苦い文学

記念日コレクション

世の中にはいろいろな人がいて、最近私が驚いたのは、記念日のコレクターがいるという話だ。

記念日というと、普通は、自分や家族の誕生日、結婚記念日、命日などが一般的だが、都内在住の会社経営者であるその人はそれに飽き足らなくなってしまったのだという。日々を記念日で彩りたいと考えるようになったのだ。

はじめは自分で記念日を作っていたのだそうだ。たとえば自分の初恋を記念する初恋記念日、禁煙を始めた禁煙記念日、転居を祝う引越し記念日……だが、こんなのは自分の匙加減でなんとでもできるのだ。もっとリアルな記念日が欲しい、そう思っているときに、彼は記念日の売買が行われていることを知った。

さっそく問い合わせみると、あるわあるわあの記念日、この記念日が。さいわい彼には資力があったから、たちまち記念日あさりに夢中になった。誕生日を売りに出すのは、もう誰にも祝われない孤独な人たち。だから値段も安い。結婚記念日は、金に困った夫婦か、離婚して用済みになった人たちから。後者の場合は離婚記念日のおまけつき。命日は、元旦やクリスマスなどの華やかな時期にはかなりの値がつく。

なんの趣味でもそうだろうが、高じると道を踏み外すものも出てくる。この彼もそうで、ついには裏の売買にまで手を出すようになった。人身売買のさいに売りに出された誕生日、打倒された独裁者のクーデター記念日、誘拐されたジャーナリストたちの失踪記念日、絶滅した少数民族の革命記念日、天安門事件記念日……彼は違法と知りながらもこれらのきな臭い記念日に大金を払ったのだった。

彼は都内の豪邸に住んでいて、地下には記念日専用の部屋がある。仕事が終わると、その部屋にこもって、一生かかっても祝いきれないほどの記念日を眺めながら、明日はこの記念日にしよう、いやこっちか……とじっくり選ぶ。これが彼の楽しみだった。

だが、そんな彼にとんでもない悲劇が起きた。先月、彼が知人の会社の創立記念日のお祝いに外出しているときのことだった。自宅に侵入した何者かにより、金目のものはもちろんのこと、記念日のコレクションもごっそり盗まれてしまったのだ。

すべてを失い意気消沈しているかと思いきや、「記念日を盗まれた記念日」ができたと喜んでいるということだ。