散文

ワイルドの『獄中記』を駁す(4)

『獄中記』 での bitter / bitterness にはいろいろな用法があるが、ここでは主要なものとして次の三つを挙げたい。

1)投獄に至るまでの過程や獄中生活の厳しさの bitter

even in the most bitter periods of my imprisonment

2)取り去るべきものとしての bitter
ワイルドがこの点についてもっとも明瞭に書いているのは次の文だ。

I don’t write this letter to put bitterness into your heart but to pluck it out of mine.

また、心に bitterness を抱いて出獄するくらいなら、物乞いをしたほうがマシだともいう。

I am quite candid when I tell you that rather than go out from this prison with bitterness in my heart against you or against the world I would gladly and readily beg my bread from door to door.

さらにキリスト論においては、bitterness の解消がキリストの効能だと述べるにいたる。

Humanity, which is the spirit of Love, the spirit of the Christ who is not in Churches, may make it, if not right, at least possible to be borne without too much bitterness of heart.

3)ダグラスに対する bitterness
bitter / bitterness はしばしばダグラスに向けられるものとして言及されている。いずれも、ダグラスに対しては bitterness のない状態でいたい、ということを宣言するものだ。

My own griefs and bitterness against you I forgot.

And the first thing that I have got to do is to free myself from any possible bitterness of feeling against you.

しかし、次のような言葉も出てくる。

My words may perhaps be often too bitter to you.

さては、I don’t write this letter to put bitterness into your heart とはいうものの、実は、ダグラスに bitterness を押し付けようとしているのでは? そんな疑念を私が抱くに至ったのも無理からぬことといえよう。

風刺・戯文

愛国的関税措置

日本人ファースト党が、「日本をもう一度偉大に」をキャッチフレーズに政権を握ったとき、一部の連中が「日本が偉大なときなどあったのか」とか「ドナルド・トランプの二番煎じじゃないか」とからかったんだ。

もちろん、日本人ファースト政府にはこんなくだらない中傷につきあっている暇はないよ。だから、反論なんてせずに、中傷者どもを監獄に閉じ込めちゃった。それですぐに日本を偉大にする諸政策に取りかかったんだ。

政府が言うには、日本が偉大になっていないのは、日本を偉大にするのを邪魔する外国人とその仲間の非国民が暗躍しているからなんだって。つまり、こいつらが日本の大事なものを盗んでいるってこと。だから、政府は、外国人を日本から追い出したり、憎たらしい外国に対して関税をぐんと引き上げたり、徴兵制度を復活させたりしたんだ。これぞ「シン富国強兵だ」と僕たちは拍手喝采さ。

それに地震やコロナだって、外国人たちが日本を苦しめるために人工的に引き起こしてるんだって。ある日こんな発表をしたんだ。

「私たちが偉大な日本を復活したので、もう人工地震は起きません」

僕たちはすっかり安心したんだ。だけどその晩、とても大きな地震が起きたんだ。警報が鳴って、マスゴミが騒いでうるさいったらない。

「津波が来ます。ただちに高台に避難してください!」

そのとき、日本人ファースト政府はこんな発表をしたんだ。

「皆さん、反日国が引き起こした人工地震から避難する必要はありません! 私たち政府は、日本に来るあらゆる津波に 200 %の関税をかけました!」

僕たちはそのまま津波に飲まれたんだ。

苦い文学

金メダル

私はオリンピックにはあまり関心がないが、メダルの数には大いに関心がある。とはいえ、日本がいくつとったかということではない。私がオリンピックが来るたびに知りたいと思うのは、メダルと国との関係だ。

まず前提として、オリンピックは国別で競うのだから、メダルも国と密接な関係があるといえるだろう。だからこそ、私たちはどの国がメダルたくさんとったか、とか、我が国はメダル獲得数は何位か、ということを気にするのである。

では、その、メダルと国の関係はいったいどのようなものだろうか。つまり、メダルの数から、その国についてどのようなことが言えるだろうか。

メダルをたくさんとった国はとっていない国よりもすばらしいということだろうか。だが、どうもそうでないようだ。では、メダルの数はその国の民主主義の成熟をあらわす、はどうだろうか? いや、そんなわけない。ならば、メダルをたくさん取った国は金持ちということだろうか。これはある程度は当てはまるが、少なくても豊かな国はたくさんある。

