風刺・戯文

天狗の主張

私たち天狗は、人跡まれな山の奥深いところに暮らすものですが、そのせいか皆さんの間には、私たちに関する間違った知識が流布しているように見受けられます。

その大いなるものを挙げますと、私たちの「鼻」についての誤解です。皆さんは、天狗と聞きますと、いわゆる「長い鼻」を想起されるのではないかと思いますが、これは実は鼻ではないのです。

ちょっとご覧ください(と、Zoom で画面共有)。皆さんが「鼻」と呼んでいるものはこれですが、その付け根にご注目ください。これです。小さな盛り上がりがあるでしょう。これが本当の鼻なのです。鼻孔もちゃんとあります。

それでは、皆さんが「鼻」と呼んでいる部分は何なのでしょうか。これは実はメロン体という脂肪組織なのです。

メロン体と言いますと、イルカの頭部にある感覚器官で、音波によってエコローケーションを行うものです。私たちの「鼻」もこれと同じ機能を果たしておりまして、山奥の暗がりを飛び回る時などに、もっとも有用なのであります。

なお、このメロン体、イルカなどの額にあることからも想像できますように、実際は額の下部が発達したものだと、近年、判明いたしました。名実ともに鼻ではないということがご理解いただけたでしょうか。

それともうひとつ、皆さんの誤解を解いておきたいのですが、私たち天狗のこのメロン体は、年を重ね、経験を積むごとに長く伸びてまいります。つまり、長く立派なメロン体を所持しているということは、尊敬に値する人格者であることの証なのであります。

そのようなわけで、鼻高々なる人物を評するに「天狗になった」などと皆さんが言われるのは、私たちにとって大変心外であり、悔しさのあまり涙するものもいるほどなのです。

なにしろ私たちは「伸びるほど、こうべを垂れる天狗かな」と諺に言うほどなのです……、ちょうど法螺貝が鳴りましたので、このあたりでお話は終わりにさせていただきます。

風刺・戯文

イエスの再臨

その輝かしい宇宙船がやってきたのは、私たちが泥沼の戦争に疲弊しきっていたときだった。

私たちは撃つのをやめにした。武器を手放し、空を見上げた。宇宙船は不思議な光に包まれていた。

宇宙船が着陸したのは地球の頂だった。そこからは地球のすべてが見渡せ、また全地球人がそこを見ることができた。

そして、宇宙船からひとりの神々しい男が降り立った。それはまさしくイエス・キリストだった。

ついに再臨したのだ。キリスト教徒の間に歓喜が広がり、やがて動揺がその歓喜を打ち消していった。なぜなら、イエスの再臨の日は同時に裁きの日でもあるから。

イエス・キリストはボードを携えていた。そこには神の言葉が記されており、一文字一文字が燃え立っていた。神のひとり子は、その炎のボードを地球人に差し出した。

内容は以下のとおり。


神の代理人たる私イエス・キリストは、神と人間との契約に基づき、以下の項目を正当な取り分として請求する。

✓ 旧約および新約聖書、外典、死海文書、その他の文書の使用料
✓ 讃美歌などにおける神・イエスなどの名の使用料
✓ 図像・美術・写真・映画などにおける、神とイエス・キリストの肖像の使用料
✓ 原始教会の時代から、現在のあらゆる教派・宗派における顧問報酬
✓ 人類の文化の発展へのコンサルタント報酬
✓ キリスト教的情熱・インスピレーション・慈愛・献身のサブスク料金

なお、期日までに支払いなき場合は、私が「平和ではなく、剣をもたらすために来た」(マタイ10:34)ということにご留意されたい。

アーメン。


金額は莫大であり、負債は人類に十字架のようにのしかかっている。だが、奇妙なことに、キリスト教への改宗者は増えるばかりだ。なんでもそうだが、無料よりも有料のほうがありがたいということだろう。

