風刺・戯文

訃報の行方

江戸時代の歌舞伎役者の年表を見ていると、四十代で亡くなる人が多いのに驚かされる。今は、医療の進歩により、さすがに四十代で亡くなるのは「早世」の部類だが、それでも五十代ともなると死を覚悟するようになる。

私と同年代の友人で、長らく小学校の教員をしていた吉田という男がいる。私も彼ももういつ死んでもおかしくない年齢で、このあいだ電話していて、自然とそんな話になった。

「そのうち、どちらからか訃報がいくようになるだろうな」と私。

「そうだろうね」

私は吉田と共通の友人の名前をあげた。「俺の場合は、村田に、川口に、佐藤、そして吉田の四人に訃報が行けば十分だな」

「俺も村田、川口、佐藤」と吉田は続け、「それから、山田だ」と私の名を含めた。

「ちょっと待てよ」と私は彼が独身なのに気づいた。「俺の場合は家族と一緒だから、家族が訃報を伝えてくれるだろうけど、吉田は独りだろ。誰が訃報を俺たちに伝えてくれるんだ」

これを聞くと、彼は絶句し、無言になった。私はまずいことを言ったと思い、話題を変え、電話を切った。それからしばらくして、吉田からこんなメッセージが届いた。

【私の訃報連絡網】 吉田>川口>佐藤>村田>山田>吉田

風刺・戯文

国際カンケイ大研究!

今年の夏、国連が、アンケート「国家と国家のあいだに友情関係は成立する?」を大々的に実施し、その結果が公表されました! いったいどんな結果が出たでしょうか?!

「国家と国家のあいだに友情は成立すると思いますか?」という質問に、なんと半分以上の国家が「成立する」を選びました! 「成立しない」と「どちらともいえない」がそれぞれ約 20 %でした。以下、回答を寄せた国々からのコメントをご紹介!

【成立する派のコメント】
「我が国には友邦との強固な同盟関係が存在するため」
「たくさんの親日国に恵まれている我が国がその証だと思います」
「一部敵対勢力を除けば、すべての国家が我が帝国にひれ伏しているから」

【成立しない派】
「友人づきあいをしているうちに、いつの間にか敵意を感じるようになった」
「相手のふとした仕草が、思わず敵対感情を誘発して……その後はご想像にお任せします」
「ただの友達だと思っていたが、あるとき急に一方的に告白されて、開戦する事態に」

【どちらともいえない派】
「ほとんどの国家が友達未満敵以上なので」
「友人関係が成立したとしても、お互いの線引きが難しいから」
「友人関係から恋人関係、さらには結婚にまで至りましたが、その後関係が破綻し、二人の間に授かった領土の領有権をめぐって国際家庭裁判所で争う事態となった」

今回は「国家と国家のあいだに友情関係は成立する?」をテーマとしたアンケート結果をまとめました。結果を見るかぎり、世界平和はまだまだ、という感じですね!

風刺・戯文

セクシャル・コンセント・マターズ・ハラスメント

今日、安全なセックスを求める男性たちが、国会議事堂前に集まり、怒りの声を上げました。

「性的同意は大事だ!」「尊重しろ!」「同意のない現状を変革せよ!」

(デモの主催者)「私たちは性的同意を求める男性の会です。性的同意は、安心安全なセックス・ライフを送るために不可欠なのです」

デモの参加者「ええ、まったく性的同意がないこの状況をなんとかしたくて、(デモに)参加しました。もうどこを探しても性的同意がないのです。どの薬局、どのコンビニでも品切れ状態が続いており、もう我慢の限界です(と股間を押さえる)」

