旅・観察

歴史探訪「ポツダム宣言」

ある年齢以上の日本人はポツダムと聞くと、必ずポツダム宣言を思い出す。私もそのひとりで、子どもの頃は歴史の教科書には必ずポツダム宣言のことが書かれていたものだ。もっとも、今の学校の歴史の教科書にはもうポツダム宣言とか原爆とかについては書かれていないだろうから、若い人はポツダムなど知らないかもしれない。

私が使っていた歴史の教科書のポツダム宣言のページには偉い人の写った白黒の写真が必ず載せられていた。そこで、私たちの記憶の中ではポツダムと白黒写真が結びついてしまい、今もポツダムは白黒なのではないかと思っている人も多いことだろう。

私もやはりそうで、今回、ポツダムに来て、すべて色がついているのに驚いた。戦後 80 年というが、それだけの時が流れればカラーになるということかもしれない。

ポツダム宣言が産声を上げたのは、ポツダムにあるツェツィーリエンホーフ宮殿だ。私はポツダムに滞在しているあいだ、ぜひともこの「宣言の聖地」を訪れようと考えていた。宮殿に置いてある「宣言ノート」に訪問者たちが記した思い思いの宣言を見てほっこりしたいと思っていたし、またそれに触発されて自分の口からどんな宣言が飛び出てくるか、それも楽しみだった。

しかし、宮殿は現在閉館中ということだった。

残念ながら、私の宣言はおあずけをくらった形だが、いつか、必ず訪れたいと思う。なにしろ、この宣言をきっかけに日本に住む人々が、今にいたるまで戦争から解放されたのだから。

風刺・戯文

富裕層のまねび

先日、いつも着ているシャツが擦り切れてきたので、新しいのを買いにいった。といっても高いのは無理だから、安い服屋だ。店内でゆっくり選びたかったが、ある事情があって、私はもっとも安い棚から適当につかみ取ると、セルフレジに投げ込んで会計を済ませた。

そうせざるを得なかったのは、店にいる間じゅう、ひとりの男が私をつけまわしているような気がしたからだ。万引きを疑われているようで不愉快だし、気味も悪かった。そして、私の勘は間違ってはいなかった。店を出た瞬間、私はその男に呼び止められたからだ。だが、その理由は私の想像とは違っていた。

万引きに疑われたと勘違いした私が、買ったもの以外は何も持っていないということを示そうとすると、男は手で制した。

「そうではないのです。ちょっとアンケートに協力いただきたくて」

「え、ちょっと今は時間が……」

「いえ、お手間は取らせません。すぐ終わります」と、男は早口で捲し立てだした。「実はですね、富裕層は安い服しか買わないという話を聞きまして。それというのも、お金の使い方を心得ているからということで。つまり、無駄なお金を使わないんですね、富裕層は。で、私はさっそく、真似しようと思ったのですが、ひとつひっかかることがありまして。というのも、貧乏な人もやはり安い店で服を買うと思うのですが、かたや富裕層と、かたや貧乏人、同じことをしているのに、なにが違うのだろうか、それがわからなければ真似しても意味がないぞ、と。かえって逆効果かもしれませんからね! で、その違いをはっきり知るために、アンケートをというわけで」

私はこの時には早足で歩きはじめていた。

「こうやって先ほどから貧乏人らしき方々に……」

どう見ても見込みのない人には協力するだけ無駄だ。

旅・観察

大先生のお言葉

ドイツのポツダムで言語学関係の学会が開催されている。

昨日が初日で、オープニングでポツダム大学の学長が最初に挨拶した。理系の研究者ということで、昨日の深夜、アメリカ出張から帰ってきたそうだ。そこで、挨拶の冒頭でこんなことを言った。

「アメリカでは研究者たちと会って話しました。そこで言っていたのですが、今のアメリカの雰囲気は」と学長は言いかけて「ここにアメリカからいらっしゃった方はいますか?」

私は前のほうに座っていたのでわからなかったが、誰も手を挙げなかったようだった。学長は続けた。

「今のアメリカは、とても暗い雰囲気だということでした」

もちろんトランプ政権以来、ということだが、研究費もいろいろ削られているという。そんな状況だからこそ、今、ここポツダムに世界中の言語を研究する人が集まるこうした機会は重要だというような話だった。

ところで、学長が「今のアメリカの雰囲気は」と言ったとき、私のすぐ後ろで、女性が小さく「terrible」というのが聞こえた。

そのときは振り返らなかったが、あとで後ろを見てみると、アメリカの有名な言語学者だった。

大先生がいうのだからこりゃ間違いない。今のアメリカは「ひどい」のだ。

旅・観察

私は空腹だ

ベルベル人は北アフリカやサハラ砂漠の国々に広く住んでいる人々で、一般にベルベル語という言語を使っている。ベルベル語話者は、北アフリカでは、モロッコとアルジェリアに多くいるが、チュニジアにも南部にわずかながらいる。

