ライブ

ともちゃん赤ちゃんごきげんライブ2

今年は何度かお笑いライブに行ったが、そのたびに思うのは、女性の客の多さだ。おそらくこれはお笑いだけのことではなく、東京のいろんな分野のライブがこれらの熱心な女性によって支えられているのではないだろうか。

それはそうだとしても、私は困惑せざるをえなかった。今日の夜、中野で開催されたモグライダーのともしげさんと赤ちゃんことネコニスズの舘野忠臣さんのトークライブで、50 人の観客のうち私以外すべて女性に見えたときには。

いや、もしかしたら 1 人ぐらいはいたかもしれない。だが私には後ろを振り返ってジロジロ見るだけの勇気はなかった。

あまりに場違いなように思えて、私は前から 2 列目のいちばん端の席に隠れるように座った。だが、だからといって周りの人に邪険にされることもなく、またトークライブが始まってからは、内容に引き込まれて、そんなことも気にならなくなった。

内容はといえば、ネコニスズの敗者復活戦の話が聞けたのがよかった。また、2 人の共通のアルバイトである中野のカラオケ店でのエピソードの数々も面白かった。このときにやはり同じアルバイト仲間である元プールの小海さんがゲストとして登場して、ほとんどのエピソードを話したのだが、話術が巧みでさすがに芸人だと感心した。

その後ストレッチーズの福島さんもシークレットゲストとして登場して、さらにリラックスしたトークで観客を笑わせた。「クリスマス忘年会スペシャル」と題されていたこともあり、最後にはクリスマスらしく出場者とスタッフ、観客全員でプレゼント交換となった。私は女性ばかりなどと思いもよらなかったので、不似合いなものを用意してしまった。その品についてはここでは書くまい。もしもそれをもらった人が私のだと知ったら、恨まれそうだから。結局、自分のところに回ってきたプレゼントとして、私は「リップバーム レモンシトラスの香り」を獲得して帰途に着いた。

小説

駅の秘密(3)

「日本、男、上下」

長いあいだ駅について思いを巡らせてきた彼らにとって、この暗号を解くのはさほど難しくなかった。「日本」というのは、駅の東改札口のことだ。なぜなら、駅には他に中央改札口しかなく、日本には東日本と西日本はあっても中央日本はなかったから。次に「男」。駅で男と女が問題になるとしたら、トイレ以外にありえない。

「上下」の解釈は難しかった。だが、彼らが東改札口のトイレの入り口に立ち、その両側の壁を見たとき、その答えは自ずと明らかになった。タイル張りの壁は下部が薄いグリーン、上部が白になっていたのだった。彼らは、駅員たちの注意をひかぬようこっそりと二色のタイルの境目の部分を調べていった。

やがてそれは見つかった。そのタイルを押すと、カチリと軽い音がして、隠し扉が開いた。階段が下へと続いている。彼らはすばやく忍び込むと早足で何段もの階段を降りていった。

底についた。懐中電灯で照らすと、ゴミ箱が並んでいる。彼らはカバンの中からペットボトルや空き缶を取り出すと、リサイクル用のゴミ箱に捨て、紙クズやお菓子の紙は燃えるゴミ箱に突っ込んだ。自分たちのゴミを捨ててしまうと彼らは、フードの男から渡されたビニール袋をひっぱり出した。しばしの間、どのゴミ箱に捨てようかと迷ったが、結局、燃えないゴミ箱の中に放り込んだ。

小説

駅の秘密(2)

フードの男が囚われの男に近づくと、人々は静かに離れ、会議室の壁際に立った。囚われの男はフードの男に泣きながら助けを乞うた。

「静かに」とフードの男が相手の額に手を置くと、男はしゃっくりをし、喉を鳴らしながら激しく呼吸をした。フードの男は顔を相手に近づけると、目深に被ったフードをゆっくりと外した。男の目が恐怖に開き、音にならない絶叫をあげているかのように歯を剥き出しにした。

毛の房がまるで生き物のようにうごめいていた。その毛はフードを脱いだ男の額から伸び、囚われの男の顔に取りつくと、細長い虫のように男の顔の上を這い回った。声を失った囚われの男は口の奥を鋭く鳴らしながらのけぞり、そのまま動かなくなった。

「ああ、頭の中までロックされている」 額から毛を生やした男は目を瞑ながら、つぶやいた。

「迷宮だが、これは抜けられる。だが、その先の金庫はどうする。番号は、番号は……」 男は笑い声を上げた。「いや、金庫などにはない。机の上のこの手紙だ。ほら、あった……」

数分後、男は再びフード姿に戻り、会議室のボードの前に立つとマーカーで下手な字で「日本、男、上下」と書いた。そして、見守っていた男たちのほうを向くと、気を失っている男を顎で示して「こいつはもう解放していいぞ。記憶は消してある。あと、これも頼む」とポケットから白いビニール袋を取り出した。

小説

駅の秘密(1)

