風刺・戯文

見たい人だけ見ればいい

不品行と暴力と虐待によりテレビを追放された元芸能人たちが独自のネット配信サービスを始めたとき、私たちはこれは良くないことが起こる前兆だと思った。

「こうしたことは許すべきではない」 一部の人々がさっそく抗議した。

すると、崇拝者やお金持ちたちが嘲笑った。

「文句があるなら見なければいいんじゃない。見たい人だけ見ればいいんだから」

私たちはこれは絶対にまずい、とささやきあった。

配信がスタートすると、人々は夢中になった。どの番組も、楽しさと爆笑にあふれていた。やがて視聴者たちが叫び出した。「こんなにも素晴らしいものがこの国から奪われていたとは、なんという悲劇だ! マスゴミをのさばらせておくとロクなことにならない!」

お金持ちたちが配信サービスにお金を費やしていたのは、この声を聞くためだった。彼らは最後のひと押しとばかりに、マスコミを操る悪の組織を暴く番組を配信した。興奮した視聴者たちは叫んだ。「この国が乗っ取られようとしている!」「国を取り戻せ!」

そして、視聴者たちはマスコミや私たちに対してこんなことを言い出して攻撃を始めた。

「文句があるなら、この国にいなければいいんじゃない。いたい人だけがいればいいんだから」

もっとも、私たちは出ていくに及ばなかった。なぜなら、視聴者たちは、私たちを追い出すよりも楽な方法を思いついていたから……。

風刺・戯文

開示請求

かつてインターネットで私のことを中傷する人がいた。私はそうとうイヤな思いをしていたが、どうすることもできなかった。しかし、たまたまネットに詳しい人に知り合い、このことを相談すると、開示請求すればよい、と助言してくれた。

面倒くさいし、お金もかかりそう、と言うと、その人は、実際にしなくても、例えば「中傷を削除しないと開示請求する」という態度を相手に示すだけで、事態が収まることもある、と教えてくれた。そこで、私は「開示請求するぞ」ということが相手に伝わるようにしたところ、たちまち中傷は止んだのであった。

これは開示請求手続きが以前よりもずっと簡単になったためで、もし複雑な手続きが必要だったら、私の「脅し」も効果がなかったかもしれない。なんにせよ、人々が開示請求を深刻に捉えるようになったのはけっこうなことだ。

先日も、居酒屋でひとり飲んでいたら、隣で騒いでいた酔客に絡まれた。非常に不愉快だったので「開示請求するぞ」と言ったら、たちまち静かになった。また、最近困っているのは、職場の同僚が私になにかと意地悪してくることだ。いずれ開示請求をチラつかせて、とっちめてやるつもりだ。

風刺・戯文

練馬変態クラブの憤慨

練馬区の変態たちがつくる練馬変態クラブは、1974 年には活動をしていた変態市民団体の草分け的存在だ。月一回で行われる会合では、誰もが公式の衣装、つまりブリーフいっちょうで参加するのが決まりとなっている。集まると、会員たちは互いにブリーフを誇らしげに見せ合いながら元気よく叫ぶ。

「ぼくはライオン!」「ぼくはゴリラ!」「ぼくは象!」

ブリーフの正面真ん中には、それぞれお好みの動物の顔が描かれていて、その動物を報告する。これが、練馬変態クラブの決まりなのだ。だが、普段は明るい会員たちが近頃どうも落ち込み気味なのだという。

その原因は最近のニュース、小学校の教師たちが盗撮した児童の写真をネットで共有していたという報道にあった。会長のへんいちさんに話を伺うとこう答えてくれた。

「私たち変態が問題視しているのは、この見出しです。『変態教師グループ逮捕』 ひどいではありませんか。変態は犯罪者ではないのです」と会長は憤る。

「私たち変態も、この教師たちのしたことに怒っていることには変わりはありません。ただ、彼らは変態ではなく、犯罪者なのです。こうした書き方は、変態は犯罪だという誤解を与えます。私はメディアに問いたいです。教えてください。変態は、罪ですか? メディアの差別的な姿勢に断固抗議いたします」

練馬変態クラブは、抗議文を記したブリーフを履いてメディアに乗り込み、脱ぎたてを公式プレスブリーフとして報道関係者にじかに手渡す予定だ。

風刺・戯文

激白記事

《記事タイトル》
【激白研究者が激白激減の原因を激白!】

《記事の内容》
・本記事は「激白」を研究する研究者が発表した「激白が激減した原因を明らかにした論文」について報じたものである。
・「激白」とは、辞書によれば「ニュースなどで取材された人が衝撃的な内容を隠さずにうち明けること」とされる。
・「激白」を報じた記事を「激白記事」と呼ぶ。
・論文では、この「激白記事」の出現回数を過去 30 年に遡って調査。
・その結果、2010年代初めから「激白記事」が激減していることが明らかになった。
・論文によれば、激白が激減した理由について4つの仮説があるという。

