笑い話を理解するための次のポイントは、標準アラビア語と方言の違いだ。もっとも、説明する私にとってさいわいなことに、笑い話に関係するのは「雌牛」という単語だけだ。
標準アラビア語では「雌牛」は baqara という。チュニス方言では bagra だ。あまり大きく違わない。ただし、使い方の点では大いに異なる。標準アラビア語には格変化がある。格というのは、日本語の助詞「〜が」「〜を」「〜の」の役割に似たもので、この役割に合わせて語尾が変化する。具体的には次のとおり。
baqarat-u-n「ある一頭の雌牛が」
baqarat-a-n「ある一頭の雌牛を」
baqarat-i-n「ある一頭の雌牛の」
ここで「〜が」「〜を」「〜の」の違いに対応しているのが -u、-a、-i だ。末尾の -n はここでは「ある」に対応し、英語の不定冠詞の a に似ている。ちなみに方言では「〜が」だろうが「〜を」だろうがなんだろうが、いつも bagra だ。つまり格変化はない。
なお、この格変化は、アラビア語を学ぶ気のない人は覚える必要はない。また、アラビア語を学びたいと思っている人も覚える必要はない。なぜなら、アラビア語入門の最初の授業で学ぶことだから。-un が、いかにも標準アラビア語らしい語尾だということがわかれば十分。
だが、もうひとつ大事なポイントがある。baqara の後にいきなり出現した t だ。これは、この名詞の後に格語尾がついたり、別の名詞が続いたりすると出てくるものだ。この t にはいくつか意味があるが、ここでは女性名詞の印だとしておくと、次のポイントに進みやすくなる。
なお、この t は、方言の bagra にも隠れている。とはいえ、こっちのほうは笑い話には関係はない。