苦い文学

未来における疑念

未来の世界に紛れ込んだ私は、過去に戻るための方法を探す旅を続けていた。

不思議な色の森林を越え、黄金に輝く川を渡り、夢のような霞に覆われた山の麓で、私は一人の男と出会った。

その男は虹のような衣服をまとい、私を見つけると手招きした。

「このような山奥に珍客とは。理由を聞きたいものだ」

私は自分が過去からやってきたこと、そして再び過去に帰るために旅をしていることを告げた。

男は柔和な微笑みを浮かべた。「君はついに見つけたな。私が君の望みを叶えてやろう。ついてきたまえ」

男は私をいざない、先を歩きはじめた。私は歓喜に声を震わせ、男の背に声をかけた。「ああ、本当にあったのですね、過去に戻るテクノロジーが。この世界を彷徨ってようやく出会うことができました」

先を歩く男は振り返らずに話した。「君は幸運だぞ。この世界で私ほど進んだテクノロジーを所有しているものはいないのだから。私に……」

男が急に屈んだ。私は危うく追突しそうになった。見れば、ほどけた靴の紐を結んでいるのだった。

男は再び歩き出した。「……かかれば不可能など存在しないのだ。この世界の諸力を自在に……」

男は再び屈んだ。また靴紐が解けたのだ。結び直すと、男はまた歩き出した。

「……操れるのは、私しかいない。そもそも、ここ一万年の間、人類は……」

彼はいまいましげに舌打ちし、歩みをやめて、靴紐を結び出した。

男は再び前を歩きはじめた。相変わらずしきりに喋々していた。私は無言で踵を返すと、大急ぎでもと来た道を辿った。

最高のテクノロジーを有するというのに、靴紐が簡単にほどけるのも解決できないとは。これはもうこの男に疑念を持つのに十分だった。

いや、それとも、人類にとって靴紐は永遠にほどけ続けるさだめなのだろうか?

苦い文学

六文銭

「死んで、それから、私は三途の川にやってきました」と彼は流暢な日本語で語った。

「渡し賃にと六文銭をあらかじめ持っていたのですが、実はそれでは足りなくて。

というのも、裕福な中国人たちが冥土の土産を爆買いして、船を派手に借り切って運ぶのです。それで、我々にはもう手の届かないくらい値上がりしていました。河原の奪衣婆だって私たちには見向きもしません。あれが奪うのはいまやシャネルやエルメスだけです。

お金が足りなくて川の向こうに行けない亡者がどうなるかというと、鬼たちがやってきます。捕まえて、難民キャンプに放り込むのです。ええ、川から少し離れたところにあって、竹でできた粗末な小屋がひしめいている区域です。

難民キャンプの暮らしは大変です。お金もないですし、配られる食料もわずかです。キャンプの外にこっそり日雇い農作業に出たりして、なんとか現金を手に入れようとするのですが、これは危険ですし、本当に大変でした。

しかも、鬼たちが定期的にキャンプにやってきて、難民たちが立てた家を壊して回るのです。もちろん、粗末な小屋なので建てるのは大変ではありませんが……。

そんな生活がどれくらい続いたかわかりませんが、私はお金を稼ぎ、キャンプ内で商売を始め、それなりの蓄えができました。そのお金をブローカーに支払って、日本のビザと航空券を手に入れ、なんとか日本にたどり着きました。ですが、成田空港で上陸を拒否されて、ここに収容されてしまいました」

「それで、難民申請をしたいということなのですね」と私がいうと、面会室のアクリル板の向こうで、死者はうむとうなずいた。

苦い文学

ガチャライフ

我々は大きなホールに閉じ込められた。

そのホールには人数分のベッドがあって、まるであのイカゲームのような具合なのだ。

ただ、イカゲームと違うのは、ホールの真ん中にガチャガチャが置かれていることだ。

我々は不安な表情のまま、自分の名前の記された寝台を探し出す。

すると、枕の上に3枚のコインとペットボトルの水があった。

好奇心の強い男がさっそくガチャガチャを試してみた。カプセルが軽い音を立てて落ちた。開けると、中にはビスケットが4枚入っている。

一口かじる。男は微妙な顔つきをした。

その後、3つのことが判明した。ひとつ、このガチャガチャからは必ず何か食べ物が出てくる。ふたつ、その食べ物はビスケットや、小さなパンや、おにぎりや、海苔巻きだが、少ないうえ、たいしておいしくない。そして、みっつ、このホールにはそれ以外食べ物はない。