(1) 記者のレベルが低くなったため、激白を引き出せなくなったという説。
(2) 激白はどこかダサい人がしている印象があるため「激白ダサい」とする風潮が広がったためという説。
(3) SNS や 動画配信の普及により、過激な発言が一般的になったため、ちょっとやそっとの発言では激白にならなくなった、という説。
(4) 激白の減少には炎上の増加が関係している、という説。

・「いずれにしても、現代ほど激白の困難な時代はないと言えそうである。」と記者はまとめる。

《関連記事》
【激白研究者があの激白研究の捏造を激白!】

小説

切り取りの怪物(3)

切り取り報道をつなぎ合わせてできた怪物は、フラフラと街を歩きだした。まわりでは人々が悲鳴をあげ、罵り、嘔吐していた。彼の歩む道の先には線路があり、何本もの電車がけたたましい音を立てて、猛スピードで行き来していた。山手線、京浜東北線、東海道新幹線、西武新宿線、目蒲線……。

彼はまるで吸い寄せられるように線路に近づき、鉄柵をよじ登り、その上に立った。もはやひとつのことしか考えられなかった。轢き殺されてバラバラになって、もとの切り取り報道に戻ろうと、彼は突進する電車に身を投げた。

そのとき、あたたかい光が彼を包んだ。その光はふわりと線路から運び去り、安全なところに着地させた。そして、さらに驚くべきことが起きた。怪物の身体中にある切り取り報道のツギハギが、すっかり消えてしまったのだ。怪物はもはや醜くなかった。その肌はスベスベで、光り輝いていた。首に刺さっていたペンもポトリと落ちて、彼の足元に転がった。

光の中から、不思議な声が聞こえた。「私はファクトチェック機関のスタッフだ……切り取りだというお前の体の報道をひとつひとつファクトチェックしたところ、ぜんぜん切り取りではないことが確認できた……」

「フンガー!」 歓喜の叫びがその口から響き渡った。

そして今、人間となった彼は、愚かな保守政治家たちの歴史修正発言に目を光らせ、新聞をチョキチョキ切り刻んで、スクラップする毎日だ。(おわり)

小説

切り取りの怪物(2)

「フンガー!」

広い世界に飛び出した怪物は叫んだが、その声にはどこか物寂しげな響きがあった。なぜなら、怪物は、恐ろしげな外見とは逆に、純粋で美しい心の持ち主だったからだ。いや、そんな見た目だったからこそ、心がいっそう清らかになったのかもしれぬ。

そんな心美しい彼をもっとも苦しめたのは、出会う人出会う人、彼を見るや悲鳴をあげて逃げていくことだった。

彼は思わず醜い自分を呪った。「フンガー!」

そのときだ、耳をつんざくような叫び声が彼の耳に飛び込んできた。ハッと見ると、自動車が今にも子どもの列に突っ込もうとしているのだ。怪物は我を忘れて車の前に身を投げ、その車体を跳ね飛ばした。あわやというところで、子どもたちの命を救ったのだった*。

だが、なんということだろうか。子どもやその親たちは、怪物に感謝するどころか、ツギハギだらけのその姿に悲鳴をあげ、拳をあげて憎悪をむき出しにしたのだ。

「フンガー!」 怪物は絶望の呻き声をあげた。ああ、切り取り報道から生まれた存在に、この世の居場所などあるものだろうか?

(*怪物のいる前で、都合よくこんな事故が起きるなど、できすぎた話だと思う人もいるかもしれない。だが、我が国の車は子どもの列と見ると突進せずにはいられないのだから、こんなことは実にありふれた出来事なのだ。こうした事故を根絶したいのならば、もっとアメリカ車を輸入すべきだろう。)

小説

切り取りの怪物(1)

マスゴミどもの切り取り報道により、謝罪と辞職に追い込まれた元国会議員が、故郷の自宅の広大な敷地に秘密のラボラトリーを建設した。彼はそこで、狂気の実験を繰り返した末、恐るべき怪物を作り上げたのだった。

その怪物は今、全身ツギハギだらけという醜い姿で、巨大なベッドに横たわっていた。いかつい首の左右からは、マスゴミのペンが突き出している。元国会議員は唇を歪めて笑った。「フハハ、普通の人ならば一目見ただけで、そのおぞましさに気絶してしまうだろう!」

元国会議員はベッドの脇に設置されたレバーに手をかけた。「切り取り報道をつなぎ合わせて創造された我がモンスターよ!」 彼は、レバーを押し下げながら叫んだ。「目覚めよ!」

たちまち凄まじい閃光がほとばしり、その巨大な体躯が痙攣した。怪物はゆっくりと目を開けると上半身を持ち上げ、この世のものとも思えぬ恐ろしい叫びをあげた。元国会議員の声が響き渡った。「行け! お前を切り刻んだマスゴミどもを血祭りに上げ、恨みを晴らすのだ!」

「フンガー!」

モンスターは地響きを上げながら立ち上がり、ラボの壁を拳で打った。たちまち粉々に砕け散り、ぽっかりと穴が空く。そこから怪物は外へと出ていった。

風刺・戯文

秘密の万博

ジャーナリストどもってのは心の歪んだ人々で、批判したり、けなしたりすることしかできない。私たちの万博だって、始まる前からさんざん文句を言うので、私たちはもうイヤになってしまった。

