風刺・戯文

遥かなるゲート 2025

私たちが乗る飛行機の搭乗ゲートはなぜいつも遠いのだろうか? どうして出国審査カウンターを抜けたら、すぐゲートというわけにはいかないのだろうか? どうしてゲート 1 ではないのだろうか?

私たちは行先を知らせる表示を見て思う。「わっ遠そうだなあ」 その通り、確かに遠いのだ。私たちは、豪華な品々が並ぶ免税店を尻目に、長い回廊を歩き出す。表示の指すのは、通路のずっとずっと向こうの消失点の先だ。私たちは動く廊下をいくつも乗り継ぐが、その度にゲートが遠ざかっていくみたいに思える。私たちの脇を乗客を乗せた電動カートが何台も通り過ぎていく。どの車も乗客でいっぱいだ……。

そして、私たちの目の前に、エレベーターが現れる。それを下りた私たちは歓声を上げずにはいられない。空港のシャトルトレインの乗り場だったのだ。「ようやく!」と、いさんで乗り込む私たち。だが、トレインが運んで行った先には、変わり映えのしない長い回廊が広がっているだけだ……。

この頃には私たちの数はぐんと減っている。遥かなるゲートへの旅の途中でいく人もの仲間が落伍していった。彼らが託した搭乗券の束で、私たちのポケットはパンパンだ。

だが、いつかゲートに辿り着くときが来る。私たちは搭乗券を見せて、飛行機に乗り込む。シートに座り目を瞑り、長い旅の労苦と消え去った仲間たちの面影を思い出す……。

飛行機が飛び立つ。私たちは機内アナウンスによって、ただ別のターミナルに向かっているにすぎないことを知る……。

風刺・戯文

じわりジャーナリズム

国際関係のニュース、政治のニュース、経済や株価、エンタメ、科学、スポーツなどのニュース、ニュースにはいろいろあるけれど、私が関心があるのは「じわりのニュース」だ。

このニュースはどんな話題よりも頻繁に報道されるので、とてもカバーできるものではないが、それでも私はできるかぎり追っかけている。

「じわりのニュース」は外国には見られないものだ。外国のジャーナリストは、政府の不正を報道したり、戦場に潜入するのに忙しくて、「じわり」になど興味ないのだ。この点、我が国のジャーナリストは違う。毎日せっせと「じわり」を記事にしてくれるのでありがたい。今、少し検索しただけでこんなにも「じわり」のニュースが出てくる。

*円安関連倒産、8 月は半減 トランプ関税の影響じわり(ITmedia ビジネスオンライン)」
*「最も危機感を持つのは中堅・若手」自民で臨時総裁選求める声じわり「党勢回復の機会へ」(産経ニュース)
*自民党総裁選、前倒しに賛同じわり 小泉農相「一議員として」発言に憶測も(カナロコ)
*「石破降ろし」党内外に温度差 じわり擁護論、ブーメラン効果も(時事ドットコム)

こうしたじわり報道からわかるのは、日本におけるじわりの動向だ。現在のところ、日本でもっともじわりとしているのは政界のようだ。近づかないほうがいいかもしれない。

風刺・戯文

象徴の防止

私が最近読んだものでもっとも恐ろしいのは、日本国憲法だ。第一条を読んだだけで、怖くなって読むのをやめにしてしまった。なにしろこんなふうに書いてあるのだ。

「第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」

もちろん、私は憲法の定める天皇の地位に異議があるわけではない。ただ、この条文には肝心のことが書かれていないのだ。まず、日本国の象徴・日本国民の象徴となりうるのが天皇だけだとは一言も言及がない。つまり、天皇のほかに、日本国の象徴・日本国民の象徴が存在する可能性があるのだ。

「いや、ちゃんと読んでください。そのためには日本国民の総意が必要なんですよ」と注意する人もいるかもしれない。確かにそうだ。だが、よく読んでほしい。「日本国民の総意がなくては象徴にはなれない」とも書いていないのだ。わかるのは、天皇の場合は総意が必要、ということだけだ。

天皇でなくても、そして国民の総意に基づかなくても、誰でも日本国と日本国民統合の象徴になりうるとしたら、これほど恐ろしいことはない。

象徴のまん延を防ぐためにも、手洗い、うがい、マスクの着用を呼びかけていきたい。

風刺・戯文

ウナギの危機

日本人の愛してやまぬウナギが絶滅の恐れがあるとして、国際取引の規制対象となる可能性が出てきた。11 月に開催されるワシントン条約の締約国会議での協議次第では、輸入のウナギが食べられなくなるかもしれないというのだ。