こんな状態のまま数日経った。ベッドには仕掛けがあって、朝になると3枚のコインとペットボトルが、枕元に放り出された。はじめのうちはそれで起こされていた我々も、いまや待ち受けるようになった。空腹はもはや耐えがたかった。

ある日、突然、新たなガチャガチャが現れた。

さっそく、勇気ある者が試した。カプセルが軽い音を立てて落ちた。開けると、中には紙切れが1枚入っている。「A 定食」とだけ書いてあった。

すると、壁の一部が開き、ハンバーグ・カレーライスが出てきた。我々がその香りに喉を鳴らす中、男は瞬く間に平らげた。

我々はその新しいガチャガチャに殺到した。だが、すぐに明らかになったのは、ほとんどがハズレだということだった。

定食のために3コインを使い果たした者は、その日1日、水だけで過ごすことになった。こんな目に遭うならば、おいしくなくて少ないが、確実に食べられるガチャガチャのほうがマシだと、考える者も多かった。

この頃になると、我々の違いが明らかになってきた。ある者は、一日中ひもじい思いをするのを恐れず、「定食ガチャガチャ」に持てるコインすべてを投じた。また、ある者は「粗食ガチャガチャ」の3カプセルで満足した。中にはガチャガチャを2回にして、コインを貯めるものも出てきた。

さらに数日経って、新たなガチャガチャが現れた。

さっそく試してみた者は、そのカプセルの中にシャンプーの小袋が入っているのを見出した。別の者は石鹸だった。コインが出てきた者もいた。

その他は、巻尺、ハンコ、人形、ロボット、得体の知れないもの、そして、弾の込められた拳銃。

引き当てた男は、拳銃を我々の前でひけらかした。

そして、その次の朝から、我々にコインがいっさい与えられなくなった。

苦い文学

鍋敷き

韓国ドラマでよく見るのが、即席ラーメンを鍋からそのまま食べるシーンだ。

日本では普通ではない食べ方のせいか、注目する人も多い。いわば定番の「韓国ドラマあるある」だ。

さて、この直喰いのとき、鍋はテーブルにそのまま置かれることになる。しかし、鍋は置かれる直前まで火にかけられていたので、当然熱い。それで、鍋敷きが必要になる。あるドラマでは、その鍋敷きに本が使われていた。

その本はそのドラマの悪役の自叙伝だったので、ドラマの演出かと思いきや、そればかりではなかった。ある韓国人の友人が私に自著をくれたのだが、そのときこんなことを言ったのだ。

「韓国では本を渡すときに『鍋敷きにもなりませんが』と言います」

これはもちろん謙遜だが、いずれにせよ韓国では本はいつでも鍋敷きにされかねないということであろう。

ところで、私は今年の 2 月に本を出したのだが、これまた鍋敷きにぴったりの厚さ、しっかりした製本なのだ。

鍋敷きが必要な人には、ぜひお手に取ってご確認いただきたい。

もしもすでにご購入を検討されているということであれば、「大鍋中鍋小鍋に使える3冊セット」というチョイスもある。この機会に、ぜひ。

苦い文学

この橋、渡っていくべからず

「(バタバタと)死んでいく」とか「(徐々に)萎びていく」というように、動詞のテ形に「いく」がつながることがある。

ある人がいうには、この「いく」は使うべきではないのだそうだ。

というのも、本当にどこかに「行く」のではないから、おかしいというのだ。正しくは「死んだ」「萎びた」とすべきだという。

だが、この考えはまったくの間違いだ。「(次第に)やせていく」とか「(次々と)倒れていく」の「いく」は「ある過程の進行」や「ある行為の反復」といったものを表しており、移動の「行く」とは区別して考えなくてならない。

それに、仮に、この人の考えが正しいとしたら、我々は「話しておく」とか「食べてみる」とかも言うことができなくなってしまうだろう。なぜなら実際には「置いて」も「見て」もいないのだから。

