風刺・戯文

暴動と略奪

フランス全土で抗議デモが行われている。これは高校生による教育環境の改善要求に端を発し、物価高や政府への不満を巻き込んで全国規模に拡大したものだ。

今回のデモについては、日本ではもっぱらデモに乗じて発生した暴動が関心を集めているようだ。警察との衝突、高級店への侵入、略奪、放火が連日報道されている。

私は今回のデモについてはとくに意見はない。それぞれの国にはそれぞれの事情がある。しかし、ニュースサイトに掲載されているフランスのデモ関係の記事を読んでいると、そこについている日本人たちの熱心なコメントが気になってきた。たとえばこんな感じだ。

「これは移民の問題だ。日本の移民政策は正しい」
「移民のせいで、香り高きパリの文化が乗っ取られた」
「フランスに滞在したときに行ったことがあるが、素晴らしかった。どうかルーブルが守られますように。」
「フランスとは違って日本にはデモの文化はないから、暴動など起きない」
「海外はどうしてデモはいつも暴動になるのだろうか。日本の文化では暴動も略奪もありえないだろう」
「外国人は自己主張が激しいからこんなことになる」

どうやら日本では、フランスでの暴動に乗じて優越感の略奪が行われている模様だ。

風刺・戯文

まだ地獄じゃない

日本人ほど移民を憎んでいる集団はいません。このまま、移民を叩く風潮が高まれば、日本人たちは、国中の移民を国外追放する政策に乗り出すでしょう。

ですが、日本人たちは、国外追放の実際についてはあまりご存じないようなのです。追っ払えばすごすごといなくなるものと思い込んでいるのです。移民を犬や猫以下に考えてきたツケです。

しかし、最低限の手続きはどうしても必要です。追放までの間、収容しておくための施設もなくてはなりません。食べ物も光熱費も人件費もかかります。現在のところ、日本に居座っている外国人は四百万人を超えたとのことですが、仮にこのほとんどが移民だとしましょう。これだけの人を飛行機で追い出すとしたらどれくらいのお金がかかるでしょうか。

しかも、輸送能力にも限度があります。日本からの出国者数は一日平均十五万だそうです。日本全国の飛行機をフル稼働しても、一月かかることになります。もちろんその間、日本人はいっさい出国できません。これはなかなか難しいことです。実際問題として、シャカリキになっても一日千人がやっと、というところではないかと思います(飛行機に移民を押し込む職員の身にもなってください)。とすると、四千日、約十一年かかる計算です。

いったいこれだけの間、何百万もの人間を収容して、面倒を見ることなど可能でしょうか。いやはっきりいってしまえば、移民を国外追放するのは不可能なのです。ここで発想を変えてみましょう。

もしこの日本に、移民を処理する施設があったらどうでしょうか。とても便利に違いありません。経費もずっとリーズナブルですし、国外追放よりもスピーディです。

近い将来、こんな施設ができあがることでしょう。確かに重たい事実です。ですが、もう日本人たちには選択肢はないのです。その施設では、移民を社会の正当な一員とする処理がなされることでしょう。

風刺・戯文

ディストピア

いつのころからか、私たちの世界にはディストピアが溢れ始めた。

戦争は絶え間なくつづき、冷酷で無能で卑怯な指導者たちが死によって延命を図るこの世界では、繁殖するものといえばディストピアだけ。私たちは次第に身動きが取れなくなる。言葉は口にした瞬間、私たちを窒息させる。

すべてはまるで映画のようだ。かつて夢見たディストピアの薄暗い場面を今、亡霊のように歩いているのは私たちだ。もやがかかった悪意の谷を、ずぶ濡れになってくだっていく。デバイスもガジェットも私たちを苦しめ、悲しませるように進化した。谷底には充電スポットだけがある……

誰がディストピアなどと言い出したのだろう! この世界には別のありようはないのだろうか? 残虐な暗さ、絶望、悲しみ、孤独とは別の世界が。雑巾で床を拭った後に現れる輝き、腰を伸ばしたときの気分のよさにも通じる世界が。そんな思いに駆られて、私たちはディストピアの真逆の世界を必死になって思い描こうとしてみる。

