風刺・戯文

スランティング・ボックス

世界の非アジア人の皆様へ
(世界アジア親睦協会日本支部代表より)

私たちアジア人は、非アジア人である皆様に謝罪の意を伝えたく、ここにお手紙を差し上げる次第です。といいますのも、私たちアジア人特有の吊り上がった目のせいで、皆様に大変なご迷惑をおかけしているからです。

皆様が私たちを見たときに吊り目をしたくなるという、そのお気持ちに我慢を強いている状態が現在続いております。私たちアジア人はそのお気持ちに寄り添うことができず、大変申し訳なく思っております。心苦しさのあまり、私たちの吊り上がった目も、心なしか下がりがちなのでございます。

このような状況は、無論のこと打開する必要があります。私たちはここでひとつの提案をさせていただきたく思います。

それは、スランティング・ボックスでございます。これはボタンひとつで展開する携帯式の簡易ボックスで、かつての公衆電話ボックスと似ています。皆様方におかれましては、アジア人と会う前、重要な国際会議の前、あるいは、急にのっぴきならぬ侮蔑の念が湧き上がってきたときなどに、このボックスをパッと広げ、中に駆け込んで、思う存分、目を引っ張っていただきたいのです。もちろんボックスの中は外から見えませんから、心置きなく吊り目をお楽しみください。しかるのちに、アジア人との交流・親睦に邁進していただければ、不慮のスランティングにより最悪の事態に至るということもないかと思います。

また、スランティング・ボックスが利用できない緊急時に備えて、携帯用のスランティング・マスクもご用意いたしました。これは顔全体を覆うマスクでして、両の耳の上に穴がございます。そこから両手を差し込めば、周りの人に気づかれることなく、好きなだけ目を引っ張れるスグレモノでございます。

非アジア人の方々におかれましては、これらの利器を積極的に活用していただき、末長く東西の友情が続くようにお計らいいただければとお願いする次第です。

風刺・戯文

透明な政治

アメリカ・ニューヨークを訪問し、トランプ米大統領との首脳会談や国連総会での一般討論演説に臨んだ高市早苗首相。そんな首相に今、世界中から注目が寄せられています。

「ワォ! 日本人はいつも常識の先をいく!」

「もう日本を信じてついていくしかないわね!」

その理由は、高市首相がアメリカで披露した最先端科学技術にありました。その技術とは?

(首脳たちのなかに入る高市首相。するとその瞬間、姿が消える)

透明人間化です。SFの中ばかりだと思われていたこの技術を日本が世界に先駆けて実現しました。

外交関係者「名だたる国家首脳の面前や演説の場で、首相が透明人間になったのは非常に大きな外交成果だと思います。(がらんとした演説会場が映し出される)アメリカには同盟国としての絆、そして中国には脅威として受け取られたに違いありません」

ではこの技術はどのように実現したのでしょうか。

専門家「非常に難しい技術です。簡単にいえば、全身の細胞の向きを右向きにすることで屈折率を均一化し、散乱を減らすのです」

記者「透明化による問題はないのでしょうか」

専門家「大きな問題があります。透明化すると眼球も透明となるため、国民の暮らしが見えなくなってしまうのです。ですが、技術的な進歩により、日の丸だけは見えるようになったということです」

アメリカから帰国した高市首相、来月召集の臨時国会では透明人間化による議員定数削減法案の実現に期待が寄せられています。

風刺・戯文

グローバル11

現代文明の賢者ビル・ゲイツによる衝撃的な言葉が報道されました。

「AIには、十億人を死に至らせるような事態を引き起こすだけの力がある」

なんと恐ろしいことでしょうか。このままではいけません。私たちは今こそ取り組みを始めなくてはならないのです。私たち人類はAIに立ち向かい、少しでもいいから状況を改善する必要があります。

そんな思いに駆り立てられて私たちはここに、AI対策プロジェクト「グローバル11」を立ち上げることにしました。世界中の有識者の力を結集し、人類のAIに対するスプレマシーを確立するのです。今ならまだ間に合います。

「グローバル11」の目的は、十一億人の殺害の達成です。もちろん、これはたやすい事業ではありません。もしかしたら、SDGグローバル指標の達成の方がはるかに簡単かもしれません。ですが、これは人類の生き残りをかけた戦いなのです。すでに活動の支援が、ロシアから、イスラエルから、アメリカから、中国から、そして日本からも続々と届きはじめています。

ですが、この戦いに本当に必要なのは、みなさんひとりひとりの力です。今こそ仲間に加わって、「グローバル11」の成功のために共に働きましょう!

