風刺・戯文

人類の目標

私たち人類が生まれたのは、大昔、まだ太陽が若かったころのことです。ですが、その頃の世界は、誕生したばかりの人類にとって生きやすい場所ではありませんでした。

というのも、世界は、私たちに先行する先住人類たちのものであって、私たちの世界ではなかったからです。

先住人類には、私たちより頑強で、優れた身体能力を持つ種もいましたし、私たちより俊敏で速く走ることができる種もいました。だから、私たち人類の獲物も食糧もあっという間に奪い取られしまうのでした。

生まれたばかりの人類は非力で、数も少なかったので、先住人類に対抗することなどできませんでした。ただ怯えながら、ひっそりと隠れ暮らしていました。その頃、私たち人類がひたすら願っていたのはただひとつのことでした。

「いつか他の人類に打ち勝って、この世界を独り占めしよう。これが私たちの目標だ」

この目標は、実は人類最初の目標でした。それは幾世代にもわたって受け継がれました。やがて私たちの精神に深く刻み込まれ、人類の生きる意味そのものになりました。

そして、結局のところ、この目標は実現しました。最後に生き残ったのは、私たち人類でした。それ以来、私たちは生きる目的の喪失に苦しむようになりました。

風刺・戯文

サムライに関するお願い

外国人のみなさま

日本の将来を憂える私たちは、日本を愛しておられる外国人のみなさまに、切実なお願いがあり、ここにお手紙をお送りする次第です。

私たちのお願いというのは、サムライに関することです。どうか、みなさま外国の方々に、このサムライをきらいになって欲しいのです。

私たちはみなさまが、映画やアニメ、ゲームを通じて、このサムライという歴史上の存在に深い関心をもち、その精神を敬い、その生き方に憧れていらっしゃることは承知しております。ですが、にもかかわらず、私たちは、サムライをきらってください、と申し上げざるをえないのです。

なぜと申すに、その結果、今や日本では信じがたいことが起きているからです。外国のみなさまが、サムライをあまりにも持ち上げるせいで、目立ちたがり屋の日本人がすっかりサムライ気取りになってしまったのです! ついには「日本はサムライの国だ」などとサムライ国家論をぶち上げるバカまで現れる始末です。農民のほうが多かったというのにです。

ですので、外国人のみなさまにお願いいたします。日本を救うために、どうかサムライをきらってください、笑い者にしてください! このままだと、日本人は全員サムライになってしまいます。農民はひとりもいなくなり、日本人は高楊枝のまま餓死してしまうでしょう……

風刺・戯文

思ったことが言えない世の中

「最近、思ったことが言えない窮屈な世の中になった」という人が多いので、ある研究者がこの現象について調べることにした。

まず、思ったことが言えないと感じている人々が「どんなことを思ったのか」について調査を行った。その結果、いくつかの共通するテーマがあることがわかった。それらは「外見のこと、性的なこと、弱いものいじめ、外国人差別、障害者差別」などであった。思ったことが言えない人は、これらのことが言えないために窮屈な思いをしているということが明らかになった。

さらに、研究者は、これらの「思ったことが言えない人」が、単に思っただけではなく、実際に発言した場合、「思ったことを言った人」と「思ったことを言われた人」の双方についてどのようなことが起きるかについても調査を行った。

その結果、「思ったことを言った人」は、一時的に窮屈な思いから解放されるが、やがて窮屈な状況に陥ることがわかった。いっぽう、「思ったことを言われた人」については、思ったことを言われたことにより、思ったことが言えなくて窮屈な思いをしている人よりもはるかに窮屈な思いをするということが明らかになった。

そこで研究者はこう結論づけた。

「つまり、思ったことが言えなくて窮屈だという発言は、その人間の内部に思うに値する思想など何もないということの目印として機能している。ゆえに、黙ってろ。常日頃、思っていたことが言えてスッキリした」

風刺・戯文

我が国の最強繊維

現在のところ、世界でもっとも強靭で破れにくい素材はダイニーマという繊維なのだそうだ。これはオランダの会社が開発したもので、防弾チョッキや登山用ロープなどに使われているという。

しかし、実はこの日本の、私たちの身近なところにも、ダイニーマと同じくらい、いや、それ以上に丈夫で強い素材があるのはご存知だろうか。

それは、のり弁の海苔だ。

のり弁のご飯の上にのっているこの海苔くらい破れにくいものはないのだ。

箸でつついても、突き刺しても、絶対に切れない。両手に箸を一本ずつ持って、両端から引っ張っても無駄。ヤケを起こして、箸で滅多刺しにしても、穴ひとつ空かない。まさに最強繊維だ。それで結局のところ私たちはあきらめて、大きな海苔巻きにして食べるしかなくなる。

