ライブ

ニガミ17才@渋谷 CLUB QUATTRO

今も読まれているかどうかはわからないが、子どものころ、私はロックスター語録を愛読したものだった。そのうちのひとつの『ミック・ジャガー語録』に彼の発言としてこんなことが書いてあった。

「ボブ・ディランだって、真面目な歌を歌い終わったあとに『なんちゃって』って付け加えてるかもしれないんだぜ!」

私は、七月十七日、ニガミ17才の全国ツアーファイナルに行って、そんな言葉を思い出した。もっとも、ボーカルとギターの岩下優介さんは、一曲歌い終わった後に「なんちゃって」するのではなかった。ギターを弾いているときでも、歌っているときでも、客に話しかけているときでも、真面目な顔の後に必ずイタズラっぽい、あるいは照れたような表情が現れる。それは、真剣になりすぎないようにストップをかけているのかもしれないし、逆に真剣さを押し退けて「なんちゃって」が出てきてしまうのかもしれないが、いずれにせよそれは、観客たちに向けた、真面目に受け取らず、楽しんでいいんだ、という合図として機能していた。

その実例にふさわしい出来事が、ライブの初めにあった。メンバーの登場から最初の曲に移る演出のところで、しくじってやり直し、しかもそのやり直しもうまくいかなかった。だが、この過程自体が、そもそもの演出であったかのように見えるほど自然で、私は今も、これが真面目なことなのか「なんちゃって」なのかわからない。そのわからなさこそ本質的で、真剣さとふざけの間の境界の上をうまく微調整しながら歩いてみせるのが、このバンドのもっとも真剣なところだ。

ツアーファイナルということで「最高の夜にしよう」というMCがあったが、私は最高の夜がよくわからないし、そんなものがあるとは信じてもいないが、「これはライブで味わえる最高の瞬間だ」と言える瞬間は間違いなくあったので、最高の夜だったと言えるかもしれない。なんちゃって。

小説

【今日の講話】お盆の物語

今日は、お集まりの皆さんに、お盆にちなんだお話をいたしましょう。

ある裕福な男が夢を見たということです。見ると、亡くなった両親が地獄で苦しんでいます。燃え盛る炎が、二人の体を焼き、食べ物も水も口に近づけるや炎と消えてしまうのでした。

男は駆け寄って助けようとしましたが、見えない壁に隔てられて近づけません。男は絶望して、泣くばかりです。

そのとき、仏様がやってくるのが見えました。男は仏様の足元に身を投げ、苦しんでいる両親を助けるにはどうしたらよいか涙ながらに尋ねました。

「男よ」と仏様は言いました。「目が覚めたら、貧しい人々のために働きなさい。それがお前の両親を救うであろう」

男は朝、起きるや否や、街に出て、貧しい人々に施しをはじめました。飢えた人々には食べ物を与え、家のない人々には住むところを世話し、親のいない子どもには安心して勉強できる場所をつくりました。

そして、善行の一日が終わると、男は再び眠りにつきました。

夢の中で、男は両親が楽しげに暮らしているのを見ました。火炎地獄とうってかわって、そこは穏やかな光に包まれ、涼しく爽やかな風がそよそよと吹いていました。

両親は男を見ると、感謝に手を合わせます。男は言いました。

「お父さま、お母さま、もうすぐお盆でございます。お盆には、亡くなった方々がこの世に戻ってくるとのことです。今年のお盆には、供え物でおもてなしいたしますので、ぜひおいでください」

すると両親は言いました。「いいや、わしらはここにいるよ」

「それはまたどうして」と、驚く男にこう両親は答えました。

「お盆の日本は地獄より暑いからの……」

苦い文学

オーバーステイ山

昔、日本に外国人のきらいな殿様がいました。日本に外国人が増えすぎたのがどうにも気に食わなくなって、こんなお触れを出したのでした。

「ビザの切れた外国人は山に捨てること」

そこで人々は「これでまた人手不足だ」とかブツクサ言いながら、外国人を山に捨てたのでした。ですが、都内で小さな工場を営む社長は、長い間勤めてくれた外国人従業員を捨てることができず、工場の地下に部屋を作って、不法滞在となった外国人をこっそり匿ったのでした。