別のデモの参加者「昔は小さな自販機で売っていたものですがね……えっ外国産の同意ですか? 日本の同意でないと漏れがありそうで怖いですね」

(機動隊と対峙するデモ隊がシュプレヒコールを上げる映像)「性的同意不足を解消せよ!」「吉本芸人とスポーツ選手による不当な買い占めはんたーい!」

性的同意の専門家は「政府は備蓄している古性的同意を早急に市場に放出すべき」と対策の必要を訴えています。

風刺・戯文

眠気のたたかい

昨日のこと、喫茶店の一角に座っていると、隣の席の会話が耳に入ってきた。

「おい、寝るな!」

「眠くない。眠いのはお前のほうだろう!」

「俺が寝るものか!」

隣を見ると、二人の男が向かい合って座り、猛烈な眠気に襲われているのだった。どちらももう白目を剥いて、頭をグラグラさせているのに、「眠たいのは自分ではない、お前だ」と、互いになじりあっていた。

「お前などすぐ寝るくせに! 俺なんかちっとも眠くないぞ!」

「嘘だ。もうお前は寝てるじゃないか! だからお前はダメなんだ」

「バカいうな! もしもお前の眠気が俺の眠気だったら、1秒と持ち堪えることはできまい!」

「なんだと! 俺の眠気のほうがお前よりももっと強力だ! もし俺の眠気がお前の眠気だったら、不眠気味だと精神科に駆け込むだろう!」

「俺の眠気のほうが強力だ!」

「俺のほうだ!」

「いや、俺だ!」「俺!」……

静かになったので、隣に目をやると、二人ともスヤスヤと寝ていた。テーブルに置かれたなにかの参考書と二つのコーヒーカップを見て、私は少し二人が哀れになった。

風刺・戯文

独裁者のラーメン

北朝鮮から亡命してきて、日本で暮らしているという人と知り合いになり、北朝鮮の内情を詳しく伺うことができた。

貴重な話に感激した私は、その方を食事に招待することにした。ちょうど近くにつけ麺で有名なラーメン屋があるので、そこに行きましょう、と誘った。

すると、彼は震え出すではないか。「ラーメン屋ですか? 絶対に無理です。私を殺す気ですか?」

「いったいどうしてですか? おいしいと評判の人気店ですよ」

「なぜって、ラーメン店はすべて北朝鮮の手先が営業しているのです」

「そんなことはありませんよ」

「いいえ、絶対に北朝鮮です。ラーメン屋の店主を見てください。客を見下し、なにかというと舌打ちでびびらす、あの傲慢で残忍な人々を。これらの店主たちは、店内では俺がルールだとばかりに、メチャクチャな決まりを作って、客の自由と食事の安らぎとイヤホンを奪っているではありませんか。まさしく金正恩体制です」

「いや、それはちょっと……」

「しかもですよ。このラーメン恐怖政治に恐れをなして店外に亡命したとても、私たちは安心してはいられないのです。ラーメン屋の独裁者たちは、その逃げる背中を目掛けて、SNS で無慈悲な言葉のミサイルを次々と発射して攻撃するではありませんか! EEZ 圏内に! ただの客なのに! いいえ、すみませんが、私は遠慮いたします」

こう言うと、その方は帰ってしまった。結局、私はひとりでその店に行き、ひとりでつけ麺を食べた。

店内に貼られている大勝軒のオヤジの写真が、次第に金日成に見えてきた。

風刺・戯文

エアエアクオート

映画やなにかで、欧米の人が会話中に、両手の人差し指と中指を同時にクイクイと曲げる仕草を見たことがある人も多いだろう。

これは、英語などで用いられる引用符(”ダブル・クオーテーション・マーク”)を表す「エアクオート」と呼ばれるジェスチャーだ。エアクオートを使うと「他の人はそう言ってるけど、自分はあまり賛同していないよ」というようなニュアンスを表すことができる。

私の友人が先日、このエアクオートでギネス記録にチャレンジした。「どういうこと?」と怪訝に思う人もいるかもしれないが、こうだ。

ある言葉に両手でエアクオートをしたのち、すぐにその両手を少し外側にずらして、もう一度エアクオートを行うと、二重にエアクオートが行われていることになる。あえて文字で表せばこうだ。

   ““バカ””