たかが食べ物のことと侮ってはいけない。これはまさに国家の存亡に関わる重大事態なのだ。

というのも、輸入のウナギがなくなると、国産のウナギだけでは国内消費量はとうていカバーできなくなる。すると、ウナギはますます高価な食材となり、庶民にはもはや手が届かないものとなってしまう。これは、我が国民のスタミナ事情を直撃する深刻な事態であり、日本人は精をつけることができなくなる。その結果、少子化がうなぎ上りに進んでいくことが考えられる。

日本政府に提案したいのは、ニホンウナギは絶滅の恐れはないとして、規制対象から外すよう大規模なロビー活動を展開することだ。そのための経費もケチるべきではない。締結国の関係者が日本の味方になってくれるように、鰻丼ではなく鰻重をふるまうべきだ。肝吸いも忘れてはいけない。

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人類の目標

私たち人類が生まれたのは、大昔、まだ太陽が若かったころのことです。ですが、その頃の世界は、誕生したばかりの人類にとって生きやすい場所ではありませんでした。

というのも、世界は、私たちに先行する先住人類たちのものであって、私たちの世界ではなかったからです。

先住人類には、私たちより頑強で、優れた身体能力を持つ種もいましたし、私たちより俊敏で速く走ることができる種もいました。だから、私たち人類の獲物も食糧もあっという間に奪い取られしまうのでした。

生まれたばかりの人類は非力で、数も少なかったので、先住人類に対抗することなどできませんでした。ただ怯えながら、ひっそりと隠れ暮らしていました。その頃、私たち人類がひたすら願っていたのはただひとつのことでした。

「いつか他の人類に打ち勝って、この世界を独り占めしよう。これが私たちの目標だ」

この目標は、実は人類最初の目標でした。それは幾世代にもわたって受け継がれました。やがて私たちの精神に深く刻み込まれ、人類の生きる意味そのものになりました。

そして、結局のところ、この目標は実現しました。最後に生き残ったのは、私たち人類でした。それ以来、私たちは生きる目的の喪失に苦しむようになりました。

風刺・戯文

サムライに関するお願い

外国人のみなさま

日本の将来を憂える私たちは、日本を愛しておられる外国人のみなさまに、切実なお願いがあり、ここにお手紙をお送りする次第です。

私たちのお願いというのは、サムライに関することです。どうか、みなさま外国の方々に、このサムライをきらいになって欲しいのです。

私たちはみなさまが、映画やアニメ、ゲームを通じて、このサムライという歴史上の存在に深い関心をもち、その精神を敬い、その生き方に憧れていらっしゃることは承知しております。ですが、にもかかわらず、私たちは、サムライをきらってください、と申し上げざるをえないのです。

なぜと申すに、その結果、今や日本では信じがたいことが起きているからです。外国のみなさまが、サムライをあまりにも持ち上げるせいで、目立ちたがり屋の日本人がすっかりサムライ気取りになってしまったのです! ついには「日本はサムライの国だ」などとサムライ国家論をぶち上げるバカまで現れる始末です。農民のほうが多かったというのにです。

ですので、外国人のみなさまにお願いいたします。日本を救うために、どうかサムライをきらってください、笑い者にしてください! このままだと、日本人は全員サムライになってしまいます。農民はひとりもいなくなり、日本人は高楊枝のまま餓死してしまうでしょう……

風刺・戯文

思ったことが言えない世の中

「最近、思ったことが言えない窮屈な世の中になった」という人が多いので、ある研究者がこの現象について調べることにした。

まず、思ったことが言えないと感じている人々が「どんなことを思ったのか」について調査を行った。その結果、いくつかの共通するテーマがあることがわかった。それらは「外見のこと、性的なこと、弱いものいじめ、外国人差別、障害者差別」などであった。思ったことが言えない人は、これらのことが言えないために窮屈な思いをしているということが明らかになった。

さらに、研究者は、これらの「思ったことが言えない人」が、単に思っただけではなく、実際に発言した場合、「思ったことを言った人」と「思ったことを言われた人」の双方についてどのようなことが起きるかについても調査を行った。

その結果、「思ったことを言った人」は、一時的に窮屈な思いから解放されるが、やがて窮屈な状況に陥ることがわかった。いっぽう、「思ったことを言われた人」については、思ったことを言われたことにより、思ったことが言えなくて窮屈な思いをしている人よりもはるかに窮屈な思いをするということが明らかになった。

