風刺・戯文

英語を学ぶな

私たちは、教育に関わる者として、子どもに英語を教えることに断固として反対です。なぜなら、英語ほど卑猥で淫らな言語はないからです。

例えば、辞書で do を見てください。いちばん最初には「する」と書いてあります。ですが、ほかにもたくさんの意味が書かれています。ひとつひとつ最後まで見ていくと、奥の奥にこんな意味が現れます。

「セックスする」

do にこんな卑猥な意味が隠されていたことをご存知だったでしょうか。なのに、子どもたちは学校で最初にどんなフレーズを習うのでしょうか。Yes, I do なのです。こんな言葉を子どもに言わせてはいけません。教育の名のもとに行われているのは、児童虐待、人格の否定、性暴力にほかならないことが、今や明らかになりました。

ですが、do だけではないのです。子どもたちが習う基本単語のほとんどすべてがこんな調子、つまり、辞書を詳しく見れば、必ず性に関係ある意味が隠されているのです。次の恐るべきリストをご覧ください。

take「セックスする」
make「セックスする」
come「オルガスムに達する」
roll「性交する」
jump「セックスする」
eat「オーラル・セックスをする」
get「相手かまわずセックスする」
feel「(主に女性の局部に)触れること」
it「性交」

私たちが調べたところ、英語のほとんどの単語には必ず性に関する意味が隠されています。「いや」と反論される方もいるかもしれません。「セックスに関係のない意味しかない英単語もあるぞ」と。

そういう人が例としてあげるのは「eggplant」とか「abalone」とかです。確かに辞書を見ると、「ナス」「あわび」としか書いてありません。ですが、これをもってして英語には卑猥でない英単語があることの証拠にはなりません。

といいますのも、それらの語にけしからぬ意味が記載されていないのは、英語の辞書編纂者にただ十分な時間と資金とがなかったにすぎないからなのです。もし、辞書編纂者にその余裕があれば、必ずや「ナス」にも「あわび」にも、その英単語に隠された卑猥な意味が明らかになったはずです。

このような卑猥な言語が公教育の場で堂々と教えられていることははたして正しいことでしょうか? 我が国の将来を担う子どもたちをかえって毒し、汚しているのではないでしょうか。

私たちはこうした危機感に突き動かされて子どもたちを英語教育から守る運動を始めました。「学校英語審議会(School English CouncilS, SECS)」です。SECS(セックス)への支援をお願いします。

苦い文学

独身をつらぬく男

こんにちは、独身をつらぬく男です。

現代の日本では、未婚率は年々上昇し、独身はすでに当たり前となりました。今やどこにでも独身が溢れています。独身の人々が人生を楽しんでいます。まるで、独身であることが、劣っていると見られていた時代などなかったかのようです。

「独身をつらぬく」とは、そうした古い時代の名残りです。そうした時代には、結婚だけが唯一の選択肢であり、それ以外の道を歩こうとするものは、大変な苦労をしたものでした。ですから、独身は「つらぬくもの」とされるほど、覚悟のいることでした。

現代は、そうした苦労がなくなったかわりに、独身をつらぬくこともなくなってしまいました。皮肉にも、独身の認められた現代ほど、独身をつらぬくのに困難な時代はないのです。

私、独身をつらぬく男は、今、この独身をつらぬく行為を復活させようと奮闘しています。現代では、それはほとんど不可能な行為かもしれません。ですが、試すだけの価値はある、と私は考えています。

なぜなら、不可能だとわかっていても真剣に挑み続ける、この私のひたむきな姿を見て、胸をときめかせる女性がきっといるはずでしょうから……。

小説

八重洲の髭剃り屋

東京駅の八重洲の地下街の一角で、髭剃り屋を営んでいる貧しい男がいた。髭を剃り忘れたあわてんぼうの紳士たちのために、彼は朝から晩まで働いていたのだった。

ある夜、一日の仕事を終えて帰り支度をしていると、上品な老人がやってきて、こう言った。

「すまないが、ひとつ仕事をお願いできないかね」

髭剃り屋は老人の顔が非の打ちどころなく剃られているのを見ながら答えた。「もう店じまいですし、私にできることはないようです」

「いや、私ではないのだ。それに店じまいするところならなおさら都合が良い。今からおいで願えないかね」

「こっちから出向くというのならば、割り増しをいただきますよ」と髭剃り屋は引き受けることにした。

老人は彼についてくるようにいうと、歩き始めた。彼は八重洲の地下を熟知しているようで、いつの間にか、髭剃り屋が見たこともないようなほの暗い地下道を進んでいるのだった。まるで迷路のような道のりで、どれくらい歩いたかわからないが、ある暗い地点で老人は壁に手を当てて操作をした。すると、壁が静かに割れ、光が差した。その中を見た髭剃り屋は思わず驚きの声を上げた。大きな部屋が広がっていたからだ。その部屋は美しく飾られ、まばゆく輝く照明がぶら下がっていた。

