風刺・戯文

日本人はバカ

「日本人はバカだ」

ある知識人がこうツイッター(現X)に投稿した。すると、たちまち轟々たる非難が沸き起こり、ツイッター(現X)は怒りの声で溢れた。「バカというやつがバカだ!」「なんだこの上から目線」「こいつは反日だ!」 するとその知識人、再びツイッター(現X)に投稿した。

「日本人は馬鹿だ」

同じく大炎上が巻き起こった。「日本人を貶すものは日本から出ていけ!」と息巻く者もいたし、「こんなのが日本人とは恥ずかしい」と嘆く者もいた。また「日本人がバカだというのならば、日本人であるあなたもバカということですよね」とお得意の遠くからの詰め寄り芸で、怒りを発散させる者も続出した。

X(前ツイッター)は沸騰し、ついには殺害予告まで飛び出す事態に。しかし、それにもかかわらず知識人はもう一度ツイート(現ポスト)した。

「日本人は莫迦だ」

不思議なことに、まるで炎上しなかった。そこで知識人は「やはり日本人はバカだった」と結論づけた。

風刺・戯文

人生の回り道

人生回り道協会さま

突然のお便り失礼致します。

「人生は回り道、人生をゆっくりと回り道をして楽しもう」という貴会の活動に励まされているものでございます。ですが、貴会の主張が広まるにつれ、これは本当に回り道かな、これは回り道の詐称では、と思わされることも多くなりました。

ひとつ例を挙げれば、「人生に無駄はない、回り道をしよう」をモットーに活動している方がいらっしゃるのですが、その方の経歴を見て驚きました。

「進学校に入学。4年かかって高校を卒業(アメリカに留学という回り道)。東京大学に入学(在学中、1年留年。若くして起業するという回り道)。大学を卒業後、しばらく就職せず(世界放浪という回り道)。その経験を書いた旅行記『人生は回り道』がベストセラーに」

これは果たして回り道でしょうか? これはインチキ回り道ではないでしょうか? こうした偽物が世にはびこったら、回り道でないものを回り道と誤認する人が出てくること疑いなしです。

そして、そうした人が、もし、回り道でないものを回り道だと思い込んでその回り道に時間を費やしたとしたら、それこそ、とんだ回り道ではないでしょうか。

そこで、貴会に提案がございます。貴会の回り道に関する知見を生かし、「回り道公認制度」を立ち上げて欲しいのです。

貴会が本当の回り道に公認という形でお墨付きを出せば、偽の悪質な回り道は淘汰されていくことでしょう。そうすれば、人々は偽の回り道に惑わされることなく、優良な回り道に近道できるのです……

風刺・戯文

注文のむずいレストラン

その日、10人の空腹の「客」がとあるレストランに集められた。いずれも目隠しのまま拉致されてきたのだ。

「客」たちは、大きなテーブルに輪になって座らされた。目隠しを外される。豪華なレストラン、眩いばかりの光。なにが起きたのか、そして自分の身になにが起きるのか、「客」は無言のままあちこち見回して、ヒントを掴もうとするが、自分が餓死しそうだということ以外なにひとつわからない。

そこに、まるで洋画に出てくるような仮面をつけたウェイターが数名現れ、ひとりびとりの前にメニューを置いた。「客」たちは腹を鳴らしながら、メニューを開く。だが、そこにはなにも書かれていない。

「いったい、どうやって頼めばいいのか」

誰かがつぶやく。すると、再びウェイターがやってきてテーブルの中央に、丸い銀の蓋を被せられた大皿を置く。そして、ウェイターは無言で蓋を取り去った。

「タ、タブレットだ!」

大皿の中央に置かれていたタブレットを見て「客」たちはざわめく。「これだ!」 「これでしか注文できないのだ!」 ひとりの男がタブレットに手を伸ばす。だが、別の男がその手を払ってタブレットに飛びついた。それと同時に、他の客がいっせいに飛びかかった。乱闘が繰り広げられている間に、ひとりの女が隙を見てタブレットを奪う。と、別の女が殴りかかった。タブレットをめぐって「客」たちは殴り合い、蹴り合い、首を絞め合い、殺し合い……ウェイターたちは次々と死体を運び出していった。

