散文

新しいアトラクション

このあいだニュースで、東京ディズニーランドで一日遊んだら、途方もない金額になる、と言っていた。しかも、お金持ちにしか買えない高価なプレミアムチケットがあって、どんなアトラクションも待ち時間なく乗ることができるのだという。そんなものを買えない一般人にとっては夢の国になったのだ。普通の家庭の子どもたちが行けないようでは、将来的に入場者数も先細りになるばかりでは、という意見もあった。しかし、日本の子どもはいずれゼロになるのだから、ディズニーとしても早々に見切りをつけたということだろう。

このまま富裕層だけがディズニーランドに入れるということになれば、どんなことが起きるだろうか。私たち貧困層の中にもディズニーランドに行きたいという人はいるはずだ。そうした人たちは、おそらくディズニーランドに密入国することになろう。

これは楽しみばかりでなく実益もある。というのも、ディズニーランドのほうが日本よりもはるかに稼げるから。給与も日本よりも高いし、富裕層からチップも降り注ぐしで、いつしかシンデレラ城の地下にある縫製工場や、イッツ・ア・スモールワールドの奥のキッチンは不法キャストで溢れかえる。

オリエンタルランド共和国政府だって手をこまねいているわけではない。不法就労者の逮捕に精を出すだろうし、国境や海岸では、真夜中にミッキー・マウスやミニーたちが不審な越境者をライフルで撃つ音が聞こえる。

そして、ディズニーランドの一区画に巨大な収容所が建設されることになる。そこで不法キャストたちは集団生活を送りながら、強制送還のときを待つのだ。このアトラクションの待ち時間がどれくらいかはわからない。

旅・観察

外貨の禍い(5)

チュニジア大使館にかけると、日本人の女性の職員が出た。事情を話すと「チュニジア・ディナールは国外に持ち出すことは禁止されています」

「いや、そうではないのです。ドルとかユーロとか円です」

すると、担当の者がいないので、折り返し電話するとのこと。しばらく待つと電話がかかってきて、こんなことを教えてくれた。

「入国するさいに、外貨申告をしてください。それから、チュニジア国内で両替をした場合は、両替証明書を必ずとっておいてください、ということです」

「その外貨申告はどこですればいいのですか?」

「入国するときの出口にカウンターがありますからそこでしてください」

そのカウンターがどこにあるかもっと詳しく知りたかったが、行けばわかるというような返事で電話は終わった。

そこで私はさらにインターネットで検索してみた。すると、「外貨持込、外貨持出について」と題された日本語の文書が見つかった。大事なところだけを以下に写す。

チュニジア入国時に、手持ちの現金等の申告をしていなかったために、出国時にそれらを当局に没収される事案が発生しております。

出入国時の小切手や現金の国内持込、国外持出に関するルールは以下のとおりです。

入国時持込 20,000 DT 相当以上は申告が必要。持込可能な金額に上限はなし。

申告場所 空港制限区域内の外貨申請カウンター(Déclaration de Devises)
申告費用 10 DT

出国時持出 5,000 DT 相当以上は当該外貨持込時の申告書が必要。
チュニジア・ディナール貨の国外持出しは一切不可。

※ 20,000 DT 相当未満の外貨持込に申告の義務はないものの、帰国時に 5,000 DT 相当以上の外貨を持ち出す可能性がある場合は、外貨持込時の申告書が必要となるため、入国時持込が 20,000 DT 相当未満であっても入国時に申告する必要がある点に要留意。(2024 年 3 月現在)

DT(Dinar Tunisien)とはチュニジア・ディナールのことだ。1 DT はだいたい 50 円なので、20,000 DT は約 100 万円だ。そして「出国時持出 5,000 DT」は 25 万円になる。

私は 100 万円も持ち込むことはないし、出るときにだって、25 万円も持っていないのだ。

苦い文学

平常化

毎食、ご飯を10杯食べる人がいるとしよう。その人が、どういうわけか、一食に1杯しか食べなくなってしまった。そして人々はこういうのだ。

「あの人は少食になった」「少食化だ」

だが、もともと食べ過ぎであったのだから、減ったとか、少なくなったとか、そういう問題ではない。むしろ、本来的な量になったのだから、平常化と呼ぶべきだ。

現代日本の人口問題もこれとまったく同じだ。ことあるごとに「少子化少子化」と言い立てるが、いったいなにと比べて少なくなったというのだろうか。

「それはもちろん子どもがたくさん生まれていた時代、たとえばベビーブームのときだ」 そう反論する人もいるかもしれないが、むしろその時代のほうが異常で、生まれすぎていたのだ。本来生まれるべきでない子どもたちが生まれる、というのは異常な状態だ。これがいま、何十年もかかってようやく、平常化されようとしている。

だから、まともな人は少子化などという言葉を人前では使わない。これが平常化であることにとっくに気がついているからだ。それがわからずに、少子化だの、日本滅亡だのといま騒ぎ立てている人々は、平常化以前の生まれすぎの時代に生まれてしまった、本来生まれるべきではなかった人々にまちがいない。

苦い文学

旅人たち

5年ほど前、私は友人と飲みにいった。店は上階にあり、支払いを終えてエレベーターに乗ると、すぐ下の階で2人の男たちが乗り込んできた。

2人は英語を話している。どうやら観光客のようだった。聞くともなしに聞いていると、ひとりの旅人がもう片方にこんなことを言い出した。

「日本の電車に乗るときは注意だな。スリが多いから。それに、話しかけてくるやつはたいてい金をせびるやつだ。街でも気をつけたほうがいいぞ。子どもたちが近づいてきたら、バッグをこうやって(と男は肩からぶら下げていたバッグを胸の前で抱くようにした)守る。うっかり子どもの相手をしていると、金目のを物を抜き取られるぞ……」

エレベーターは1階に着き、全員が降り、2人の旅人は夜の街に消えていった。私たちはといえば、呆れて顔を見合わせた。

「日本でそんなことが?」

「いくらなんでもそこまで治安が悪くはない」

私たちは、ひとりの旅人の承服しがたい見解について議論し、きっと誤解、あるいは悪意があったにちがいないと結論づけたのだった。

そして、今、この不思議な出来事を思い返す私は、別なふうに捉えている。

なんらかの時空の歪み生じたせいで、あの夜、私たちは、未来の日本を旅する旅人と、同じエレベーターに乗り合わせたのだ、と。

苦い文学

韓国の Yo La Tengo

私が韓国の Yo La Tengo と呼んでいる Say Sue Me の新しいアルバムが5月に出た。いい曲がいくつかあるので、よく聞いているが、たまたま調べてみたら、来日することがわかった。

フジロックフェスティバルの2日目(土曜日)の 14:00 から演奏するのだという。フジロックフェスティバルは Youtube でライブ配信しているから、私は数日前から楽しみにして待っていた(ほかに楽しみがないのだ)。

土曜日の昼頃に、もう一度出演者の名前を確認したのだが、なぜかそこには Say Sue Me の名前がなかった。いったいどういうことかと思って、フジロックフェスティバルのウェブサイトに行ったら、メンバーがコロナに感染したため、来日中止になったと書いてあった。

これは残念だが、そのいっぽう、朗報もある。 12 月にも来日するのだ。

そして、そのチケットの抽選発表が今日あり、私は無事、抽選に当たったというわけだ。