風刺・戯文

原理>原則

非核三原則とは、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」とする政治的原則だ。この原則は、問題があるからなくすべきだという政治家もいれば、問題があるから強化すべきだという市民もいる。

また「撃ち込ませず」を入れて四原則にすべきだという意見もある。これに対しすでに「持ち込ませず」に含まれているから不要だという人もいれば、これにまた反論して「撃ち込ませず」を四つ目に加えて、敵基地を先制攻撃する能力も保有すべきだという人もある。さらに「持ち込み禁止」を明示して、ルールのわからない外国人が外で買った飲食物を店内で飲み食いしないようにするのも大事だと強調する人もごくわずかにいる。

非核三原則はあくまでも原則にすぎず、原理とは異なるとの主張も最近なされている。原則は人間が決めたルールだが、原理は科学的なものだというのである。ゆえにどんなに重要な原則でも、原理のほうが優先されてしまうのだという。

原理の観点から見ると、日本は現在、核攻撃に関して非常に憂慮すべき状況にあるのだそうだ。というのも、現在の世界では核爆弾の使用可能性ががぜん高まっているからだ。

そうした危機的状況においては、核を撃つのがアメリカにせよ、ロシアにせよ、中国にせよ、どの国であろうと、世界中の他のどの国よりも核爆弾が落ちる可能性が高いのは日本なのだそうだ。

というのも二度も核が落ちたのは、日本だけだからだ。原理的にいえば、三度ある。歴史はいつだって仏の顔をギリギリまで試す。これも原理だ。もうギリギリだ。

旅・観察

最後の外貨の禍い(4)

空港に着くと、私はエミレーツ航空のチェックイン・カウンターに向かった。カウンターは 8 つあり、1 〜 3 がファースト・ビジネスクラスなどの優先カウンター、4 〜 8 がエコノミーだ。エコノミーの列は長い。私は比較的短そうな 8 の列に並んだ。

進まない列の後ろに立っていると、「荷物係」と書かれた青のベストを着たおじさんが話しかけてきた。

「中国人か、日本人か」

私は面倒くさい雰囲気を感じて黙っていた。「ここに並ばないで、3 番目のカウンターに行っていいぞ」

しかし、私はエコノミーだ。うかつに優先カウンターに移動して並び直しになる恐れもあった。私が黙っていると、そのおじさんは別のところに行ってしまった。

だが、列は進まない。カウンターの前にいるのは子どもを連れた家族だ。彼らが問題なのだろうか? しかし、他の列を見るとやはり止まっている。待つしかない。

あの荷物係のおじさんが戻ってきた。「20 ディナール払えば、私が特別に早く終わらせてあげるぞ」

20 ディナールは千円ぐらいだ。私があいかわらず黙っていると、おじさんは続けた。「たった 20 ディナールじゃないか。じゃあ、10 ディナールならどうだ。5 ディナールでも……」

おじさんは立ち去ったが、私は進まない列の中で、20 ディナールのことを考え続けた。列が止まっているのは、乗客というよりも、カウンターそのものが止まっている感じだ。たとえ、お金を払ったとしても、カウンターに支障があるのなら、どうにもならないものはならない。

カウンターのほうを見ると、スタッフとは別の 2 人の男女が荷物のベルコンベアーのところに立っていた。2 人とも、カーキ色の制服を着ている。なんとなく私を見ているように感じた。

列が動き始めた。並び始めて 40 分後に私はようやくカウンターに到着した。スーツケースを預け、搭乗券をもらう。そのまま出国審査のためのゲートに向かう。だがそのとき、背後から呼びかけられた。

「ちょっと待ちなさい。パスポートを出しなさい」 先ほど私を見ていた制服の男だった。

音楽

The Long And Winding Road

みなさんのなかにポール・マッカートニーの「The Long And Winding Road」を聞いたことがないという方はいらっしゃらないのではないか。ちなみにこんなふうに始まる歌です。

The long and winding road that leads to your door will never disappear.
(あなたの扉へと導いてくれる長く曲がりくねった道。それは決して消え去りはしない)

これはなんの歌でしょうか。人生の歌、そう考える人もいるかもしれません。いや、信仰の歌だ、そういう人がいてもおかしくないでしょう。だが、間違いなのです。この歌はずばり「道の歌」、そう言っていいでしょう。「ポール・マッカートニー、道を歌う」なのです。

