「本当の日本を取り戻すことができる」と欣喜雀躍した。

そして日本人ファーストの党は、私たちが期待した通りの政党だった。することなすこと日本人ファーストだったのだ。外国人は追放か処刑だし、なりすまし政治家も追放か処刑だ。日本人を貶してきたメディアと学術会議は A4 用紙で簀巻きにして日本海溝にボチャンだ。例の GHQ 謹製の憲法だって改憲どころの騒ぎじゃない。廃憲だ。これからは日本人ファーストが法律だ。日本人の日本人による日本人のための日本がここに実現したのだ。

そんなある日、政府から私たちのところに一通の通知が届けられた。

「日本人ファーストではないとの嫌疑につき直ちに出頭するように」

「これはなにかの間違いだよ」 私たちが我こそファーストとばかりに当局に駆け込むと、取り調べもなにもなく逮捕。由緒正しい日本人だといくら主張しても、日本人ファーストではない疑いの一点張りだ。裁判もなく有罪の判決が出た。

今、私たちはど田舎の収容所に入れられている。どんなに日本人だと言っても出してくれない。それどころか殴られる始末。

「日本人ファーストの国が日本人を殴るのか!」と怒鳴ると、看守たちは「よく聞け! ここは日本人の国じゃない! 日本人ファースト人の国だ!」と笑いながら死ぬまで殴る。日本人ファースト人ファーストだったのだ。

収容所では、朝の4時から夜の11時まで強制的に働かされる。私たちが作るのは米と野菜だ。純国産の食材を日本人ファースト人の食卓にお届けしています。

風刺・戯文

シェルター建設のはこび

ドイツ人たちが、ユダヤ人への恐怖と憎しみに駆り立てられて迫害と虐殺を始めたとき、少数の人々はユダヤ人を匿って命を救った。だが、そのせいで逆に、匿われたユダヤ人のみならず、その匿った人の家族全員が殺されることもあった。

今の世界は当時と同じような憎しみにゆっくりと炙られつつある。我が国でも「日本人ファースト」などといって日本人と日本人でない人をはっきりと区別するヘイト表現が大手を振って歩き出した。日本の国だから日本人が大事なのは当たり前だという人もいるかもしれないが、政治家がそんなことを言い出すのは、日本という国に住むすべての人々に対する責任放棄にほかならない。

政治家が責任を持つことを放棄した人々に何が起こるだろうか。外国人ならば強制送還だ、と簡単にいう人がいるが、これは実際には大変だ。おそらく、強制送還ならばまだ良心的だったと思われるようなことが起こるはずだ。殺してしまうほうがなんといってもいちばん楽なのだ。いずれにしても人狩りは避けられまい。

こうした暗い時代の到来に備えて、ひとりでも多くの人を匿えるようなシェルターの建設が必要ではないだろうか。そのシェルターでは、「日本人でない」とされた人々が、日本人ファーストの魔の手から守られ、いつか明るい時代が来るまでひっそりと生き延びるのだ。

私は自分自身が迫害される危険を省みず、シェルターの建設を決意した。持てる財のすべてを注ぎ込み、この度、ついにシェルターの完成にこぎつけたのだ。じつにすばらしく、美しいシェルターだ。一見の価値ありと自負している。ついては、シェルターの完成披露会を開催したい。ぜひたくさんの人においでいただき、実際にご覧いただきたい。日時と詳しい場所(地図つき)は追ってこのサイトで告知するつもりだ。

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押しボタン式

押しボタン式信号機のある横断歩道では、誰でも知っているように、信号は勝手に変わってくれない。道を渡りたいときに自分でボタンを押して、信号を青にしなくてはならないのだ。もしボタン式であることを知らずにいたら、ずっと待ち続けることになるが、これはしばしばあることだ。

私はこの押しボタン式信号機にイヤな思い出がある。とある横断歩道で、男が待っていたのだ。後から来た私はその隣に立った。男の脇には電柱があり、そこに黄色い「押しボタン」装置があった。見ると「おまちください」の表示になっている。つまり、すでにボタンを押してくれていたのだ。

やがて車が停止し、信号が青に変わった。私は少し急いでいたので、小走りに渡ろうとすると、後ろから声が聞こえた。「俺がボタンを押したんだから、俺より先に渡るな!」 私は怖くなり、そのまま足を早めて逃げたが、これは非常に不愉快な経験だった。

そんなわけで、私はこの押しボタン式信号機のあるところでは慎重にふるまうようになった。先に押して待っている人がいるときは、その人が歩き出してから渡るようにしている。自分が先に押したときだって、決して先にはいかない。むしろ、慎み深いところを見せようとして、他の人を先に行かせる。どんなに急いでいてもだ。

