ラテン語の cattus がアラビア語とベルベル語にある似た語と関係があると言えるかもしれないが、いつ、どういう経路で借用されたかはわからない、ということはわかった。
ところで、Kossmann はベルベル語の似た形を他にも挙げている。
yaṭṭus (Sened, Siwa)
ayaḍus (Medieval Tashelhiyt)
どれも y が特徴だ。Sened は南部チュニジアのすでに消滅したベルベル語だが、やはりチュニジアのベルベル語であるターウジュート・ベルベル語でも āyaṭṭūs となる。
面白いのは、この y はもともとは g であったと考えられることだ。すなわち、ターウジュート・ベルベル語で āryāz 「男」は他のベルベル語の ārgāz に対応する。すると、ターウジュート・ベルベル語では āyaṭṭūs はもともとは āgaṭṭūs であったと推定できる。
そこで、ターウジュート・ベルベル語を中心にして考えると、主に二つの経路が考えられる。
(i) ターウジュート・ベルベル語(の古い形)āgaṭṭūs >南部アラビア語方言 gaṭṭūs >チュニス方言 qaṭṭūs
(ii) チュニス方言 qaṭṭūs >南部アラビア語方言 gaṭṭūs >ターウジュート・ベルベル語(の古い形)āgaṭṭūs>ターウジュート・ベルベル語 āyaṭṭūs
(i) と (ii) を比べると、(i) で、[g] が [q] になる変化は、まったくあり得ないわけではないが、方言としては [g] をそのまま受け継ぐほうがより自然なので、私はどちらかというと (ii) のほうに可能性があるのではと思っている。とはいえ、これらはまだ思いつきの段階だ。
おそらく、地域、言語によって qaṭṭūs の伝播は違うのだろう。ある地域ではラテン語>ベルベル語>アラビア語かもしれないし、別の地域ではラテン語>アラビア語>ベルベル語かもしれないし、もっと複雑なプロセスもありうる。ターウジュート・ベルベル語では、アラビア語からの借用に分があるように思えるが、他の地域では別のプロセスもありうる。
まず必要なのは、個々のベルベル語の借用プロセスを考えることだろう。その上で、アラビア語方言とベルベル語の地理的分布、ベルベル語そのものの分類を考慮することで、ネコたちの動きが見えてくるかもしれない。
だが、これで終わりではない。「カとガ(4)」で私は「三つの大きな謎がある」と書いたが、ここから最後のひとつが始まるのだ。