研究

ベルベル語調査のお金(2)

科研費は競争的研究費と呼ばれる。研究費たちが競い合って行先を取り合っているイメージで間違いない。そのうちのひとりが、コースを外れたかして、私のところまでたどり着いた。私としては、感謝とともに丁重にお迎えした次第だ。

今年度は 120 万円の予算がある。これだけあれば、2 回の調査は可能だ。だが、そうも言えない雲行きだ。

まずは円安だ。コイツのせいで一昨年ぐらいから海外旅行費用そのものがグングン値上がりしてしまった。

そして、次に戦争だ。ウクライナのヤツにせよ、中東のヤツにせよ、調査とはまったく相性が悪い。しかも、私がもっぱら利用していたエミレーツ航空やカタール航空では、運航休止や減便が相次いでいる。とすると、場合によっては、料金高めのヨーロッパ経由の便を利用しなくてはならないかもしれない。

最後はサーチャージだ。かねてから気に食わないヤツだったが、やれ封鎖だ、やれ再封鎖だ、果ては逆封鎖だのせいで、ますます調子に乗っている。国民の税金を原資とする科研費が、サー・チャージとかいうぼったくり貴族の懐に入るようでは泣くに泣けない。

こんな状況の中、しかも刻一刻と目減りしていく資金で、チュニジアに行けるものだろうか? わからないが、平和そうな場所を飛び石のようにひとつひとつ辿って行くしかない。

(写真:スーサの市場のパン屋)

苦い文学

シティポップの誕生

シティポップは1970年代の日本で生まれた音楽ジャンルのひとつで、いわゆる「洋楽」の影響を受けながら、日本の当時の洗練された都市文化も反映した音楽です。

このシティポップが現在、世界中で注目されています。特に韓国では、80年代から日本のシティポップの受容が始まり、現在では独自のフレーバーを持つ韓国シティポップが日本でも愛好されるようになりました。

さらに、タイでもバンコクを中心に、優れたシティポップが制作されるようになっています。

ここで、都市について研究を重ねる都市学者がシティポップについてこんなことを言っていたのが思い出されます。

「洞窟に住んでいた人類が住居を作り、その住居が集まって集落となる。その集落が集まって村となり、その村が集まって、大きな村となる。やがて余剰生産物が発生し、それを管理する存在として王が生まれ、村々を束ねる都市が誕生する。その都市が発展し、人口も増え、その増加した人口と社会を管理するための官僚機構が整備されると、大都市となる。この大都市は周辺の人々と富と技術を飲み込みながら拡大し、最終的にシティポップを生み出す」

今後、戦争が起きて、文明が破壊され、私たちが洞窟に暮らすようになったとしても、そこからいつの日か素晴らしいシティポップが誕生するかと思うと、ゴツゴツした岩場でも楽しく眠れそうですね。

苦い文学

歪んだ認証システム

あなたの心が危ない!

ご存知ですか? マインド・ハック・ボットがあなたの心を狙っていること!

マインド・ハック・ボットはあなたの心に侵入して、あなたの心を荒らしたり、脳内情報をあらいざらい奪いとってしまったりする恐ろしいボットです。心の情報を抜き取られてしまったら、パソコンのパスワードも銀行の情報も筒抜けです。

では、どうしたら?

重要なのは、マインド・ハック・ボットを心に侵入させないこと。そのためには強力なセキュリティが有効ですが、難点は、あなたの心に接触しようとするすべての人を追い返してしまうことです。すべての人づきあいを諦めなくてはなりません。

そこで、ご提案したいのが、私たちのセキュリティ・認証システムの導入です。この認証システムを使えば、有害なボットだけを排除することが可能になります。

私たちのセキュリティ・認証システムは次の3段階からなります。

第1段階:歪んだ文字認証
このステップでは、歪んだ文字を読み取り、入力します。文字はボットが読み取れないように歪められており、エラーの場合はそこで認証プロセスは終了します。

第2段階:歪んだ気持ち認証
ボットが歪んだ文字認証を通過した場合、次に立ちふさがるのが歪んだ気持ちです。あなた自身の歪んだ気持ちを利用して作成した「妻子に暴力を振るっているあなた」「子どもに包丁を突きつけて勉強させているあなた」の画像をスキャンし、歪んだ気持ち(「家族愛」や「子どもへの愛」)を入力しなくてはなりません。心がないボットの多くはここで弾かれます。

第3段階:歪んだ認知認証
高度なボットはまれに愛情や憎しみの歪みも読み取ってしまいます。ですが、歪んだ認知は読み取ることはできません。この最終段階では、文字や画像ではなく、場面が展開します。ボットがその場面に仕込まれたあなた自身の認知の歪み(「全部自分が悪いんだ!」「完璧にできなければ意味がない……」)に気がつくことができなければ、あなたの心に侵入することはできないのです。

あなたの心の歪みが生み出した最強の認証システムをぜひご利用ください!