さて、日本では、何年も前から子どもが生まれなくなって、みんな困っていました。殿様は出生率を上げようといろいろなお触れを出したり、子どもが生まれた家の年貢を免除したりしましたが、なかなかうまくいきません。殿様はすっかり困ってしまい、国中にお触れを出して、良いアイディアのある者を急募したのでした。

社長が地下室の外国人にお触れの内容について話すと、外国人はこう言いました。

「子どもを増やすためには、女性や子ども、外国人などの弱い者にいやなものを押しつけたり、弱い者いじめを楽しむマインドセットを日本人が変えなくてはなりません。いったいいじめられるとわかっているのに生まれてくるバカがいるものでしょうか。日本人の考えが変わらなければ、子どもは絶対に増えないでしょう」

社長は、これはいい考えだとさっそく殿様のところに行って話しました。

すると殿様は「これはひどい反日思想だ。インチキ日本人め」と怒り出し、社長をオーバーステイ山に連行し、捨ててしまいました。

苦い文学

表と裏

表だか裏だかわからないという話をさせてほしい。

非常に孤独な男がいた。だれひとり寄りつくこともなく、何年もひとりぼっちで過ごしてきたのだ。おそらく性格もあるのだろう。

あまりにひとりぼっちだったので、彼のところに若い男女が入れ替わり立ち替わりやってきて、体を激しくまさぐりあうようになったほどだ。ひと気のない場所だと思われたのだ。

その程度ならまだしも、やがて不審な人々もやってくるようになった。ひと気のない場所は、悪事を働くにもうってつけだったのだ。

犯罪者たちは、彼の目の前でありとあらゆる凶行を繰り広げた。その恐ろしさもさることながら、自分が孤独なせいでこんなむごたらしい犯罪が行われているかと思うと、彼は道義的責任も感じずにはいられなかった。

そこで、彼は一計を案じた。彫り師に頼んで、背中に大きくこう彫ってもらったのだ。

「警察官立寄所」

これではさしもの悪人たちも逃げ出さざるをえなかった。ようやく平穏な生活をとりもどした彼であるが、それでもたまに ATM だと間違えてやってくる人はいる。

それはさておき、背中に「警察官立寄所」の刺青がある人がいるとしたら、その人は、裏の人間だろうか。それとも表の人間だろうか。

表だか裏だか、どっちだか……

苦い文学

マッサージ

以前、中国の雲南省で行われたカチン民族の祭りに行った帰り、私は在日カチン人ともう一人の日本人とで、ホテルに泊まった。

そのカチン人は中国語も話せる。ホテルのフロントには若い女性がいて、チェックインのとき、彼女にこう聞いた。

「このあたりにマッサージ店はないか」

私は彼とビルマとタイにも一緒に行ったことがあるが、彼はいつもマッサージを頼む。日本のマッサージは高いので、これが彼の楽しみの一つなのだ。

だが、受付の返事は「ない」。

「そんなはずはない」としつこく食い下がるが「ない」の一点張りだ。もしかしたら性的なマッサージと勘違いしていたのかもしれない。それか、共産党が急にマッサージ禁止のお触れ書きを出したか、だ。結局彼は諦め、我々は与えられた鍵を持ってばらばらに部屋に落ち着いた。

すると緊急事態が起きた。何かは今は書かないが、私はどうしてもこのカチン人と話をしなくてはならなくなった。一刻を争うのだ。だが、彼の部屋がどこにあるかわからなかった。

私は急いで受付に行った。中国語ができない私は、先ほどの若い女性に中国語らしき漢字をいくつも書いて、必死に伝えようとした。

彼女も困った様子で私の相手をしていたが、やがてピーンときた顔をした。そして彼女は、「お前が探しているのはこれだな!」と言わんばかりの顔つきで、パソコンに入力した文字を見せた。

[按摩(アンモー)]

「ちがう! アンモーちがう!」と私は絶句したが、逆に笑ってしまった。