風刺・戯文

『存立危機事態 ザ・ムービー』

【ザンゲー通信:記者の目】
日本の首相が、台湾有事が「存立危機事態」だと発言したことに対し、中国政府が大きく反発しています。中国にとって台湾は自分の一部であり、首相の言葉は、中国と台湾の分断を煽るものだというのです。

そんななか、中国の高官がこんな発言を——

「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬ってやるしかない」

この強烈な言葉は、日本中に大きな怒りと反発を生んでいます。なかには「首相とその首の分断を煽るのは内政干渉だ」と言い返す声まであるとか。

日本の首相の発言をきっかけに、ヒビの入った日中関係。ですが、私はこの機会こそ、日中友好の好機ではないかと考えています。

中国の高官の発言ですが、おそらく、この発言は中国伝統の剣術である薛剣を念頭に置いてなされたものでしょう。この剣は明末清初の混乱の世に斬首に用いられたと伝えられ、斬首剣とも呼ばれているとか。

いっぽう、「勝手に突っ込んできたその汚い首」という言葉にも興味深い背景が。日本から台湾までの距離を考えると、これは明らかに日本の妖怪「ろくろっ首」を踏まえたものでしょう。どんな首相の首だって、そんな遠くまで伸びれば、汚くもなろうというもの。

ここで提案なのですが、この件を機会に、斬首剣の達人と妖怪ろくろっ首が台湾を舞台に大暴れして、とんだ存立危機事態を引き起こす大活劇映画「斬首剣 VS ろくろっ首」を日中合同で製作したらどうでしょうか。作品の出来はともかく、「存立危機事態」は映画の中だけで十分でしょう。

苦い文学

スクランブル交差点

「世界でもっとも有名な交差点」とも言われ、世界中から観光客が押し寄せる渋谷スクランブル交差点をなんとかしようと、「新しい日本を考える男たちの会」が立ち上がった。

「もしハチ公がご存命ならば、外国人たちに吠えかかりいの、ガブリと噛みつきいので、追っ払っていたことでしょう」と公言してはばからない男たちは、その晩、混雑したスクランブル交差点を占拠して叫んだのだった。

「俺たちの目が黒いうちは、何人たりともこの道渡るべからずだ!」

「ははーん、真ん中を通ればいいのさ!」と叫んで渡ろうとした歩行者を男たちはボコボコにした。人々は震え上がった。「これはとんちじゃない! 現実なんだ!」

列になった男たちは、どっかりと地面に腰を下ろした。「俺たちは観光公害から渋谷を守る!」 もうテコでも動かない構えだ。

道が渡れなくなったので、交差点周囲はたちまち人でいっぱいになった。その上、駅から絶えず人が吐き出されてきて、押し合いへし合い、もう身動きもできない。群集事故発生かと思われたところ、警官の車両が駆けつけた。

「座っている男たち、直ちに立ち上がって立ち去りなさい!」 スピーカーが大音量で繰り返す。「男たちよ、立ち上がるのだ!」

群衆に巻き込まれた外国人観光客たちは、ポリスがなんと言っているのか知りたくなった。みんなほとんど同時に自動翻訳機にかける。その瞬間、外国人たちの間に衝撃が広がった。

“Japanese Gentlemen, Stand Up Please!”

YMOだ! 私たちは、俺たちは、この3人がいなければ、日本のことなど知りもしなかったろう! そうだ、今こそ、声を合わせて歌うときだ! もう叫ばずにはいられない!

“Do the Tighten Up!” 

“Japanese Gentlemen, Stand Up Please!”

“Do the Tighten Up!”

外国人も、日本人も関係ない! 音楽に交差点はない! 渋谷中がまるで爆発したみたいに振動し、酒飲め SAKAMOTO のらんちき騒ぎが始まり、狂乱の夜は果てることなく……永遠に……………………

………Here We Go Again?

