風刺・戯文

悪霊

最近、奇妙なことが起きている。こんなことを言ったら、もしかしたら、笑われるかもしれない。いや、頭がおかしくなったと思われるかもしれない。だが、そいつは確かにいるのだ……

私がそいつの存在に気がついたのは、数週間ほど前のことだ。その頃から、私は外に出ると、奇妙な感覚にとらわれるようになった。初めは気のせいかと思った。だが、その感覚は一向に消え去ることなく、私を苦しめるまでになった。

私は鼻水、くしゃみ、目のかゆみに襲われるようになったのだ。口の中もものすごくかゆい。耳の奥までもかゆい。はじめは風邪かと思った。だが、熱もないし、咳も出ない。いったいこれはどういう現象なのだろうか。

この数週間の間に、私はあることに気がついた。私の苦しみは、外にいるときがもっともひどく、家の中ではそれほど強くはないということだ。これはいったい何を意味するのだろうか? おそらく、私を苦しめるその存在、そいつは私の家の中にまでその邪悪な力を及ぼすことはできないのだ。その悪霊は外にいて、私をつけ狙い、待ち構えている。私はもう外に出ないことに決めた。

しかし、それからしばらく経って、恐ろしいことがあった。家に閉じ籠る私を心配した家族が家にやってきたのだ。家族が家に入ったとたん、私はくしゃみに苦しみだした。間違いない。悪霊は家族を利用して、私の家に入り込んできたのだ! なんと狡猾な存在だろうか……。もしかしたら、家族とグルになっているのでは、そんなことすらあやしみだした私は、家族を追い出し、扉を閉ざした。

そして、昨日のことだ。私が信用する唯一の友人から、封筒が届いた。封を開くと、マスクと太い縁のメガネが入っている。同封されていたメモにこんなことが書かれていた。

「このマスクとこのメガネをつけて外出すれば、君を付け狙っている汚らわしい悪霊は、君のことを別人だと思って、手出ししなくなるだろう」

友人の言葉通りにし、さらに念のため髪型も変えて、外出してみた。今のところ、悪霊を欺くことに成功している。

散文

古本とおしゃれ

かつて、私の楽しみといえば、古本屋巡りだった。昔は、どんな街にも小規模な古本屋があちこちにあって、そのひとつひとつを訪ねるだけで、楽しい時間が過ごせたものだった。しかし、時代は変わった。街の古本屋は次々と姿を消し、古本屋巡りなど一部の地域のみでしか成立しなくなってしまった。

古本屋の中を歩き回り、古本に触れると、遠い過去や異なる世界が間近になったような感じがしたものだ。古本なら希望のものはネットでいくらでも買える。だが、この感覚は古本屋の中でしか味わえない。思えば、古本屋巡りとは、高雅で、そして安価な娯楽だったのだ。

だが、その古本屋巡りができなくなって何年経つだろうか。私にはもはやこのような高尚な楽しみの機会はない、と諦めていた。だが、そんなとき、私はおしゃれに出会った。

今では、休みのたびに、私はおしゃれな街を歩き回っている。下北沢、吉祥寺、自由が丘……これらのおしゃれな街に散らばる古着屋をひとつひとつ訪ね歩くと、昔、古本屋巡りをしていたときと同じ感覚、同じ喜びが湧き上がる。

ああ、棚に置かれたあのディスプレイ用の洋古書のタイトルはなんだろうか……おや、開きっぱなしの古い洋書の上に、ネックレスや指輪が並べられているぞ。これはなんの本だろうか……

こんな調子では、当分のあいだ古着屋巡りをやめられそうにない。