ライブ

WET LEG@豊洲PIT

Wet Leg は女性二人のイギリスのグループで、ヴィジュアルも強烈だが、音楽も負けていない。鋭いギターリフは耳を離れないし、奇妙な歌詞とメロディが、このグループにしか作れない音空間を生みだす。しかも、ふとキンクスがちらついたり、80年代の第 2 次ブリティッシュ・インヴェイジョンの雰囲気が漂うのもいい。

その Wet Leg のライブが今日、豊洲で開催された。私の整理番号は 1548 番で、前の方には行けなかったが、後方の一段高いところで、バーの角に寄りかかると、全体を見渡すことができた。あまりに後ろだったので、ステージ前の熱狂が、どこか遠くのできごとのようにも、ときどき感じられた。

ライブを聴いているうちに、情感の欠如こそが、Wet Leg の良さであるように思えてきた。感情に訴えないで音楽を成立させるためには、ユーモアが必要だ。さらに、曲の大仰な盛り上がりで情感を動かすなんて手は使わずに、普通から外れた展開や繰り返しの多用で、曲を広げていく。こうした工夫の上に、Wet Leg のかっこよさが成立している。

もっとも、これは私の捉え方で、今日、たくさん集まった観客の中には、「エモい」とか「メロい」とか感じている人もいていい。

ところで、オープニング・アクトは羊文学だった。私はうかつにもそれを知らず、最初、遠くの方で 3 人が出て演奏を始めたとき、あれ、Wet Leg ってこんなんだったっけ、と首をかしげた。

苦い文学

中居くん式

平和を愛するトランプ大統領は、ロシアとウクライナの和平が遅々として進まないのに苛立っていた。

「問題はウクライナのゼレンスキーじゃ」と大統領はため息をついた。「ヨーロッパ諸国抜きの和平交渉を彼が拒絶しているかぎり、平和は実現せぬ」

この慈悲深き大統領の心痛を見逃さなかったのが、頓知者のイーロン・マスクだ。マスクが大統領に心配そうに声をかけると、大統領は悩みの種を打ち明けた。

マスクはただちに答えた。「閣下、それならば、妙案がございます」 そして大統領の耳に口を寄せるとなにやらゴニョゴニョゴニョ。聞くや、大統領の顔はたちまち晴れやかに転ずる。「よきかな、よきかな!」

さっそくトランプ大統領は和平会議の開催をゼレンスキーに通知した。「ウクライナが望む通り、和平会議に、アメリカとロシアだけでなく、フランス・ドイツ・イギリスなど全ヨーロッパ諸国の参加を認める」

ゼレンスキーに拒絶する理由はなかった。ただちにアメリカに飛び、ワシントンにある高級ホテルに向かう。和平会議の会場は最上階にある大きな広間だ。そこに通されたゼレンスキー、あっけに取られる。各国首脳が集まっていると思いきや、なんとそこにいたのはトランプ大統領だけ。

「フランスやドイツは?」

トランプ大統領が笑いながら言った。「全ヨーロッパ諸国がドタキャンしたのだ。大雨だと言ってな!」

騙されたことに気がついたゼレンスキー。が、そのとき、大統領の背後から、不敵な笑みを浮かべたプーチンが現れ、着ていたバスローブを脱ぎながら彼のほうへと近づく……

こんなふうにして、ついに大統領はウクライナを交渉のベッドに就かせ、大統領とプーチンの思うがままの「和平」をあれやこれや実現したのであった。

コト終わって、大統領はイーロン・マスクを呼び出し、その知恵と頓知を賞賛した。

「マスクよ、このような見事な計略をいったいどのようにして思いついたのじゃ」

「は、閣下、じつはこの計略を、X で日本人から教えられたのです。なんでも日本では中居式と呼ばれている忍者の奇策とのこと」

「ほほう、それでは日本の関税をチイとばかり下げてやらねばなるまいな! ウワハハハハハ!」

「いかにも、ウヒヒヒヒヒヒ!」

「ウワハハハ、ウワハハハ、ウワッハハハハ…………」

と、大統領とイーロン・マスクが X(元ツイッター)でやり取りした記録が残されているという。

苦い文学

RHYMESTER

私の友人にクレイジーケンバンドの熱心なファンがいる。クレイジーケンバンドのライブは絶対に欠かさないのだ。

2月16日の RHYMESTER の武道館ライブにも、クレイジーケンバンド(横山剣とスモーキー・テツニ)がゲストとして参加するので、その人はチケットを買った。だが、あいにくその席は「めっちゃよくない」席だった。それでその人は別にもっと良い席を取ったのだが、結果として1枚「めっちゃよくない」席が余ってしまった。

