散文

渋谷カート祭り

昨日は午後からずっと渋谷にいた。夜の Spotify O-nest でのライブのことは書いたが、その前に会場から歩いてすぐにあるユーロスペースで 15 時から開催されたイベント「ラブレターズの非常階段腰掛け男」にも行っていた。ラジオ番組「ラブレターズの階段腰掛け男」が開催したイベントだ。

イベントが終わったのが、16 時半で、O-nest のライブの開場が 18 時すぎだから、時間がある。私は渋谷の街を少し歩いた。私にとっての渋谷は、洋書とレコードの街だったが、今は来る用事もなくなった。ライブ会場があるので来ないこともないが、いつも夜なので、昼間の渋谷は物珍しかった。

ゴーカートが列をなして道路を走っていった。愉快な着ぐるみを着た外国人観光客だ。日本の映画のサムライやニンジャを見たら、日本でサムライやニンジャをやってみたくなるのは当たり前だ。だから、マリオカートを見て、渋谷でカートに乗っても当然という世界基準の理屈だ。

もっとも、たいていの日本人はそうは思わない。なぜなら、江戸時代には誰もマリオ・カートなどには乗っていなかったから。

とはいえ、外国人観光客が今のように渋谷を走り回る時代も、いずれ終わるのだろう。この厄介なカートもいつか姿を消すのだ。

そのとき、私たちはこのカートすら懐かしむ可能性だってある。

外国人の扮装をした子どもをカートの神輿に乗せ、威勢のよい掛け声とともに町じゅう練り歩く「渋谷カート祭り」だって、いつか開催されることだろう。

風刺・戯文

ハチ公と銅像たち

渋谷のハチ公の銅像が逃げ出した。ある朝、台座の上が空になっていたのだ。私たちは大騒ぎだ。「ハチ公がいない!」 世にも稀な忠犬との写真撮影のためにはるばるやってきた外国人観光客も叫ぶ。「No Hachi!」

「犬の足だ、そう遠くは行っていないだろう」 私たちは夢中で探し回った。109 にもいない。さては PARCO に? いや東横のれん街に迷い込んだのだ! だが、必死の捜索もむなしく、私たちは途方に暮れるばかり。「どうしてリードをつけておかなかったんだ!」 誰かが腹立たしげに言った。

別の誰かが悲しげに言った。「きっと、待ち続けるのにくたびれたのだろう」「そうだ、連日、外国人観光客にああいじられては逃げたくもなる」「いや、銅像になるほどの忠犬がどこに逃げるものか」「つらいときは逃げたっていい」「そんなの忠犬じゃない」「何を!」

カッカしている私たちに誰かが言った。「待て、探す必要などないぞ! 犬は家に帰ってくるというではないか!」「そうだ、もといたところだ!」

私たちは元ハチ公前に集まった。それ以来、私たちは渋谷駅で待ち続けている。今では、犬を待ち続ける私たちを目当てに外国人観光客がやってくるまでになった。

私たちが銅像になる日も近い。

風刺・戯文

スクランブル交差点

「世界でもっとも有名な交差点」とも言われ、世界中から観光客が押し寄せる渋谷スクランブル交差点をなんとかしようと、「新しい日本を考える男たちの会」が立ち上がった。

「もしハチ公がご存命ならば、外国人たちに吠えかかりいの、ガブリと噛みつきいので、追っ払っていたことでしょう」と公言してはばからない男たちは、その晩、混雑したスクランブル交差点を占拠して叫んだのだった。

「俺たちの目が黒いうちは、何人たりともこの道渡るべからずだ!」

「ははーん、真ん中を通ればいいのさ!」と叫んで渡ろうとした歩行者を男たちはボコボコにした。人々は震え上がった。「これはとんちじゃない! 現実なんだ!」

列になった男たちは、どっかりと地面に腰を下ろした。「俺たちは観光公害から渋谷を守る!」 もうテコでも動かない構えだ。

道が渡れなくなったので、交差点周囲はたちまち人でいっぱいになった。その上、駅から絶えず人が吐き出されてきて、押し合いへし合い、もう身動きもできない。群集事故発生かと思われたところ、警官の車両が駆けつけた。

「座っている男たち、直ちに立ち上がって立ち去りなさい!」 スピーカーが大音量で繰り返す。「男たちよ、立ち上がるのだ!」

群衆に巻き込まれた外国人観光客たちは、ポリスがなんと言っているのか知りたくなった。みんなほとんど同時に自動翻訳機にかける。その瞬間、外国人たちの間に衝撃が広がった。

“Japanese Gentlemen, Stand Up Please!”

YMOだ! 私たちは、俺たちは、この3人がいなければ、日本のことなど知りもしなかったろう! そうだ、今こそ、声を合わせて歌うときだ! もう叫ばずにはいられない!

“Do the Tighten Up!” 

“Japanese Gentlemen, Stand Up Please!”

“Do the Tighten Up!”

外国人も、日本人も関係ない! 音楽に交差点はない! 渋谷中がまるで爆発したみたいに振動し、酒飲め SAKAMOTO のらんちき騒ぎが始まり、狂乱の夜は果てることなく……永遠に……………………

………Here We Go Again?

散文

時間よ停まれ

昨年の3月27日、渋谷で行われたデモに参加した。

デモは、ビルマの軍事政権に抗議する目的のもので、たくさんのビルマの人々が集まった。

デモの出発点は国連大学本部ビルで、青山通り、表参道、明治通り、渋谷駅前、宮益坂から国連大学本部ビルへとぐるりと一周するのだ。

私はカレンの人に誘われたので、カレンのグループとともにデモ隊に交じって歩きはじめた。

素晴らしい天気だった。普段は歩けない公道を歩くのはとても楽しい。私は「趣味としてのデモ」を提唱しているが、あまり耳を傾ける人はいない。きっと警備や交通整理に追われる警察官や公安の人々に迷惑だからだろう。

ビルマの人が拡声器でシュプレヒコールを日本語で叫んでいる。だが、慣れていないのかよく聞き取れず、気勢が上がらない。私と一緒に歩いているアラカン人の友人が文句を言う。もうひとりのアラカンの活動家が大声で叫びだした。すると、デモらしくなってみな元気になった。

我々は明治通りを逸れて線路の下をくぐり抜けた。神宮通りを下り、渋谷駅へと向う。その先は渋谷のスクランブル交差点だ。警察官たちは交差点で、歩行者たちを止めている。

隊列を組んだ我々は、交差点でゆっくりと旋回する。歩道で人々は完全に動きを止めて私たちを見つめている。

まるで時間が停まったみたいだった。

どんな時間停止AVよりも見事に停まったみたいだった。