苦い文学

スナイパー

10年以上前のことだが、当時私はタイ・ビルマ国境にある難民キャンプや、紛争地帯に出入りしていた。

そこは、主としてカレン人の暮らす地域で、ビルマ政府軍と、カレン人の軍との戦争が続いていたし、今も続いている。

ウクライナではロシア軍が民間人に対して暴行、性暴行、略奪、破壊、虐殺を行なっていることが報じられているが、それとまったく同じことが、ビルマの戦場では繰り返されてきた。

こうした状況で、多くのカレン人がタイ・ビルマ国境の難民キャンプに逃れてくるのだ。

しかし、難民キャンプまで来られるだけでも幸運だ。なかには、行先もなくジャングルで隠れ暮らしている人々もいる。こうした人々を国内避難民と呼ぶ。

これらの国内避難民の状況はとても厳しい。生きるか死ぬかの状況だ。軍の攻撃ばかりでなく、地雷も怖い。

カレン人には難民支援をする組織がいくつかあり、なかには国内避難民を対象として支援しているものもある。

その組織のリーダーの1人があるとき私に「望遠鏡みたいなスコープが欲しいので日本から送ってくれ」と言ってきた。

なにに使うかというと、それでビルマ軍の隊長かなにかを狙い撃ちするのだという。ビルマ軍の兵士は訓練されていない者が多いから、上が死ぬとすぐに無力になるのだと説明してくれた。

国内避難民を守るために必要なのだというが、私は断った。そして、もし断らなかったとしても、結局のところなにを送ればいいのかわからなかったにちがいない。