苦い文学

失われた30年

今、日本があぶない。

かつては日の上る勢いであった日本の経済力は、失われた30年を経て、いまや黄昏時にいたった。そして、その夕闇の中、少子高齢化が進行し、やがれ訪れる夜の闇に我が国は飲み込まれるであろう。

日本は黄泉の国となるのであろうか。

無論、政府とて手をこまねいているわけではない。「異次元の少子化対策」を掲げ、出生率を上げようと試みている。だが、もしも、少子高齢化も異次元級だったら? はなはだ心許ないと言わざるを得ない。

賃上げによる所得増大政策も推進されてはいる。だが、人口が若返らないかぎり、どんな経済政策も無意味である。

このような危機的状況を前にして、私はひとつの解決策を提示したい。

失われた30年というならば、まず、その失われた30年を見つけ出すほうが先決ではないのか。

というのも、もし我が国が30年を取り戻すことができたら、私たちは30年分若返るのだ。高齢化も解決できようし、30年前の活力で持って子作りに励めば、少子化問題などたちまちに霧散しよう。それとともに経済も上向きになるのももちろんだ。

では、その失われた30年はいったいどこにあるのか? どこの険しい山岳地帯、どこの危険きわまりない洞窟に隠されているのか。私は現在、探査計画を練っている最中だ。

探査旅行は、徳川埋蔵金発掘よりも大規模で、インディ・ジョーンズばりにスリリングなものとなろう。

探査隊への参加を希望される方は、ガイドブック『失われた時を求めて』を携帯の上、お集まり願いたい。

苦い文学

完全に正しい歴史教科書

私は歴史家でもなく、また教育家でもないが、ひとりの愛国者として、どのような歴史教科書が正しいかはわかる。

正しい教科書とは国を愛する心を育むものでなくてはならない。ゆえに、嘘の歴史はもちろんのこと、自虐史観にもとづく歴史はすべて排除されていなくてはならない。

こうした思想に基づき、ついに完全に正しい歴史教科書が完成した。われわれ愛国者の頭にあるものすべてが注ぎ込まれた究極の歴史教科書だ。

まずわれわれの教科書を手にとってほしい。大きさはどうだ。持ち運びに便利なコンパクトサイズだ。

小脇に抱えて、さっそうと歩いてみよう。学生気分満点だ。机の上に置いてみよう。その高級感、もう教科書検定一発合格の風格だ。

では、ぱっと開いてほしい。たちまち授業中の雰囲気が漂う。もちろん、電車の中で開けば、テスト勉強にいそしんでいるように見えること請け合いだ。赤い線を引いたり、暗記用の赤い下敷きを当てたりして、大いに楽しもう。

そればかりではない! あなたが怠け者の生徒ならばパラパラ漫画だって描ける。いや、あなたが厳しい教師ならば、その怠け者の生徒の頭をこの教科書で叩くことだってできる。

教科書としてじつに正しく仕上がった。もう中身など必要ないではないか。

旅・観察

現代のフダーウィー:チュニジアの語り部(4)

 イスラーム以後の歴史については、私はいくつかの王朝が入れ替わったことぐらいしかわからないが、ハフス朝のイブン・ハルドゥーン(14世紀)とその著書『歴史序説』ぐらいは知っている。チュニス生まれのこの大学者の銅像は、チュニスにきた人なら必ず目にするものの一つだ。もっとも最近は、その前に「I♡TUNIS」という無粋なモニュメントができて、その存在感は弱化しつつあるようだ。

かすむイブン・ハルドゥーン像

 この時期のチュニジアでもうひとつ大事なことがある。アル・アンダルース文化の流入だ。アラブ人はイベリア半島をイスラーム化し、壮麗な文化を築き上げたが、レコンキスタにより15世アルハンブラ宮殿で知られるグラナダが陥落すると、多くのスペインのイスラーム教徒たちが北アフリカに逃亡した。チュニジアもそうで、音楽や建築などさまざまなアル・アンダルース文化がこれらの「難民」たちによってもたらされた。

 難民といえば、もっと古い難民たちも北アフリカにはいる。それはユダヤ人で、かなり古い時代からディアスポラとして北アフリカの諸都市で暮らしてきた。これらの人々も、独自のアラビア語方言の話者で、チュニスのユダヤ人方言に関する研究書も出版されている。

 ハフス朝の後、チュニジアはオスマン帝国の支配下に入り、その結果、多くのトルコ語の語彙がチュニジアの言語に入ることとなった。19世紀後半からはフランスの植民地となり、これは1956年のチュニジア独立まで続いた。フランス語は、宗教以外のあらゆる分野、すなわち行政、文化、教育、出版などで用いられ、チュニジアの言語生活に大きな影響を与えた。それは現在でもそうで、フランス語が流暢に話せることは、あるレベル以上の社会生活を送るためには必須の能力となっている。

 ここで、これまで述べたことをまとめると、チュニジアの言語と文化は、単純に言えば、アラビア語とイスラームであるが、より詳細に見ると、それらは、ベルベル、フェニキア、ローマ、地中海(イタリア、ギリシャ、スペイン)、トルコ文化、フランス文化の影響の上に成立している、長い歴史と多様な背景を持つ文化であることがわかる。

 こうした文化的深みと多様性は、口承文芸の世界にも反映されていて、スペインやフランスの民話との類話もあれば、イソップ物語に似た動物物語もある。千一夜物語でおなじみのハールーン・アッラシードが、いかにもチュニジアらしい舞台背景の中で活躍するといった物語もある。また、ユダヤ人コミュニティで伝承されている物語も多く記録されている。(つづく)

ローマ時代のモザイク(スーサ考古学博物館)