さて、時はかわって室町時代、将軍足利義満がまたしても一休さんに無理難題をふっかけたようですよ。

「これ、一休、ここにある屏風絵の虎が、夜な夜な屏風を抜け出して、乱暴狼藉を働くので、甚だ迷惑しておる。お前のとんちで退治してみよ」

一休さん、自信たっぷりに答えます。

「将軍さま、さっそく虎を捕まえてみせましょう。では、まずは「抜け出す」の「抜け」を出してください……」

苦い文学

10分の1のやさしさ

私の祖父は若い頃は非常に苦労したようだが、懸命に働いて事業を大きくし、老境に入るころには、裕福な暮らしができるまでになった。

祖父は私が小学生のころ亡くなったため、それほど記憶があるわけではない。家も遠かったので、年に1度か2度しか会う機会もなかった。

わずかに思い出せるのは、祖父がこんなことをよく言っていたことだ。

「お金持ちや偉い人には精一杯やさしく接しなさい。お金を持っていない人や偉くない人には、その10分の1ぐらいのやさしさで十分だ」

どうしてこの言葉が記憶に残っているかというと、「お金を持っていない人や偉くない人」がかわいそうだと、子ども心にショックを受けたからだった。

その後、大きくなり、世界というものがやや見えてくると、祖父の言葉が残酷に思えてきた。「お金を持っていない人や偉くない人」にこそやさしくすべきではないだろうか? 「お金持ちや偉い人」などは放っておいたって誰かがやさしくしてくれるにちがいないのだから。

そして、私は社会に出て働きはじめ、何十年と経った。人生には浮き沈みがあるが、私の場合は沈みのほうが多いようだった。

そのせいか、私はいま、祖父の言葉を違うふうに理解できるようになった。

「10分の1」でも破格の多さなのだ。通常はゼロだ。

苦い文学

アインシュタインの予言

「近代日本の発達ほど、世界を驚かしたものはない。この驚異的な発展には、他の国と異なる何ものかがなくてはならない。果たせるかなこの国の、三千年の歴史がそれであった。この長い歴史を通して、一系の天皇をいただいているということが、今日の日本をあらせしめたのである。私はこのような尊い国が、世界に一カ所位なくてはならないと考えていた。なぜならば世界の未来は進むだけ進み、その間幾度か戦いは繰り返されて、最後には戦いに疲れる時がくる。その時人類はまことの平和を求めて、世界的な盟主を挙げねばならない。この世界の盟主なるものは、武力や金力ではなく、凡ゆる国の歴史を抜き越えた、最も古くまた尊い家柄ではなくてはならぬ。世界の文化はアジアに始まって、アジアに帰る。それはアジアの高峰、日本に立ち戻らねばならない。吾々は神に感謝する、吾々に日本という尊い国を、作って置いてくれたことを」と、私が言ったと信ずるバカが現れるだろう。

苦い文学

日本語能力試験(JLPT)を受けよう

【問題 13】
次は「外国人向けインバウンド事業」の案内である。問に対する答えとして最もよいものを、1・2・3・4から一つ選びなさい。


Have an Exciting Holiday in Detension Center!!

【入管収容体験プログラム】
・入管の収容所で民泊体験!
・本物の被収容者がお出迎え!
・名物の調理不良定食を召し上がれ! 国際人権ガイドで三つ星のプーベル・キュイジーヌ(Poubelle Cuisine)!
・夜は特別な睡眠薬でぐっすり!
・帰国するときは特別なリムジンバスでそのまま空港へ! 手錠かけられ放題!

*追加料金で憧れの【強制送還体験】も!
入管職員総出演! おとなしくなる薬を射たれたり、布団で簀巻きにされたり、スリルいっぱい!

*注意事項
・お客様に安全にお楽しみいただくため、身長、年齢、健康状態、国籍、肌の色による一定のご利用基準を設けております。
・体験中の負傷・死亡につきまして、当局は一切の責任を負いかねます。

料金:
欧米・韓国などからのお客様:¥50,000
中国からのお客様:¥200,000
その他、国が定めた貧乏な国・地域からの人々:Free!
北朝鮮:ご自分の国で収容体験をお楽しみください。

強制送還体験:¥100,000

お申し込みは、最寄りの地方出入国在留管理官署違反部門に直接御連絡ください。


問 中国人の劉さんは、日本語学校の友人(中国人2人、韓国人1人、ベトナム人2人、ナイジェリア人1人)とともに、このプログラムに申し込むことにした。なお、強制送還体験を希望しているのは劉さんだけである。全員でいくらかかるか。


1 ¥ 750,000
2 ¥ 850,000
3 ¥ 900,000
4 ¥ 1,500,000

苦い文学

美食 YouTuber ナオヤ

ハイ! みなさん! 美食ライフ楽しんでますか? 美食 YouTuber ナオヤです!