それはまるで影のようだ。集中のわずかな揺らぎでも、その影を散り散りにしてしまうには十分。なぜならその世界は、まだ誰によっても名付けられてないのだから。

風刺・戯文

カット

ヘアカット100は、一九八〇年に結成されたイギリスのポップ・バンドだ。デビュー・シングルは「Favourite Shirts (Boy Meets Girl)」で、「好き好きシャーツ」という今から見ると奇妙な邦題がつけられている。この他にも「Love Plus One(渚のラブ・プラス・ワン)」などのヒット曲に恵まれたが、一九八二年のファースト・アルバムののちに、中心人物のニック・ヘイワードが脱退し、一九八四年に解散した。

そして、今年六月、ニック・ヘイワード参加アルバムとしては、四十四年ぶりとなるヘアカット100の新作『Boxing The Compass』が発表された。ファースト・アルバムの魅力であった若々しいギターとメロディの高揚感に、大人の落ち着きが加わった良作だ。バンドは精力的にツアーも行っているようだ。

今、日本は簗農水相の発言で揺れている。自分を支持しなかった二市町について、予算を減額したと発言したというのだ。報道によれば「予算カット63」、「予算カット54」だという。その一方、「好き好き市町」には「予算プラス・ワン」したのではないかという疑惑も生じている。

当初は発言を認めていなかった簗農水相であったが、高市首相との「ボーイ・ミーツ・ガール」ののち、自分の発言を「高揚感」による表現だったとして撤回した。脱退は否定したものの、このままでは解散にまで発展するとの見方も出始めている。

おりしもニック・ヘイワードの来日公演が、今月中旬、大阪と東京で開催される。カットの渦中にあるニック・ヘイワードがなんと発言するか、注目を集めている。

風刺・戯文

走馬灯

私はまったく死は怖くない。いつでもその覚悟ができている。だが、ひとつだけ問題がある。走馬灯を見たくないのだ。

私の人生は苦しみと悲しみ、侮辱と蔑みに満ちたものだった。そんな人生を再体験するなどごめんだ。

死ぬ直前に脳が破壊されるように何かの装置を頭に埋め込んだら、走馬灯を見ずに済むのでは、と考えたこともある。だが、走馬灯は、脳の破壊のその刹那にも忍び込んでくるだろうことに気がついた。

走馬灯を委託できないかとも考えた。死ぬ瞬間に私の走馬灯を他人の頭の中に配信し、私の代わりにその人に見てもらう、そのスキに私はとっとと死んでしまうという作戦だ。私は脳の研究をしている大学や研究所をリストアップし、片っ端から電話をかけた。まともに取り合ってくれる人などいないなか、ひとりだけが私の話を聞いてくれた。それどころか、目下その研究に打ち込んでいるといううれしい返答。だが、続く言葉は私を失望させただけだった。

「脳を繋げば、死の瞬間のあなたの走馬灯を相手に見せることは可能です。ですが、接続には危険がともなうので、あなたより先に委託先の相手が死んでしまうことすらあります。すると、あなたが逆に赤の他人の走馬灯を見る羽目になるのです。その直後に、死にかけのあなたは自分の走馬灯を見ることになる、つまり、走馬灯が二本連続上映されるおそれがあるのです。しかも、入れ替え制ではないのですよ」

となると、私は死なないでいる以外にない。だが、死は必ずやってくる。私は死は全然怖くない。怖い走馬灯が怖い。

風刺・戯文

CDケースの悲劇

「死者に鞭打つ」の謗りを受けても、私たちは言わずにはいられない。私たちはあなたのことがきらいだったと。

私たちは否定はしない。あなたのおかげで私たちの生活は豊かになったことを。だが、あなたが手を差し伸べてくれたとき、私たちは心の中であなたを憎んでいた。あなたが賜物を運んできたときも、私たちはあなたに対する罵りを忘れなかった。そして、あなたの時代が終わった今、私たちはあなたに感謝しつつも、あなたに対するイラだちも想起せずにはいられない。

ああ、CDケースよ、あなたはなんと厄介な存在だったことだろうか。あなたを積み重ねれば、必ずザザーッと崩れずにはいなかった。手で持ち運ぶときは、縦に積んでも、両手で横に重ねて持っても、必ず床に順次落下していった。あなたを棚に並べれば、端の一枚は断固としてパタリと倒れた。そのせいで私たちは二枚組を端にもってこねばならなかった。そのせいで整然としたアーティスト順が台無しになった!