風刺・戯文

日本で一番かたいもの

友人と、豚骨ラーメンを食べに行った時の話だ。頼んだのは私が先。「カタ麺で!」と付け加える。

すると、友人が「こっちはバリカタで!」

私はちょっとカチンときた。利いた風なこと言うじゃないか。

やがてラーメンが来た。我々はほぼ同時に麺を啜り終えた。すると友人が店長に「替玉お願い、ハリガネで」

そして、私のほうを見ると、半笑いで「店長、こっちにも替玉、カタ麺で……」

私は遮った。「こっ粉落としで!」 そして友人を蔑むような目で見返してやった。

そして、2度目の替玉の時がやってきた。先手を打ったのは私。

「粉落としじゃもの足りねーよ。店長さんよ、ひとつダイヤモンドで!」

そして友人のほうを指して、笑いを堪えながら「こちらさんにはニュウメン……」

すると友人、私を睨みつけるや大音声を発する。

「宮内庁の頭!」

そして、かんらかんらと大笑いしながら「日本にはこれ以上固いものはありゃしやせんて!」 もう勝ちを確信したってわけ。

ところが私ときたら、まっこと悠然たるもの。

「ダイヤモンドはやめで! こっちは……」と自信たっぷりに————

「眞子の決意!」

店内が水を打ったように静まり返った。友人はわなわなと椅子からずり落ちた。私の勝利が確定した瞬間だった。

そして、2回目の替玉を食べ終えた我々は、ラーメン屋を出ると、そのまま歯医者に直行した。

風刺・戯文

合コンと王様ゲーム

私は合コンに参加したい。そして、王様ゲームをしたいのだ。

合コンなるものが世に行われるというのを聞いたのはいつのことだろうか。私が大学生だったころはそんな名前など聞いたこともなかったから、まだ発明されていなかったのだろう。誰もが口にするようになったのは、私が社会人となってからだ。そしてそのときには、生活に追われて合コンに参加する時間もなかった。

しかし、子どもも独立し、生活も落ち着いた今、私はあらためて合コンに参加したいと思うようになった。そこで、学生時代からの男友達数名を集めて合コンを開催することにした。

合コンといっても実際はいつもの飲み会と変わらないものだと知った。だが、そうした気づきも大事ではなかろうか。それに、重要なのは王様ゲームだ。

宴もたけなわになった頃、私は立ち上がり、合コンに集った男どもに王様ゲームの開始を高らかに宣言した。

私は総督の前に立たされた。総督が私に「お前が王なのか」と尋問した。私は「それは、あなたが言っていることです」と答えた。

それから総督は人々にこう言った。「この男と盗賊のうち、どちらを釈放してほしいのか」 すると人々は「盗賊を」と叫び、私を十字架につけろと要求した。

そして、総督の兵士たちは、私の着物をはぎ取り、赤い外套を着せ、茨で冠を編んで頭に載せ、また、右手に葦の棒を持たせて、その前にひざまずき、「王様、万歳」と言って、侮辱した。また、唾を吐きかけ、葦の棒を取り上げて頭をたたき続けた。このように私を侮辱したあげく、外套を脱がせて元の服を着せ、十字架につけるために引いて行った。

彼らは私を十字架につけると、くじを引いてその服を分け合い、そこに座って見張りをしていた。そして、私の頭の上に「これは王である」と書いた罪状書きを掲げた。

……この王様ゲームはなかなか面白かった。合コンと王様ゲームは十分に楽しんだから、次回は同じメンツで集まって女子会を開催するつもりだ。

風刺・戯文

MOTTAINAI

私たちの住んでいる市の中学校で、生徒が自殺した。原因はいじめだ。この悲痛なできごとをきっかけに、市民のあいだで市の教育のあり方を問い直す動きが生まれた。その結果、市長は深く謝罪するとともに、生徒の死を無駄にしないと誓い、「いじめ防止基本方針」を策定した。

また、私たちの市には魔の交差点といわれる場所がある。かねてから事故の多発する場所で、住民は長いこと市に対策を求めていた。市の反応は鈍いものであったが、先月、この交差点で児童の列にダンプが突っ込み、7人の犠牲者がでるという大惨事が起きた。ことここに及んで、ついに市は対策に乗り出した。市長は深く責任を痛感すると語り、こどもたちの死を無駄にしないためにも、市内全域の通学路の安全性を見直し、問題があればすぐに対策を講じると約束した。

コロナ禍による医療崩壊という出来事もあった。市の対応が不十分かつ適切であったため、多くの高齢者が亡くなったのだ。市長は直ちに記者会見を開いた。会見では、医療体制の充実を図ることで、高齢者たちの死を無駄にしない、と目頭を押さえながら陳謝した。

私たちは、次に死を無駄にされないのは自分ではないかと、もう戦々恐々なのだ。

風刺・戯文

猿とそのプロジェクト

X大学の霊長類研究センターは、国内唯一の霊長類(サル、チンパンジー)の総合的研究拠点である。その研究は、霊長類の進化、ゲノム、社会生態、思考、言語、認知学習、脳機能など多岐にわたり、日本のみならず、世界の研究をリードしてきた。

特に名高いのは、メスのチンパンジー、メイをめぐる研究である。研究所の推進するプロジェクトにおいてメイは、文字や数の学習を始め、高い知能があることを示した。さら、認知行動能力も高く、絵を描き、ブロックを組み合わせる様子は、メディアを通じて広く知られている。しかし、世界の研究者をもっとも驚かせたのは、メイが、人間とコミュニケーションを取るという高度な社会的能力を持っていることであった。

