苦い文学

帝王のダイエット(哲学編)

全世界の支配者にして諸世紀の帝王イザーカーンは、ある日、その驚くばかりの巨体を揺らしながら宮廷に現れると、宰相トンマールを呼びつけたのであった。

宰相はといえば、慌てて駆けつけ滑り込んで平伏する。そして、帝王は次のように告げたのだ。

「宰相よ、喜ぶがいい! 余はとうとう痩せようと決意したのじゃ」

「善きご決断にてございます!」

「お前に痩せよ痩せよとせっつかれるのもこれでしまいじゃ!」と大笑い。何事かと心中穏やかでなかった宰相もこれにはほっとひと安心。だが、帝王にかかってはことはそう簡単には進まない。

「ついてはだな、お前に頼みがあるのだ」

「なんなりと!」

「ほかでもない、ソクラテスなる世にもまれなるダイエット賢人がおるという話ではないか」

「ソクラテスですと? ソクラテスは古代ギリシアの哲学者にてございますが」

「うむそうじゃ。その哲人が書き残したダイエット指南書があると耳にしたのだ。それをただちに持って参れ。その本を見ながら余はダイエットに励むつもりなのじゃ」

「しかし、ソクラテスはダイエットとはいささかも……」

「なに? お前は余に口答えするというのか!」

大臣が目を挙げると、帝王の表情は一変して、目は怒りにギラギラ、口はワナワナ。いやこれはやばいヤツじゃ、と大臣震えあがる。

「はっ、万難を排してその書を探して参ります。して、そのダイエット本の書名はいかなるものにてございましょうか」

「なんでも『太った豚より痩せたソクラテス』というそうじゃ! 明日までにこの書が余の手になければ、お前の首が胴体から飛ぶと思え!」

無理難題を押し付けられた宰相トンマールの運命やいかに?