苦い文学

記念日コレクション

世の中にはいろいろな人がいて、最近私が驚いたのは、記念日のコレクターがいるという話だ。

記念日というと、普通は、自分や家族の誕生日、結婚記念日、命日などが一般的だが、都内在住の会社経営者であるその人はそれに飽き足らなくなってしまったのだという。日々を記念日で彩りたいと考えるようになったのだ。

はじめは自分で記念日を作っていたのだそうだ。たとえば自分の初恋を記念する初恋記念日、禁煙を始めた禁煙記念日、転居を祝う引越し記念日……だが、こんなのは自分の匙加減でなんとでもできるのだ。もっとリアルな記念日が欲しい、そう思っているときに、彼は記念日の売買が行われていることを知った。

さっそく問い合わせみると、あるわあるわあの記念日、この記念日が。さいわい彼には資力があったから、たちまち記念日あさりに夢中になった。誕生日を売りに出すのは、もう誰にも祝われない孤独な人たち。だから値段も安い。結婚記念日は、金に困った夫婦か、離婚して用済みになった人たちから。後者の場合は離婚記念日のおまけつき。命日は、元旦やクリスマスなどの華やかな時期にはかなりの値がつく。

なんの趣味でもそうだろうが、高じると道を踏み外すものも出てくる。この彼もそうで、ついには裏の売買にまで手を出すようになった。人身売買のさいに売りに出された誕生日、打倒された独裁者のクーデター記念日、誘拐されたジャーナリストたちの失踪記念日、絶滅した少数民族の革命記念日、天安門事件記念日……彼は違法と知りながらもこれらのきな臭い記念日に大金を払ったのだった。

彼は都内の豪邸に住んでいて、地下には記念日専用の部屋がある。仕事が終わると、その部屋にこもって、一生かかっても祝いきれないほどの記念日を眺めながら、明日はこの記念日にしよう、いやこっちか……とじっくり選ぶ。これが彼の楽しみだった。

だが、そんな彼にとんでもない悲劇が起きた。先月、彼が知人の会社の創立記念日のお祝いに外出しているときのことだった。自宅に侵入した何者かにより、金目のものはもちろんのこと、記念日のコレクションもごっそり盗まれてしまったのだ。

すべてを失い意気消沈しているかと思いきや、「記念日を盗まれた記念日」ができたと喜んでいるということだ。

苦い文学

亀の甲よりもっと

2013 年 11 月、私は日本のビルマ団体の代表としてビルマに行き、支援プロジェクトのため、あちこちの施設に連れていってもらった。

そのうちのひとつに、あるお寺が運営する養老院があった。

そこには身寄りがない老人や、家族が貧しくて養うことのできない老人が暮らしていた。

私は、昔の話、特に日本軍がいたころの話を聞きたいと思い、コーディネーターを務めてくれた若いビルマ人と一緒に、何人かの老人に話を聞いた。

そのうちの一人のお婆さんとやりとりしていると、政府の話題になった。

すると彼女は震えながら「こんな話はできない、しない」と言いだした。

「もう軍事政権は終わったんですよ」とコーデイネーター。民政移管ののち、テインセイン政権が始まったのは、2011 年だ。

だが、彼女は頑なに信じようとしないのだった。「いや、怖い」

私たちは笑った。同行していたお寺の関係者も笑った。

しかし、その後の成り行きを見ればわかるように、正しかったのはこのお婆さんのほうで、笑われるべきは私たちだったのだ。

苦い文学

朝出かけようとすると、雨が降っている。それで、あなたは傘を差して外に出る。やがて雨が止み、しばらく経つのだが、その時あなたは不意に気がつくのだ。

傘が無くなっていることに。

もしかしたら、電車の中に置き忘れたのかもしれない。いや、立ち寄った店の入り口の傘立てだろうか、それとも、もしやトイレで? しかし、すでに電車は過ぎ去り、店から去ること遠く、トイレは汚れちまっている。

結局、あなたは新たに傘を買うこととなるのだ。再びそれを失うために。

あなたは考えたことがあるだろうか。これはすべて巧妙に仕掛けられたトリックだということに。

連中にとっては天気を操ることなどお手の物なのだ。そして、傘の柄に奇妙な形状を与えて、それを持つ者の意識を朦朧とさせることも。

連中はそのような詭計によって、私たちに常に傘を紛失させて、もっともっと傘を買わそうとしているのだ。それで利益を得るのは誰だろうか。もちろん、傘屋以外にあるだろうか。

この憎むべき傘屋たちは秘密結社を結成し、私たちの傘への欲求を極限まで増幅すべく、世界中で日夜暗躍を続けている。

だが、いったいなんのために? おお、それは問うまでもないことだ。

連中の目的は、人類を傘下に入れることなのだ……