苦い文学

心の遺産

日本はどこもかしこも観光客でいっぱいだ。これらの人々は日本の文化に夢中なのだ。

アニメや漫画などのクール・ジャパンはもちろんのこと、京都や奈良の歴史的遺産、日本各地に残る伝統的家並みと風景も、異国の目にとっては魅力的だ。

そして、なによりも食べ物だ。料亭の高級料理から食べ歩きのB級グルメまで、外国人観光客の舌を喜ばせないものはないのだ。

25の世界遺産を誇る我が国であるが、これらの魅力もまた日本の伝統が育んだ遺産だということができる。

だが、遺産とは目に見えるものばかりではない。外国人観光客が日本に来て賛嘆するものといえばなんだろうか。それは日本人の礼儀正しさ、おもてなし精神、公共心である。外国人たちは、日本人の心を、まるでエジプトのピラミッドや中国の万里の長城を仰ぎ見るかのように、賛美するのだ。

私たちの心もまた、先人たちが慈しみ、はごくんできたものであるのは言うを俟たない。日本人の心こそ遺産というべきなのだ。

もっとも残念なのは、この遺産が、無計画な開発、商業的濫用、貧富の差の拡大、特殊詐欺の蔓延、陰謀論の猖獗、反知性主義の跋扈、排外主義の激化などにより、危機的状況に直面していることだ。まさにいま食い潰されつつあるのだ。

ユネスコは近々、この「日本人の心の遺産」を危機遺産リストに登録する予定だとか。