旅・観察

フティーラ(チュニジアの揚げパン)

チュニジアのパンのことについて書いてきたからには、フティーラのことも取り上げなければなるまい。

フティーラとは、丸くて平たい揚げパンだ。丸めた生地を薄くして、油の入った大鍋で揚げて作る。ピザのようにフチは厚いが、内側はパリパリに揚がっている。

お店の人は、目の前で生地を広げて鍋に放り入れる。そのときにちょっと回転させるのがコツのようだ。それから油に浮いた生地を、カギのついた棒でクルクル回したり、ひっくり返したりする。すぐに揚がり、油を切ってできあがりだ。私はハチミツをたっぷりかけるフティーラが好きで、これしか食べない。卵入りもあって、フティーラの中央のくぼみに卵を割り入れて一緒に揚げる。たぶんおいしいのではないかと思う。

フティーラも、前に書いたラブラービーと同じく朝の食べ物だ。朝、お店に行くと、出勤前の人や、揚げたてを紙に包んで持ち帰る人たちでにぎわっている。

チュニジアの民話にもフティーラの店が出てくる。以下は、召使いが、異国で落ちぶれたご主人を探す場面だ。

「その国に着くと、召使いは旅の宿に、馬を預け、あらゆる市場、あらゆる通り、あらゆる小路を一日中歩いて回った。一日、二日経ち、三日目、フティーラ屋に入ってフティーラを食べようとしたとき、自分のご主人がかまどで薪をくべているのを見かけた。まさにご本人、ボロ切れをまとって、汗まみれで、炎に顔を舐められながら働いているのだった」

もちろん、ガスの普及した現代では、このような危険な労働環境はありえない。安心してフティーラを召し上がっていただきたい。

(写真:揚げたてのフティーラ、チュニス)

苦い文学

切り取りの怪物(1)

マスゴミどもの切り取り報道により、謝罪と辞職に追い込まれた元国会議員が、故郷の自宅の広大な敷地に秘密のラボラトリーを建設した。彼はそこで、狂気の実験を繰り返した末、恐るべき怪物を作り上げたのだった。

その怪物は今、全身ツギハギだらけという醜い姿で、巨大なベッドに横たわっていた。いかつい首の左右からは、マスゴミのペンが突き出している。元国会議員は唇を歪めて笑った。「フハハ、普通の人ならば一目見ただけで、そのおぞましさに気絶してしまうだろう!」

元国会議員はベッドの脇に設置されたレバーに手をかけた。「切り取り報道をつなぎ合わせて創造された我がモンスターよ!」 彼は、レバーを押し下げながら叫んだ。「目覚めよ!」

たちまち凄まじい閃光がほとばしり、その巨大な体躯が痙攣した。怪物はゆっくりと目を開けると上半身を持ち上げ、この世のものとも思えぬ恐ろしい叫びをあげた。元国会議員の声が響き渡った。「行け! お前を切り刻んだマスゴミどもを血祭りに上げ、恨みを晴らすのだ!」

「フンガー!」

モンスターは地響きを上げながら立ち上がり、ラボの壁を拳で打った。たちまち粉々に砕け散り、ぽっかりと穴が空く。そこから怪物は外へと出ていった。

苦い文学

箱根神社(箱根の旅2)

大涌谷の次は箱根神社に行った。ここでなんといっても有名なのは芦ノ湖に迫り出した鳥居だ。

赤い鳥居の中央に立ち、青空と湖を背景にして記念写真を撮るという絶好の映えスポットで、ものすごい行列ができていた。外国人観光客もたくさんだ。

神社の駐車場も観光バスでいっぱいで、次から次へと外国人が降りてくる。なかにひどく古びたバスがあって、そこから降りてきた人々が、小旗を掲げるガイドについて移動しはじめた。どうやら日本人観光客のようだった。外国人観光客に押され気味の昨今、このような古き良き日本人ツアー客がいることに、私はうれしくなって近づいた。

「ここは箱根屈指の観光地でたくさんの外国人観光客がいますよ」とガイドが話している。「あそこをご覧ください。あれはイタリアからの観光客のようですね」

すると、ガイドの周りにいる観光客は「ほほう」とか「あれが!」とか感心している。

ガイドはまた別の方向を指差した。「あっ、お静かに! あそこにいるのはインドからの観光客のようですよ。女性はキレイなサリーをお召しになっていますね。よーく見てください。額にビンディと呼ばれる点の飾りがあるのがご覧いただけますでしょうか!」

「見えた見えた!」「はあ、きれいなものですね」と観光客。ガイドはさらに、ドイツ人のスポーティな姿や、インドネシア女性のヒジャブを観光客に指し示すのだった。

私は思わず観光客のひとりに尋ねた。「みなさんはなにをしていらっしゃるのでしょうか」

「ああ、私たちは外人観光ツアーに参加しているのです。たくさんの外人が日本にやってきているので、私たちはその外人を見物に来たというわけです。今日はお天気にも恵まれて、外人観光にはうってつけですよ!」