こうした輝かしい成果を誇る霊長類研究センターであったが、メイに関する研究プロジェクトの主導者にして、センター長を務める世界的な学者、Z教授による数億円に上る研究費の不正使用が発覚し、その名声は地に落ちた。X大学はただちに調査を行い、報告書を公表するとともに、Z教授を懲戒解雇処分とした。Z教授は声明を発表し、すべての疑惑を否定するとともに、今回の事件には「裏」があることをほのめかした。しかし、大学はこの声明を黙殺し、研究センターを解散し、「人類研究センター」とする組織改編を発表した。

そして、先日、センター長にメイが就任することが明らかになった。

風刺・戯文

ソーシャル・ディスタンス

コロナウイルスのまん延とともに、ソーシャル・ディスタンスという言葉も定着した。

このソーシャル・ディスタンスは「社会的距離」、ソーシャル・ディスタンシングは「社会距離拡大戦略」と訳される。だが、我々の社会においては、あらゆるものが社会的なのだから、社会的でない距離などないのではないだろうか。それをどうしてわざわざソーシャルというのか。私はこの言葉を聞くたびに、ばかばかしく思っていた。

この秋、私はだれ訪うことのない険しい山奥を一人さまよい、一夜を過ごした。野営に定めた場所をぶらついていると、2本の立派な樹が離れて立っているのに気がついた。まるで鳥居のように見え、私は感心して眺めた。そして、こんなふうに考えた。その2本の樹の間の距離に「鳥居」という意味を与えたのは私であって、私によってその距離は始めて(おそらく有史以来始めて)社会的意味を与えられたのである。すなわち、私がこれらの樹を見る以前は、その間の距離は社会的なものでも何でもなかったのだ。

「ほれみろ」と私はつぶやいた。「ソーシャルでない距離など山奥にしかありはしないのだ」

私はふとその「鳥居」をくぐりたくなった。近づいていくと、2本の木の中間に小さな立て看板があるのが目に入った。それには筆でこんなふうに書かれていた。

「ソーシャル・ディスタンスの木」

看板の端にはマンガ風のカブトムシが描かれ「蜜に注意!」と呼びかけていた。

風刺・戯文

侵略

どうも、こんにちは。

まずは自己紹介をさせていただきますね。私はプロのプログラマーで、自由時間ではハッキングを専門にしております。

今回残念なことに、貴方の星は私の次の被害者となり、貴方の星のオペレーティングシステムとデバイスに私はハッキングいたしました。

数ヶ月間、貴方の星を観察してきました。

端的に申し上げますと、貴方の星がありとあらゆる破壊に夢中になっている間に、貴方の星のデバイスが私のウイルスに感染したのです。有機的・無機的を問わず、貴方の星のあらゆるデバイスへのフルアクセスとコントロールを私は獲得しています。

近頃、貴方の星が殺戮の大ファンで「戦闘動画」鑑賞を楽しんでいることを知りました。

意味はお分かりですよね……貴方の星が勢いよくミサイルを発射するいくつかのクリップを編集して、マスター・オペレーション中に閲覧していらっしゃった動画を組み合わせることにしました。

画面の左側では貴方の星がご自分を楽しませている様子、そして右側ではその時に遂行されていた作戦を表示するようなビデオクリップを作成いたしました。

数回マウスをクリックするだけで、とても簡単にこの興味深いビデオを太陽系どころか、銀河中に送信したり、インタギャラクティック・ウェブ上に単に投稿できたりすることはもうお分かりでしょう。

朗報は、まだ抑止することができることです。ただ 1,800,000 光年相当の量子コインを私の量子ウォレットに送金いただくだけで……

風刺・戯文

雨ゾン

ついさっきまで晴れていたのに、急に激しい雨が降り出した。

自分にはどれだけの時間が残されているだろうか。今、この手記を書きながら、私は思う。

なぜなら、この豪雨はやつらからの警告だからだ。やつらは、こうして雨を降らせて、傘を持つことを拒絶した私を脅かしているのだ。

彼らは私を決して許そうとはしないだろう。私の勇気ある告発によって、傘を通じて人類を支配しようとしている恐るべき秘密結社の存在がついに暴かれたのだから。

連中は、今、私を押しつぶそうとしている。秘密結社の権力を傘に着てだ。

連中は私に危害を加えようとしている。傘ばる物を投げつけてだ。

だが、私は屈しない。私たちの世界を邪悪な存在に奪われてはならない。

インターホンが鳴った。誰だ、こんなときに……やつらか、それとも……。私は息を潜める。

再びインターホンが鳴った! 私は意を決する。立ち上がるのだ、玄関に向かうのだ。よしんばそこに邪悪な存在が待ち受けていようとも……。

悪に抗うことはできても、運命には抗えぬ。

私は扉を開けるだろう。そして、命尽きるまで

(奇怪な手記はここで終わっている。玄関には Amazon の空箱が置かれており、中にレインコートの納品書が残されていた……)