風刺・戯文

和ステナブル

世界でも日本人だけが、虫の音を味わいのある音として聞き取ることができるということは、古くから知られていますね。これは日本人だけが持つ特殊な脳の構造によるものなのだそうです。

日本人独特のこの脳の構造に、またまた世界でも稀な新たな現象が発生していることが、最近の研究で明らかになりました。日本人ならではの斥力です。

具体的な科学的プロセスは次のようなものです。

日本人が「外国人」と聞くと、脳内に斥力が生まれます。この斥力は脳内に位置する理性や思いやりを弾き飛ばそうとします。ですが、脳は頭蓋骨で保護されているから、実際には分離することはできません。すると、行き場を失った斥力が熱に変換され、日本人の脳内がカッカし始めのです。

脳は高温には耐えられませんから、熱を外に逃がそうとします。熱は、頭蓋骨から首を経て放出され、末梢部、つまり指先に流れ込みます。この熱によって指が自然に動き出すのです。もしこのとき、指の下にキーボードを置くと、タイピング運動と呼ばれる現象が観察されます。素晴らしいヘイトスピーチが X(元 Twitter)やヤフコメへと拡散されていくのです。

日本ならではのこの自然現象に関心をもったある科学者が、このプロセスを代替エネルギーとして使えないかと研究をはじめました。そして今日、ついに大規模な実証実験が都内で行われました。

広大なホールに、机と椅子とが並べられ、そのひとつひとつに日本人が着座しています。日本人の手元にはキーボードが置かれ、そのキーボードからはケーブルが伸びています。すべてのキーボードのケーブルは、ホールの中央の装置に集められ、その装置の上には豆電球がひとつ置いてあります。

実験が始まりました。ホールに設置されたスピーカーから、外国人犯罪のニュースを読み上げる声が朗々と聞こえてきます。日本人たちはじっと耳を傾けています。このとき生じている脳内の変化は観察することはできませんが、次第に日本人たちの顔が赤くなってきたのがわかります。カッカしているのです。

そして、ついにタイピング運動が始まりました。みな思い思いのヘイト発言を、慣れた指遣いで手元のキーボードに入力しています。

カチカチカチカチ! カチカチカチカチ!

それぞれのタイピングによって生まれた微弱な電流が、ケーブルを通じて中央の装置に流れ込みます。

「や、点いた! 豆電球が! 成功だ!」

日本人独特の斥力が、実用可能でクリーンなエネルギーへと変換された瞬間でした。

サステナブルなエネルギーの実現するサステナブルな社会、もうそこまできてますよ。

風刺・戯文

フローレス原人

今日、人類学の泰斗、ジェイムズ・シェルドン博士が来日した。博士は、フローレス原人(ホモ・フロレシエンシス)研究の世界的権威として知られる。

フローレス原人とは、インドネシアのフローレス島で化石が発見された小型の人類だ。推定によれば、身長は1メートル余りだったとされ、その発見は世界を驚かせた。

フローレス原人をめぐる最大の謎は、もともと小型の人類であったのか、それとも現生人類と同じサイズだったのが、フローレス島という特殊な環境により小型化したのか、という問題だ。後者の小型化説を主張するもっとも有力な研究者であるシェルドン博士は、都内のスーパーやコンビニを巡って、さらなる証拠集めを行う計画だ。

「ほら、見てください」とコンビニを訪問した博士は商品棚からシュークリームを取り上げる。「私は、約10年前にも来日したのですが、その頃より半分の大きさになっています。さらに(と精算前のシュークリームを半分に割る)内部のカスタードクリームは半分どころか3分の1になっているのです。もちろん、これだけではありません。ピザ、ドーナツ、パン、あらゆる食品がそうなっているのです」

博士は精算前のシュークリームに齧りつくと顔をしかめながら話を続けた。

「もし、経済的衰退により、商品の小型化が進み、それを摂取する日本人も環境の変化に適応して小型化しているとしたら、フローレス原人にも同じことが起きた可能性があるといえないでしょうか」

博士は今後、都内のコンビニやスーパーの店内に生息する日本人を捕捉し、体長の測定を実施する予定だ。

苦い文学

運び屋

ビルマの民族のうちのひとつ、カレン人の友人とタイに行くことになった。

訪問先は、タイ・ビルマ国境のカレン人地域だ。ビルマ国内の戦争の結果、逃げてきた人々で、難民キャンプで暮らしている人、在留外国人として働いている人、タイ市民として暮らしている人などさまざまだ。