先月チュニジアに滞在したさいに、ベルベル語話者にベルベル語について教えてもらう機会があった。私は言語に興味を持っているので、単語やら動詞の活用について教えてもらった。単語といっても基礎語彙で「頭」はなんというとか、「話す」はどうだというレベルだ。

あるとき「空腹だ」とか「喉が渇いた」とかはどういうのか、と尋ねたら、該当する単語を答えてくれた。教えてくれたのは 60 代の男性だったが、この単語について教えてくれたとき、こんなことを言った。

「ベルベル人の男は、腹が減ったとか、お金がないとか、そういうことはいわない」

ならなんでそんな単語があるの、と思ったが、それはともかく彼はこう続けた。

「ベルベルの村では男がそんなふうに弱みを見せるのは恥なのだ。だから、どんなに困っていても他人に、たとえそれが親戚でも助けは求めない」

「それで、どうするんです」

「そういうときは、妻子を集めて、部屋に入る。そして、内側から扉を塗り込める。そしてそのまま餓死するのだ」

あくまでもそういう気質だという話であって、これが本当にあったことかどうかは別問題だ。私としては本当でなければいいと思う。

ちなみに「私は空腹だ」とは「イッローザー」というようだ。積極的な活用を望む。

風刺・戯文

Department of Why Can’t We Be Friends?

アメリカ合衆国大統領、ドナルド・トランプが、国防総省を戦争省に改称すると発表した。ツイッター(現 X)での日本人の反応を見ると、「バカげている」と呆れる人、「戦乱の世の到来か」と危ぶむ人、「なにをいまさら」とアメリカの歴史を引き合いに出す人などさまざまだが、基本的には否定的に捉える人が多いようだ。

いっぽう、肯定的にこれを捉える人もいる。いわゆる陰謀論者たちで、これらの人々は、この改称をもってして、自分たちのヒーローであるトランプが「DS(ディープ・ステート)」に対して本格的な宣戦布告をしたと歓迎しているようだ。

私はというと、やはり否定的な解釈に組みするものだが、それでも、今回の改称が、この戦争だらけの世界に一縷の希望をもたらすのではないかという可能性も信じたい。

というのも、war が「戦争」ではなく、アメリカのファンク・バンドの War である可能性も否定できないからだ。War は、アニマルズのエリック・バードンらが結成したバンドで、1970 年にデビューした。以来、数々のアルバムを発表しているが、中でも有名な曲は、1975年の「Why Can’t We Be Friends?(邦題:仲間よ目を覚ませ)」だ。

この曲は、タイトルの通り、戦争などの対立を乗り越えて友達になろう、という歌だが、アメリカ人がこの名曲を忘れるはずはない。万が一のことかもしれないが、近いうちに、目を覚ましたアメリカ政府が、戦争省をさらに改称して、Why Can’t We Be Friends? 省とするかもしれないということを念頭において、日本政府は対米外交政策に取り組むべきだと思う。

風刺・戯文

夏の恐竜

恐竜は冬眠をしたのでしょうか。

従来の学説だと、恐竜は、トカゲと同じような変温動物であり、冬は体温が下がるため、冬眠していたとされていました。

ですが、最近の研究では、恐竜は恒温動物、つまり寒くても体温を維持できたため、冬眠はしなかったという考えが主流だとのこと。というのも、寒冷地にも適応した恐竜がいたこともわかってきたからです。

これに対し、異を唱えるのが、吉田九郎さん。吉田さんは古生物に関する長年の研究にもとづき「やはり恐竜は冬眠していた」と主張しています。

「その証拠はじつは私たち人類に隠されています」と吉田さん。「もちろん人類は恐竜時代にはまだいませんでした。ですが、人類の祖先となる小さな哺乳類は恐竜と同時代を生きていました。これらの哺乳類にとって恐竜はじつに恐ろしい存在でありました。あまりにも恐ろしかったので、その恐怖の記憶が DNA レベルで刻み込まれ、現在の私たちにも引き継がれているのです」

吉田さんは手に持った「夏休み特別企画、大恐竜展」と描かれたチラシを見せます。

「これがその証拠です。私たち人間が夏になると必ず恐竜展を開催してしまうのは、DNA に組み込まれた太古の恐怖がなせる技なのです。つまり、哺乳類にとっては夏といえば恐竜なのです。もし恐竜が冬眠していなかったら、真冬にも恐竜展を開催していたことでしょう!」

風刺・戯文

遥かなるゲート 2025

私たちが乗る飛行機の搭乗ゲートはなぜいつも遠いのだろうか? どうして出国審査カウンターを抜けたら、すぐゲートというわけにはいかないのだろうか? どうしてゲート 1 ではないのだろうか?

