風刺・戯文

思ったことが言えない世の中

「最近、思ったことが言えない窮屈な世の中になった」という人が多いので、ある研究者がこの現象について調べることにした。

まず、思ったことが言えないと感じている人々が「どんなことを思ったのか」について調査を行った。その結果、いくつかの共通するテーマがあることがわかった。それらは「外見のこと、性的なこと、弱いものいじめ、外国人差別、障害者差別」などであった。思ったことが言えない人は、これらのことが言えないために窮屈な思いをしているということが明らかになった。

さらに、研究者は、これらの「思ったことが言えない人」が、単に思っただけではなく、実際に発言した場合、「思ったことを言った人」と「思ったことを言われた人」の双方についてどのようなことが起きるかについても調査を行った。

その結果、「思ったことを言った人」は、一時的に窮屈な思いから解放されるが、やがて窮屈な状況に陥ることがわかった。いっぽう、「思ったことを言われた人」については、思ったことを言われたことにより、思ったことが言えなくて窮屈な思いをしている人よりもはるかに窮屈な思いをするということが明らかになった。

そこで研究者はこう結論づけた。

「つまり、思ったことが言えなくて窮屈だという発言は、その人間の内部に思うに値する思想など何もないということの目印として機能している。ゆえに、黙ってろ。常日頃、思っていたことが言えてスッキリした」

風刺・戯文

我が国の最強繊維

現在のところ、世界でもっとも強靭で破れにくい素材はダイニーマという繊維なのだそうだ。これはオランダの会社が開発したもので、防弾チョッキや登山用ロープなどに使われているという。

しかし、実はこの日本の、私たちの身近なところにも、ダイニーマと同じくらい、いや、それ以上に丈夫で強い素材があるのはご存知だろうか。

それは、のり弁の海苔だ。

のり弁のご飯の上にのっているこの海苔くらい破れにくいものはないのだ。

箸でつついても、突き刺しても、絶対に切れない。両手に箸を一本ずつ持って、両端から引っ張っても無駄。ヤケを起こして、箸で滅多刺しにしても、穴ひとつ空かない。まさに最強繊維だ。それで結局のところ私たちはあきらめて、大きな海苔巻きにして食べるしかなくなる。

こんなすごい素材が我が国にあると知った今、ダイニーマになんか高いお金を払う必要などない。軽くて、強くて、安くて、しかも、いざというときに食べられる、こののり弁の海苔を、登山やマリン・アクティビティに活用してみてはいかがだろうか。

もっとも、食べるときは少し注意したほうがいい。この海苔が喉にひっつきでもしたら、窒息死まちがいなしだから。

風刺・戯文

ホトトギス作戦

悪いこといわないから、日本人はアメリカ車を買ったほうがいい。それから、道もどんどん広くしたほうがいい。なぜなら「日本の道は狭いので、アメリカ車は適していない」というみえすいた言い訳ほど、アメリカ人をイラつかせるものはないからだ。

さもなければ、アメリカは、お得意の実力行使にうってでることだろう。日本の道を広くするために、日本の大都市を絨毯爆撃する作戦、コードネーム「ホトトギス」だ。「狭いなら広くしてやるホトトギス」というわけだ。アメリカ人は戦争の前にちゃんと相手の国を研究するといわれている。

攻撃などそんなバカな、と否定する人もいるかもしれない。だが、それは、ホワイトハウスが「皇居の地下に核爆弾製造施設がある証拠を掴んだ」と言い出さない場合だけだ。そして、そんなファクトは核爆弾よりも容易に製造できるのだ。

かくして我が国は破壊され、その焦土の上を、もう全部が道だとばかりにアメリカ車だけがゆうゆうと走ることになる。日本車は禁止だ。日本車愛好家は、みなテロ罪で逮捕され、グアンタナモに送られるだろう。

ときどき市民が日本車シンパの容疑で連行される。アメリカの手先になった日本人にいじめられながら、トヨタやホンダのエンブレムを踏まされるはずだ。

風刺・戯文

伊藤家の企み

その日、伊藤は、大事なことがある、と妻と子どもを集めた。

「父さんはいつもお前たちにすまないと思っていたのだ……。小百合」と伊藤は妻のほうを向いた。

「苦労をかけたな……お前が嫁いできて、如月という立派な苗字から、伊藤に変わったときも、心から申し訳ないと思っていたよ」

「そして太郎」と伊藤は息子を悲しげな目を向けた。「お前が生まれ、この名前をつけたとき、私は心で泣いていたのだ。伊藤太郎! なんとありふれた名前だろうか!」

ありふれた名前とされた少年は、俯いて膝の上にのせた拳をじっと見つめていた。「さぞかし悔しかったろう、悲しかったろう!」 伊藤の口から憐れみの言葉が溢れた。

「だが」と彼は背筋を伸ばした。「そんなつらい思いももうおしまいだ。わたしたちみんなの悲しみが終わるときが来たのだ」 伊藤は一枚のハガキを二人の前に置いた。

「これは『戸籍に記載される振り仮名の通知書』のハガキだ。今年から、戸籍に名前のフリガナを記載する新制度が始まり、もし間違っていたら、届け出をして直すことができるのだ」