そして、部屋のソファに、ひとりの立派な男性が座っていた。髭剃り屋がおっかなびっくり足を踏み入れると、男性はやさしく微笑んだ。その顔には控えめな口髭があった。

「私の髭を剃り落としてほしいのだ」とその男性はさっそく告げたが、髭剃り屋はその表情、声、口調にいわく言いがたい悲しさが潜んでいるのを感じた。

「承知いたしました」と髭剃り屋は答えた。「ですが、どうしてお剃りになろうだなんて。とても似合っていらっしゃるのに」 

そう言いながら髭剃り屋が準備を始めると、客は静かな声で語り出した。自分には立派な兄がいて、その兄と区別するために髭を生やしてきたこと、だが、その髭のせいで、縁もゆかりもない人々から不当な非難や中傷を浴びていること、そして、自分と家族を守るために髭を剃る決意を固めたこと……。

髭剃り屋の支度が終わり、美しく磨がれたナイフがその手に握られた。

客はふるえる声で言った。「さあ、きれいさっぱりやってください」

髭剃り屋はナイフを顔に近づけたが、「やっぱりやめておきましょう」と言ってナイフを置いた。

「私は剃れと言われたら剃りますが、お客さまは心では剃りたくないとお考えのようです。それでは私は気持ちよく仕事をすることができません」

男性は紅潮した顔で見返した。

「それに」と髭剃り屋は続けた。「どんなに意地悪を言う人がいても、きっと応援してくれる人はいますよ。いや、味方はたくさんいるんです。たとえば、この私です」

髭剃り屋は道具をしまうと、一礼して部屋から出た。髭剃り屋は再び老人に連れられて地下迷路を歩き回り、馴染みのある八重洲の地下街に戻ることができた。

老人はいくばくかの手間賃を渡そうとしたが、髭剃り屋は、これがまた無駄遣いだとバッシングの種になってはと、気持ちだけ受け取ることにした。

苦い文学

With コロナ

政府によれば「With コロナ時代」がやってきたという。

新型コロナウイルスとの併存を前提とした新たなライフスタイルへと転換すべきだというのだ。

「コロナとの併存」とは一体どういうことなのか。私には具体的にイメージできなかったが、ミスター・Withコロナという人の講演会が近所の市民会館で開催されるというので行ってみた。

会場となったホールは人でいっぱいだった。そして、いかにもというべきか、誰もマスクをしていなかった。私も外したらなんだか気が楽になった。

やがて、一人の男が舞台の上に姿を現した。会場に拍手が鳴り響く。どうやらこれがミスター・Withコロナのようだ。彼はイガグリ頭の人形を抱えていた。

「ねえ、コロナ! 今日もずいぶんお客さんが来ているよ!」 男は人形に話しかけた。すると人形は「ソウダネ! ミンナ、ヨウコソ! 僕、コロナ! イツモ一緒ダヨ!」と口をカタカタと動かした。

それから始まったのは、歌ありマジックありコントありの愉快な腹話術ショー。どれも楽しかったが、もっとも印象に残っているのは、アンコールでコロナくんが U2 の「With or Without you」を熱唱したことだ。

会場は感動とコロナに包まれ、私は翌日からさっそく陽性となった。

苦い文学

国境の酒

日本政府から退去強制令が出されたのに、さまざまな理由から故国に帰ることを拒否する人々は、基本的には入管の収容所に収容される。

そこで、日本での滞在を認められれば、出ることができるが、たいていの場合は、強制送還されるか、仮放免許可を得て一時的に制限付きの滞在を許されることとなる。この仮放免許可は、決まりはないが、最低でも1年は収容されている人に出ることが多い。それが出なくて、2年、3年と収容が長期にわたる人もいる。

収容所内は、タバコは吸えるが、お酒は飲めない。したがって、アルコール依存症の人にとってはよい断酒の機会になるが、そうした人々は仮放免された後も再び飲みはじめる。その結果、亡くなった人も私は少なくとも3人は知っている。

入管での生活は、単調で、ストレスの多いものだ。収容されている人の中には、酒を醸そうと試みる人もいる。私が聞いたのは、食事で出るバナナの皮の内側の筋を、発酵させるための食パンと一緒にペットボトルに入れて作るというものだ。実際に作った人によれば、まずくて飲めたものではないということだが、その酒でささやかな宴会が開かれていたのを目撃したという人もいる。

美味しいわけはあるまい。だが、少なくともささやかな自由の味はすることだろう。

私は思うのだが、もういっそのこと、この入管の酒を「くにざかい」とでも名づけ、1年もの、2年もの、3年ものと等級をつけて売り出したらいいのではないだろうか。

もっとも、この酒が地酒なのか洋酒なのか輸入酒なのか、そのあたりは私にもよくわからない。