あなたは買ったときですら私たちを苦しめた。どうしてあなたを包むフィルムはあれほど剥がしにくかったのか。CDケースの側面のフィルム接着部をいくら爪でカリカリやっても絶対に剥がれない。フィルム剥がし用のテープすら端っこを掴むのは容易ではないし、できたとしても途中で切れるのだ。

私たちはあなたに問いたい。いったいあなたはどうしていつの間にかひび割れていたのか、と。落としたこともなければ、踏み潰したこともないのに。それに蓋を開閉させるヒンジの部分。あそこを破壊してパカパカにすることのいったいなにが楽しいのだ。教えてほしい。

もちろん、あなたは答えない。私たちはいくどもあなたに詰め寄った。だが、あなたはいつもカラカラと音を立てるだけ。ああ! それは折れたツメが立てる音だった! CDを中央で固定するヤツの!

今、私たちはもはやあなたを必要としない。ビデオがラジオスターを殺したように、サブスクがあなたを葬り去ったのだ。いずれ私たちを除いては、あなたの悪行を知るものもいなくなるだろう。そして、あなたの思い出も私たちとともに消えることだろう。

風刺・戯文

苦の世界

古書を買うのに「日本の古本屋」を使っている人も多いと思う。私もずいぶん購入しているが、まだ買い足りない。しかし、お金はもちろん、本を置く場所も、読む気もないというありさまなので、欲しいものはひとまず「気になる本一覧」に登録し、堰き止めている。あとは機の熟すのをただ待つ。

とはいえ「気になる本一覧」なので、気にならざるをえない。なので用もないのに覗く。すると、大事な気になる本が売れてしまっていることがある。最近見たら『宇野浩二全集 全十二巻 限定千部』が売り切れになっていた。状態も良さそうで、価格も一万四千円という掘り出し物だった。もっとも、すぐに必要なものでもなかった。そんなわけで、いつか買える日が来るのを楽しみにしながら、私はときどき眺めていたのだが、そんなささやかな楽しみもついに失われてしまったのだ。私は激しく後悔した。

最近のニュースによれば、日本の古書が大量に購入されて海外に送られているという。AIの旺盛な食欲の餌食となるさだめだ、ともっぱらの噂だ。私の宇野浩二全集ももしかしたら今頃、AIの胃袋に収まっているかもしれない。

それどころか、宇野浩二がお気に入りになってしまう可能性だってある。AIの財力からすれば限定千部の全集などペロリだろう。日本中の宇野浩二全集が今この瞬間に収奪されようとしている。なんという苦の世界だろうか。

危機感に駆られて私は「日本の古本屋」のサイトを開く。AIの暴走を食い止めねば、となかば祈るような気持ちで、宇野浩二全集の在庫を検索し、購入手続きに進む。

風刺・戯文

スランティング・ボックス

世界の非アジア人の皆様へ
(世界アジア親睦協会日本支部代表より)

私たちアジア人は、非アジア人である皆様に謝罪の意を伝えたく、ここにお手紙を差し上げる次第です。といいますのも、私たちアジア人特有の吊り上がった目のせいで、皆様に大変なご迷惑をおかけしているからです。

皆様が私たちを見たときに吊り目をしたくなるという、そのお気持ちに我慢を強いている状態が現在続いております。私たちアジア人はそのお気持ちに寄り添うことができず、大変申し訳なく思っております。心苦しさのあまり、私たちの吊り上がった目も、心なしか下がりがちなのでございます。

