旅・観察

ベルベル語の調査とその後(3)

閉め出されたというのは、2025 年 3 月 1 日、チュニジアでラマダーンが始まったからだ。日中は断食するから、ほとんどの店は閉めてしまう。それで、カフェにいることもできなくなった。

そこで、S さんが連れていってくれたのは、やはりメディーナの中にある「シャーシーヤ作りの市場」という屋根つきの商店街だった。古い建物で起源は 17 世紀に遡るという。シャーシーヤというのは縁なしの赤い帽子で、その店が集まっている。

そこに、通路を利用したカフェがあった。ラマダーン中なので店はやっていないが、一部のテーブルや椅子は出しっぱなしだ。ここを利用しようというのだ。

ラマダーン中の市場は薄暗く、がらんとして、仕事をしている人もいない。ときどき、大声を響かせながら通る人もいるが、それ以外は、猫が数匹すみっこでじっとしているだけだ。

これは絶好の場所と、さっそく私は S さんを前に、調査を始めたのだが、次第にある問題が私を悩ませ始めた。

寒いのだ。

チュニスの 3 月は、日差しが強いので暖かいように感じるが、気温は日本と変わらない。古い建物の冷たい石の床の上ではもっと冷える。私は震え出した。寒さに体を縮こまらせながら、なんとかその日の調査を済ませる。ホテルに戻ったときには風邪気味だった。

この寒さはつらいものだったが、やがて私を切ない状況にも追い込みはじめた。

(写真:シャーシーヤ作りの市場)

苦い文学

続男の正座

数日後、正座器が届いた。「正座による足への負担を軽減する」という触れ込みの利器だ。レビューでは「凄く楽でした」「足が痺れません」と期待をもたせる。

さっそくそれをお尻の下に置いて正座してみた。すると、低い、低すぎる。私の足首は硬くて伸びず、平たくならない。それで、その分お尻が高くなり、正座器の座面から浮いてしまうのだ。これでは「足の負担」は軽減しない。もっとも、悪いのはこの製品ではなく、私の硬すぎる足首だ。なんにせよ、もっと高さのあるものを買わなくてはならない。

そこで、再び Amazon を検索した。正方形のクッションタイプのものが高さがありそうだったので、今度はそれを購入した。届く。すぐに試す。私の足首は、ガンとして伸びるのを拒否した。

無駄な買い物をしたと悔やんだが、せめてもの救いは、お昼寝の枕にも使えそうなこと……。だが、前日になって私はふと思いついて、このクッションを座布団の上に置いて正座してみた。すると、足首の痛みも多少和らぎ、短時間であるが正座の形を保つことができた。

これだ。

座布団はきっとある、と願いつつ、私はこのクッションを大きなカバンに入れて、義太夫体験教室に向かった。

苦い文学

カタカナの市

黒鍬市の市長が秘書に聞いた。

「最近のニュースで気がついたのだが、どうして水原一平のことを、外国人は『一平』でも『いっぺい』でもなく『イッペイ』というのかね」

秘書は答えた。「それは外国人がカタカナでしか話せないからでしょう」

「なるほど……」と市長はしばし黙考したのち、急に興奮して叫んだ。「ひらめいた!」

市長はさっそく市議会でこう提案した。

「黒鍬市をクロクワ市とする改名案を提出する! なぜなら外国人にとってより親しみやすいクロクワと改名すれば、外国人観光客の増加が見込まれるからだ」

反対するものなど誰一人いなかった。それどころか市会議員たちは、インバウンド景気を当てこんで観光ビジネスに参入した。

そして、ついに改名後はじめて、外国人観光客がクロクワ市にやってきた。市長みずから出迎えると、外国人は、観光に似つかわしくない神妙な顔つきをし、なにやらぶつぶつ言っている。市長は英語がわからなかったから、直ちに通訳を呼びつけ、訳させた。

「原爆ドームはどこだろうか?」

通訳は小声で市長に告げた。「外国人は、カタカナの日本の地名はみな被爆地だと思っているのです」

「なに?!」と市長は驚愕したが、すぐに落ち着きを取り戻し、こう外国人に申し出た。

「原爆ドームをご覧になりたいのですか。少々お待ちください。特別にご案内しましょう!」

市長は市役所職員を呼び集めると、長いこと空き家になっている民家を一軒、徹底的に破壊させた。そして外国人を連れて行くとこう言ったのであった。「原爆の爆風で壊された民家です。原爆の恐ろしさを忘れないようにそのままにしてあります」

