旅・観察

AIDA 16th Conference

AIDA(Association Internationale de Dialectologie Arabe)というのは、アラビア語方言学の国際学会だ。二年に一度、大会が開催される。今年二〇二六年に、第十六回の大会がイタリアのシチリア島にあるカターニア大学で開催された。日程は六月二十三日から二十六日の四日間だ。

私はチュニジアのアラビア語方言を勉強しているから、一度はこの学会で発表してみたいと思っていた。二〇二四年はマルタ島だったが応募に間に合わず、ようやく今年、発表できることになった。

どうせならチュニジアでの勉強にくっつけてしまえば、旅費も浮くと考えて、チュニジア滞在ののちにシチリア島に行くという計画を立てた。もっとも、いろいろ旅程を変更しなければならなかったので、結果的に旅費は安くならなかった。

私がチュニジアに到着したのが六月四日で、途中、ターウジュート訪問や、犬と男との出会いを挟みつつ勉強を続け、六月二〇日までチュニスに滞在した。そして六月二十一日にチュニスからカターニアに向かった。チュニスエアが直行便を出しているので便利だ。

午後一時四十五分に出発して、一時間十五分後にはカターニアに到着する。飛行機はとても小さい。窓際の席だったので、地中海を眺めることができた。ときどき、青い海に浮かぶ小島が見える。飛行機の小ささも相まって、私はまるでジブリ映画の飛行機に乗っているような気分になった。だが、発表のことを思い出すと、そんな気分も吹き飛んだ。

風刺・戯文

練馬変態クラブの憤慨

練馬区の変態たちがつくる練馬変態クラブは、1974 年には活動をしていた変態市民団体の草分け的存在だ。月一回で行われる会合では、誰もが公式の衣装、つまりブリーフいっちょうで参加するのが決まりとなっている。集まると、会員たちは互いにブリーフを誇らしげに見せ合いながら元気よく叫ぶ。

「ぼくはライオン!」「ぼくはゴリラ!」「ぼくは象!」

ブリーフの正面真ん中には、それぞれお好みの動物の顔が描かれていて、その動物を報告する。これが、練馬変態クラブの決まりなのだ。だが、普段は明るい会員たちが近頃どうも落ち込み気味なのだという。

その原因は最近のニュース、小学校の教師たちが盗撮した児童の写真をネットで共有していたという報道にあった。会長のへんいちさんに話を伺うとこう答えてくれた。

「私たち変態が問題視しているのは、この見出しです。『変態教師グループ逮捕』 ひどいではありませんか。変態は犯罪者ではないのです」と会長は憤る。

「私たち変態も、この教師たちのしたことに怒っていることには変わりはありません。ただ、彼らは変態ではなく、犯罪者なのです。こうした書き方は、変態は犯罪だという誤解を与えます。私はメディアに問いたいです。教えてください。変態は、罪ですか? メディアの差別的な姿勢に断固抗議いたします」

練馬変態クラブは、抗議文を記したブリーフを履いてメディアに乗り込み、脱ぎたてを公式プレスブリーフとして報道関係者にじかに手渡す予定だ。

苦い文学

尋ねられ顔

尋ねを誘発する「尋ねられ顔」とでも言ったらいいのだろうか、私は海外の旅行先で、現地の人に道を聞かれることがある。

台湾・台北の街をひとり散歩していたら、年配の女性が中国語で話しかけてきた。中国語はわからないが、道を尋ねているようだ。だが、私に何が言えよう。そのまま立ち去るほかなかった。

私の風貌は、台湾の人やフィリピンの人に似ているとよく言われる。だから、もしかしたら、同じ台湾人と思ったのかもしれない。

韓国に行ったときも、似たようなことがあった。日本から着いたばかりで仁川空港をうろうろしていると、やはり年配の女性が話しかけてきた。「〜はどこですか?」ということを聞いているのはわかったが、それだけだ。私はただ首を振るしかなかった。

このことを知り合いの韓国人に話したら「さすが、現地の人に間違われましたね」と返事が返ってきた。こう言われて悪い気はしない。

そして、チュニジアに行ったとき、地方の町でバスを待っていると、隣で立つチュニジア人男性から、「次に来るバスが遅れているのか」と尋ねられた。

台湾でも韓国でも、私を現地の人と間違う人はいるかもしれないが、アジア人のほとんどいないチュニジアではそれはまずありえない。ここでようやく私は、ことの真相に気がついた。

世の中には、疑問に思ったら、周りにいるのが誰であろうと尋ねずにはいられない人がいるのだ。つまり私は「尋ねられ顔」でもなんでもなく、ただたまたまそうした「尋ね人」に出会ったに過ぎないのであった。

音楽

デヴィッド・ボウイのスペース・オディティ漫談

地上管制室より、トム少佐へ
地上管制室より、トム少佐へ
プロテイン・ピルを服用し、ヘルメットを装着せよ
(10)地上管制塔より(9)、トム少佐へ(8、7)
(6)カウントダウン (5)開始、エンジン、起動(4、3、2)
点火を確認せよ(1)、神の愛が(発射!)ともにあらんことを

こちら地上管制室より、トム少佐へ
見事な成功だ!
新聞記者たちが君がなんのシャツを着てるか知りたがってるぞ
さあ、カプセルを切り離すときだ、やってみたまえ!

こちらトム少佐より、地上管制室へ

私はいま宇宙空間におります。

この宇宙空間、なんにもないように思えますが、実は未確認飛行物体でいっぱいでして。私たち地球人はこれを UFO と読んでおるわけですが、この UFO がビュンビュン飛び交っている、まあ、そんな状態でございます。

何しろ交通量が多いものですから、事故なんてしょっちゅうです。事故が起きると、地球と同じですが、どっちが悪い、ということになるわけですが、宇宙空間だけに地球とはちょっと変わっております。事故の当事者同士は絶対に口をきかない。もう黙ったままなんでございます。

といいますのは、ゆうほうが悪い、UFO だけにというわけで……

地上管制室より、トム少佐へ!
通信回路が切れた、異常事態だ!
応答せよ!
応答せよ!
応答せよ……

苦い文学

ハラスメントの生き残り

私の知っている人で、おとなしく人が良さそうに見えるのだが、奇妙な点があった。

同僚の若い女性の世話につきまとうのだ。

待ち伏せして話しかけたりするのだが、何を話すかというと、親切にアドバイスしている。毎日何かメールを書いてくる。どうぞ使ってくださいという感じでものをあげたりしている。

女性の方からするとそうとう不快に違いないが、うまく拒絶することもできない。というのも、相手はまさに親切心からしているだけで、そこに下心はまったくないように見えるのだ。

これがもし、この男が性的な事柄を仄めかしたりでもすれば、これはもうセクハラだ。少なくとも、この男を追っ払う口実になる。だが、そんなそぶりはまったく見せない。

この男は親切で素朴な人間なのだろうか。それとも、巧妙に下心を隠している卑劣な人間なのだろうか。

私はしばしばこのテーマについて考えたが、最近では、この男の内部には「セクハラ」という別種の生命体が宿っていて、その生命体が生き延びるために取っている方策が、この男の奇妙なふるまいとなって現れているのでは、と考えるようになった(これは本人が無自覚なのもよく説明する)。

現代では容易に判別できるハラスメントはすぐに排除されてしまうから、わかりにくく、微妙で、それでいてダメージは大きいというように、巧妙化しなくては、ハラスメントは生き残れないのだ。