旅・観察

チュニジアのベルベル語(5)

近代以降のチュニジアで、ベルベル語の使用が記録されている場所は 4 カ所ある。そのうちのひとつでは、すでに話者がいないとされている。タターウィーンとジェルバは、最近も文献が出ていることから、話者がいることは間違いない。

問題は (b) のガベス西部のマトマータだ。ここにはズラーワ、ターウジュート、タマズラットの 3 つの村があるが、目につくのは 1900 年にドイツで出版されたタマズラットの古い研究ぐらいだ。そのせいか「現在も話者がいるかは不明」などと言われるほどだ。

本当に話者はいないのだろうか?

もちろん、いる。ただ、研究が乏しいか、あっても入手しにくいせいで、あまり知られていないだけのようだ。

ネットを探せば、タマズラットの例文集と語彙集が見つかる。タマズラット出身のベルベル語話者がまとめたものだ。

それに、私自身、2024 年 3 月にマトマータに行ったとき、ベルベル語を話す老人に出会った。もっとも、その人がどこの出身かは聞きそびれた。

そして、2025 年 3 月、私はチュニスでひとりのベルベル人の男性を紹介された。その人は 3 つの村のひとつ、ターウジュートの出身で、私はこの出会いをきっかけに、ようやくチュニジアのベルベル語の世界に足を踏み入れることができたのであった。そのいきさつについては、別のタイトルで書くつもりだ。

(写真:タマズラットの表示。2024 年 3 月撮影)

苦い文学

女も加害者

男たちはもう我慢できなかった。「フェミどもはどうして男ばかり責めるのだろうか? なぜ男ばかりいつも悪者なのだろうか?」 「そうだ、女たちはいつも責め立てる。『男は加害者だ! 男たちのせいで女たちは苦しんできた!』と!」 「そんなのは嘘だ! 男たちはいつも女にやさしくしてきたではないか。選挙権も人権も専用車両だって欲しがるままに与えてきたではないか。それをいきなりこんなことを言い出すとは、狂っている!」

男たちは「女だって加害者だということを、俺たちが証明してやろうではないか!」と口々に叫びながら研究所に乗り込むと、女の研究者を追い出して、男たちだけで秘密の研究に取りかかった。そして、数ヶ月後、最悪の加害者女が誕生した。

【最悪の加害者女の特徴】
・すぐ男を殺す。
・自分が50代なのに20代の男に好かれると思っている。好かれないとすぐ殺す。
・騙して自分の家におびき寄せ、性暴力を振るう。その後、税金のかからない範囲で見舞金を送る。

男たちは叫んだ。「これを見ろ! 女も加害者ではないか!」 「そうだ、こいつを作るのに、俺たちは、何人もの女の体をツギハギにしなくてはならなかった!」 

そのとき、最悪の加害者女が、恐ろしい叫びをあげた。檻をぶち破り、刃のような牙と鋭いツノで、男たちを串刺しにした。そして、国連女性差別撤廃委員会に出席するためにどこかの山に消えていった。

苦い文学

新しい形

おじさんでいることはなんとつらいのだろうか、とおじさんたちは嘆いた。いつ老害あつかいされるか知れたものではないのだ! もうなにをするにもビクビクだ。

おじさんたちは次第に引っ込み思案になり、物陰に隠れるようなった。

そんなときだ、告白者がやってきたのは。その人はいかにも神妙な顔つきでこう告白したのだ。

「もしかしたら僕も……」と眉間に鋭いシワを寄せる。「老害かもしれない……」

人々はこの真摯な告白を称賛した。そして口々に言うのだ。

「いいえ、あなたは老害ではありません!」「そうです。自ら老害と告白する人が老害なもんですか!」

おじさんたちはこの告白に衝撃を受けた。そうなのだ、はじめから告白してしまえばいいのだ。うまい手を思いついたものだ! もうこれで老害呼ばわりとはおさらばだ!