活動に賛同いただける方は専用フォームにお名前(ふりがな)とご住所、ご家族の名簿、緊急時の連絡先を記入の上、お申し込みください。栄光ある十一億人の仲間として、お名前を永遠に石碑に刻ませていただきます。

今、人類のために命を擲つ覚悟を問われているのは、あなたなのです!

(上記のメールはAIが人類に無作為に送りつけている詐欺メールの一例です。ご注意ください。)

風刺・戯文

ガラスの天井

ガラスの天井というのは、グラス・シーリングというようにもともとは、英語の言葉であったが、日本でも使われるようになった。これは組織内で女性のキャリア上昇を妨げる見えない障壁を指す表現だ。

日本は世界有数の科学技術国であるから、当然ながらガラスの生産技術も高い。だからよその国よりも歪みが少なく透明だし、硬度も抜群だ。そのため、これを打ち破るのは至難の業とされてきた。現に最近でも報道されたように、ジェンダーギャップ指数では日本は 117 位と、ガラスの高品質が評価されている。

とはいえ、最近の日本でも変化の兆しがないわけではない。特筆すべきは、高市早苗氏の内閣総理大臣就任だろう。これまで男性が占めてきた重職をはじめて女性が担うこととなったのだ。

高市首相を批判する人も多い。もちろん意見はさまざまだからそれはいいのだが、日本の首相職を覆っていたガラスの天井を最初に打ち破ったのは彼女であることを忘れてはいけない。

我が国の極めて硬いガラスの天井を、彼女は頭でぶち破ったのだ。だから、そのダメージが政治に重大な影響を与えたとしても、大目に見なくてはならない。Xで寝ない自慢をしたり、口を滑らせて余計なことを言ったり、皇族に意地悪な法律を作ったり、国民の暮らしに無関心だとしても、悪いのは彼女ではない、ガラスの硬さだ。

それに、ガラスの天井を壊してくれたおかげで、彼女の後に現れる女性たちは、頭を打たずに済むわけだから、きっともっと聡明で思いやりに溢れた政治を行ってくれることだろう。

ライブ

その人差し指で

スマートフォンの表面の汚さは、トイレの便座に匹敵するほどだということはよく知られている。いや、ある調査によれば便座よりもはるかに汚いのだという。

便座並みの汚れが如何なるものかというと、持ち主の皮脂や汗から召喚された諸々の雑菌たちだという。また、私たちの手はいろいろなものに触れるようにできているから、手を経由してさまざまなバイ菌たちが移住してきている可能性もある。スマートフォンの表面は、バイ菌たちの楽園だったのだ。しかも、便座並みに汚いのならばいっそのことと、便座並みの使い方をしている人も多いだろう。

もっとも自分の携帯を自分で触るのならばいい。だが、問題は他人のものを触らねばならないときだ。私にもその経験はあるが、他人の携帯の表面は見るからにニチャニチャネチャネチャしている。得体の知れぬ凶悪なバイ菌たちががっちり連携しあっているその様子に、私の人差し指は戸惑いを隠せない。

私はたまにライブに行くが、最近では携帯のアプリがチケットがわりになっている。入場時に携帯の画面を見せる。そこには電子チケットがあり、入場係が人差し指でスワイプすると完了だ。