そして、ひとりの血まみれの男が最後に残った。だが、彼もまた深手を負っていた。血を吐きながら、床に倒れる。タブレットが手から転げ落ちる。這いつくばりながら、男は必死になってタブレットに手を伸ばすが、その手は届かない。出血のため意識が混濁してきた男はウェイターが近づいてくるのをかすかに感じ取った。

「ちくしょう……」 男は皮肉な笑みを浮かべてウェイターに言った。「ざまねえや……もう注文もできやしない……せめて……カレーをひとつ……」

やがて、息絶えた男のもとに、カレーが運ばれてきた。

風刺・戯文

ヴィランども

私は良い人間でも悪い人間でもない。でも、弱い人間が理不尽にいじめられているのを見ると、黙っていられない。

弱い人間とは、その人の強さ弱さをいうのではない。社会的に弱者とされている人だ。例えば女性。女性の中にはもちろん強い人もいっぱいいるが、その強さだけではどうしようもできない暴力にさらされている。そして、その暴力にもっとも苦しむのが、弱い立場にいる女性たちだ。

また難民もそうだ。難民というのは、国家という後ろ盾を失った人々であり、そうした人々はひとしなみに「うさん臭い、弱いもの」と見なされる。もちろん、難民にもイヤな奴はいくらでもいる。だが、イヤな奴だからといって、その人を不当に苦しめることはできない。

私は、これら弱い人々のために一生懸命働いてきた。だからといって、普通の人々を蔑ろにしているわけではない。こうした弱い人々が力をつけることが、結局のところ、それ以外の人々の生活の豊かさにつながるのだ。

そして今、人々は正義に飢えている。腐敗しきった世の中が正されるのをいまかいまかと待っている。「悪を懲らしめてくれ!」 そう口々に叫んで、新しいリーダーを求めている。人々は私の名を呼ぶ。前に立ってくれと、絶叫する。ついにそんな時代になったのだ。力あるヒーローが憎きヴィランどもを滅ぼす、そんなスカッとする世界がついに到来したのだ。

私もまもなくヴィランのひとりとして殺されるだろう。

風刺・戯文

駅の演説

吉田六郎さんは都内の会社に勤める会社員でした。毎日毎日、過酷な満員電車に乗って出勤するうちに、日本の労働について考えるようになりました。

「日本は少子高齢化により労働者人口が減っていくのが確実なのに、満員電車などの厳しい労働環境のままでいいのだろうか、と、そんなことを考えるようになりました」(吉田さん)

そんなときに出会ったのが、政党の立候補者公募。吉田さんは日本を変えたいという気持ちから応募し、選考ののち党から推薦を受けることとなりました。

「満員電車をなくしたいという、熱意にあふれた吉田さんを応援したいと(決定しました)」(党関係者)

選挙が公示されました。立候補に先立ち仕事を辞めた吉田さんにとって、すべてを賭けた選挙活動の始まりです。

選挙ポスター、事務所の設立、日程の調整……吉田さんは党の支援を得ながら選挙活動を進めていきます。中でも力を入れたのは、朝早くからの駅での演説です。足早に仕事に向かう有権者に声をかけます。

「みなさん、おはようございます。この度、立候補いたしました吉田六郎です。お仕事行ってらっしゃいませ。満員電車ご苦労様です。この選挙こそ、日本を変える…」

知名度はゼロにちかい吉田さん。無視する人も多く、演説もほとんど聞いてもらえませんが、それでも挫けずに立ち続けると、次第に周囲の目も変わってきました。

「吉田さん、頑張って!」(駅に向かう年配の女性が声をかける)

「ありがとうございます。満員電車ご苦労様です」

そして、投票と開票の結果、吉田さんは見事、初当選を果たしました。

「これもみなさんのおかげです」(選挙事務所内が拍手に包まれる)

政治家としての一歩を踏み出した吉田さん、その翌日の朝も駅前に立ち、マイクを片手に有権者に思いを伝えます。

「みなさん、おはようございます。みなさんのご支援のおかげで、毎朝、満員電車に乗る生活から解放された議員の吉田六郎です。みなさん、満員電車ご苦労様です。ほんっとうにご苦労様です」

喜びを隠しきれない吉田さんの声は遠く4番ホームまで聞こえたとのことです。

風刺・戯文

説明するときに無理する人

発達障害とは「脳機能の発達に関係する障害」ということですが、近年、発達障害だとされる子どもが増加しているそうなんです。昔はいなかったのに、最近になって増えているとはどういうことでしょうか。そのことをみなさんにちょっと考えてほしくてこうしてお話ししているわけです。