そこで私たちの為政者はついにこんなルールを定めた。万博に来場する人は絶対に万博のことを話してはいけない、と。写真も動画も配信も、ノーだ。これも卑しいジャーナリストどもから万博を守るための苦渋の決断だ。

そんなわけで万博が始まったが、私たちはそこで何が行われているのかまったく知らない。これはとても誇らしいことではないだろうか。規律正しい日本人だからこそできるのだ。それに知らなくてもまったく問題はない。私たちは素晴らしい万博がこの国のどこかで開催されているということだけでもう満足なのだ。

もっともジャーナリストというのは人間のクズだから、それでもあることないこと書き立てる。「万博の中は完璧な報道統制が敷かれているので、不倫好きな芸能人と野球選手がこぞって訪れている、なぜなら絶対に写真に撮られないからだ」だと。バカバカしいにもほどがある。

それどころか、マスコミがいないのをいいことに、悪人がやりたい放題だなんていってる。やりたい放題なのは、マスゴミさんではありませんか?

それに、こんな噂まで流してる。

「万博内に強制収容所とガス室が建設されて、毎日数十万人の外国人が殺害されている」

呆れるを通り越して腹立たしいばかり。私たちの素晴らしい万博を汚すこうした連中を、ガス室送りにする方法はないものだろうか?

風刺・戯文

地獄

一流の人はみな人格者ばかりだ。いや、心がやさしく、人間的にも優れているからこそ、トップの座にのぼりつめたといっていい。

そして、二流三流、その下の下流はといえば、卑しく、悪どい連中ばかりだ。というのも、もしもこれらの輩に、ほんのかけらでも徳というものがあれば、そんな底辺で燻っているはずなどないのだ。

下流の人々は妬みでいっぱいだ。「一流の人間が名声も、富も、才能もすべて独占してしまうなどずるいではないか」 そこで、一流の人間が失敗するようにいつも呪いをかけている。

この呪いがけっこう効くのだ。一流の人々が、パワハラ、セクハラ、性暴力などで落ちぶれていくのはこのせいだ。一流の人々は人格者なのだから、そんなことをするはずがないのに、こんなことが起こるとは、下流の人間たちの呪い以外ないではないか。

下流の人々は「自分たちは社会正義を実現した」と公言して憚らない。

そこである人が、下流の人々にこう尋ねた。「社会正義というけれど、その実現のために、女性たちがパワハラや性暴力に苦しまねばならないとは、理不尽ではないのか」

すると、下流の人々はこう答えた。「ええ、ですので、私たちは女ばかりでなく、男も性暴力の被害に遭うように、バランスを心がけています」

すでに地獄になったのか、とその人は感心したそうだ。

小説

異界のテレビ(2)

見ると画面で日本人たちが話している。それはドラマのようだったが、見覚えのないものだった。ちょうど最後のシーンのようで、やがて、エンディング曲が流れ出した。そして、また別の日本語のドラマが始まった。ということは、これは外国の放送に日本のドラマの断片がたまたま映し出されたのではなく、日本のテレビ放送だということだ。

その次に放送された30分ドラマも彼の知らないものだったが、徐々にある疑いが頭をもたげてきた。そして、続いてやはり見たことのない映画が始まった。タイトルの後に監督の名が映し出されたとき、彼の疑いはある確信へと変わった。その監督はいつだったか性暴行で逮捕され、業界から追放され、その作品はすべて上映不可能となったのだった。やはりそうなのだ。その前のドラマも、前の前のドラマも思い当たりがあった。このチャンネルでは、すべてなんらかの不祥事によりお蔵入りとなった作品が放送されているのだ。

映画が終わり、今度はアニメが放送された。その次はまたドラマだった。いずれもメディアを騒がせた「お蔵入り作品」ばかりだった。ふと気がつくと、いつの間にか夜が白み始めている。もう空港に向かわなければならない時間だった。彼はテレビをつけっぱなしにして身支度を済ませ、スーツケースを持った。だが、どうしたわけか、彼はテレビを消すことができなかった。ホテルならそれくらい許されると思っていたのかもしれないし、もしかしたらある予感があったのかもしれない。

そしてとうとう、テレビをつけたまま、ドアを開け、部屋から一歩踏み出した。その瞬間、彼の背後で日本語が別の番組の始まりを告げた。

「さあ、今日から……まりました、……っちゃんと……いくんが生放送でお……するニュー……ラエティ、司会はこの私……しま……がさせていただき……」

彼が画面を見ようと振り向いたとき、ドアがけたたましい音を立てて閉まった。そして、しんと静まり返る廊下を彼はふらふらと歩み出した。

「たぶん疲れてたんだ、って考えるのが普通だね。けどさ、ときどき思うんだ、あれはもしかしたら夢じゃなかったんじゃないかって……」と、この話をしてくれた彼は身震いしてみせるのであった。