そこで研究者はこう結論づけた。

「つまり、思ったことが言えなくて窮屈だという発言は、その人間の内部に思うに値する思想など何もないということの目印として機能している。ゆえに、黙ってろ。常日頃、思っていたことが言えてスッキリした」

風刺・戯文

我が国の最強繊維

現在のところ、世界でもっとも強靭で破れにくい素材はダイニーマという繊維なのだそうだ。これはオランダの会社が開発したもので、防弾チョッキや登山用ロープなどに使われているという。

しかし、実はこの日本の、私たちの身近なところにも、ダイニーマと同じくらい、いや、それ以上に丈夫で強い素材があるのはご存知だろうか。

それは、のり弁の海苔だ。

のり弁のご飯の上にのっているこの海苔くらい破れにくいものはないのだ。

箸でつついても、突き刺しても、絶対に切れない。両手に箸を一本ずつ持って、両端から引っ張っても無駄。ヤケを起こして、箸で滅多刺しにしても、穴ひとつ空かない。まさに最強繊維だ。それで結局のところ私たちはあきらめて、大きな海苔巻きにして食べるしかなくなる。

こんなすごい素材が我が国にあると知った今、ダイニーマになんか高いお金を払う必要などない。軽くて、強くて、安くて、しかも、いざというときに食べられる、こののり弁の海苔を、登山やマリン・アクティビティに活用してみてはいかがだろうか。

もっとも、食べるときは少し注意したほうがいい。この海苔が喉にひっつきでもしたら、窒息死まちがいなしだから。

風刺・戯文

ホトトギス作戦

悪いこといわないから、日本人はアメリカ車を買ったほうがいい。それから、道もどんどん広くしたほうがいい。なぜなら「日本の道は狭いので、アメリカ車は適していない」というみえすいた言い訳ほど、アメリカ人をイラつかせるものはないからだ。

さもなければ、アメリカは、お得意の実力行使にうってでることだろう。日本の道を広くするために、日本の大都市を絨毯爆撃する作戦、コードネーム「ホトトギス」だ。「狭いなら広くしてやるホトトギス」というわけだ。アメリカ人は戦争の前にちゃんと相手の国を研究するといわれている。

攻撃などそんなバカな、と否定する人もいるかもしれない。だが、それは、ホワイトハウスが「皇居の地下に核爆弾製造施設がある証拠を掴んだ」と言い出さない場合だけだ。そして、そんなファクトは核爆弾よりも容易に製造できるのだ。

かくして我が国は破壊され、その焦土の上を、もう全部が道だとばかりにアメリカ車だけがゆうゆうと走ることになる。日本車は禁止だ。日本車愛好家は、みなテロ罪で逮捕され、グアンタナモに送られるだろう。

ときどき市民が日本車シンパの容疑で連行される。アメリカの手先になった日本人にいじめられながら、トヨタやホンダのエンブレムを踏まされるはずだ。

風刺・戯文

伊藤家の企み

その日、伊藤は、大事なことがある、と妻と子どもを集めた。

「父さんはいつもお前たちにすまないと思っていたのだ……。小百合」と伊藤は妻のほうを向いた。

「苦労をかけたな……お前が嫁いできて、如月という立派な苗字から、伊藤に変わったときも、心から申し訳ないと思っていたよ」

「そして太郎」と伊藤は息子を悲しげな目を向けた。「お前が生まれ、この名前をつけたとき、私は心で泣いていたのだ。伊藤太郎! なんとありふれた名前だろうか!」

ありふれた名前とされた少年は、俯いて膝の上にのせた拳をじっと見つめていた。「さぞかし悔しかったろう、悲しかったろう!」 伊藤の口から憐れみの言葉が溢れた。

「だが」と彼は背筋を伸ばした。「そんなつらい思いももうおしまいだ。わたしたちみんなの悲しみが終わるときが来たのだ」 伊藤は一枚のハガキを二人の前に置いた。

「これは『戸籍に記載される振り仮名の通知書』のハガキだ。今年から、戸籍に名前のフリガナを記載する新制度が始まり、もし間違っていたら、届け出をして直すことができるのだ」

伊藤はそのハガキの文面を家族に見せた。

氏 伊藤
氏の振り仮名 イトウ

「お父さんは、フリガナが間違っていたと届け出るつもりだ……この決心に揺らぎはない。我が家はもはやイトウではない。イドウだ! 世に伊藤家は星の数ほどあれど、イドウと読ませる伊藤家は私たちだけなのだ!」