こういうと、小ざかしげにしゃしゃり出てくる顔が目に浮かびます。「おや、ご存知ないとは残念ですな。この曲の道というのは、人生の隠喩、メタファーでして、レイコフによれば……」

おやめなさい! 隠喩だか肝油だか知りませんが、こっちには証拠が揃っているのです。

証拠① ポールが書いた道に関係する歌。
Penny Lane(言わずと知れたこの名曲はリヴァプールのストリートの名前です)
Why Don’t We Do It In The Road(『ホワイト・アルバム』所収。その名の通り)
Lovely Rita(『サージェント・ペパーズ』所収、meter maid、つまり駐車違反取り締り係の婦人警官の歌です。meter maid の現場はどこでしょうか? 道なのです)

証拠② 道を前提としたポールの曲。
Golden Slumber(『アビイ・ロード』所収。“Once there was A WAY to get back homeward” という歌詞から始まります)
Get Back(『レット・イット・ビー』所収。「もといたところに帰る」には道が必要です)
She’s Leaving Home(『サージェント・ペパーズ』所収、「家出する」にも道です)
Fool On The Hill(『マジカル・ミステリー・ツアー』所収。バカも丘に登るには道を通ったはずです)

証拠③ ビートルズを道に巻き込むポール。
Abby Road(これぞビートルズが世界に先駆けて完成させた「道のコンセプト・アルバム」です!)
Magical Mystery Tour(ポール発案のこのツアーでは実際に道が利用されました!)

証拠④ ポールの道への想い。
Here There And Everywhere(『リボルバー』所収。ここ、そこ、そしてあらゆる場所をつなぐのは「道」であり、それと同時に、ここ、そこ、そしてあらゆる場所にあるものこそ「道」である、という融通無碍にして円満至極なる道の境地……)

もう、お分かりいただけたでしょう。ポール・マッカトニーこそは、道に取り憑かれた狂気のミュージシャンだったのです!

苦い文学

落とし物

海外旅行に行くときほど、私たちが貴重品に気をつけるときはない。

まるで海外はみな泥棒ばかりのようだ。スリに置き引き、寸借詐欺に賭博詐欺、美人局に強盗、あの手この手で、我々の富を奪いにかかってくる。

もちろん、実際のところ、悪い人というのはそういない。だが、旅行者というのはお金を持っているものだし、また、しばしば現地の情勢に無知でもあるので、悪い人々の標的になりやすいのもたしかだ。

8月の初旬から2週間ほど、外国に行ってきた。その間、パスポートと貴重品には十分な注意を払い、特に何かの被害にあうこともなく、無事帰国した。そして、成田空港のベンチにメモ帳を置き忘れた。

外国でさんざん注意していたにもかかわらず、帰国してなくすとは、と呆れたが、成田空港の落とし物窓口に電話すると、あるということだったので、翌々日に取りに行った。

さて、メモ帳はリングノートで、いちいち閉じないで一番新しいページを開いたままにしている。そこに何が書いてあったかというと、2日前に投稿した「革命的山猫同盟」の下書きだ。読まれたら、と思うと恥ずかしいが、いずれにせよ、届けてくれたのはありがたいことだと思う。

苦い文学

ロープクライミング

私ももういつ死んでもおかしくない年齢になった。そんなわけで最近、ロープクライミングを学ぼうかと思っている。

ネットで調べると講習会があちこちで開催されている。それらの講習会で学べるのは、トップロープクライミングやリードクライミングだ。これらは、基本的にはクライマーとビレイヤーの二人で行うものだ。ビレイヤーというのは、ロープをコントロールしてクライマーの安全を確保する人だという。

私は一人で登る技術を身につけたいのだ。だからビレイヤーなどいらないのだ。

ネットでずいぶん探したが、なかなか希望のロープクライミング技術を教えてくれるところはなかった。だが、ついに昨晩、ピッタリなところを見つけた。

「絶対ひとりで登り切る!」というのが宣伝文句だ。

スパイダーズ・スレッド・クライミング協会というところだ。今日さっそく電話して講習会を予約した。

「下から登ってくる人間を蹴落とすテクニックは教えてくれますか? 上にいるお釈迦様には見えない角度で」と尋ねたら、特別料金を払えば可能とのことだった。