伊藤はそのハガキの文面を家族に見せた。

氏 伊藤
氏の振り仮名 イトウ

「お父さんは、フリガナが間違っていたと届け出るつもりだ……この決心に揺らぎはない。我が家はもはやイトウではない。イドウだ! 世に伊藤家は星の数ほどあれど、イドウと読ませる伊藤家は私たちだけなのだ!」

風刺・戯文

移民のせいで治安が悪化

黒鍬市には昔、数名の外国人が住んでいたが、コロナの時に仕事がなくなって出て行ってしまった。それ以来、市にはひとりの外国人も住民登録していない。

もっとも、市からは外国人だけでなく、若い人も流出してしまっていた。このままでは黒鍬市が消滅してしまう、という危機感から、若い人が帰ってくるように市は U ターン事業を始めたが、いっこうに効き目はなかった。そこで、市長は議会でこんな提案をした。

「若い人は無理でも、若い外国人に住んでもらうホームタウン政策を実施するのはどうだろうか。なんといっても数年前は外国人が住んでいたのだから」

何人かの議員は賛成したが、他の議員たちは猛反対した。

「得体の知れない外人を連れてきてどうしようというのだ!」「移民が来ると治安が悪化する!」「黒鍬が乗っ取られてしまう!」

これら議員たちの言い草があまりにひどいので市長もカッとなって言い返した。

「頭が硬くて古くさいケチどもだ!」

それ以来、黒鍬市は、市長派と反対派の議員で真っ二つに割れてしまった。なにしろ小さな市だから、それだけでは収まらない。市民同士までいがみ合う始末で、とうとう夏の盆踊りで暴力沙汰まで勃発した。もうヤクザの抗争みたいで、敵と見れば容赦ない。夜の道など危なくて歩けないのだ。

今や黒鍬市は、移民がひとりもいないのに、移民のせいで治安が悪化した町として、全国的に有名になっている。

風刺・戯文

賭け科研費

東京、文京区の店で、客に賭け科研費をさせていたとして、店の責任者と従業員合わせて5人が賭博の疑いで逮捕されました。また、店内で研究者人生を賭けていた若手から名誉教授の客11人も賭博と不正なエフォートの使用の疑いで逮捕されました。

科研費(科学研究費助成事業)とは、学術研究の発展を目的とした「競争的研究費」であり、かねてからその競争的な部分をめぐる賭博が問題となっていました。

店では、1課題ごと3割の申請費を徴収したうえで、客は1枚10(金額単位:千円)で購入した「研究倫理eラーニングコースの修了書」を、研究種目の順位に応じてやり取りするなど、店が定めた採択率をもとに賭けが行われていたということです。警視庁は「研究倫理eラーニングコースの修了書」も偽造とみて、分析を急いでいます。

また、コンピューターやサーバーなどを押収した警視庁は、店内で電子申請システムを使ったおおがかりなオンライン・カジノが運営され、将来的に世界の賭博をけん引しそうとみて、慎重に捜査を進めています。

風刺・戯文

見たい人だけ見ればいい

不品行と暴力と虐待によりテレビを追放された元芸能人たちが独自のネット配信サービスを始めたとき、私たちはこれは良くないことが起こる前兆だと思った。

「こうしたことは許すべきではない」 一部の人々がさっそく抗議した。

すると、崇拝者やお金持ちたちが嘲笑った。

「文句があるなら見なければいいんじゃない。見たい人だけ見ればいいんだから」

私たちはこれは絶対にまずい、とささやきあった。

配信がスタートすると、人々は夢中になった。どの番組も、楽しさと爆笑にあふれていた。やがて視聴者たちが叫び出した。「こんなにも素晴らしいものがこの国から奪われていたとは、なんという悲劇だ! マスゴミをのさばらせておくとロクなことにならない!」

お金持ちたちが配信サービスにお金を費やしていたのは、この声を聞くためだった。彼らは最後のひと押しとばかりに、マスコミを操る悪の組織を暴く番組を配信した。興奮した視聴者たちは叫んだ。「この国が乗っ取られようとしている!」「国を取り戻せ!」