彼らは出勤途中の男を拉致するとアジトに連行し、地下の独房に放り込んだ。「お前が話すのならば、命だけは助けてやる」

だが、男は、自分は何も知らないので出してくれと懇願するばかりだった。

「いや、お前は知っているはずだ。俺たちを騙すことはできないぞ」 彼らは棍棒を持ってきて独房の扉を叩いた。「話すんだ!」

男はすすり泣きをはじめた。「泣いたって無駄だ」ともう一発、扉を叩いた。

「すみません、すみません、助けてください」

「じゃあ言え!」

「知りません、本当に知りません!」

これを聞いて、彼らのうちのあるものがこう言い出した。

「これはもう、こいつを痛めつけなければ、口を割らない」 そこで、彼らは独房の中に入ると、男を紐で縛り上げ、上の階にある広い会議室に運びこんだ。そして、会議室のパイプ椅子に座らせると、身動きできないように、男と椅子を紐でぐるぐる巻きにした。

「さて、指でも折るか? それとも話すまで殴り続けるか?」

これを聞くと、男は震えはじめた。「白状しないお前が悪いからこういう目に遭うんだぞ」

彼らは男の右手を掴み、手首をキツく握りしめ、別の者が男の指を掴んでへし折ろうとした。男が恐怖の悲鳴をあげる。

「やめろ!」

彼らがその声の方向に目を向けると、会議室の入り口に、フードを目深に被った若い男が立っていた。

「苦痛を与えるとノイズが生まれて、うまく行かなくなるからな」とフードの男はいった。

ライブ

仮名手本忠臣蔵

4年ほど前から浄瑠璃の脚本を読みはじめ、それが昂じて、今年は義太夫節の語りや三味線にまで興味をもつにいたった。もっとも私は詳しいことはよくわからないし、筋も良くないが、それでも教えてもらったり、聞いたりするのは楽しい。

今日は深川江戸資料館で義太夫節演奏会があり、師走だけあって仮名手本忠臣蔵のいくつかの場面(身売りの段、勘平切腹の段、一力茶屋の段)が上演された。文楽は語りと三味線と人形遣いだが、義太夫節だけだと人形は出てこない。語りと三味線だけで話を追うことになるが、上演部分の脚本も用意してあるので、それをみていれば話の筋はわかる。

人形がないと何か足りないように感じられるが、三味線が鳴り、語りがはじまると、それだけで独特の物語空間ができあがる。これは文楽とはまったく異なる経験だ。初めは語りと三味線が別々に聞こえているが、物語に引き込まれるにつれて、不思議にもひとつの印象にまとまっていく。私は演目も物語もすぐに忘れてしまうのだが、この物語空間の感じだけは忘れられない。

通常の演奏は語りと三味線弾きのペアだが、「一力茶屋の段」では、定番の太棹三味線のほか、軽みのある細棹三味線と太鼓も加わった。また登場人物に応じて5人の語りが登場し、年末にふさわしく華やかな舞台であった。私が習っている先生方も出演されていた。先生方の話を聞いていると、ひとつひとつ細かいところに注意を払い、考えを重ねて準備されていることがわかるが、そうした努力があるからこそ、きっと物語世界が自然に立ち上がってくるのだろうと思う。

風刺・戯文

謝罪の評価

ヨーロッパのとある国の政治家が堂々とつり目のポーズで写真を撮り、アジア人を侮辱したことに大きな非難が巻き起こった。

良心ある人々はこのような差別は許してはいけないと訴え、その声が国の政府を動かした。大統領がこんな声明を発表したのだ。

「私たちの国の国会議員による最近の侮辱的なソーシャルメディアの投稿に対して、心からおわび申し上げます。こうした投稿は、平等とインクルージョンを大切にする私たちの国の価値観を反映していません。人種差別、あらゆる差別は私たちの国にあってはならないものです」

こうした一連の騒動について、日本でも差別を非難したり、大統領の声明を評価したりする声が上がった。そして、この問題はついに日本の国会でも取り上げられるに至った。

野党が首相に質問を投げた。

「首相は、大統領の謝罪についてどうお考えか」

首相はこう答えた。

「今回の大統領の謝罪に関しては私はたいへん評価しているところであります。つり目の国民の皆さんもこれでひと安心でしょう」

ライブ

スタンディング・エヴォリューション

12月18日の Homecomings のライブは座席指定だった。私はこれを知って喜んだ。ライブの間中立っているのはつらいから。

そしてライブがはじまった。みんなじっと座っていた。音楽をじっくり聴きたい成熟した客層なのだと私は思った。するとメンバーが言った。

「いつもと同じように好きなように立ったり座ったりしてください」

曲が進むにつれ、立ち上がる人が出はじめたが、観客たちは相変わらず座っていた。私は足がむずむずしてきた。これまで行った Homecomings のライブはすべてスタンディングで、体が覚えてしまっているのかもしれなかった。

私は足を伸ばしたいという衝動に抗った。会場でそのとき立っていたのは 3 分の 1 ほどで、立てばまだ目立つ状況だった。それに後ろの人にだって迷惑だ。

私は立つか立つまいか、ジリジリした。そのせいでもう曲など聴いていられなくなった。そして、演奏が最高に激しくなり、肉体の芯を掴んできたのをきっかけに、私は立ち上がった。一瞬で空間がクリアになり、音と光が私を圧倒した。