そう言いましても、みなさんにお考えがあるとは思えないので、私なりに説明してみましょう。

私は、これは教育の場において体罰が追放されたことに関係があると思っています。昔も発達障害と診断されるような子どもいたに違いありません。これは確かです。ですが、そうした子どもは発達障害だと考えられなかったのです。

なぜか。それは、教師に殴られたからです。非常に激しく、強烈に何度も何度も殴られたからです。この殴られた衝撃が、頭に良い効果をもたらし、矯正されたのです。いや、当時の言葉を使えば「性根が叩き直された」のです。体罰には高い教育的意義があったのです。

もちろん、殴られた衝撃が悪い効果をもたらした場合もあったかもしれません。ですが、そうした場合はほぼ確実に子どもは死んでしまったものでした。そのため、発達障害として数えられることはなかったのです(昔は子どもがたくさんいたので、少しぐらい死んでもあまり気にしませんでした)。

だから、体罰を悪だというのは非常におかしな考えです。というのも、体罰を悪者扱いしたせいで、こんなにも発達障害がのさばる日本となってしまったのです。このままでは体罰禁止のせいで日本は滅びてしまうでしょう。

それに、でなければ、どうして昔の教師があんなに殴ったのか説明がつかないじゃないですか。小中学校のころの私が毎日、あんなにも激しく残虐に殴られたのはなんでだったのでしょう。それで私は治ったのです。じゃなきゃ意味がまったくないではないですか……さんざっぱら殴られたせいで人生が破壊されたのに、そこに治ったというせめてもの甲斐がなければ……ううバカみたいではないですか……バカみた……

風刺・戯文

老後の移住

老後は、物価の安くて暖かい国でのんびり過ごせたら……そんな夢を抱いて日本への移住を決断したのは 68 歳の A さん。貯金と退職金は資金としても十分です。異国の地で何不自由ない生活が待っているはずでした。

しかし、思わぬ落とし穴が待ち受けています。

「なによりも大変だったのは現地の人との習慣の違いでした。時間に遅れると怒り出すし、野菜のこと(おそらく報連相のこと)ばかりいつも言っているし……道はゴミひとつないというのは評判の通りでしたが、歩いている人がみなゴミでした。それに、聞いていたよりもトイレも汚かったんです」(A さん)

ストレスフルな生活にさらに拍車をかけたのが、考え方の違いです。

「日本人は顔以外のことに関心がないのです。いつでも『あの人は顔が変わった』とか『整形だ』とか『メガネだ』とか言っています。ニュースもそんなニュースしかないのです」

そしてついに決定的なできごとが A さんの身に降りかかります。

「日本人はついに私の顔のことまで口を挟むようになったのです。『お顔の激変ぶりに唖然です』『ビジュに賛否ありそうですね』 もうたくさんです」

ついに帰国を決意した A さん。

「地球温暖化のおかげで気温も寒くないし、失われた 100 年のおかげで安く過ごせると思いましたが、やはり、安い国は安い国でした。移住の前に十分下調べをしておけば、と悔やまれます」と後悔しきりです。

今回の移住で、資金の一部を失った A さんですが、「安物買いの銭失いですが、安物だけあって大した損もしていないのが不幸中の幸いです」と、明るく語ってくれました。

風刺・戯文

スクランブル交差点

「世界でもっとも有名な交差点」とも言われ、世界中から観光客が押し寄せる渋谷スクランブル交差点をなんとかしようと、「新しい日本を考える男たちの会」が立ち上がった。

「もしハチ公がご存命ならば、外国人たちに吠えかかりいの、ガブリと噛みつきいので、追っ払っていたことでしょう」と公言してはばからない男たちは、その晩、混雑したスクランブル交差点を占拠して叫んだのだった。

「俺たちの目が黒いうちは、何人たりともこの道渡るべからずだ!」

「ははーん、真ん中を通ればいいのさ!」と叫んで渡ろうとした歩行者を男たちはボコボコにした。人々は震え上がった。「これはとんちじゃない! 現実なんだ!」

列になった男たちは、どっかりと地面に腰を下ろした。「俺たちは観光公害から渋谷を守る!」 もうテコでも動かない構えだ。

道が渡れなくなったので、交差点周囲はたちまち人でいっぱいになった。その上、駅から絶えず人が吐き出されてきて、押し合いへし合い、もう身動きもできない。群集事故発生かと思われたところ、警官の車両が駆けつけた。