「オー、ノー」と外国人は悲痛な表情を浮かべた。

いまでは、クロクワ市は外国人のお気に入りの観光地のひとつだ。クロクワは、ヒロシマとナガサキに負けないようにと、原爆の惨禍を強調し、その結果、市の半分がメチャクチャに破壊されるまでになった。

「過ちは繰り返しません」という石碑まで立っている。

苦い文学

新しい特定技能

特定技能制度は、外国人労働者の受け入れを拡大し、労働力不足をカバーすることを目的として、2019年からはじまった在留資格です。

この在留資格には「1号」と「2号」の2種類があります。受け入れ可能な職種はそれぞれ次のとおりです。

1号(12職種)
(1) 介護 (2) ビルクリーニング (3) 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業 (4) 建設 (5) 造船・舶用工業 (6) 自動車整備 (7) 航空 (8) 宿泊 (9) 農業 (10) 漁業 (11) 飲食料品製造業 (12) 外食業

2号(2職種)
建設、造船・舶用工業

政府の有識者会議はこれまで、この特定技能制度の運用と実態に関して議論を行ってきました。少子高齢化と人材不足の進行に対応するため、対象となる職種を追加すべきだとの勧告をたびたび行っています。

これを受けて政府は今日、特定技能1号の職種として 「(13) 政治」を新たに加えることを公表しました。

地方議員の深刻ななり手不足の解消が期待できるとあって、各地方では早くも歓迎ムードです。

政府は今後「 (14) 皇室」も追加するという方針も明らかにしています。

苦い文学

妖怪ガチャ入道

人里離れた山道を歩いているときに、どこからともなく「ガチャガチャ……ガチャガチャ………」と不気味な音が聞こえてきたら、すぐさま逃げ出したほうがいい。

もしかしたら妖怪ガチャ入道が後ろに立って、君に乗り移ろうと狙っているかもしれないからだ。

ガチャ入道は、なにに対してもガチャで外れたと嘆く人間のなれの果てだ。

もともとは勝縁という坊主であったこの男、親ガチャに外れたと言って出家したのだが、今度は寺ガチャに外れた、和尚ガチャに外れたと言い出す始末。

そのうち誰からも相手にされなくなり、ついには頭にきたのか「世界ガチャに外れた、世界ガチャに外れた」と叫びながら町を歩き回るありさま。

だが、あるとき、通りすがりの老人が彼にこんなふうに言った。

「お前はむしろ自分ガチャに外れたな」

これを聞くや、勝縁、自分以外のものにはなれぬと観念したか、たちまち悶絶して息絶えた。その無念の思いが凝り固まって妖怪となったのがガチャ入道というわけ。

だが、もし、君がうっかりガチャ入道と出会ってしまっても、慌てることはない。

「この妖怪に対峙するとき『あっはぷふい』と唱えればたちまちにして消滅す」

その著『死霊』で、自同律(自分が自分であること)の不快について語った妖怪博士、埴谷雄高が、そう書き記している。

旅・観察

大村入国管理センター待合室内掲示の記録(3)

No.5. A4の紙(下線も再現)

            平成30年10月1日


       家族面会について
   被収容者の家族のうち,18歳未満の
  子(実子又は養子)及びその引率者(被
  収容者の配偶者等)の面会については,
  仕切りのない面会室での面会を実施す
  ることが可能です。ただし,保安上の
  理由から,所持品や衣類の検査を行わ
  せていただく必要がありますので,仕
  切りのない面会室での面会を希望され
  る方は,係員に申し出て下さい。

              大村入国管理センター

No.6. A4の紙(下線も再現)
           平成30年10月5日


       お知らせ
   面会待ち時間の短縮を図ること
  などを目的として,面会の受付は,
  1回3件までとさせていただきま
  す。それ以上の面会を希望される
  方は,面会終了後に改めて面会の
  受付を行っていただきますように
  お願いします。
   また,面会件数が非常に多くな
  ることが見込まれるなど諸般の事
  情より,面会件数を制限したり,
  面会時間の短縮をお願いすること
  もあります。
   皆様の御理解と御協力をお願い
  致します。


              大村入国管理センター