小説

異界のテレビ(1)

桃源郷の昔から、人々はたまさか垣間見た異界のありさまを記録に残してきた。今回お伝えする話もその類といえるかもしれない。

私の友人に X という研究者がいる。その彼が国際学会で発表するために、ある小国の首都に滞在していた。学会の最終日、他の研究者との交流ののち、彼はホテルに戻った。帰国の便は翌日朝だったため、そうとう早く出なくてはならない。彼は荷造りと寝支度にとりかかった。

あとはもう寝るだけとなって、彼はこの国にきてから一度もテレビを見ていないのに気がついた。メディアに関する研究をしている彼は、外国に行くと必ずテレビ放送をチェックするが、今回ばかりは忙しくてテレビをつける暇すらなかったのだった。

そこでテレビをつけた。もう深夜だったから、残念なことに現地のテレビ放送はほとんど終わっていた。彼はチャンネルを順に押していった。アメリカの映画やヨーロッパのドラマがときどき画面に現れた。そして、かなりチャンネル番号が進んだところで、NHKの国際放送にでくわした。

しばらく見たのち、彼はさらにチャンネルを押し続けた(「深く潜る」と彼は表現した)。映るのはいわゆる砂嵐ばかりで、もうなにも映らない領域に到達したかのようだった。このまま押していっても、もとの「1」に戻るだけだ、と彼が思い始め、惰性でリモコンのボタンを押していると、不意に日本語が飛び込んできた。

風刺・戯文

ジャーナリスト・スタイル

【一流ジャーナリストが教える! 記事の書き方】
ジャーナリストにとってもっとも大事なことは何でしょうか。取材、資料集め、記事の執筆……、これらはどれも大切なのですが、何かとあえて問われれば、私は記事の最後の一文だと思います。

なぜなら、そこにこそ、ジャーナリストがいちばんいいたいことが詰まっているからです。私たち記者の魂がそこに込められているのです。

だから、むしろ、その最後の一文をどう書くか、ということに向けて私たちは仕事をしています。その最後の一文が、読者の心を動かすのですから、当然のことです。どういうことかご理解いただくために、すこし実際の例を見てみましょう。

たとえば、『笑ってバンザイ』というテレビ番組の司会者が脱税をしたとします。とすると、一流の記者ならば、すぐに最後の一文が浮かびます。

「どうやら、今回ばかりは『笑ってバンザイ』とはいかなかったようだ。」

そして、記者はその一文に向けて綿密な取材にとりかかるのです。

また、「白い心」というヒット曲のある歌手に不法薬物の疑惑が出たら、もう、最後の文は「大ヒット曲『白い心』が黒い心にならないよう気をつけてほしいものだ。」で決まりです。

こういうことを言うと、中にはこうおっしゃる人がいます。もし、「私がある記事のタイトルを見て、最後の一文が思い浮かんだとしたら、記者の言いたいことがわかったも同然なので、その記事はもう読む必要はないのでは」と。

まさにその通りです。そうした方の心にはもう「記者魂」が宿っているに決まっているので、記事を読む必要はいっさいありません。

風刺・戯文

中居くん式

平和を愛するトランプ大統領は、ロシアとウクライナの和平が遅々として進まないのに苛立っていた。

「問題はウクライナのゼレンスキーじゃ」と大統領はため息をついた。「ヨーロッパ諸国抜きの和平交渉を彼が拒絶しているかぎり、平和は実現せぬ」

この慈悲深き大統領の心痛を見逃さなかったのが、頓知者のイーロン・マスクだ。マスクが大統領に心配そうに声をかけると、大統領は悩みの種を打ち明けた。

マスクはただちに答えた。「閣下、それならば、妙案がございます」 そして大統領の耳に口を寄せるとなにやらゴニョゴニョゴニョ。聞くや、大統領の顔はたちまち晴れやかに転ずる。「よきかな、よきかな!」

さっそくトランプ大統領は和平会議の開催をゼレンスキーに通知した。「ウクライナが望む通り、和平会議に、アメリカとロシアだけでなく、フランス・ドイツ・イギリスなど全ヨーロッパ諸国の参加を認める」

ゼレンスキーに拒絶する理由はなかった。ただちにアメリカに飛び、ワシントンにある高級ホテルに向かう。和平会議の会場は最上階にある大きな広間だ。そこに通されたゼレンスキー、あっけに取られる。各国首脳が集まっていると思いきや、なんとそこにいたのはトランプ大統領だけ。

