散文

KNUのゲスト(2)

だが、断るわけにはいかない事情があるのに気がついた。

というのも前日の日曜日、カレン人の大事なイベントがあり、私はそれも誘われていたのに断っていたからだ。イベントにはKNUのゲストが出席することも知らされていたし、友人が誘ってくれたのは私を紹介したいからだということもわかっていた。結局のところ、私は行くと返事をしたが、それは、むしろこの友人の厚意を二度も断りたくなかったからだ。

そして、池袋の焼肉屋に集まったのは、十三人の在日カレン人と私。しばらくすると友人が、近くのホテルからKNUのゲストを連れてきた。若いカレン人たちが入り口に立って、歓迎の花束を渡した。

会場は広めの個室で、お店も少しだけ高めだ。この店の系列店で働くカレン人がセッティングしてくれたのだという。

ゲストはKNU議長と若い幹部で、二つある大テーブルに別々に座った。私は議長の近くに座らされた。やがて、肉が出てくる。議長は日本酒を飲んでみることにしたようだった。

私は名前ぐらいは伝えたが、実際には議長と話すことはない。私は最近のビルマの状況については疎いので、あまりくだらない質問をしたくはなかった。

また、私はKNUの人を何人も知っていたが、そこで、あの人知ってる、この人知っている、KNUについてこんなこと知ってるなどと、KNU議長相手に釈迦に説法をおっ始めるほどバカではない。

それに、KNU内部にもいろいろな考えと立場がある。私を助けてくれた人が、別の人にとっては裏切り者だったりする。だから、余計なことは言わないのがいちばんだ。

そして、私については自分で言わなくても周りのカレン人がどんどん説明してくれた。これで十分だし、そもそもゲストと話すべきなのは、私ではない。他のカレン人、特に若い人たちだ。

そういうわけで私は、焼肉を食べるのに集中した。

風刺・戯文

心を柔軟にするために

少子高齢化、経済の衰退、地球温暖化、陰謀論、そして戦争……問題だらけのこの日本で、私たちはどうしたらいいでしょうか。

ひとつだけはっきりしていることがあります。それは、これまでの考え方・方法ではこれらの問題には太刀打ちできないということです。

過去のわだかまりや先入観にとらわれた思考からは、これらの問題に解決策を見出すことはできません。

ただ、柔軟な心、つまり、問題を柔軟に受け止めるしなやかな心だけが、解決をもたらしうるのです。はっきりいっておきましょう。これからの世界では、そんな柔軟な心をもつ人だけが必要とされます。柔軟な心だけが、精神的にも経済的にも豊かな人生を手に入れるのです。

では、そんな柔軟な心をもつにはどうしたらいいでしょうか? どうしたら、あなたのかたくなな心をほぐすことができましょうか?

ここでこのボトルをご覧ください。中の液体、これこそ、私が柔軟な心で開発しました特効薬。お使いになるや、たちまちあなたの心をほぐし、柔軟にします。食後に服用するも可、お肌に塗布するも可、さらには頭に振りかけても可の、この柔軟薬、今なら割引価格にて皆さんに……


当局はただちにこの怪しげな販売者を薬機法違反で逮捕し、怪しげな薬品を押収し、その成分を調べた。すると、コンビニ弁当の麺類にかける「ほぐし水」とまったく同じ成分だということが明らかになった。

苦い文学

雪国

私たちの日本語の先生は、よくない先生だ。話していることが分からないし、厳しいし、意地悪し……

先生は小説が好きだ。だから私たちに小説の言葉教える。これは私たちには意味ないね。使える日本語が欲しい。先生に言うと「小説を学ぶと心が豊かになります」だって。「ジブリとかアニメとか、くだらないものばかりではダメですよ」

でも、小説ばかり勉強してJLPTのN2合格できますか? 私たちはとても不安です。

このまえ授業で「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」を勉強しました。自由に思ったことを言いましょう。先生は言うけど、誰がいつ書いたかも、なんていう小説かもわからない。

私たちは言いました。

「これはある人がトンネルに入って、たくさん歩いてトンネルを出ると雪がたくさんある国だった、という意味です」

「そうかな」と先生が言いました。「歩いてかな。もっと、なにか、乗り物があるでしょう、ほら……」

「わかりました! ネコバスです!」

先生は怒り出して教室から出ていってしまいました。自由に思ったことを言いなさいと言ったのに、おかしくないですか。

苦い文学

異国のシャワー

私たちは異国の安宿のシャワーで忍耐を学ぶ。

栓をひねればお湯も水もちゃんと出て、水量も十分というのが一番いいが、そんなことはめったにない。だから忍耐が必要だ。

あるホテルのシャワーでは、お湯の栓をひねると水が出て、お湯になるまで時間がかかる。しばらくは冷たい水しか出ない。出しっぱなしにして手を突っ込むと暖かくなったように感じる。よし、とシャワーに飛び込むが、やっぱり冷たい。期待が感覚を裏切ったのだ。我慢しているうちにお湯が出てくれればいい。だが、結局、水しか出ないということもある。

逆に熱湯しか出ない、そういうホテルもある。これは危険だ。水のほうの栓を回して調節しようとするがうまくいかない。水か熱湯かの2択しかないのだ。そして、なんとか浴びられる温度にしようと調節しているうちに、熱湯が切れたのか、水しか出なくなる。

苦労して水を適温にし、心置きなくシャワーを浴びているときも気を許してはいけない。そうしたときは、きまってシャワーヘッドが頭の上に落ちてくる。

苦い文学

イヌディペンデンス

夕方涼しくなったので公園で考えごとをしていたら、散歩に連れられてきたイヌたちの会話が聞こえてきた(今月に入ってこれで2度目だ)。

毛並みのいいの「まったく、最近おかしな奴らが増えてるな。生活保護犬だなんだって、名前からして情けねえ」

背の低い茶色の「ああ、あのどこの馬の骨ともわからん連中か。あんなのと我々を一緒にしてもらっちゃ迷惑千万だ」

白くてフサフサしたの「まったくだ」

モジャモジャの「いや、そうはいっても、それぞれ事情があるのだ。すきでそうなったわけではない」

イヌたち「(一斉にうなり吠える)」

毛並みのいいの「我々の払った税金で、仕事もせずに暮らしている怠け者だ」

背の低い茶色の「もちろん、本当に困っているのなら生活保護犬だってしょうがないが、聞けば、ベンツを乗り回してるそうじゃないか」

毛並みのいいの「パチンコに入り浸ってる手合いもいるってよ。不正受給が多すぎる」

白くてフサフサしたの「まったくだ」

モジャモジャの「だからといって、制度自体を全否定することはできないと思うがね」

イヌたち「(一斉にうなり吠える)」

毛並みのいいの「働いて、自分でおまんまを稼いでこそ、一人前なんだ。養ってもらうなんて恥だと思わなきゃ」

背の低い茶色の「もし俺が、あんな社会のお荷物になったら、とっくに自殺してるね」

白くてフサフサしたの「まったくだ」

モジャモジャの「だが、我々だって、人間に養ってもらっているではないか」

毛並みのいいの「人間が養っているだと? 逆だ、逆だよ! 我々のした糞を次から次へと盗み取っていく連中だぞ。人間がもしそれを食べていないとしたら一体どうしていると思うのかね? まさか捨てているとでも?」

イヌたちは一斉に大笑いを始め、飼い主たちがリードを引っ張って、イヌたちを引き離すまでそれは続いたのであった。