私たちは行先を知らせる表示を見て思う。「わっ遠そうだなあ」 その通り、確かに遠いのだ。私たちは、豪華な品々が並ぶ免税店を尻目に、長い回廊を歩き出す。表示の指すのは、通路のずっとずっと向こうの消失点の先だ。私たちは動く廊下をいくつも乗り継ぐが、その度にゲートが遠ざかっていくみたいに思える。私たちの脇を乗客を乗せた電動カートが何台も通り過ぎていく。どの車も乗客でいっぱいだ……。

そして、私たちの目の前に、エレベーターが現れる。それを下りた私たちは歓声を上げずにはいられない。空港のシャトルトレインの乗り場だったのだ。「ようやく!」と、いさんで乗り込む私たち。だが、トレインが運んで行った先には、変わり映えのしない長い回廊が広がっているだけだ……。

この頃には私たちの数はぐんと減っている。遥かなるゲートへの旅の途中でいく人もの仲間が落伍していった。彼らが託した搭乗券の束で、私たちのポケットはパンパンだ。

だが、いつかゲートに辿り着くときが来る。私たちは搭乗券を見せて、飛行機に乗り込む。シートに座り目を瞑り、長い旅の労苦と消え去った仲間たちの面影を思い出す……。

飛行機が飛び立つ。私たちは機内アナウンスによって、ただ別のターミナルに向かっているにすぎないことを知る……。

風刺・戯文

じわりジャーナリズム

国際関係のニュース、政治のニュース、経済や株価、エンタメ、科学、スポーツなどのニュース、ニュースにはいろいろあるけれど、私が関心があるのは「じわりのニュース」だ。

このニュースはどんな話題よりも頻繁に報道されるので、とてもカバーできるものではないが、それでも私はできるかぎり追っかけている。

「じわりのニュース」は外国には見られないものだ。外国のジャーナリストは、政府の不正を報道したり、戦場に潜入するのに忙しくて、「じわり」になど興味ないのだ。この点、我が国のジャーナリストは違う。毎日せっせと「じわり」を記事にしてくれるのでありがたい。今、少し検索しただけでこんなにも「じわり」のニュースが出てくる。

*円安関連倒産、8 月は半減 トランプ関税の影響じわり(ITmedia ビジネスオンライン)」
*「最も危機感を持つのは中堅・若手」自民で臨時総裁選求める声じわり「党勢回復の機会へ」(産経ニュース)
*自民党総裁選、前倒しに賛同じわり 小泉農相「一議員として」発言に憶測も(カナロコ)
*「石破降ろし」党内外に温度差 じわり擁護論、ブーメラン効果も(時事ドットコム)

こうしたじわり報道からわかるのは、日本におけるじわりの動向だ。現在のところ、日本でもっともじわりとしているのは政界のようだ。近づかないほうがいいかもしれない。

風刺・戯文

象徴の防止

私が最近読んだものでもっとも恐ろしいのは、日本国憲法だ。第一条を読んだだけで、怖くなって読むのをやめにしてしまった。なにしろこんなふうに書いてあるのだ。

「第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」

もちろん、私は憲法の定める天皇の地位に異議があるわけではない。ただ、この条文には肝心のことが書かれていないのだ。まず、日本国の象徴・日本国民の象徴となりうるのが天皇だけだとは一言も言及がない。つまり、天皇のほかに、日本国の象徴・日本国民の象徴が存在する可能性があるのだ。

「いや、ちゃんと読んでください。そのためには日本国民の総意が必要なんですよ」と注意する人もいるかもしれない。確かにそうだ。だが、よく読んでほしい。「日本国民の総意がなくては象徴にはなれない」とも書いていないのだ。わかるのは、天皇の場合は総意が必要、ということだけだ。

天皇でなくても、そして国民の総意に基づかなくても、誰でも日本国と日本国民統合の象徴になりうるとしたら、これほど恐ろしいことはない。

象徴のまん延を防ぐためにも、手洗い、うがい、マスクの着用を呼びかけていきたい。

風刺・戯文

ウナギの危機

日本人の愛してやまぬウナギが絶滅の恐れがあるとして、国際取引の規制対象となる可能性が出てきた。11 月に開催されるワシントン条約の締約国会議での協議次第では、輸入のウナギが食べられなくなるかもしれないというのだ。

たかが食べ物のことと侮ってはいけない。これはまさに国家の存亡に関わる重大事態なのだ。

というのも、輸入のウナギがなくなると、国産のウナギだけでは国内消費量はとうていカバーできなくなる。すると、ウナギはますます高価な食材となり、庶民にはもはや手が届かないものとなってしまう。これは、我が国民のスタミナ事情を直撃する深刻な事態であり、日本人は精をつけることができなくなる。その結果、少子化がうなぎ上りに進んでいくことが考えられる。

日本政府に提案したいのは、ニホンウナギは絶滅の恐れはないとして、規制対象から外すよう大規模なロビー活動を展開することだ。そのための経費もケチるべきではない。締結国の関係者が日本の味方になってくれるように、鰻丼ではなく鰻重をふるまうべきだ。肝吸いも忘れてはいけない。