他の観客たちも立ち始めた。最後の数曲になるとほとんどの人が立っていたと思う。

そして、音楽は私に新たな確信をもたらしていた。

ライブで最初に立った人々の心理や身体の状態などを詳しく調べれば、人類の直立歩行の初期条件が復元できるのではないか。

少なくとも、「後ろの人に迷惑では」という認知を弱める脳の変化が、猿を直立させる刺激となったのは間違いなかろう。

ライブ

Homecomings@EX THEATER ROPPONGI

たぶんバカなのだろう私は、先のことはあまり考えずに予定を入れてしまう。そんなわけで 12 月に入って 3 回もライブに行くことになってしまった。その 3 回目が今日の Homecomings だ。

全席指定で、私の席は真正面の真ん中あたりで悪くはない。

Homecomings は曲もいいが、ギターの響きと全体の音形に独自のスタイルがある。演奏が始まると、私は座りながらときおり目を瞑って聴く。激しい音が四方から体に入ってきて、目に見えるなにかではなく、それ以前の未分化の感触を生み出す。

「好きに立ったり座ったりしてください」というが、初めはほとんど立つ人はいなかった。ライブが進むにつれて少しずつ立つ人が増える。いつもスタンディングなので、私も座ったままなのが物足りなくなってきた。3 分の 1 ほどの観客が立って体を揺すっている。たっぷり一曲ぶん逡巡した末、私は立った。

音は全身で感じるにかぎる。それにステージもずっと近くクリアに見えた。私は立ったまま、音楽を聴き、激しく高揚を迎える部分にさしかかると目を瞑った。

この日は、ベースの人がこのライブを最後に「卒業」するということが告知されていた。途中の MC で、他のメンバーとベースの人とのやりとりがあったとき、会場に暖かい拍手が鳴り響いた。

そのとき私は無意識のうちに目を瞑っていた。

音が大きくなると自然に目が閉じる。バカの誹りは免れまい。

風刺・戯文

熊の拡散

日本漢字能力検定協会は 12 月 12 日、令和 7 年の世相を漢字 1 文字で表す「今年の漢字」が「熊」に決まったと発表しました。今年、各地で熊の出没が拡散し、人身被害が過去最多となったことがその理由です。

そんな中、熊のいない県として知られる千葉県の観光業者が都内でイベントを開催しました。その名もなんと「熊なし県にYOKOSO!」。

主催者「ぜひ年末年始には『熊なし県』千葉にお越しくださって、熊のいない安全を楽しんでいただこうと企画しました」

会場となった公園には大きなドームが設置され、中では県内で採れた新鮮な魚介類や野菜、ピーナツなどを味わうことができます。

訪れた参加者「熊襲撃の危険なしだと味わいも増しますね」

しかし、本当に千葉県には熊が来るという危険はないのでしょうか。

主催者「まったくありません。もしいるとしたら、東京ディズニーランドだけでしょうね。くまのプーさんがいますから! ハハハ!」

実行委員会は、『熊なし県』千葉のブランド向上のために、利根川からの熊の侵入を防ぐ警備隊の創設と防御壁の建設、さらにアクアライン通過時、熊に類似した人に「熊でない証明書」の提示を求めるなどの防御体制を実現すべく、熊谷俊人千葉県知事に対応を求めていく方針です。

ライブ

mekakushe と宇宙ネコ子

宇宙ネコ子が mekakushe とライブをするというので行ってみた。タイトルは「mekakushe × WALL&WALL pre. Hug Light vol.4」。会場は表参道のWALL&WALL。

宇宙ネコ子は先月に引き続き 2 度目で、そのせいかギターの音がずっとよく聞こえた。ギターの音色にどこか猛々しさがあって、これが音楽に硬さを与えている。そして、轟音の中でわざと外す演奏と低音の咆哮が、駆り立てるように響く。

こういうギターに浸れるだけで十分で、私は聴くような聴かないような感じで、目を瞑って時間を過ごした。こんな感覚は、大きい会場では味わえないものだと思う。

それに、大きい会場のライブはたいていチケットが高いので、元を取ろうという意識が邪魔して、こんなふうに音を無駄に楽しむことはできない。

mekakushe は私は初めて聴いたが、カオスな音が鳴り続ける宇宙ネコ子とは対照的に、きっちりとした作りのポップだった。今回はバンドセットで、その演奏がそうとうに複雑なのに感心した。特に後半の 3 曲(「わたしだけのポラリス」「恋のレトロニム」「おやすみベージュ」)は構成もメロディもよく、圧巻であった。

ところで、ライブの前、私は飲み物を買いにコンビニに入った。見たことのある若い女性が 2 人いて、誰かと思えば、宇宙ネコ子の人だった。顔の写真は出さない方針のようなので、ライブに行ったことのある人でなければわかるまい。