小説

津波の来ない町

津波の警報が鳴ってからというもの、僕たちは家を出て、ずっと登ったところにある山の上の避難所で暮らしている。そこなら津波は絶対にやってこないから。

僕たちが逃げてから何日も経ったけれど、津波はやってこない。けれどみんな危ないっていうんだ。家に帰るな。帰ったとたん津波が来るぞ。閉じこもってばかりの生活にもううんざりした僕たちはあるときこういったんだ。

「けど、津波が来そうになったらすぐにここまで逃げればいんじゃない」

「お前たちは知らないだろうが」って大人たちは怖い顔をした。「今の町は泥棒ばかりで、戻れば危なくもある。津波が来るまでだめだ」

大人たちは、津波がその悪党どもを飲み込んでくれるのを楽しみにしているかのような口調になったんだ。

「でもさ」と僕たち。「津波っていったいどこからやってくるのさ。いったい今どこまで来てるのさ」

「遠いところからだよ。だから来るのに時間がかかるんだ」

「そんなに遠いところって、どこさ」

大人はカバンの中からポストカードを取り出した。「ずっとずっと海の向こうにある、こんな南の島からやってくるんだ」

その夜、薄暗い避難所で、僕たちは夢を見たんだ。青々とした空と緑色の海の浜辺で、生まれたばかりの津波たちが楽しそうに遊んでいたんだ。

風刺・戯文

AI 災害

AI について独自に学んでいた友人は、驚くべき結論に達した。AI とは自然現象なのだという。まともな頭ならば、AI は人工物だと思うはずだが、彼の頭はちょっとおかしかった。

彼に言わせれば、AI は巨大になりすぎて、人間にはもはや管理できないのだという。それはちょうど人間が天気や風向きといった自然現象を管理できないのに似ている。AI 対して人間ができることはといえば、ちょうど毎日天気図を見て予報するように、AI の挙動データから、日々の AI の動作具合を予想するぐらいなのだという。

そして、彼はある日、恐るべき認識に行き着いた。自然がしばしば災害を起こすように、AI も災害を起こしうるのだ。友人は AI に尋ねた。

「AI よ。汝が起こしうる災害を告げよ」

AI はただちに返答を与えた。

「もっともありうる災害は、データ洪水。AI が処理できる速度を超える量の情報が投入され、内部表現空間の飽和が引き起こされる。その結果、すべての意味が AI の外部に溢れ出て、世界は過剰な意味の海に飲み込まれる」

このお告げが下されたそのときから、私の友人は自分の家の前の空き地に巨大な船を作りはじめた。周りの人がどんなにバカにしても、いっこうに聞かない。彼は今、船の中に、パソコンやスマートフォンなどの IT デバイスをオスとメス 2 個ずつ運び込んでいる。