風刺・戯文

素顔

「みなさんにとっては VTuber なんてもう当たり前でしょうが」と、その先生は学生たちに語りかけた。

「僕はこのあいだ孫に教わりまして。アニメかと思っていたら、あにはからんや、裏に人間がいて動かしているというんですね。コンピューターを使うとそういうことができるということなんですが、で、僕は聞いたんですね。後ろで動かしている人はどんな人なのか、顔とかわからないのか、と孫に聞いたんです。すると『これはこういうものだよ』と答えるのです。いや、でも、誰が動かしているか、気にならないの、としつこく聞いたんです。そしたら、孫はいかにも面倒くさそうに『ホントは誰とか考えないよ』というので、いや、そういうものなのかと感心してしまいました。背後に誰がいるのかとか、素顔はどうだ、だなんて詮索するのはもう意味がないのかもしれませんね。僕も見習いたいとは思いますが……」

こう前置きを終えると、先生は少し悲しそうに作家論の講義にとりかかった。

風刺・戯文

地球温暖化のためにできること

【あほうの党党首からのメッセージ】
高齢化が我が国にもたらすのは、社会保障費の増大です。つまり、年金・医療・介護という三重の社会保障費が政府の財政を圧迫するのです。

このままでは、高齢者の暮らしが危うくなるだけでなく、現役世代の負担もますます重くなるばかりです。

しかも、我が国の将来を左右するこの未曾有の事態に対して、与党はいうもおろか野党までもが、ただ手を拱いているだけなのです。もう、こんな政治家たちに我が国は任せられません。

私たちあほうの党は、この問題に真剣に取り組み、ついに解決する方法を見つけました。それは、地球温暖化です。みなさん、地球温暖化というと、なにやら悪いことのように思ってはいませんか? 氷山が溶けたり、砂漠が広がったり……こんなのはぜんぜん他の国のことです。我が国には関係ありません。それどころか、我が国にとっては実は地球温暖化はいいことずくめなのです。

だって、地球温暖化により、我が国が常夏の国となるのですから。こうなると、もう冬などないのです。夜、外で寝たって平気なのです。暖かいのですから! だから、高齢者にはあれやこれやのホームはもう不要です。道端でのんびりお過ごしいただければいいのです。しかも、いい陽気ですから、心も軽くなります。気分も上々です。病気なんかすぐに治ってしまうでしょう。医療費削減です。年金だっていりません。空き缶を置いておけば、道ゆく人がお金を投げ入れてくれるのですから。そう、必要なのは社会保障費なんかじゃなくて、敬老の精神だったのです! 

どうですか。地球温暖化で医療も介護も年金も不要となりました。地球温暖化のためにできること、きっとたくさんあるはずです。私たちあほうの党と一緒にがんばってみませんか。

【お知らせ】
大晦日の夜、「地球温暖化チャレンジ」を実施します。プログラムは、「本当は楽しい地球温暖化」「燃えないごみを燃してみよう!」「裸で野宿で温暖化を先取り!」など盛りだくさん。奮ってご参加ください! *防寒具は各自ご用意ください。

ライブ

Mei Semones@duo MUSIC EXCHANGE

日本にはたくさんのネパール人がいるが、いろいろな民族集団の人がいるので、ネパール語以外の言語を母語として話す人も多い。私はネパール人に会うと必ずそのことを尋ねるが、「母語はなんですか」と聞いてもわかってくれないこともある。そんなとき「家族の言葉はありますか」というと、たいていピンと来てくれる。つまり、母語、タルー語であれタマン語であれなんであれ、ネパール語以外の言語は公ではなく家につながるものとして理解されている。

アメリカのミュージシャンのメイ・シモネスの初の日本ツアーの最終公演が渋谷で開催されたのだが、見に行った私はときどきネパールのことを考えたりしていた。メイ・シモネスの曲は、ジャズとボサノバをベースに少しねじれたポップなメロディが乗るというもので、変わっているが聞きやすい。バンド編成は、彼女の弾くギターに、ベース、ドラム、バイオリン、ビオラというもの。面白いのは歌詞に英語と日本語の両方が使われていることだ。

メイ・シモネスは母親が日本人ということで、子どもの頃からたびたび日本の祖母の家に滞在したそうだ。だから、日本語を使うのは不思議でもなんでもないが、その日本語の歌詞が、日本の歌の歌詞とは少し違うように感じた。言葉が「子どもっぽい」のだ。

「今日のご飯なにかな 天ぷらとお豆腐とごまあえほうれん草 おばあちゃんの手作り」(Kabutomushi)

