風刺・戯文

注文のむずいレストラン

その日、10人の空腹の「客」がとあるレストランに集められた。いずれも目隠しのまま拉致されてきたのだ。

「客」たちは、大きなテーブルに輪になって座らされた。目隠しを外される。豪華なレストラン、眩いばかりの光。なにが起きたのか、そして自分の身になにが起きるのか、「客」は無言のままあちこち見回して、ヒントを掴もうとするが、自分が餓死しそうだということ以外なにひとつわからない。

そこに、まるで洋画に出てくるような仮面をつけたウェイターが数名現れ、ひとりびとりの前にメニューを置いた。「客」たちは腹を鳴らしながら、メニューを開く。だが、そこにはなにも書かれていない。

「いったい、どうやって頼めばいいのか」

誰かがつぶやく。すると、再びウェイターがやってきてテーブルの中央に、丸い銀の蓋を被せられた大皿を置く。そして、ウェイターは無言で蓋を取り去った。

「タ、タブレットだ!」

大皿の中央に置かれていたタブレットを見て「客」たちはざわめく。「これだ!」 「これでしか注文できないのだ!」 ひとりの男がタブレットに手を伸ばす。だが、別の男がその手を払ってタブレットに飛びついた。それと同時に、他の客がいっせいに飛びかかった。乱闘が繰り広げられている間に、ひとりの女が隙を見てタブレットを奪う。と、別の女が殴りかかった。タブレットをめぐって「客」たちは殴り合い、蹴り合い、首を絞め合い、殺し合い……ウェイターたちは次々と死体を運び出していった。

そして、ひとりの血まみれの男が最後に残った。だが、彼もまた深手を負っていた。血を吐きながら、床に倒れる。タブレットが手から転げ落ちる。這いつくばりながら、男は必死になってタブレットに手を伸ばすが、その手は届かない。出血のため意識が混濁してきた男はウェイターが近づいてくるのをかすかに感じ取った。

「ちくしょう……」 男は皮肉な笑みを浮かべてウェイターに言った。「ざまねえや……もう注文もできやしない……せめて……カレーをひとつ……」

やがて、息絶えた男のもとに、カレーが運ばれてきた。

風刺・戯文

眠気のたたかい

昨日のこと、喫茶店の一角に座っていると、隣の席の会話が耳に入ってきた。

「おい、寝るな!」

「眠くない。眠いのはお前のほうだろう!」

「俺が寝るものか!」

隣を見ると、二人の男が向かい合って座り、猛烈な眠気に襲われているのだった。どちらももう白目を剥いて、頭をグラグラさせているのに、「眠たいのは自分ではない、お前だ」と、互いになじりあっていた。

「お前などすぐ寝るくせに! 俺なんかちっとも眠くないぞ!」

「嘘だ。もうお前は寝てるじゃないか! だからお前はダメなんだ」

「バカいうな! もしもお前の眠気が俺の眠気だったら、1秒と持ち堪えることはできまい!」

「なんだと! 俺の眠気のほうがお前よりももっと強力だ! もし俺の眠気がお前の眠気だったら、不眠気味だと精神科に駆け込むだろう!」

「俺の眠気のほうが強力だ!」

「俺のほうだ!」

「いや、俺だ!」「俺!」……

静かになったので、隣に目をやると、二人ともスヤスヤと寝ていた。テーブルに置かれたなにかの参考書と二つのコーヒーカップを見て、私は少し二人が哀れになった。

風刺・戯文

独裁者のラーメン

北朝鮮から亡命してきて、日本で暮らしているという人と知り合いになり、北朝鮮の内情を詳しく伺うことができた。

貴重な話に感激した私は、その方を食事に招待することにした。ちょうど近くにつけ麺で有名なラーメン屋があるので、そこに行きましょう、と誘った。

すると、彼は震え出すではないか。「ラーメン屋ですか? 絶対に無理です。私を殺す気ですか?」

「いったいどうしてですか? おいしいと評判の人気店ですよ」

「なぜって、ラーメン店はすべて北朝鮮の手先が営業しているのです」

「そんなことはありませんよ」

「いいえ、絶対に北朝鮮です。ラーメン屋の店主を見てください。客を見下し、なにかというと舌打ちでびびらす、あの傲慢で残忍な人々を。これらの店主たちは、店内では俺がルールだとばかりに、メチャクチャな決まりを作って、客の自由と食事の安らぎとイヤホンを奪っているではありませんか。まさしく金正恩体制です」

「いや、それはちょっと……」

「しかもですよ。このラーメン恐怖政治に恐れをなして店外に亡命したとても、私たちは安心してはいられないのです。ラーメン屋の独裁者たちは、その逃げる背中を目掛けて、SNS で無慈悲な言葉のミサイルを次々と発射して攻撃するではありませんか! EEZ 圏内に! ただの客なのに! いいえ、すみませんが、私は遠慮いたします」

こう言うと、その方は帰ってしまった。結局、私はひとりでその店に行き、ひとりでつけ麺を食べた。

店内に貼られている大勝軒のオヤジの写真が、次第に金日成に見えてきた。