彼はこのエアクオートをどこまで重ねることができるか、引用の限界に挑んだのだった。ギネス公認の記録は 578 回で、まずはこれを超えることが目標となる。

友人はギネス審査員たちの見守るなか、驚くべきスピードでエアクオートを積み重ねていった。まさに超人的な集中力・体力・腕力だった。576 回、577 回、578 回、579 回! ついに世界新記録達成だ! だが、彼のクオートはやまない! 590 回、前人未到の 600 台! そして、619 回! ここで惜しくも彼は力尽きた! しかし、彼こそがギネス記録保持者なのだ。

審査員たちが駆け寄り、左右からエアクオートの数を確認する。1、2、3……。審査員たちが急にざわめき出し、予想外のアナウンスをした。右側のエアクオートのマークがひとつ足りない、と。指を曲げ忘れたのか、それとも、曲げ方が弱かったのか……それにしても痛恨のミスだ。

残念ながら新記録とは認められなかったが、私たちはみんなで彼を “チャンピオン” とエアクオートで褒め称えた。

風刺・戯文

自殺ゼロ都市宣言

黒鍬市議会で「自殺ゼロ都市宣言」が全会一致で採択された。我が国の自殺者の数に心を痛めた黒鍬市長が、まずは黒鍬市から自殺をなくそうと始めた肝いり事業だという。いったい誰が反対できようか。

「自殺ゼロ都市宣言」では、黒鍬市の3つの決意が高らかに述べられている。

・私たちは自殺のない黒鍬市をつくります。
・生きづらさを感じている人々を笑顔にする行政をつくります。
・心の豊かさにあふれた暮らしをつくります。

さっそくこれらの決意を盛り込んだ「自殺ゼロ都市宣言」関連施策が実施された。もっとも、当初はなかなか自殺が減らず、市民団体から激しい批判が繰り返された。あまりのひどさに、市長みずから自殺を考えるほどだった。

だが、いつだって正しいものが勝つ。年を追うごとに、自殺者が減っていったのだ。そして、とうとう市長の任期の最終年、ゼロになった。

いま「自殺ゼロ都市」がここに実現しようとしていた。この業績を引っさげて市長は国政にうって出るつもりだ、そんな噂も流れていた。

そのとき、とあるビルの屋上に思い詰めた人が立っている、という通報が寄せられた。

「市長! 自殺しそうな人がいます!」

「なんだと!」

市長は大慌てでビルに駆けつける。見ると、今にも飛び降りそうだ。

市長は叫んだ。「待て! はやまるな!」

思い詰めた人は叫ぶ。「うるさい! 死ぬしかない!」

「すきにしろ!」と市長。「だが、飛び降りるなら、ビルの反対側からにしてくれ! そっち側は隣の市だ!」

風刺・戯文

エスカレーターの静止する日

「これは世界的にも珍しい事態です。世界中の研究者がいま日本のエスカレーターに注目しています」と語るのはアメリカのエスカレーター学者、トーマス・リフト氏だ。

「これまで世界にはエスカレーターが動いている国と静止したままの国の2種類しかなかったのです。そこにいきなり日本が登場しました」

リフト氏によれば、日本では、エスカレーターが動いてはいるものの、やけにゆっくりになりつつあるのだという。「研究者は非常にエキサイトしましたよ。エスカレーターが動いている国と静止したままの国の中間の状態がいま、日本で観察できるのですから」 リフト氏は現在、国際研究チームの一員として日本に滞在中だ。

リフト氏が現在想定しているのは、日本がこのままエスカレーターが静止したままの国へと移行するシナリオだ。

「このままいけば日本中のエスカレーターは速度を減じていくはずです。そして、ひとつまたひとつと静止し、ついには日本ではエスカレーターは一機も動かなくなるでしょう」

日本にエスカレーターの静止する日が来るという、なんともショッキングな予測だ。こう驚くと、リフト氏は最新の研究を紹介してくれた。

「じつは最近になってもうひとつ別のシナリオが提出されたのです。日本のエスカレーターはやはり全国的に静止に向かっていくのですが、あるレベルに達すると、逆向きのエネルギーが発生する可能性が高いのです。そうなるとエスカレーターの速度は増加し、近い将来、日本中のエスカレーターは狂ったように暴走をはじめるはずです」

