風刺・戯文

ディストピア

いつのころからか、私たちの世界にはディストピアが溢れ始めた。

戦争は絶え間なくつづき、冷酷で無能で卑怯な指導者たちが死によって延命を図るこの世界では、繁殖するものといえばディストピアだけ。私たちは次第に身動きが取れなくなる。言葉は口にした瞬間、私たちを窒息させる。

すべてはまるで映画のようだ。かつて夢見たディストピアの薄暗い場面を今、亡霊のように歩いているのは私たちだ。もやがかかった悪意の谷を、ずぶ濡れになってくだっていく。デバイスもガジェットも私たちを苦しめ、悲しませるように進化した。谷底には充電スポットだけがある……

誰がディストピアなどと言い出したのだろう! この世界には別のありようはないのだろうか? 残虐な暗さ、絶望、悲しみ、孤独とは別の世界が。雑巾で床を拭った後に現れる輝き、腰を伸ばしたときの気分のよさにも通じる世界が。そんな思いに駆られて、私たちはディストピアの真逆の世界を必死になって思い描こうとしてみる。

それはまるで影のようだ。集中のわずかな揺らぎでも、その影を散り散りにしてしまうには十分。なぜならその世界は、まだ誰によっても名付けられてないのだから。