私の友人は在日カレン人コミュニティのリーダーのひとりで、国境の同胞に日本からささやかな支援金や贈り物を届ける、というのが今回の訪問の目的のひとつだ。

つまり、普通の旅よりも荷物が多くなるわけだが、今回の飛行機は預け手荷物がひとり20キロまでだ。それで、友人は10キロほど私に頼んできた。

タイ往復の航空券代を払ってもらっている身だ。運び屋を断ることなどできない。

もっともヤバいものなどなにもない。カレン人団体のロゴが入ったTシャツと日本製の柄物の生地だ。

Tシャツはみんなに配るためで、生地は女性の伝統的な腰巻き用だ。これは日暮里の繊維街で買ったもので、ビルマの女性へのお土産として人気の品だ。

さて、私は自分の物と合わせて20キロになるようにパッキングしたが、空港のチェックインで24キロであることが明らかになった。

私は緊張してカウンターの人の反応をうかがう。なにも言わない。「よかった、そのまま通してくれる」と思いきや、フェイントで「追加料金8000円です」ときた。

あわててバッグから自分の本やらなんやら重たいものを取り出してパスした。運び屋稼業も楽じゃない。

苦い文学

異次元の少子化対策

現代日本の問題は、少子高齢化とそれにともなう労働力の減少である。

労働力に関しては、我が国では移民でカバーする政策が取られている(もっとも日本に移民はいないことになっているが)。新型コロナの水際対策が緩和されたことも相まって、外国人労働者は約 182 万人に達し、2007 以降最大となった。

国外から労働者を連れてくることには、批判も根強い。人権侵害、不当な労働環境、外国人差別などがしばしば報じられている。

また、外国人の急増は、日本の社会にも変化を引き起こさずにはいない。その反動としてゼノフォビアが高まり、ヘイトクライムも発生する。

しかしながら、現在の日本にとって外国人労働力は不可欠なものであるから、さまざまな社会的な問題も、粘り強い取り組みがあれば、いずれは解消されていくであろう。

いっぽう、問題の根本たる少子化問題についてだが、日本政府はこれについて「異次元の少子化対策」を先日発表した。

異次元から子どもを連れてくるとはどういうことだろうか。外国から労働者というのとはわけが違うのだ。

異次元にルーツを持つ子どもたちが我が国にどんな禍々しい災厄をもたらすか、そんなことも考えたことがないのだろうか。

あまりに政治家が使いすぎるので、日本人は「異次元」に麻痺してしまっているのではないか。それは良いものなどではない。ただただ冷たく邪悪なものなのだ。

岸田首相には、ぜひラヴクラフトの「異次元の色彩」を熟読した上で、この恐るべきクトゥルー的少子化対策をすみやかに撤回していただきたい。

苦い文学

亡者の収集

清の時代、山西の陽曲県に陶晶明という高慢な男がいた。

あるとき、陶は生ゴミとペットボトルを一緒の袋に入れて、燃えるゴミの日に出した。しかし、ゴミ収集作業員はこれを回収することなく去った。陶は怒って言った。「世の中にゴミ収集人ほど気難しい連中はいない。ちょっと余計なものが入っているだけで持っていかないのだから」

陶はその夜、急に不快を覚え、横になったかと思うとそのまま死んでしまった。

亡者となった陶は、気がつくと道端に座っていた。まわりにはたくさんの亡者がいてやはり彼と同じように座っている。

そこに荷車を引いた鬼卒が二人現れた。鬼卒たちは「さあ地獄で燃やすゴミの回収だ」というと、道端に座る亡者を掴むや、次々と荷台に放り込みはじめた。陶はこの恐ろしい光景に肝も潰れんばかりだった。

やがて鬼の手が陶の首根っこに伸びた。そのとき、別の鬼が言った。「おい、こいつは回収できないぞ」

鬼は陶の腹を割き、中をのぞき込んだ。すると、そこにはペットボトルが入っていた。

「ちゃんと分別していないのではダメだ」と鬼は言い、残りの亡者を荷台に積むと陶を置き去りにして行ってしまった。

陶が息を吹き返したのは、彼の葬儀の最中であった。人々は陶の蘇生に驚き、冥界でのできごとを聞くともっと驚いた。

このできごとの後、陶はゴミの分別とごみ捨て日をしっかり守るようになり、ゴミ収集作業員に文句を言うこともなくなったということだ。