「座っている男たち、直ちに立ち上がって立ち去りなさい!」 スピーカーが大音量で繰り返す。「男たちよ、立ち上がるのだ!」

群衆に巻き込まれた外国人観光客たちは、ポリスがなんと言っているのか知りたくなった。みんなほとんど同時に自動翻訳機にかける。その瞬間、外国人たちの間に衝撃が広がった。

“Japanese Gentlemen, Stand Up Please!”

YMOだ! 私たちは、俺たちは、この3人がいなければ、日本のことなど知りもしなかったろう! そうだ、今こそ、声を合わせて歌うときだ! もう叫ばずにはいられない!

“Do the Tighten Up!” 

“Japanese Gentlemen, Stand Up Please!”

“Do the Tighten Up!”

外国人も、日本人も関係ない! 音楽に交差点はない! 渋谷中がまるで爆発したみたいに振動し、酒飲め SAKAMOTO のらんちき騒ぎが始まり、狂乱の夜は果てることなく……永遠に……………………

………Here We Go Again?

風刺・戯文

言文不一致

アジェンダ、コンプライアンス、アカウンタビリティ、エヴィデンシャリティ、オブノクシャス、ヒレイリアス、ペッティング……

日本復活党が政権を握ったとき、悪意に満ちた移民どもと一緒に追放したのが、これら意識の高い系の外来語だった。

そして、日本復活党は、美しい日本語を守るために、日本語純化を宣言した。「日本語は乱れてしまった! 私たちは本当の日本語を話すときに来ている! これからは国会も、学校教育も、公文書も、出版物も、すべて源氏物語時代の日本語に改める! それ以外の日本語を使うものは、反日勢力として処刑する!」

人々は叫んだ。「いとおかし!」 本当はもっと別のことが言いたかったのだが、教養と事情が許さなかったのだ。

ある学者によれば、今や、人々は 2000 通り以上の言い方で「いとおかし」を使い分けて、日々の生活を送っているそうだ。その学者はそのすべてを網羅した辞書も刊行したが、「いとおかし」としか書かれていなかった。

風刺・戯文

スカッとする社会

私たちの社会はスカッとする話で溢れている。スカッとする話は、まとめサイトやツイッター(現 X)には欠かせないトピックだし、テレビでは再現ドラマのお馴染みのテーマのひとつだ。

スカッとする話はたいてい次のようなパターンを持っている。

・語り手は、スカッとする話の体験者か、近くにいる目撃者である。

・語り手もしくは体験者が、なんらかのマイノリティによって不快な目に遭う。

・「なんらかのマイノリティ」は、社会的に弱い人、異常な人、特殊な集団に属す人、孤立した人などだ。スカッとする話ファンは、シングルマザー、嫌われ者の管理職、外国人、オタクが特にお気に入りだ。

・「不快な目」とは、「なんらかのマイノリティ」」の理不尽な要求、過剰な利己主義、度を越した吝嗇などによって引き起こされる。

・この「不快な目」から体験者を救うのが、「秩序の体現者」だ。「秩序の体現者」の役目は、マイノリティを懲らしめることにある。だが、「マイノリティ」と同じ土俵で争うことでそれを行うのではなく、ただ秩序を体現することによってのみ行う。通常、この「秩序の体現者」は「マイノリティ」の上位に立つ権力者・有力者、富裕層である。

・そして、「マイノリティ」による秩序の破壊という不快と恐怖が、「秩序の体現者」による秩序の回復を通じて解消される過程が、スカッとする印象を生み出す。

スカッとする話は秩序の回復の物語であるから、社会不安の緩和に有効である。そして、社会不安がないということは、政権を維持維持するのに好都合である。

それゆえ、現在の政府は、極秘の部署に、似たようなスカッとする話を大量に作らせ、ネットとメディアを通じて密かにばら撒いている。

そんなわけで私たちの社会はスカッとする話で溢れている。だが、現実にはスカッとするできごとなど、起きたためしがないのだ。