もっとも、なかには上品で奥ゆかしい人もいる。横断歩道の前で、「どうぞお先に」「いえ、そんなことはできません。そちらこそ、どうぞ」などと譲り合いになり、結局、信号が赤になってしまう。

風刺・戯文

はしご高

今日、東京都江東区高橋で、「高橋の祭典」が行われ、全国からおよそ1万人の高橋さんが参加しました。

全国の高橋さんで作る「日本高橋の会」の会長高橋さんの開会の辞とともに始まった祭典では、「高橋姓」の歴史、高橋の偉人の紹介、高橋の発展のために尽力した高橋さんたちへの表彰状の授与、世界各地の高橋さんからの祝電の紹介などが行われました。

今回の祭典では「高橋ナンバーワン・プラン」がはじめて採択されました。「今こそ、高橋の力を集結して、苗字のランキング1位を目指しましょう!」という、祭典実行委員長の高橋さんの掛け声に、高橋さんたちが「打倒佐藤! 打倒鈴木!」と勇ましく応じました。

会場では、高橋幸宏さんの名曲を演奏するコンサートや、クイズ大会「たかはし? たかばし? どっちでショウ!」などが行われ、大盛り上がりでした。

また「最高はしご高決定戦」で、全国のはしご高の高橋(*)さんが日本一のはしご高を目指して競い合いました。観客たちは、あまりの高さに空を見上げながら「はしご高っ」と驚きの声をあげていました。

*高は正しくは「はしご高」

風刺・戯文

フローレス原人

今日、人類学の泰斗、ジェイムズ・シェルドン博士が来日した。博士は、フローレス原人(ホモ・フロレシエンシス)研究の世界的権威として知られる。

フローレス原人とは、インドネシアのフローレス島で化石が発見された小型の人類だ。推定によれば、身長は1メートル余りだったとされ、その発見は世界を驚かせた。

フローレス原人をめぐる最大の謎は、もともと小型の人類であったのか、それとも現生人類と同じサイズだったのが、フローレス島という特殊な環境により小型化したのか、という問題だ。後者の小型化説を主張するもっとも有力な研究者であるシェルドン博士は、都内のスーパーやコンビニを巡って、さらなる証拠集めを行う計画だ。

「ほら、見てください」とコンビニを訪問した博士は商品棚からシュークリームを取り上げる。「私は、約10年前にも来日したのですが、その頃より半分の大きさになっています。さらに(と精算前のシュークリームを半分に割る)内部のカスタードクリームは半分どころか3分の1になっているのです。もちろん、これだけではありません。ピザ、ドーナツ、パン、あらゆる食品がそうなっているのです」

博士は精算前のシュークリームに齧りつくと顔をしかめながら話を続けた。

「もし、経済的衰退により、商品の小型化が進み、それを摂取する日本人も環境の変化に適応して小型化しているとしたら、フローレス原人にも同じことが起きた可能性があるといえないでしょうか」

博士は今後、都内のコンビニやスーパーの店内に生息する日本人を捕捉し、体長の測定を実施する予定だ。

風刺・戯文

マスクの美人

コロナ禍という閉塞的な状況がそうさせたのかもしれない。私は妻子ある身でありながら、他の女性に恋をしてしまった。

その女性は、朝いつも同じ車両に乗る。いや、恥を忍んでいってしまおう。私はわざわざその人に合わせて、電車に乗っていたのだ。

その頃はといえば、私たちは不便なマスク暮らしだった。だが、その人のマスクに隠されない部分、つまり、美しい鼻筋や、感情を掻き立てる目、そして、知性的な額を見るだけで、私の心は躍った。

ときおり、駅ビルや駅前のショッピングセンターで、彼女の姿を見かけることもあった。私は思わず立ち止まり、その美しい姿を目で追わずにはいられなかった。

だが、思いもよらない事態が生じた。コロナが収束したのだ。人々はもはやマスクをつけて歩かなくなった。そして、その時以来、私は彼女を見失ってしまった。

私はいつもの電車に乗る。あの人がいつもいたあたりで、ひとりひとり女性の顔をこっそり覗き込む。だが、彼女はもういないのだ。

私は彼女のいた時間帯、いそうな時刻に駅や街をさまよい歩いた。人々の中に彼女の面影を追い求めた。思い詰めた私は、片目をつぶり、片手をかざして自分の視界を覆った。そうやって道ゆく女性の顔の下半分を隠してみたのだ……違う、違う、違う、これも違う……不審者あらわるとの通報に駆けつけた警察の顔も思わず半分隠して、これも違う……。

そんな苦難を経た私に、ついに朗報が飛び込んできた。最近、中国でまたおかしな病気が流行ってるという。おお、ニュー・パンデミックよ、来たれ! 私はきっと彼女と再会できるだろう。