もっとも、リフト氏は科学の限界を認めるのにやぶさかではない。「どちらのシナリオが実現するかを予測することは現時点では不可能です」 こういうとリフト氏はつけ加えた。

「ただどちらにしても日本人は階段を使うようになるでしょうね」

風刺・戯文

イエスの機能

【ゲツセマネの祈り(マタイによる福音書 26 章 36-46 節より)】
それから、イエスは弟子たちと一緒にゲツセマネという所に来て、「わたしが向こうへ行って祈っている間、ここに座っていなさい」と言われた。

ペトロおよびゼベダイの子二人を伴われたが、そのとき、悲しみもだえ始められた。 そして、彼らに言われた。

「わたしは死ぬばかりに悲しい。ここを離れず、わたしと共に目を覚ましていなさい。」

少し進んで行って、うつ伏せになり、祈って言われた。「父よ、できることなら、この杯をわたしから過ぎ去らせてください。しかし、わたしの願いどおりではなく、御心のままに。」

それから、弟子たちのところへ戻って御覧になると、彼らは眠っていたので、ペトロに言われた。

「あなたがたはこのように、わずか一時もわたしと共に目を覚ましていられなかったのか。誘惑に陥らぬよう、目を覚まして祈っていなさい。心は燃えても、肉体は弱い。」

更に、二度目に向こうへ行って祈られた。「父よ、わたしが飲まないかぎりこの杯が過ぎ去らないのでしたら、あなたの御心が行われますように。」

再び戻って御覧になると、弟子たちは眠っていた。ひどく眠かったのである。そこで、彼らを再び起こすと、また向こうへ行って、三度目も同じ言葉で祈られた。

それから、弟子たちのところに戻って来て、もう一度起こして、こう言われた。

「あなたがたはまだ眠っている。人の子はスヌーズをするためにやってきたのではない」

風刺・戯文

魔王の誘惑

恐るべき魔王がラーメン屋を始めた。彼は、客を嘲り、叩きのめし、服従を誓わせるためだけに、ラーメン屋を営業しているのだ。私たちは、そのラーメン屋に行くとき、世界を支配する魔王に挑んでいることになる。

ラーメン屋に足を踏み入れると、最初に立ち塞がるのが食券機だ。これを単なる機械だと思わないほうがいい。これは魔王の第1形態なのだ。

食券機は私たちに恐ろしい仕方で挑みかかってくる。これを倒すには、1秒か2秒のうちに食券機のすべてのメニューを理解し、お金を投じ、食券を入手しなくてはならない。

だが、これがどんな勇者にも至難の業なのだ。いくつもの見慣れないラーメンの名前、複雑なトッピングのシステム、ルーレットのように移動する売り切れの赤いランプ……。食券機の繰り出す技に、私たちがたじろぎ、目をぱちくりさせて、何を選ぼうかぐずぐずしていると、食券機から店主の舌打ちが聞こえてくる。いや、聞こえてこなくても、もう聞こえるような気がして、パニックになってしまう。たいていの客はここで息絶えるか、店を後にする。

運良く舌打ちされるまえに、注文するものを選べたとしても、さらに恐ろしい試練が待ち受けている。それは、食券機の前で、財布を開いたときだ。どういうわけか一万円しか入っていないのだ。

なぜ、ラーメン屋には千円札以外の札を受け入れる食券機がないのだろうか? もちろん、それは私たちを屈服させ、服従させるためだ。私たちは一万円札を手にがっくりと膝からくずおれる。

そのとき食券機は第2形態へと変化し、恐るべき魔王(ラーメン屋の店主)の姿となる。魔王は語りかける。

「もしお前がこの私に屈服し、両替を頼むならば、この世界の半分を与えよう……」

私たちは震える手で1万円札を手渡し、千円札を10枚受け取る。魔王との取引が成立したのだ。たちまち、食券機が現れ、私たちは食券を手に入れる。

私たちはこうして悪の手先となる。もちろん、魔王は約束どおり世界の半分など与えはしない。

そのかわり半チャーハンがついてくる。