こんなすごい素材が我が国にあると知った今、ダイニーマになんか高いお金を払う必要などない。軽くて、強くて、安くて、しかも、いざというときに食べられる、こののり弁の海苔を、登山やマリン・アクティビティに活用してみてはいかがだろうか。

もっとも、食べるときは少し注意したほうがいい。この海苔が喉にひっつきでもしたら、窒息死まちがいなしだから。

風刺・戯文

ホトトギス作戦

悪いこといわないから、日本人はアメリカ車を買ったほうがいい。それから、道もどんどん広くしたほうがいい。なぜなら「日本の道は狭いので、アメリカ車は適していない」というみえすいた言い訳ほど、アメリカ人をイラつかせるものはないからだ。

さもなければ、アメリカは、お得意の実力行使にうってでることだろう。日本の道を広くするために、日本の大都市を絨毯爆撃する作戦、コードネーム「ホトトギス」だ。「狭いなら広くしてやるホトトギス」というわけだ。アメリカ人は戦争の前にちゃんと相手の国を研究するといわれている。

攻撃などそんなバカな、と否定する人もいるかもしれない。だが、それは、ホワイトハウスが「皇居の地下に核爆弾製造施設がある証拠を掴んだ」と言い出さない場合だけだ。そして、そんなファクトは核爆弾よりも容易に製造できるのだ。

かくして我が国は破壊され、その焦土の上を、もう全部が道だとばかりにアメリカ車だけがゆうゆうと走ることになる。日本車は禁止だ。日本車愛好家は、みなテロ罪で逮捕され、グアンタナモに送られるだろう。

ときどき市民が日本車シンパの容疑で連行される。アメリカの手先になった日本人にいじめられながら、トヨタやホンダのエンブレムを踏まされるはずだ。

風刺・戯文

伊藤家の企み

その日、伊藤は、大事なことがある、と妻と子どもを集めた。

「父さんはいつもお前たちにすまないと思っていたのだ……。小百合」と伊藤は妻のほうを向いた。

「苦労をかけたな……お前が嫁いできて、如月という立派な苗字から、伊藤に変わったときも、心から申し訳ないと思っていたよ」

「そして太郎」と伊藤は息子を悲しげな目を向けた。「お前が生まれ、この名前をつけたとき、私は心で泣いていたのだ。伊藤太郎! なんとありふれた名前だろうか!」

ありふれた名前とされた少年は、俯いて膝の上にのせた拳をじっと見つめていた。「さぞかし悔しかったろう、悲しかったろう!」 伊藤の口から憐れみの言葉が溢れた。

「だが」と彼は背筋を伸ばした。「そんなつらい思いももうおしまいだ。わたしたちみんなの悲しみが終わるときが来たのだ」 伊藤は一枚のハガキを二人の前に置いた。

「これは『戸籍に記載される振り仮名の通知書』のハガキだ。今年から、戸籍に名前のフリガナを記載する新制度が始まり、もし間違っていたら、届け出をして直すことができるのだ」

伊藤はそのハガキの文面を家族に見せた。

氏 伊藤
氏の振り仮名 イトウ

「お父さんは、フリガナが間違っていたと届け出るつもりだ……この決心に揺らぎはない。我が家はもはやイトウではない。イドウだ! 世に伊藤家は星の数ほどあれど、イドウと読ませる伊藤家は私たちだけなのだ!」

風刺・戯文

移民のせいで治安が悪化

黒鍬市には昔、数名の外国人が住んでいたが、コロナの時に仕事がなくなって出て行ってしまった。それ以来、市にはひとりの外国人も住民登録していない。

もっとも、市からは外国人だけでなく、若い人も流出してしまっていた。このままでは黒鍬市が消滅してしまう、という危機感から、若い人が帰ってくるように市は U ターン事業を始めたが、いっこうに効き目はなかった。そこで、市長は議会でこんな提案をした。

「若い人は無理でも、若い外国人に住んでもらうホームタウン政策を実施するのはどうだろうか。なんといっても数年前は外国人が住んでいたのだから」

何人かの議員は賛成したが、他の議員たちは猛反対した。

「得体の知れない外人を連れてきてどうしようというのだ!」「移民が来ると治安が悪化する!」「黒鍬が乗っ取られてしまう!」

これら議員たちの言い草があまりにひどいので市長もカッとなって言い返した。

「頭が硬くて古くさいケチどもだ!」

それ以来、黒鍬市は、市長派と反対派の議員で真っ二つに割れてしまった。なにしろ小さな市だから、それだけでは収まらない。市民同士までいがみ合う始末で、とうとう夏の盆踊りで暴力沙汰まで勃発した。もうヤクザの抗争みたいで、敵と見れば容赦ない。夜の道など危なくて歩けないのだ。