「フランスやドイツは?」

トランプ大統領が笑いながら言った。「全ヨーロッパ諸国がドタキャンしたのだ。大雨だと言ってな!」

騙されたことに気がついたゼレンスキー。が、そのとき、大統領の背後から、不敵な笑みを浮かべたプーチンが現れ、着ていたバスローブを脱ぎながら彼のほうへと近づく……

こんなふうにして、ついに大統領はウクライナを交渉のベッドに就かせ、大統領とプーチンの思うがままの「和平」をあれやこれや実現したのであった。

コト終わって、大統領はイーロン・マスクを呼び出し、その知恵と頓知を賞賛した。

「マスクよ、このような見事な計略をいったいどのようにして思いついたのじゃ」

「は、閣下、じつはこの計略を、X で日本人から教えられたのです。なんでも日本では中居式と呼ばれている忍者の奇策とのこと」

「ほほう、それでは日本の関税をチイとばかり下げてやらねばなるまいな! ウワハハハハハ!」

「いかにも、ウヒヒヒヒヒヒ!」

「ウワハハハ、ウワハハハ、ウワッハハハハ…………」

と、大統領とイーロン・マスクが X(元ツイッター)でやり取りした記録が残されているという。

風刺・戯文

報じるメディア

「ネットを見ても、テレビを見ても、報じられていないことばかり……」 不安!
「どうしてこんな重大なことなのにマスゴミはスルーするんだ!」 イライラ!

日本のメディアの報じなさ加減にご不満が募るばかりの皆さん、朗報です!

日本初の「報じるメディア」が誕生!

これまで日本のメディアは報じないことばかりでしたが、「報じるメディア」は絶対に報じます。もう「日本のメディアが報じない」などとは言わせません!

【ご覧ください! 驚きの報じさ!】
《従来のメディア》
報じられたことと報じられないことの比率は、1対9000(当社調べ)

「報じるメディア」なら、この比率が逆転! 際立つ報じさ!

【それだけではない報じるメディアの素晴らしさ】
・気になる疑惑の溶け残りゼロ!
・増殖したマスゴミ菌を99%除菌!
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・ジメジメした社会でも抜群の消臭効果。匂わせません!
・論破成分増量で、爽快感が一日続く!

報じさなら「報じるメディア」! ぜひお試しください!

風刺・戯文

顔とジャーナリズム

日本のジャーナリズムの特色は顔への関心だろう。なんでもいいからニュースのトピックを見てほしい。

「女優の顔が激変」とか、「こんな顔だった?、と違和感続出」とか、「お顔がずば抜けてキレイ」とか、「可愛い表情に絶賛の声」とか、すべて顔のニュースばかりなのだ。

無論のこと、私たち人類は顔からさまざまな情報を得るように進化してきた。だから、顔のことばかりニュースにするジャーナリストたちは、じつはとっても科学的なのだ。

そして、科学的であれば、綿密な取材など不要なのが日本のジャーナリズムだ。なぜなら、すべて顔に書いてあるからだ。そんなわけで、日本の政治のニュースは、岸田さんのメガネとか、石破さんの暗い顔とかでいっぱいになってしまった。

我が国のジャーナリストは、顔のことに夢中なので、緊迫した海外情勢などあまり興味がない。これはとても残念なことだ。もし、これらの記者が世界を飛び回れば、私たちはゼレンスキーさんや習近平さんの顔についてもっと知ることができるだろうに。

もっとも、日本人のジャーナリスト団体は最近、宇宙に関心を示している。近いうち、「火星の人面岩、顔変わりすぎにネット衝撃」といったニュースが配信されるに違いない。

風刺・戯文

女性アシスタントの墓場

みなさん、不思議に思ったことはありませんか。テレビの女性アシスタントのことです。

メインの男性の脇に立ってボードを出したり、一歩下がって笑っていたりする女性たちです。アシスタント自体は不思議でもなんでもないのですが、しばらくぶりにその番組を見たりすると、私たちはいつの間にか別の女性アシスタントがメインの脇に立っているのに気がつくのです。

いったいあの女性はどこにいってしまったのだろう? その行方はまったくわかりません。もう二度とテレビで見かけることはないのです。そして、新たに入れ替わったアシスタントも、ちょっと目を離したすきに、別のと入れ替わっているのです。