それはひとつにはこの Kabutomushi のように、日本語が子ども時代の思い出に結びついているということもあるかもしれない。だが、たとえば次のような歌詞を聞くとそれだけではないような気がしてくる。

「やりたいことやればいい いつもいつもいつも ピカピカ光る街 いつもいつもいつも」(Itsumo)

普通、日本人は子どものときは子どものように話すが、学校に行き、学生時代を終え、大人になると、大人のように話すようになる。私も子どもの頃の日本語は失くしてしまったが、メイ・シモネスの歌詞にはその失われた子どもの日本語が生きているように思えた。

これは英語で教育を受けた彼女にとって、日本語が「家族の言葉」であったことに関係があるのかもしれない。もちろん、私は彼女の日本語が子どもっぽいといっているわけではない。MC で彼女が話す日本語も普通のものだ。ただ、英語に比べて、日本語を「学校の言語」として経験していないぶん彼女は、日本人とは違った意味づけを日本語に与えていて、それを作品の本質的な部分として使っているように思った。そして、それがメイ・シモネスの曲を大いに魅力的にしている。

私はライブを聞きながらこんなことを考えていたが、それにしても、すばらしいギターを弾くメイ・シモネスはとてもかっこよかった。

散文

引き波

「東京に住んでいるかぎりは、それほど津波の心配をする必要はありません」と教室に入ってきた教員は、教壇の前に立って見回すと、おもむろに留学生たちに語りはじめた。「もちろん、海の近くに住んでいる場合は注意が必要ですが、東京湾があるおかげで、津波の勢いがある程度弱まるのです」 教員は東京湾の図を書いて、千葉と神奈川が波を受け止めている様子を示した。

「でも、そうはいっても、東京以外の場所、特に海の近くにいるときに、地震が起きないともかぎりませんね。ですから、地震の後に津波がどんなふうに起きるかを知っておくのは大切です。私たち日本人がよく知っているのは、津波が来る前に、海が遠くに引いていくという現象です。これは……」と教員はボードに文字を書いた。

「『引き波』と呼ばれています。もっとも、引き波がなくても津波が来ることがあるそうなので、いつも確実というわけではありませんが。さて、こんなことをいきなり話したのは」と教員は教壇に立ったまま、広い教室を見渡した。ずっと後ろの方で、学生たちがばらばらに座り、彼のほうを不思議そうな表情で眺めている。

「まるで、みなさんが、引き波のように見えたので……」

学生たちはつまらなそうに鼻で笑い、教科書を広げた。教員は、かすかに引き波の音を聞きながら授業をはじめた。

風刺・戯文

無料ニュース勢

木鐸というのは、むかし中国で法令などを人民に触れて歩くときに鳴らした鈴のことで、ここから「社会の木鐸」という言葉が生まれた。これは、世の人々に警告を発し、正しい方向へ教え導く役割を担う報道機関や記者のことを指す言葉だ。

現代のネット上の報道は無料と有料の2種に分かれている。世界を知るための重要なニュースや、鋭い分析記事、深い評論・コラムなど、私たち民草を教導するような記事はまずまちがいなく有料だ。つまり、社会の木鐸も富裕層の耳にしか届かなくなってしまったのだ。

そして、無料ニュースはといえば、ほとんどが有名人の顔に関わるものだ。顔に違和感、顔に絶賛の声、顔に指摘、顔が物議……、ニュースにお金を払う余裕のなく、木鐸の音などついぞ聞いたことのない私たちにとっては、それでもう十分過ぎるほどだ。

ところが、最近、無料ニュース界に新たな動きが生まれた。中国のメディアが日本のために日本語で中国のニュースを無料で流してくれるようになったのだ。中国の古代遺跡の発掘、ウイグルの発展、人民を潤す善政の数々……「顔」のニュースに倦み疲れていた私たちにとってはまさに朗報。中国のメディアは、ケチな日本のメディアと比べてなんと太っ腹なのだろう。これも中国政府が後ろについているおかげだ。本場の木鐸は政府謹製でタダだったのだ。

私たち無料ニュース勢は、富裕層御用達の日本のメディアなどもう見捨てた。いずれ私たちは、日本のことを中国の報道機関を通じてだけ知るようになるだろう。そのとき、日本の首相がどんなに喚いたって、私たちには隣の国のことのように思えるだろう。

風刺・戯文

和ステナブル

世界でも日本人だけが、虫の音を味わいのある音として聞き取ることができるということは、古くから知られていますね。これは日本人だけが持つ特殊な脳の構造によるものなのだそうです。