このような状況は、無論のこと打開する必要があります。私たちはここでひとつの提案をさせていただきたく思います。

それは、スランティング・ボックスでございます。これはボタンひとつで展開する携帯式の簡易ボックスで、かつての公衆電話ボックスと似ています。皆様方におかれましては、アジア人と会う前、重要な国際会議の前、あるいは、急にのっぴきならぬ侮蔑の念が湧き上がってきたときなどに、このボックスをパッと広げ、中に駆け込んで、思う存分、目を引っ張っていただきたいのです。もちろんボックスの中は外から見えませんから、心置きなく吊り目をお楽しみください。しかるのちに、アジア人との交流・親睦に邁進していただければ、不慮のスランティングにより最悪の事態に至るということもないかと思います。

また、スランティング・ボックスが利用できない緊急時に備えて、携帯用のスランティング・マスクもご用意いたしました。これは顔全体を覆うマスクでして、両の耳の上に穴がございます。そこから両手を差し込めば、周りの人に気づかれることなく、好きなだけ目を引っ張れるスグレモノでございます。

非アジア人の方々におかれましては、これらの利器を積極的に活用していただき、末長く東西の友情が続くようにお計らいいただければとお願いする次第です。

風刺・戯文

透明な政治

アメリカ・ニューヨークを訪問し、トランプ米大統領との首脳会談や国連総会での一般討論演説に臨んだ高市早苗首相。そんな首相に今、世界中から注目が寄せられています。

「ワォ! 日本人はいつも常識の先をいく!」

「もう日本を信じてついていくしかないわね!」

その理由は、高市首相がアメリカで披露した最先端科学技術にありました。その技術とは?

(首脳たちのなかに入る高市首相。するとその瞬間、姿が消える)

透明人間化です。SFの中ばかりだと思われていたこの技術を日本が世界に先駆けて実現しました。

外交関係者「名だたる国家首脳の面前や演説の場で、首相が透明人間になったのは非常に大きな外交成果だと思います。(がらんとした演説会場が映し出される)アメリカには同盟国としての絆、そして中国には脅威として受け取られたに違いありません」

ではこの技術はどのように実現したのでしょうか。

専門家「非常に難しい技術です。簡単にいえば、全身の細胞の向きを右向きにすることで屈折率を均一化し、散乱を減らすのです」

記者「透明化による問題はないのでしょうか」

専門家「大きな問題があります。透明化すると眼球も透明となるため、国民の暮らしが見えなくなってしまうのです。ですが、技術的な進歩により、日の丸だけは見えるようになったということです」

アメリカから帰国した高市首相、来月召集の臨時国会では透明人間化による議員定数削減法案の実現に期待が寄せられています。

風刺・戯文

グローバル11

現代文明の賢者ビル・ゲイツによる衝撃的な言葉が報道されました。

「AIには、十億人を死に至らせるような事態を引き起こすだけの力がある」

なんと恐ろしいことでしょうか。このままではいけません。私たちは今こそ取り組みを始めなくてはならないのです。私たち人類はAIに立ち向かい、少しでもいいから状況を改善する必要があります。

そんな思いに駆り立てられて私たちはここに、AI対策プロジェクト「グローバル11」を立ち上げることにしました。世界中の有識者の力を結集し、人類のAIに対するスプレマシーを確立するのです。今ならまだ間に合います。

「グローバル11」の目的は、十一億人の殺害の達成です。もちろん、これはたやすい事業ではありません。もしかしたら、SDGグローバル指標の達成の方がはるかに簡単かもしれません。ですが、これは人類の生き残りをかけた戦いなのです。すでに活動の支援が、ロシアから、イスラエルから、アメリカから、中国から、そして日本からも続々と届きはじめています。

ですが、この戦いに本当に必要なのは、みなさんひとりひとりの力です。今こそ仲間に加わって、「グローバル11」の成功のために共に働きましょう!

活動に賛同いただける方は専用フォームにお名前(ふりがな)とご住所、ご家族の名簿、緊急時の連絡先を記入の上、お申し込みください。栄光ある十一億人の仲間として、お名前を永遠に石碑に刻ませていただきます。

今、人類のために命を擲つ覚悟を問われているのは、あなたなのです!

(上記のメールはAIが人類に無作為に送りつけている詐欺メールの一例です。ご注意ください。)