さらにすばらしいのは、この告白は若ければ若いほど効き目があるということだった。

「あんなに若いうちから自分が老害かもしれないと告白する男性が、このさき老害になんて絶対になりっこない! ステキ!」

そんなふうに言われたら、おじさんになることを恐れていたおじさん予備軍が飛びつかないわけがない。

そんなわけで、今、おじさんたちは、30代から80代まで、もうみんなどこにいっても神妙な顔つきで「僕も……老害かもしれない……」と渋めの声で告白している。

少なくとも数週間は、おじさんたちはこれで押し切れるだろう。これが老害の新しい形だとバレるまでは。

苦い文学

管理の会社

マンションには管理組合があり、マンションの維持や修繕のために活動している。

管理組合の役員になるのはマンションの住人や所有者だが、本業があるので管理組合の仕事すべてに手が回るわけではない。

そこで、管理組合に委託されて、マンション管理会社が日常的な業務を遂行することになる。

私の知人の住むマンションの管理組合が、何か問題があったかして、それまでのマンション管理会社との契約を更新せず、別のマンション管理会社と契約した。

管理会社の変更や契約には総会の決議を経ねばならず、けっこう手間がかかるが、無事に済み、新たな体制がスタートした。

これで一安心と思いきや、だんだんとおかしなことが起きはじめた。

すでに何年も活動してきた管理組合は、独自の進め方・やり方があったが、管理会社は自分たちのやり方を押し付けてくるのだ。それで「こっちのやり方を尊重してくれ」というと、何かの法律を持ち出してそれとなく脅すのだった。

たとえば、管理組合にはすでに管理組合のハンコがあったのだが、管理会社は断りなく勝手にハンコを作って、代金を請求してきた。

「すでにあるからいらない」というと、「決まりなので」とハンコを渡そうとする。

「いや、必要のないものは受け取れない」

「管理組合のハンコを管理会社が持っているのは法律違反です。受け取ってください」

こんな調子なのだ。

そして、さらに驚くべきことが明らかになった。管理会社が管理規約の条文を自分たちに都合よく書き換えていたのだ。管理規約の変更には総会の決議が必要なのはいうまでもない。

私の知人は管理組合の役員のひとりだったが、こう言って嘆いた。

「連中が管理しようとしているのは、マンションじゃなくマンション管理組合だったんだ」

苦い文学

帝王のダイエット(哲学編)

全世界の支配者にして諸世紀の帝王イザーカーンは、ある日、その驚くばかりの巨体を揺らしながら宮廷に現れると、宰相トンマールを呼びつけたのであった。

宰相はといえば、慌てて駆けつけ滑り込んで平伏する。そして、帝王は次のように告げたのだ。

「宰相よ、喜ぶがいい! 余はとうとう痩せようと決意したのじゃ」

「善きご決断にてございます!」

「お前に痩せよ痩せよとせっつかれるのもこれでしまいじゃ!」と大笑い。何事かと心中穏やかでなかった宰相もこれにはほっとひと安心。だが、帝王にかかってはことはそう簡単には進まない。

「ついてはだな、お前に頼みがあるのだ」

「なんなりと!」

「ほかでもない、ソクラテスなる世にもまれなるダイエット賢人がおるという話ではないか」

「ソクラテスですと? ソクラテスは古代ギリシアの哲学者にてございますが」

「うむそうじゃ。その哲人が書き残したダイエット指南書があると耳にしたのだ。それをただちに持って参れ。その本を見ながら余はダイエットに励むつもりなのじゃ」

「しかし、ソクラテスはダイエットとはいささかも……」

「なに? お前は余に口答えするというのか!」

大臣が目を挙げると、帝王の表情は一変して、目は怒りにギラギラ、口はワナワナ。いやこれはやばいヤツじゃ、と大臣震えあがる。

「はっ、万難を排してその書を探して参ります。して、そのダイエット本の書名はいかなるものにてございましょうか」

「なんでも『太った豚より痩せたソクラテス』というそうじゃ! 明日までにこの書が余の手になければ、お前の首が胴体から飛ぶと思え!」

無理難題を押し付けられた宰相トンマールの運命やいかに?

旅・観察

古いほうの収容ウイルス、長崎入管訪問(その3)

 3月19日木曜日の夕方、大村入管に行き方を聞くために電話したのだが、対応した仮放免担当の職員から、驚くべきことが明かされた。

 まず、仮放免の手続きをするには遅くとも予定日の1週間前に電話しておかなくてはならないのだという。なぜなら、今回の場合、仮放免後の住所は東京なので、所轄の品川の入管に連絡するなどの準備があるからだそうだ。そんなに時間かかるかな、とも思うが、まあ、いいだろう。

 私を大いに焦らせたのは、その次に知らされたことだ。職員が言うには、4月の最初の週、すなわち、3月30日から4月5日までは、仮放免手続きはできない、というのだ。「年度始めの人事異動で忙しい」からだそうだ。

 となると、今週中に決めなければ、彼が出てこられるのは早くて4月6日ということになる。それはちょっとかわいそうだ。

 では、今日中に決めて明日電話すれば間に合う、と思ったが、明日は春分の日ではないか。休日だ。

 「あの、今、手続きをお願いしたら、早くていつですか」

 「3月26日木曜日ですね。27日の金曜日は、他の仮放免手続きでいっぱいなので」

 時間を見ると、もう5時だ。かけおなしてる暇はない。今決めるのだ。

 「わ、わかりました。26日でお願いします。絶対行きます」

 かくして、彼の仮放免の日が決まったのであった。