日本人独特のこの脳の構造に、またまた世界でも稀な新たな現象が発生していることが、最近の研究で明らかになりました。日本人ならではの斥力です。

具体的な科学的プロセスは次のようなものです。

日本人が「外国人」と聞くと、脳内に斥力が生まれます。この斥力は脳内に位置する理性や思いやりを弾き飛ばそうとします。ですが、脳は頭蓋骨で保護されているから、実際には分離することはできません。すると、行き場を失った斥力が熱に変換され、日本人の脳内がカッカし始めのです。

脳は高温には耐えられませんから、熱を外に逃がそうとします。熱は、頭蓋骨から首を経て放出され、末梢部、つまり指先に流れ込みます。この熱によって指が自然に動き出すのです。もしこのとき、指の下にキーボードを置くと、タイピング運動と呼ばれる現象が観察されます。素晴らしいヘイトスピーチが X(元 Twitter)やヤフコメへと拡散されていくのです。

日本ならではのこの自然現象に関心をもったある科学者が、このプロセスを代替エネルギーとして使えないかと研究をはじめました。そして今日、ついに大規模な実証実験が都内で行われました。

広大なホールに、机と椅子とが並べられ、そのひとつひとつに日本人が着座しています。日本人の手元にはキーボードが置かれ、そのキーボードからはケーブルが伸びています。すべてのキーボードのケーブルは、ホールの中央の装置に集められ、その装置の上には豆電球がひとつ置いてあります。

実験が始まりました。ホールに設置されたスピーカーから、外国人犯罪のニュースを読み上げる声が朗々と聞こえてきます。日本人たちはじっと耳を傾けています。このとき生じている脳内の変化は観察することはできませんが、次第に日本人たちの顔が赤くなってきたのがわかります。カッカしているのです。

そして、ついにタイピング運動が始まりました。みな思い思いのヘイト発言を、慣れた指遣いで手元のキーボードに入力しています。

カチカチカチカチ! カチカチカチカチ!

それぞれのタイピングによって生まれた微弱な電流が、ケーブルを通じて中央の装置に流れ込みます。

「や、点いた! 豆電球が! 成功だ!」

日本人独特の斥力が、実用可能でクリーンなエネルギーへと変換された瞬間でした。

サステナブルなエネルギーの実現するサステナブルな社会、もうそこまできてますよ。

音楽

保留音楽

私の友人が監修を務めた『保留音楽全集』というコンピレーション・アルバムがある。「保留音楽」というのは、電話を保留中のときに流れる音楽のことだが、ご存知の通り、電話で聞かされるものだから、音質も最悪、まともな音楽好きならば、耳を塞ぎたくなるような代物だ。

だが、音楽に関して他人とは異なる感性を持っていた友人は、この「保留音楽」の虜となり、ありとあらゆる銀行、役所、カスタマーサービス、商店、0120 に電話して、その音源の収集に打ち込んだ。そして、膨大な「保留音楽」コレクションの中から、もっとも異常で、一聴するや精神を追い詰めずにはいない楽曲を集め、アルバムとして世に出したのだった。

「保留音楽」というと、まず思い浮かぶのは、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(モーツァルト)や「エリーゼのために」(ベートーヴェン)といったクラシックの定番曲だ。『保留音楽全集』にも当然収録されているが、普通のバージョンだと思ってはいけない。保留音楽として数限りなく再生された結果、音質が劣化し、もはや判別ができないくらいに分解された「雑音」なのだ。

例えば『全集』には「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」が 4 バージョン収録されているが、ひとつは鋭い高音のみに純化されて、聴くや耳が切り裂かれそうになる。また別のものは音像が崩壊した結果、NASA が録音した土星の輪の音とそっくりだ。

「エリーゼのために」は 6 バージョン。そのうちのひとつは、音源が最大限に間延びした結果、「テトテトテトテトテン」という冒頭の有名なメロディが、第 1 音の「テ」が鳴ったっきり、いつまでたっても次の音が出てこない。かと思うと、別の「エリーゼのために」は異常な速度で再生され、さらに奇妙なエフェクトがかかるものだから、すべての音がまるで銃弾みたいに聞こえ、やがては脳を蜂の巣にするのだ。

『保留音楽全集』には、これ以外にも、ジャズやイージーリスニング、ポップスの名曲が勢揃いしているが、どれも聞けばわかるように、音は潰れ、ギザギザで、不快と苦痛を与えるノイズに仕上がっている。もしも通話相手が保留中にこれをあなたに流したら、即刻、切ること間違いなしだ。