そして、その席が私に回ってきたのだった。その代わり、私は、間違えて1枚余計に買ってしまった羊文学の新譜(ブルーレイ付き)をその人にあげた。物々交換の成立だ。

このライブは、去年出た新譜「Open The Window」のリリース・ツアーの一環で、このアルバムに参加したゲストミュージシャンも総出演した。クレイジーケンバンドのほかに、岡村靖幸、スチャダラパーといった私でも知っている人もいれば、そうでない人もいたが、どれもよかった。

RHYMESTER によれば、武道館でライブをするのは17年前、活動休止の前以来ということで、特別な感慨があるようだった。ライブでは、その活動休止前の曲もやってくれた。そして、その中には、もちろん、あの名曲「肉体関係 Part2 逆Featuringクレイジーケンバンド」も含まれている。

「Open The Window」は、新譜の収録曲のタイトルでもある。「窓を開いて対話をして風通しをよくすれば戦争は止められる」みたいな曲だ。

この曲の直前の MC で、今世界で起きている戦争についての言及があって、ウクライナ、ガザの次にミャンマーが出てきた。

私はちょうどミャンマーの戦争地帯から帰ってきたばかりで、こういう場でミャンマーの名前が挙がることはちょっとした驚きだった。私のいたところで「窓を開いて対話」がどの程度進捗していたかはわからないが、屋根を突き破って砲弾が降ってきたという話はなんどか聞いた。

苦い文学

リベラルども

政府が、外国からの脅威と戦争の危機を宣言し、人々の心を恐れで満たしたとき、リベラルどもは公然と政府を嘘つきと批判し、人々には冷静になれと訴えた。

しかし、その声を聞くには人々はあまりにも恐怖に取り憑かれていた。人々はリベラルどもを裏切り者だと罵り、ありったけの脅迫と嘲笑といやがらせを投げつけた。そのあげく、ついにはこう叫び始めた。敵のスパイどもを殺せ、と。

すぐさま政府は行動に出た。怒り狂った人々がリベラルどもに危害を加える恐れがあるとして、つぎつぎにリベラルどもを保護していった。そして、保護された人々、大人も子どもも赤ん坊も、二度と帰ってこなかった。

誰も反対するものがいなくなり、人々は喜んだ。本当に強い政府が生まれたのだ。我々はいつ敵が攻めてきても怖くない。いや、攻められるのを待つなんてバカだ。先手必勝だ。

そして戦争が始まった。長く苦しい戦いだった。たくさんの人が死んだのち、政府は崩壊した。

戦後、生き残った人々は政府がどれだけ嘘をついていたかを知った。そして、こう憤った。

リベラルどもがだらしなかったからこんなことになった、と。

苦い文学

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旅・観察

スーク・イル・ビルカ

 チュニスのメディーナにあるスーク・イル・ビルカ(Souk el-Berka)は、現在は宝石店が立ち並ぶが、かつては奴隷市場であった。チュニジアの口承文芸の「親を売る者」という物語では、少年が馬を買うために親をスーク・イル・ビルカに連れて行って競りに出す場面がある。

 「みんな、新しい着物と馬が必要だ。立派な行列を作ってスルタンの御前に出られるようにな」(と寺子屋の先生が言います)。
 少年たちは喜び勇んで出て行きます。商人の子は帰宅して父に言いました。
 「お父さん、先生がこんなことを言いました。お父さん」
 「息子よ、私になにができるというのかい。昼と夜の食事を才覚するのもやっとなのに」
 少年は泣き出しました。
 「他の子たちはできて、どうして僕だけダメなの。他の子たちは行くのに、どうして僕だけダメなの。みんななんて言うだろう。このままじゃ僕はずっと友達の笑いものだよ」
 こんな調子が、一日、二日、三日と続きまして、ついに哀れな父親は音を上げました。
 「どうしたらいいか教えてやろう。外に出て私を売りなさい。私と引き換えに手にしたもので馬を買うのだ」
 「お父さんを売るだって? 死んだほうがマシです」
 「私を売れと言ったのだ。これは命令だ。歯向かう気かい」
 そこで、少年は父親を市場に連れて行きます。当時は、ビルカ・スークでは奴隷の売買をしておりました。そこにいる競売人に「この老人を競りにかけてください」と言いますと競りの始まりです。

アル・アルウィー物語集第1巻「親を売る者」