(両手を前に向けて、パッパッと開いたり閉じたりするお決まりの仕草)

今日、お邪魔するのは渋谷にあるウルトラ本格的アメリカン・ダイナー「マー・ア・ラ・カルト」。ちょっと変わったお料理が食べられるそうですよ。さっそく行ってみましょう!

ランチタイムとあって、お客さんでいっぱいです。これは期待度上がりますね!

さてランチメニューはといえば、Fランチ、Oランチ、Xランチの3つから選ぶということですね。うーん、どれにしようかな〜。


【本日のランチ】
Fランチ
「当店おすすめ! トランプ大統領御用達、ディープ・ステート・フライド・ハンバーガー(もろキュー・アノン・ピクルス添え)」

Oランチ
「人口とカロリーを削減したグレート・リゾット、闇の支配者を炙り出しサーモンのせ」

Xランチ
「NRA公認、アサルトライフル重(米国だけにライスMAGA盛り)! 銃は人を殺さない、人が人を殺すのだ、と呟きながら召し上がれ」


迷っちゃいますね〜。だけど、今日はFランチをいただきましょう!

(ランチが到着する。食べ始める)

う〜ん、なんともいえないお味ですね。思わず「選挙が盗まれた!」と叫びたくなる味ですよ!

(食べ終わる。スタッフが来て、食後のお茶を置いていく)

そうそうこのお茶! なんでもこのお茶がこのお店の名物なんだそう。「トゥルース・ティー」、真実のお茶ということでしょうか。

ちょっと飲んでみましょう。う〜ん、これはティーというよりお茶ですよ、日本のほうじ茶のようですね。

いったいなぜ? ちょっとお店の方に聞いてみましょう。

スタッフ「ええ、ほうじ茶でございます。ほかでもない私たちが店でほうじた茶葉を使用しております。ええ、ですので、マスコミのほうじない真実のお茶というわけで……」

なるほど! 今日も美味しくいただいちゃいました〜(両手を前に向けて、パッパッと開いたり閉じたりするお決まりの仕草)

チャンネル登録すれば、みんな美食ライフ〜!

苦い文学

入管アンテナショップ

さて、今回みなさんにご紹介したいのは、品川駅構内にある入管のアンテナショップ。

ここでは、入管の収容所に収容されている人々が作ったさまざまな製品が販売されています。

気になる商品をご紹介しましょう!

まずは、新商品の「難民すごろく」。入国から難民認定までの道のりをすごろくで体験。「あがり」にたどり着くまで最短でも5年。気長に楽しんでください。

お次は、被収容者が入管職員にナイショで醸した地酒「国ざかい」。いける口にはたまりませんが、お酒も長期収容もホドホドに。

いま、ひそかに注目を集めているのが、テレホンカード。なんとこれ入管の中だけしか使えません。ウィシュマさんの顔写真がプリントされたカードが一番人気とのこと。

巷を騒がす「死刑にするハンコ」ですが、入管にもすごいハンコがあるのはご存知? それが「強制送還するハンコ」です。これを持てば、あなたももう法務大臣。死刑に強制送還とド派手にやっちゃってください!

ショップにはまだまだ要チェックグッズがずらり! 入管ポテトチップス(日本に来るんじゃなかったという悔悟の涙の塩味)、入管職員愛用のストレス解消グッズ(具体的にはお店でご確認ください)、監視カメラマル秘映像集DVD(出す出さないでお馴染み!)、謎の飴(入管のお医者様が処方する精神に効く成分配合)、難民認定お守り(これにあやかってあなたも難関突破!)、牛久大仏の置物(原寸大!)などなど。

品川駅をご利用のさいには、ぜひお立ち寄りあれ!

なお、収入印紙でしか購入できないので、入国管理局の1階のコンビニでご用意の上、ご来店ください。