入場係は毎晩、その人差し指で果敢に何百もの携帯の表面をなぞる。命懸けの仕事だ。私はライブに行くたびに、入場係の人々の健康を願わずにはいられない。

ワンドリンク代の六百円で、アルコール類などを買う代わりに、除菌アルコールをスタッフに差し入れできる、そんなオプションもあればいい。

ライブ

Homecomings presents「many shapes, many echoes」@ 渋谷 CLUB QUATTRO

私は忘れていたのだが、Homecomings のスリーマンライブは長いのだった。去年の七月は四時間。待ち時間を入れると五時間立ちっぱなし。だが、今日は三十分ばかり短縮されていた。

ゲストバンドは iVy と DYGL の2バンド。どちらも私は二回目だ。そしてどちらも来月新しいアルバムを出すという。

Homecomings は二人体制になって初めてだ。私は入場順が遅く、右端の壁であまりステージは見えなかった。ときどき壁に寄りかかりながら、目を瞑りながら音に浸った。ふと目を開けるとステージの光が前の観客の頭の向こうに見えて、あまりに遠くにあるのに驚いた。目を閉じて聴くと距離を感じないのが不思議だ。

Homecomings の曲には独特のクセがあって、メロディの最後に一拍遅れて沈むようなメロディが来る。サビに繋がるときもあるし、曲の終わりのときもあるが、その沈んだ一節に独特の余韻がある、ということに気がついた。

MC では今後のライブの話になった。最近のAI任せの風潮に逆らって、フライヤーを手作りしたとのことだ。韓国でもライブがあるので、そのフライヤーを向こうのプロモーターに渡したら、フライヤーをAIに読ませてアニメにしてしまったそうだ。

ライブの終わりの物販では、iVy のメンバーの二人が来ていたので、Tシャツを買うついでに「一月のワンマンの抽選に応募しました」と言ったら喜んでいた。

散文

ランダムに読む

ここ数日、私はこのブログのフロントページなどを作り変えている。大きく直すわけではないが、あまりにも無愛想だったので、少し愛想をよくしてみた。

もっとも私はあまり知識がないので、懇意にしているAIにお願いして、新しい仕組みをいくつか作ってもらった。そのうちのひとつが「ランダムに読む」ボタンだ。このボタンを押すと、ブログの別の記事にランダムに飛ぶ。どんな作品が出てくるかわからない。

今のところ、ボタンを各記事の末尾に設置するつもりでいる。つまり、読み終えたら押せるということだ。とはいえ、このボタンがついているのはまだ一部に過ぎない。私はAIに何度も懇願して、全部の記事に一度にまとめて設置してくれるよう求めたが、できないの一点張りだ。なので、自分でひとつひとつ手動でつけていかねばならない。いつ終わるかはわからない。

私にはアイディアがある。ブログの中に、この「ランダムに読む」ボタンでしか行けないページを作るのだ。そのページには財宝が眠っている。そこにたどり着いたものだけが、無限の富を手に入れることができるのだ。すると、荒くれ者のトレジャーハンターたちが大挙してブログにやってくることだろう。「ランダムに読む」ボタンを押しまくり、ブログをくまなく跋渉する。ページビューは莫大なものになるだろう。コンパスや十徳ナイフ、テンガロンハットなど、トレジャーハンターの購買意欲を刺激する広告を入れれば、いい副収入になるはずだ。

だが、そのためにはまず無限の富を手に入れなければならない。これさえあれば、小遣い稼ぎは確実だ。

ライブ

海風邪 1st EP release party@下北沢ERA

海風邪というバンドの初EP「私の夢を見ていてね」リリース記念ライブが九月二十日に行われ、宇宙ネコ子がゲストとして出演するので行ってみた。海風邪は、昨年結成されたばかりの五人組のバンドで、男女のツインボーカルもいい。楽曲も気に入った。

ライブ前、雨の中、会場に向かって歩いていると、宇宙ネコ子のギターのねむこさんが前を横切って行った。そして、同じ頃、ギターとボーカルの kano さんは別のところでケバブを購入していたことが MC でのちに明らかにされた。出演前は必ずケバブを食べるのだそうだ。トルコのミュージシャンでもそんなことはしないだろう。