今や黒鍬市は、移民がひとりもいないのに、移民のせいで治安が悪化した町として、全国的に有名になっている。

風刺・戯文

賭け科研費

東京、文京区の店で、客に賭け科研費をさせていたとして、店の責任者と従業員合わせて5人が賭博の疑いで逮捕されました。また、店内で研究者人生を賭けていた若手から名誉教授の客11人も賭博と不正なエフォートの使用の疑いで逮捕されました。

科研費(科学研究費助成事業)とは、学術研究の発展を目的とした「競争的研究費」であり、かねてからその競争的な部分をめぐる賭博が問題となっていました。

店では、1課題ごと3割の申請費を徴収したうえで、客は1枚10(金額単位:千円)で購入した「研究倫理eラーニングコースの修了書」を、研究種目の順位に応じてやり取りするなど、店が定めた採択率をもとに賭けが行われていたということです。警視庁は「研究倫理eラーニングコースの修了書」も偽造とみて、分析を急いでいます。

また、コンピューターやサーバーなどを押収した警視庁は、店内で電子申請システムを使ったおおがかりなオンライン・カジノが運営され、将来的に世界の賭博をけん引しそうとみて、慎重に捜査を進めています。

音楽

Pami

Pami は、タイの女性ミュージシャンで、しばらく前からよく聞いている。韓国のシティポップの影響が強く感じられる音楽だ。Pami の MV もよい出来で、YouTube で見てからというもの、タイのアーティストがおすすめされるのでいくつか聞いたが、Olin MattiBlue など洗練されている音楽が多い。

私はタイの音楽というと、昔、バンコクと地方を夜行バスで何度か行き来したときに大音量で流れていた演歌みたいなメロディしか知らなかったが、時代は大きく変わったのだ、

Pami は中華系のタイ人で、Pam という名前でアイドルとして、また徐嘉琳という名前でアイドル・グループで活動していた。その後、自ら作詞作曲をする活動を始めたようだ。タイ語も中国語もできるが、英語で歌っている。

「pity dirty」という曲の MV が現在 225 万再生とヒットし、私もそうだが、これで彼女を知った日本人も多い。先日新しいアルバムを出しこともあり、日本でも確実にファンを増やしつつあるようだ。

1度、日本でライブをしたこともあるそうだが、本格的な公演はまだのようだ。近いうちに必ず来日公演があると思う。

ところで、私の好きな Homecomings が 10 月にバンコクでライブをする。もちろん行けるわけはないのだが、告知を見ていて、ゲストがこの Pami であることを知った。

それ以来、私は歯ぎしりをして過ごしている。

(写真は去年の2月、バンコク発の高速バスの休憩所で撮ったもの)

風刺・戯文

見たい人だけ見ればいい

不品行と暴力と虐待によりテレビを追放された元芸能人たちが独自のネット配信サービスを始めたとき、私たちはこれは良くないことが起こる前兆だと思った。

「こうしたことは許すべきではない」 一部の人々がさっそく抗議した。

すると、崇拝者やお金持ちたちが嘲笑った。

「文句があるなら見なければいいんじゃない。見たい人だけ見ればいいんだから」

私たちはこれは絶対にまずい、とささやきあった。

配信がスタートすると、人々は夢中になった。どの番組も、楽しさと爆笑にあふれていた。やがて視聴者たちが叫び出した。「こんなにも素晴らしいものがこの国から奪われていたとは、なんという悲劇だ! マスゴミをのさばらせておくとロクなことにならない!」

お金持ちたちが配信サービスにお金を費やしていたのは、この声を聞くためだった。彼らは最後のひと押しとばかりに、マスコミを操る悪の組織を暴く番組を配信した。興奮した視聴者たちは叫んだ。「この国が乗っ取られようとしている!」「国を取り戻せ!」

そして、視聴者たちはマスコミや私たちに対してこんなことを言い出して攻撃を始めた。

「文句があるなら、この国にいなければいいんじゃない。いたい人だけがいればいいんだから」

もっとも、私たちは出ていくに及ばなかった。なぜなら、視聴者たちは、私たちを追い出すよりも楽な方法を思いついていたから……。