苦い文学

妖怪ガチャ入道

人里離れた山道を歩いているときに、どこからともなく「ガチャガチャ……ガチャガチャ………」と不気味な音が聞こえてきたら、すぐさま逃げ出したほうがいい。

もしかしたら妖怪ガチャ入道が後ろに立って、君に乗り移ろうと狙っているかもしれないからだ。

ガチャ入道は、なにに対してもガチャで外れたと嘆く人間のなれの果てだ。

もともとは勝縁という坊主であったこの男、親ガチャに外れたと言って出家したのだが、今度は寺ガチャに外れた、和尚ガチャに外れたと言い出す始末。

そのうち誰からも相手にされなくなり、ついには頭にきたのか「世界ガチャに外れた、世界ガチャに外れた」と叫びながら町を歩き回るありさま。

だが、あるとき、通りすがりの老人が彼にこんなふうに言った。

「お前はむしろ自分ガチャに外れたな」

これを聞くや、勝縁、自分以外のものにはなれぬと観念したか、たちまち悶絶して息絶えた。その無念の思いが凝り固まって妖怪となったのがガチャ入道というわけ。

だが、もし、君がうっかりガチャ入道と出会ってしまっても、慌てることはない。

「この妖怪に対峙するとき『あっはぷふい』と唱えればたちまちにして消滅す」

その著『死霊』で、自同律(自分が自分であること)の不快について語った妖怪博士、埴谷雄高が、そう書き記している。