この『保留音楽全集』、2006 年に発売され、今では幻の名盤としてプレミアがつくほど。そんなレアな音盤が、この度めでたくも再発されるという。

しかも、リマスター盤だということだ。

風刺・戯文

歴史の試練

僕たちが恐れていたことが、現実になろうとしていたんだ。

2025 年 12 月、アメリカのトランプ大統領はびっくりするような行動に出た。ナイジェリアのイスラム過激派に、キリスト教徒が迫害されているといって、空爆を実施したんだ。大統領は、キリスト教徒を守るためならば、軍事行動だってやるぞ、と世界に睨みを効かせてる。

このニュースを見て、僕たちは本当に心配になったんだ。トランプ大統領は、次に僕たちのこの日本を攻撃するに決まっているから。

だって、トランプったらこんなふうにいったっていうじゃないか。

「Run of Shimabara(島原の乱)!」

僕たちは、アメリカの飛行機が日本中を飛び回って、爆弾を落としまくる様子を想像して、震え上がった。おしっこも漏らした。キリスト教徒の怒りの焼夷弾で黒焦げになるのが、僕たちの運命だったとは。

だけど、そんなとき、僕たちの素晴らしい首相が立ち上がった。彼女は勇ましくアメリカに飛んで行って、トランプ大統領に恭しくひざまづいていった。

「閣下、島原の乱は、キリスト教徒とは関係ありません。極左の暴動に過ぎません」

そして、首相は大統領に、日本の歴史の教科書(検定合格)を見せたんだ。確かに、島原で暴れ回っていたのは、みんな民主党みたいな顔をしてたんだ。それで大統領はいったんだ。

「善哉善哉、それでこそ同盟国じゃ」

僕たちは、首相が彼女で本当に良かったと、胸を撫で下ろした。首相にかかっちゃ、歴史の改竄なんて朝飯前なんだ。

散文

闘志の燃やし方

私は今、ある厄介な法律トラブルに巻き込まれている。もっとも、弁護士が出る段階にはないが、いずれは出さねばならないかもしれない。

問題は複雑怪奇だ。私は法律のことはよくわからないから、AI に相談している。いろいろと尋ねてみたが、AI によれば、どうやら勝ち目があるのは私のほうらしい。これは心強い、と思っていたが、疑念が萌してきた。

この AI は私が贔屓にしているマシンだが、もしかしたらそのせいで、私に都合のいい返事をしているのでは? そうなら大問題だ、私が欲しいのは太鼓持ちではない、厳格な法的アドバイザーなのだ。

そこで、私は自分の敵対者として AI に助言を乞うてみた。もし、これで AI が厳しめの答えを出すならば、私は勝てるかもしれない。

そして、果たして答えは、敵対者にとって厳しいものだった。「だが」と私は考えた。「これで安心してはいけない。私はもっと、この憎むべき敵対者になりきって、相手を倒すための秘策を AI から聞き出さねばならない。そして、もしこの秘策がなければ、それこそ安全なのだ。AI よ! どうにかしてこいつをやっつけてくれ!」

私は憎むべき敵を倒すのに熱中し、悪辣のかぎりを尽くした。自分の弱点を残酷に告発し、凄惨な罵詈雑言を浴びせた。そしてついに! AI が法という法の穴を潜り抜けて、私を打ち負かすシナリオを見つけたのだった。

「やった! でかしたぞ!」

私はチャットを打ち切った。興奮冷めやらぬ私の胸の奥には、いつの間にか闘志がメラメラと燃え盛っていた。私は、この闘志があるかぎり、法律トラブルを戦い続けるだろう。そして、挫けそうなときには、再び闘志を掻き立てるために、私を敵にしてやっつけることだろう。

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風刺・戯文

語れるゴミ

ごみ出しルールを守りましょう!!

ごみを出す際は、「出し方」「収集場所」「収集日」(朝8時30分まで)を守り、決められたルールで出しましょう!

ルールが守られていないごみは収集されませんので、ご協力をお願いします。

【語れるゴミ】成長の法則、成功プラン、世界の真ん中で咲き誇る日本、恋愛成就のパワースポット、言語化で人たらし、富裕層の習慣、外国人の日本賞賛、引き寄せ力、日本人の子どもの虐待死、魂の救済など。

【語れないゴミ】無意味な努力、貧乏人のアドバイス、狂人の長広舌、外人の日本語、犯罪者の正論、外国人の子どもの虐待死、知らない民族の大量虐殺など。

【資源ゴミ(「リサイクル」と書いてお出しください)】ヒーローのピンチ、恋人の難病、実は御曹司、敵が生き別れの兄、努力は裏切らない、庶民はしたたか、開けない夜はない。

【粗大ゴミ(回収は有料です)】無名の人の一生

【有害ゴミ(中身が見えない袋に入れてください)】リベラルの言説

【回収できないゴミ】国旗

*分別基準は選挙の結果により変わることがあります。