風刺・戯文

独裁者のラーメン

北朝鮮から亡命してきて、日本で暮らしているという人と知り合いになり、北朝鮮の内情を詳しく伺うことができた。

貴重な話に感激した私は、その方を食事に招待することにした。ちょうど近くにつけ麺で有名なラーメン屋があるので、そこに行きましょう、と誘った。

すると、彼は震え出すではないか。「ラーメン屋ですか? 絶対に無理です。私を殺す気ですか?」

「いったいどうしてですか? おいしいと評判の人気店ですよ」

「なぜって、ラーメン店はすべて北朝鮮の手先が営業しているのです」

「そんなことはありませんよ」

「いいえ、絶対に北朝鮮です。ラーメン屋の店主を見てください。客を見下し、なにかというと舌打ちでびびらす、あの傲慢で残忍な人々を。これらの店主たちは、店内では俺がルールだとばかりに、メチャクチャな決まりを作って、客の自由と食事の安らぎとイヤホンを奪っているではありませんか。まさしく金正恩体制です」

「いや、それはちょっと……」

「しかもですよ。このラーメン恐怖政治に恐れをなして店外に亡命したとても、私たちは安心してはいられないのです。ラーメン屋の独裁者たちは、その逃げる背中を目掛けて、SNS で無慈悲な言葉のミサイルを次々と発射して攻撃するではありませんか! EEZ 圏内に! ただの客なのに! いいえ、すみませんが、私は遠慮いたします」

こう言うと、その方は帰ってしまった。結局、私はひとりでその店に行き、ひとりでつけ麺を食べた。

店内に貼られている大勝軒のオヤジの写真が、次第に金日成に見えてきた。

散文

裏切りの辛ラーメン

韓国のインスタントラーメン「辛ラーメン」のパッケージの裏面には、こう書いてある。

「全世界 100 ヶ国以上で販売しているロングセラー商品の『辛ラーメン』は煮込むから美味しいのです」

「煮込むから」! インスタントラーメンは日本生まれだが、ラーメンを煮込む、という発想はなかった。ラーメンは煮込めば伸びるものであり、それは我が国ではタブーとされている。

だが、韓国人はラーメンをついに煮込んでみせた。煮込んでもおいしいラーメンを開発したのだ。日本人である私は、この隣国の発明に敬意を表し、辛ラーメンを作るときは、パッケージの指示通りきっちり4分半、煮込み時間を遵守したものだ。いや、それどころか、異国情緒をもっと味わおうと、大胆にも5分間、煮込むことすらあった。それが韓国流だと考えていたのだ。

さて先日、私は二人の韓国人の友人と上野の韓国料理屋でプデチゲを食べた。プデチゲとは「部隊鍋」であり、米軍の残り物のごった煮が起源だと言われている。ハムやスパムの肉類、野菜、そしてインスタントラーメンをぶちこんで作る。

鍋が運ばれてきた。肉、野菜の上に、インスタントラーメンの塊が乗っかっている。そして、鍋がぐつぐつ言い出したころ、信じられないことが起きた。

二人の韓国の友人が、ようやくほぐれたばかりのラーメンを食べはじめたのだ。

「硬麺、硬麺!」「柔らかくならないうちにどうぞ!」

に、煮込むから、は? 私は絶句しながら、麺を食べる。まだ芯が残っているが、うまい。

私たちはあっという間にラーメンを平らげ、さらに追加でラーメンを注文した。すると、店の人が厨房で茹でたのを持ってきた。

友人はぷりぷりしてる。「それじゃ茹ですぎちゃうから、硬麺にならないのに!」だって。

私はもう決して煮込まないだろう。

風刺・戯文

魔王の誘惑

恐るべき魔王がラーメン屋を始めた。彼は、客を嘲り、叩きのめし、服従を誓わせるためだけに、ラーメン屋を営業しているのだ。私たちは、そのラーメン屋に行くとき、世界を支配する魔王に挑んでいることになる。

ラーメン屋に足を踏み入れると、最初に立ち塞がるのが食券機だ。これを単なる機械だと思わないほうがいい。これは魔王の第1形態なのだ。

食券機は私たちに恐ろしい仕方で挑みかかってくる。これを倒すには、1秒か2秒のうちに食券機のすべてのメニューを理解し、お金を投じ、食券を入手しなくてはならない。

だが、これがどんな勇者にも至難の業なのだ。いくつもの見慣れないラーメンの名前、複雑なトッピングのシステム、ルーレットのように移動する売り切れの赤いランプ……。食券機の繰り出す技に、私たちがたじろぎ、目をぱちくりさせて、何を選ぼうかぐずぐずしていると、食券機から店主の舌打ちが聞こえてくる。いや、聞こえてこなくても、もう聞こえるような気がして、パニックになってしまう。たいていの客はここで息絶えるか、店を後にする。

運良く舌打ちされるまえに、注文するものを選べたとしても、さらに恐ろしい試練が待ち受けている。それは、食券機の前で、財布を開いたときだ。どういうわけか一万円しか入っていないのだ。

なぜ、ラーメン屋には千円札以外の札を受け入れる食券機がないのだろうか? もちろん、それは私たちを屈服させ、服従させるためだ。私たちは一万円札を手にがっくりと膝からくずおれる。

そのとき食券機は第2形態へと変化し、恐るべき魔王(ラーメン屋の店主)の姿となる。魔王は語りかける。

「もしお前がこの私に屈服し、両替を頼むならば、この世界の半分を与えよう……」

私たちは震える手で1万円札を手渡し、千円札を10枚受け取る。魔王との取引が成立したのだ。たちまち、食券機が現れ、私たちは食券を手に入れる。

私たちはこうして悪の手先となる。もちろん、魔王は約束どおり世界の半分など与えはしない。

そのかわり半チャーハンがついてくる。

風刺・戯文

日本で一番かたいもの

友人と、豚骨ラーメンを食べに行った時の話だ。頼んだのは私が先。「カタ麺で!」と付け加える。

すると、友人が「こっちはバリカタで!」

私はちょっとカチンときた。利いた風なこと言うじゃないか。

やがてラーメンが来た。我々はほぼ同時に麺を啜り終えた。すると友人が店長に「替玉お願い、ハリガネで」

そして、私のほうを見ると、半笑いで「店長、こっちにも替玉、カタ麺で……」

私は遮った。「こっ粉落としで!」 そして友人を蔑むような目で見返してやった。

そして、2度目の替玉の時がやってきた。先手を打ったのは私。

「粉落としじゃもの足りねーよ。店長さんよ、ひとつダイヤモンドで!」

そして友人のほうを指して、笑いを堪えながら「こちらさんにはニュウメン……」

すると友人、私を睨みつけるや大音声を発する。

「宮内庁の頭!」

そして、かんらかんらと大笑いしながら「日本にはこれ以上固いものはありゃしやせんて!」 もう勝ちを確信したってわけ。

ところが私ときたら、まっこと悠然たるもの。

「ダイヤモンドはやめで! こっちは……」と自信たっぷりに————

「眞子の決意!」

店内が水を打ったように静まり返った。友人はわなわなと椅子からずり落ちた。私の勝利が確定した瞬間だった。

そして、2回目の替玉を食べ終えた我々は、ラーメン屋を出ると、そのまま歯医者に直行した。