こうやって次から次へと女性アシスタントは現れては消えしていくのですが、メインの男性はいつも同じです。年も取らないように見えます。「むしろ若返っているのでは?」と怖くすらなります。

それにしても、これらの女性アシスタントたちはいったいどこへいってしまうのでしょうか。

有力な情報はほとんどありません。お台場方面で「女性アシスタント捨て場」を見た、という人もいますし、富士の裾野で「女性アシスタント墓場」に迷い込んだという人もいます。また、大田区に女性アシスタントのリサイクルとメンテナンスを行う町工場があるなどと、まことしやかに語る人もいます。

まったく、デタラメもいいところですが、それでも、この日本のどこかで、捨てられた女性アシスタントたちがひっそりと生きているかと思うと、男のロマンがかき立てられますね。

風刺・戯文

裏切りのサイン

「野球選手やサッカー選手はどうしてあんなに不倫ばかりするのか、くだらない連中だ!」

そうお思いのあなた、それは勘違いというものですよ。彼らはなにもしたくて不倫をしているのではないのです。止むに止まれぬ事情からやっているに過ぎないのです。

どんな事情かと申しますと、みなさまお気づきでしょうか。スポーツ選手が不倫発覚報道で必ずこう言っていることを。

「家族を裏切ってすまなく思っている……」「支えてくれた妻を裏切ってしまった……」

なぜ野球選手やサッカー選手は一様に「裏切り」という言葉ばかり口にするのでしょうか。みんなそろってバカなのでしょうか。それともこの言葉に特別な意味があるのでしょうか?

そう、もうピーンときましたね。そうなんです。選手たちはわざとこの言葉を使って、メディアに報道させているのです。そうやって、あるメッセージを誰かに送っているのです。

どんなメッセージかと言いますと「裏切る用意はできている」ということです。

それだけではわからない? では「私はチームを」ときたらどうでしょうか。そうなのです、これは「自分はチームを裏切って移籍を考えている」という他のチームに向けたメッセージだったのです。

こんなこと大っぴらに言えませんよね。だから、スポーツ選手たちは、イヤイヤ女性をキャンプ地に誘って、祈るような思いでホテルの部屋を予約して、必死になってなんとか不倫を成立させて、その上で、マスコミを利用して、自分の移籍の意思をこっそりと伝達していたのです。まさに「裏切りのサイン」というべきでしょう。

「そんなのデタラメだ!」 そう反論される向きは、どうぞご自分でお調べください。不倫をした選手たちはことごとく、ほどなくして別のチームに移籍しているはずですから。

風刺・戯文

面白くなければ第三者委員会じゃない

フジテレビのバラエティ社長が記者会見で、日本弁護士連合会のガイドラインに基づかない第三者の弁護士を中心とした調査委員会を立ち上げる方針を示したとき、記者たちは激怒した。

「それで真相が明らかになるのか!」

「被害者が納得するか?」

「日弁連に失礼だ!」

激しい批判に慌てたフジテレビは、今日、改めて緊急記者会見を開き、日弁連のガイドラインに則った独立した第三者委員会の設置を明言することにした。

記者会見の会場も前回のようなちっちゃな用具部屋ではない。千葉の奥地の広大な土砂採取場だ。ここなら何百人だって入れるというわけ。オールドメディアも、ニューメディアも、オールドタイプも、ニュータイプも記者という記者がどっと押しかけた。

寒風吹き荒ぶなか、席もなく立たされる記者たちの前に司会が現れ、記者会見の開始を告げる。バラエティ社長の登場だ。なんと、その後には、百人ほどの人々がゾロゾロ歩いてくる。誰もが赤か白のジャージを着ているのが奇妙だ。記者たちはなにごとかといぶかりはじめる。

ここで、バラエティ社長、片手に持った拡声器を口に当てて声をかぎりに叫ぶ!

「面白くなければ第三者委員会じゃない! 紅白対抗! 弁護士だらけの大運動会!」

たちまち水着姿の美女たちが四方から駆け寄ってきて、黄色い声援をあげる!