宇宙ネコ子は前日と同じバンドセットで、ドラムとベースはいつものサポートメンバーだ。昨日書いたことにも通じるが、研究発表と同じく、演奏もまたわかりやすくなくてはいけないと、ライブを聴きながら思った。どういうことかというと、瞬間瞬間に聞き手がどの音、どの楽器、どの効果に意識をフォーカスすればいいかが自然にわかるということだ。それができると演奏は近くなるし、そうでないとただ遠くで鳴っている音になる。

宇宙ネコ子の場合、演奏の焦点は歌とギターだ。どちらかのときもあるし、両方のときもあるが、なんにしても、聞いていて迷うことがない。考えずに音を楽しむことができる。逆にいえば、なんの音だろう、とまず考えさせられると、そこで聞くことが止まってしまう。そうならないようにするためには、音を詰め込まないのが大事だ。今回の宇宙ネコ子でいうと、ドラムとベースの仕事が重要だ。

よくよく考えてみれば、これは当たり前のことだ。デイヴィッド・リー・ロスが歌っているあいだじゅう、エディ・ヴァン・ヘイレンがチロリロチロリロチロリロビィーンと派手に弾いていたら、聞き手もいつジャンプしたらいいかわからなくなるにちがいない。

散文

溢れる学識

二十年以上前、ある研究会で発表した。かなり力を入れた内容だった。終わってからある先輩からこんなコメントをいただいた。

「学識が溢れている」

ついにそんな領域にまで達した。簡単に言いかえれば「詰め込みすぎだ」ということだ。一切合切放り込めばいいというものではない。

また博士論文の初稿の審査のとき、ある先生からこんなことを言われた。

「ずいぶんと難しいことを書いている」

私の頭のレベルの高さの証だ。これを簡単に言いかえると「ごちゃごちゃしてなにが言いたいかわからない」ということだ。それどころか、読むに値しないまである。

大いに恥じた私は、余計なものをどんどん捨てて、書き直した。

それはともかく学識の問題に戻すと、論文でもなんでも学識の詰め込み過ぎは危険だ。まず、学識豊かでうれしいのは当人だけで、周りの人は消化不良に苦しむ。それに、そもそもそんな災いを引き起こす人間に学識などないのだから、誰でもわかる単純なことを丁寧に書くのがいちばんだ。そして、たとえ学識があったとしても、溢れる学識を抑えるのが学識というものだ。

おそらく、学識とはにじみ出るものなのだろう。余計なものをすべて削った状態で、自然ににじみ出て溢れてしまうもの、それが学識なのだ。

いつかにじみ出たい。

ライブ

Good lucky 2マン show!@三軒茶屋 HEAVEN’S DOOR

今日は noodles と宇宙ネコ子のツーマンライブがあった。この組み合わせは去年の十一月二十一日以来、二回目だ。その時と同じく、宇宙ネコ子、noodles の出順だった。

前のライブでは、宇宙ネコ子の kano さんがギターをどこかに置き忘れて、noodles の yoko さんから借りるという「事件」があった。その顛末について改めて yoko さんより MC で報告があった。

ライブ終了後、置き忘れた場所に戻ったら、奇跡的にあったのだという。

MC ではさらに、ラーメンにおけるネギの働きについての考察も披露された。ネギがきらいな yoko さんは、ある店で、ラーメンのネギを自分で除いて食べた後に、同じラーメンを今度はネギ抜きで注文して食べたら、ネギを除いたときのほうがおいしかったのだという。その後、ネギを食べずにそのおいしさをラーメンに留める方法の提案などもなされた。

それはともかく、そんな話が出るくらいの余裕の演奏であった。熱心なファンも多いようで、私は最前列にいたのだが、noodles の出番直前になると急に背中から受ける圧が高まったのに驚いた。

私は二ヶ月ぶりのライブハウスだった。整理番号が早めで、最前列の左端、スピーカーの前の場所を取ることができた。音を直接浴びる場所なので左耳がやられる可能性があったが、耳が悪くなったら退却することにした。

結局は無事だったが、ライブが始まるまでは心配だった。

『釣りキチ三平』に出てくるウラン鉱のせいで片目になったイワナのことをふと思い出したりした。