と、そのとき背後からざわざわと声が聞こえた。見れば、外国人観光客一行がこちらに向かってくるところだった。

苦い文学

女たちは怒っている

街を歩いていたらデモ隊にでくわした。手に掲げたプラカードにはこんなふうに書かれている。

「女たちは怒っているぞ!」 「女に対する差別を許すな!」

私も性差別の問題に対しては関心を持っているから、応援する気持ちで見つめていると、別の方向から新たなデモ隊が合流してきた。やはり同じようにプラカードを掲げていたがこんなふうに書かれていた。

「男たちは怒っているぞ!」 「男に対する差別を許すな!」

いわゆる「逆差別」の問題も扱っているのかな、と思って見ていると、デモ隊は新たなプラカードを掲げた。

「女たちと男たちは怒っているぞ!」 「女と男に対する差別を許すな!」

「女と男に対する差別」? 私はやや混乱し、デモ隊の後方にいる人に近づいて尋ねた。

「これは一体どんなデモ活動ですか? 女と男に対する差別とは?」

その人は私に「このニュースを見てください!」とチラシを見せた。

《刃物男を取り押さえ けが人も》
6日午後11時40分ごろ、駅ホームで「男が暴れている」と110番があった。男ははさみを持っており、警察は男の身柄を押さえ、保護した。現場に居合わせた若い男性が手に軽いけがをしており、男がはさみで切り付けたとみて、傷害容疑なども視野に男から事情を聴く方針。

《20億円以上だまし取っていた詐欺グループの女逮捕》
架空の投資をもちかけ、20億円以上をだまし取っていた詐欺グループの女が逮捕された。女は、自営業の女性に、うその投資メールを送るなどして、およそ200万円をだまし取った事件に関与した疑いが持たれている。

その人は憤まんやるかたないという表情で語った。

「ひどいもんではありませんか! どうして女と男はいつも犯罪者なのです? いったい女性と男性とどう違うのです? 『もう我慢できない!』と全国の女と男が立ち上がったのです!」

苦い文学

地頭理論

「地頭がいい」という意味で使われる「地頭(じあたま)」がいつから使われ始めたのかわからないが、辞書でひくと「かつらなどをかぶらないそのままの毛髪の頭」という意味しかないから、それほど古い言葉ではないのだろう。

「地頭がいい」というのは「生まれついての頭のよさ」という意味で使われているようだ。

それはすなわち「頭がいい」ということなのではないかと思うのだが、「地頭がいい」もかなり聞かれる。

(これはひとつには「頭がいい」が必ずしもほめ言葉ではないことにもよろう。つまり「あの人は頭がいい」は場合によっては「あの人はずる賢い」という意味にもなる。)

どうしてこの言い回しが普及しているのかについて、私なりに考えてみたのだが、「地頭がいい」という言葉を使う人は、(それを意識しているかしていないかは別として)ある「特定の見解」を共通して持っているのではないか、と思うようになった。

「地頭理論」というのはこの「特定の見解」について私が名づけた名称である。

この「地頭理論」がいかなるものかというと、それは次の3つの特色ある見解から成り立っている。

「地頭理論」の3大特徴
①地頭万能主義:地頭がよければなんでも可能という考え。
②教育無能主義:地頭のよさは教育とは関係なく、ゆえに教育は意味がないという考え。
③地頭至上主義:勉強とか研究とか学校でなされるすべてのことは、地頭の良さに劣るという考え。

この「地頭理論」はあるひとつの方向へとその信奉者を導いていくのだが、それについてはまた別に書きたい。

散文

ガールズバーで飲みたい放題(2)

 「飲みたい放題」について考え続けた私は、ついに重要なヒントたどり着いた。

 それは、「〜し放題」が場所・状況についていわれるのに対して、「〜たい放題」は、常に人についていわれるということだ。

 つまり、「あの人は病気なのにいつでも飲みたい放題だ」とはいえるが「あの人は病気なのにいつでも飲み放題だ」はおかしい。これだとその人が飲み物になってしまう。

 「飲み放題」は、「この店は飲み放題」「このコースは飲み放題だ」などというように店やサービスについてにしか使えないのだ。「1000円で飲み放題」ということもあるが、これもやはりサービスであろう。

 そして、先に挙げた「あの人は病気なのにいつでも飲み放題だ」も、実は「あの人は病気なのにいつでも飲み放題コースを選ぶ」という意味ならいえるのだ。

 これで、あの看板の違和感も説明できそうだ。

 つまり、本来は人に使うべき「飲みたい放題」が、あたかも店を表す表現であるかのように看板で使われているから、おかしく感じられるのだ。

 それでは、この看板の「飲みたい放題」は間違いなのだろうか。

 そうとは言い切れない。

 考えてみれば、ガールズバーは普通の居酒屋とは違う。もしかしたら、このガールズバーのガールズたちは「居酒屋ほど堂々たる飲み放題ではないけど、お客様の気持ちを満たせるようなせめてもの「飲み放題」を提供したい」という奥ゆかしさから、この耳新しい表現を採用したのかもしれない。

 この推測は正しいだろうか。

 それを知るためには、どうやら、この店のガールズたちに直に教えを乞うほかないようだ。

Twitterで#飲みたい放題で検索するとガールズバーが出てくる。
しかも、この店は私が取り上げた店とは違う店だ。
もしかしたらガールズバーで「たい放題」革命が密かに進行しているのか……
調査報告が待たれる。