そして、視聴者たちはマスコミや私たちに対してこんなことを言い出して攻撃を始めた。

「文句があるなら、この国にいなければいいんじゃない。いたい人だけがいればいいんだから」

もっとも、私たちは出ていくに及ばなかった。なぜなら、視聴者たちは、私たちを追い出すよりも楽な方法を思いついていたから……。

風刺・戯文

子どもたちを見守りたい

私の子どもの通う小学校に不審者が現れた。

その男は毎朝、小学校の校門の前に立ち、登校してくる子どもをじっと見守っていたのだ。黄色い腕章をつけ、小学校の名前の入ったベストを着ていたので、はじめは誰もが、PTA か地域の防犯活動かと思っていたが、そうではなかった。

腕章もベストも自作のニセモノ、男は関係者を装い、子どもたちに熱視線を注いでいたのだった。

学校は通報し、ただちに駆けつけた警官たちが男を連行した。その後しばらくして、私たちは男の動機を知ることになった。

男が子どもたちを付け狙っていたのは、日本が今、危ないからだというのだ。現在の日本は、少子高齢化と 40 年以上続く「失われた 30 年」のため、経済的に衰亡しつつある。「このままでは最貧国になってしまう!」 そんな恐れを抱くようになった男は、日本の衰退の程度を知るために、毎朝、校門の前で子どもたちの様子を窺うことにしたのだという。

「ええ、目なんです」と男は告白したそうだ。「貧しい国の子どもたちってのは、みんな目がキラキラしてるそうじゃないですか。あたしは、日本の子どもたちの目が輝き出してないかどうか、毎日、目を光らせてたんです」

そう語る男の目は、キラキラ輝いていたという。

風刺・戯文

心を柔軟にするために

少子高齢化、経済の衰退、地球温暖化、陰謀論、そして戦争……問題だらけのこの日本で、私たちはどうしたらいいでしょうか。

ひとつだけはっきりしていることがあります。それは、これまでの考え方・方法ではこれらの問題には太刀打ちできないということです。

過去のわだかまりや先入観にとらわれた思考からは、これらの問題に解決策を見出すことはできません。

ただ、柔軟な心、つまり、問題を柔軟に受け止めるしなやかな心だけが、解決をもたらしうるのです。はっきりいっておきましょう。これからの世界では、そんな柔軟な心をもつ人だけが必要とされます。柔軟な心だけが、精神的にも経済的にも豊かな人生を手に入れるのです。

では、そんな柔軟な心をもつにはどうしたらいいでしょうか? どうしたら、あなたのかたくなな心をほぐすことができましょうか?

ここでこのボトルをご覧ください。中の液体、これこそ、私が柔軟な心で開発しました特効薬。お使いになるや、たちまちあなたの心をほぐし、柔軟にします。食後に服用するも可、お肌に塗布するも可、さらには頭に振りかけても可の、この柔軟薬、今なら割引価格にて皆さんに……


当局はただちにこの怪しげな販売者を薬機法違反で逮捕し、怪しげな薬品を押収し、その成分を調べた。すると、コンビニ弁当の麺類にかける「ほぐし水」とまったく同じ成分だということが明らかになった。

風刺・戯文

王の後悔

することがないので昼寝していたら、おかしな夢を見た。

異国の男が豪華な衣服で立っているのだ。宝石が散りばめられた大きな金の冠をかぶっているので、すぐに王だとしれた。その王がため息をつきながら、悲しい顔つきで私のほうを見ているのだった。私は思わず尋ねた。

「お困りのようですが、どうされたのでしょうか」

「いや、余はそなたの国が羨ましくてたまらないのだ。余がもしそなたのような国にいたら、あのような恥辱を受けずとも済んだはずなのに。そう思うと、なんともやりきれない思いにとらわれるのだ……」

異国の王の口から漏れた思わぬ言葉に私は仰天した。「いったい、どのようなことが羨ましいというのでしょうか」

「なんでも、そなたの国では、偽の卒業証書をチラ見せするだけで、本物だと言い張ることができるそうではないか」

「ええ、なんでもタイパ重視の我が国では、大事な事柄もチラ見せでこと足りるのです」

「ああ! ああ! そのチラ見せの秘技さえ習得していれば! 我が身は悲劇を免れただろうに!」

王の激しい嘆きぶりを見て私はついやさしい気持ちになった。「王様よ、いったいどのようなことに苦しんでいらっしゃるのでしょうか。この私めにお話くだされば、多少は和らごうかと存じます」

「ああ! もう無駄じゃ! 無駄じゃ! 余は永遠に消し去ることのできぬ恥を晒してしまったのだ! ああ、あのときに、この王冠を一瞬だけ上げて耳をチラ見せしていれば、ロバの耳ではないと言い張ることができただろうに!」