司会「さあ、始まりました! 全国の面白弁護士たちが第三者委員会をかけて競い合うスポーツと法曹の笑いの祭典! いったい誰に第三者委員会の栄冠が輝くのか楽しみですねえ」

解説者「ええ、競技だけでなく、思わぬ守秘事項のポロリも見逃せませんよ!」

司会「そうそう! なお、勝者には副賞として『過払金の依頼者1年分』が贈呈されます。弁護士たちも熱く燃えております! さあ、選手宣誓です!」

ジャージ姿にゼッケンと弁護士バッジの選手が中央に立つ! 「私たち弁護士は! 日弁連のガイドラインにのっとり! 正々堂々と……!!!」

風刺・戯文

はしゃぎすぎ問題

2024 年の外国人観光客数が 3300 万人を超え、いつのまにか観光大国となっていたニッポン。訪日外国人の増加とともに、観光地や交通機関などでの迷惑行為が問題となっています。

文化の違いなどさまざまな原因が考えられますが、やはりもっとも大きな要因は「はしゃぎすぎ・調子に乗りすぎ」でしょう。

外国人観光客はそもそも、観光するため、遊ぶため、日常から飛び出てハメを外すために日本に来ているのですから、はしゃぎすぎたり、調子に乗ったりするのは無理もありません。ただ問題は、いつも通りの日常を生きる私たちにとっては迷惑だということです。

外国人観光客の迷惑行為については、この違いを理解した上で、対策を講ずることが肝要です。

さて、私たちもまた、旅行中は、はしゃぎ、調子に乗るわけですが、いったいどんなときに、しらけてシュンとしてしまうでしょうか。それはもちろん、仕事やら出勤やら支払いやらの日常のあれこれを思い出したときです。としますと、訪日外国人の「はしゃぎすぎ問題」も同じように「解決」できるのではないでしょうか。

ここで、中国人観光客を例にとってみましょう。中国からの観光客は 600 万人を超え、訪日観光客全体の約 2 割を占めますから、「はしゃぎすぎ」による迷惑行為もかなりの件数に及ぶと考えられます。

では、これらの中国人観光客を否応なく現実に引き戻し、「ああ、結局帰らねばならないのだ……」とドンヨリとさせるにはどうしたらいいでしょうか。

もっとも確実なのは、最高指導者の習近平さんの顔を見せることです。中国の方々はこの顔を見たら故国での日常を思い出さずにはいられないのです。いや、むしろ、「はしゃぎすぎ問題」も、この顔がないから起きてしまうのではないでしょうか。

となると、私たちがすべきことは、観光地のあちこちに習近平さんの肖像を飾り、シールにして電柱に貼ったりすることです。主要な駅に銅像を建てるのもいいかもしれません。観光地で習近平マスクを無料で配布したり、そっくりさんに活躍していただくのも、効果的でしょう。

以上、中国人観光客についてお話ししましたが、他の国からの観光客に対しても、それぞれに有効な手立てがあるかと思います。また、私たちも、海外旅行のさいには、外務省の海外安全ホームページの「はしゃぎすぎ危険情報」を事前に熟読し、エッフェル塔の前での迂闊なポーズ等せぬよう十分な注意を払いましょう。

風刺・戯文

AI タレント

AI が作り上げた AI タレントが、企業の広告や CM に起用され始めている。AI タレントならば、費用も安いし、スケジュールの調整も不要。撮影だっていらない。それに何よりありがたいのは、スキャンダルや不祥事というリスクがないことだ。

「今後、 AI タレント の活躍の場は、CM ばかりでなく、テレビにも広がって行くでしょうね」と語るのはテレビ業界関係者だ。その第一の理由は、やはり不祥事対策。生身のタレントは、同意のないものに目がないのだそうだ。

だが、AI タレントは、生身のタレントの存在感や個性、知名度の点ではるかに劣る。AI タレントが「育って」いけば、いずれは解決される問題かもしれないが、それなりの時間がかかりそうだ。

そこで、現在進められているのは、すでに鬼籍に入ったタレントたちを AI で蘇らせて、冠番組を持たせるというプラン。関係者によれば「結局、死んだタレントがいちばん安全なんですよ」ということだ。近いうち、『エンタツ・アチャコの行列のできる法律相談所』、『エノケン・ロッパのCDTV』『徹子の部屋』などが放送される予定とか。

もっとも、それでも存命の人気タレントにはかなわない、という意見もある。「もういっそのこと松ちゃんと中居くんを殺して、AI にしちゃおう、だなんて話でテレビ業界はもちきりですよ」と関係者は語っている。