一八九七年、レディング監獄に収監されていたオスカー・ワイルドは、のちに De Profundis(深淵より)と呼ばれることになる長い手紙を書いた。
手紙は、アルフレッド・ダグラスという若い貴族に宛てたもので、ワイルドはこの若者との「重大な猥褻行為」により有罪となり、二年の懲役刑の判決を下されていたのだった。
日本語ではこの手紙は『獄中記』と呼ばれる。それもあながち間違いとはいえない。ワイルドは監獄から他にも手紙をたくさん書いているが、De Profundis は長さ、内容、文体の点でそれらの手紙とはまったく異なるから。これは、ワイルドによる、自らの破滅を招いた関係についての徹底的な究明(もしくは弁明)であり、また、監獄での日々にいくども繰り返されたに違いない悔悟に形を与えたものである。
「形を与えた」と私が書いたのには意味がある。というのも、「形を与える」ということは、『獄中記』の中心的な思想のひとつに関わっているからだ。ワイルドはそれを、次のように記している。
The supreme vice is shallowness. Whatever is realised is right.
この文句は、私が数えたかぎりでは『獄中記』で四回繰り返される。簡単にいえば「上っ面に流されずに真面目に生きろ」ということだが、正確に翻訳しようとすると難しい。