要するに、メダルの数からはその国についてなにもいえないのだ。そして、私たちもメダルの数がなにを意味するのか知らない。私たちはわけのわからないものに熱狂していたのだ。

メダル集めたさに一喜一憂したり、誤審だなんだとカリカリしたり、果てはせっせと誹謗中傷に精だすくらいならば、ポケモンスタンプラリーのほうがずっと平和的ではないだろうか。

苦い文学

ぶつかり男

【夏休みの自由研究】
「ぶつかり男」に関する実験。

【「ぶつかり男」の習性】
弱い者を見ると突進する。

複雑な動きをする群衆の中で、おとなしそうな少女や地味な女性、間抜けそうな男性、子育て中の母親など、歯向かわなそうな人々を、人混みの中で瞬時に発見。ぶつかって蹴ちらす。

怖そうな男性、いかつい若者、ヤクザやそれ風の男、金髪の女、ギャルなどをたくみにかわす。

【「ぶつかり男」の生息地】
大きな駅や野球場の周辺。

【実験】
①朝の駅に行って「ぶつかり男」を10匹捕獲する。
②虫かごに全員入れる。虫かごには椅子やキュウリ・スイカなどを入れない。
③何もないから「ぶつかり男」たちは立っているしかない。どんなことが起こるだろうか。

【予想】
①ぶつかり合戦が起きて、1匹だけが生き残る。
②全員が牽制しあい、一歩も動かなくなる。
③互いに回避しながらせわしなく歩き回る。

【実際の虫かごの中のようす】
虫かごの中心に向かって全員がいっせいにぶつかり合って全滅。

【結果】
「ぶつかり男」が本当にぶつかりたいのは自分自身だということがわかった。駅のあちこちに大きな鏡を置けば駆除できる可能性。

音楽

知恵ある言葉

ビートルズの名曲 Let It Be の出だしはこんな感じだ。

When I find myself in times of trouble
Mother Mary comes to me
Speaking words of wisdom
Let it be

これはたいてい次のように和訳される。


私が困難に直面していると
マザー・メアリーがやってくる
知恵ある言葉を話しながら
「そのままにしなさい」と


私はかねてからこれは誤訳ではないかと思っていた。3つの点を指摘したい。

① words of wisdom と Let it be の関係
多くの人は、マザー・メアリーの話した「知恵の言葉」が「Let it be」であると考える。だが、私はそうではないと思う。「Let it be」は「私」の言葉なのだ。

「いや、『知恵の言葉』すなわち『Let it be』なのだ」と反論する人もいるかもしれない。そう言う人はこうも言うだろう。「『Lovely Rita』すなわち『meter maid』なのと一緒だ」と。

だがこれに関しては、「She’s leaving home」の末尾を聴いてほしい。「home」すなわち「bye-bye」とはならないというのは明らかではないか。これと同じである。

② words of wisdom は、「英知ある言葉」「知恵ある言葉」などと訳されるが、これも誤訳である。そもそもロックというものは、常識に逆らうものなのであるから、これを辞書通りに解釈してはいけない。ここは「小賢しい言葉」、もっと踏み込んで「小言」と読まねばならない。

③ Let it be は通常「ありのままで」「そのままで」などとされるが、これはあくまでもマザー・メアリーの words of wisdom として解釈した場合である。すでに述べたようにこれは「私」の言葉でなくてはならない。とすると「(私を)そのままにしてくれ」、すなわち「ほうっておいてくれ」と読むのがよいだろう。

そこで、以下に記すような正しい訳ができあがる。


俺が厄介なときにかぎって
マザー・メアリーがやってきやがる
やくたいもない小言を喚くのさ
ほうっておいてくれよ

ほうっておいてくれよ じゃまするなって ほうっておいてくれよ このままがいいんだ

ガツンと答えを教えてやるぜ

ほうっておいてくれよ


この歌詞がビートルズ解散の決め手となったのは、間違いないだろう。