待ち合わせ場所は、チュニスのメディーナの中のカフェだった。携帯の地図情報を見ながら、曲がりくねった道を進む。いくどか行ったり来たりして、目的のカフェに着いた。メディーナによくある古い住居を改装したカフェで、柔らかい光が白い床に薄い影を投げかけていた。
奥のほうにクッションの敷かれた小部屋があった。B さんの姿が見えた。隣に男性が 2 人、体をくっつけて座っていた。年配の男性と若い男性だ。
私が 3 人を前にして腰掛けると、B さんは、年配の男性を S さんと紹介してくれた。彼は、大きな目で私をじっと見た。
それから、会話が始まった。若い男性は息子だった。学校で英語を勉強しているので、通訳の役に立とうかと、連れてきてくれたのだそうだ。S さんは、英語は話せない。だが、フランス語は話せるし、ドイツの留学経験もあるので、ドイツ語もできる。
「一緒にドイツに行ったチュニジア人の誰も ich の発音ができなかった。けど、私はすぐできた。なぜならこの音はアラビア語にはないけど、ベルベル語にはあるからね」
私がこの音を真似すると、「そう、それだ」と感心してくれる。もっとも、種明かしをすれば、私にできないわけがないのだ。なぜなら日本語の「ヒ」と同じ音なのだから。
(写真:カフェの風景、2025 年 2 月 24 日撮影)