旅・観察

機内食

飛行機に乗ると、目の前に据えられたモニターでパズルゲームを始める人もいるかもしれない。だが、そんなことをしなくても、パズルの時間はやってくる。

機内食の時間だ。

それはまるで、木の四角いコマを動かすパズルのようだ。私は小さなトレーの中にぎっしり並べられている正方形や長方形の皿、パンやクラッカー、コップ、カトラリーやナプキンを巧みにスライドさせる。そうしながら、前菜からデザートへと進んでいかねばならない。

このパズルは、エコノミークラスの必修課題だ。そもそもエコノミーとは語源を辿れば、古代ギリシア語の oikonomia、つまり「家の管理」だということだ。古代ギリシア人の家はとても小さかったのだろう。だからタンスやベッド、テレビ台の置き場を決めるにあたり、まるでパズルを解くかのように苦労しなくてはならなかったのだ。

「しかし、それにしても」と私はこの小さなトレーを舞台に知的格闘を繰り広げながら、疑問に思う。「何ひとつ落とすことなく、食事を済ませることのできる人などいるのだろうか」と。

というのも、皿のプラスチックの蓋はまるでUFOのように飛び出していくし、丸めたナプキンは必ず他のゴミを外に弾き出そうと膨張しだすからだ。コップだって、中身をぶちまけてやろうとかねてから虎視眈々だ。

これらのことに気を取られているあいだに、私はフォークを落としてしまった。それは足元の鞄の上に乗っている。まだ大丈夫だ、と手を伸ばすと、それは鞄から滑り落ち、地の底に飲み込まれていった……。

なんとか苦労して食べ終えたが、それからたっぷり一時間、いかなる乗務員も訪れることなく、トレーは私たちのテーブルの前に置かれていた。食後の時間をゆっくり楽しむのも、やはり必修課題とみえる。

小説

道を渡りし者(8)

いや、別にこの町を出るのに、駅や道路を通らなくっちゃいけないわけではない、と暗い草原を駆け抜ける自分を想像していたとき、私の携帯にメッセージが届いた。それは上司からだった。

《いったい何をしでかしたんだ。契約を打ち切ると、先方が激怒してこっちに連絡してきた。事態を収集するまで戻ってくるな。さもなければ》

今日会った社長は市長派だったのだ! 赤信号を無視したばかりに、いま私は職を失おうとしている。これはいったいどういうことだ……。

「いや、ちがう! 簡単じゃないか!」 私は叫んだ。急にわかってしまったのだ。

「吉田さん、なんてことはないです。明日、10時にその赤信号に行きましょう! 平気ですよ。渡らなければいいのです。赤信号で待ち、青信号で渡ればいいのです! これで私はただの人間になり、すべては元通りになります。平穏無事にこの町を出ていけるでしょう」

だが、吉田の深刻な顔つきは変わらなかった。「ええ、私もそう考えていたのです。それしかないといえます。ですが、ただひとつ問題があるのです」

「なんです」

彼は言いにくそうに口を歪めた。「だまされたと怒り狂った暴徒があなたを吊し上げ、八つ裂きにすることでしょう……」

進むも地獄、進まぬも地獄。いまや赤信号も青信号も私を苦しめにかかっている。