風刺・戯文

除去の訴え

私も無職で、今なお就職できずにいるが、同じような境遇の友人がいた。私たちは互いに励まし合い、せっせと無駄に就職の書類を送っていたのだが、あるとき、彼が私にこう打ち明けたのだった。

「就職できないのは、実は刺青があるからなんだ……」

私は驚いた。おとなしい彼に刺青が入っているなど想像もできなかったからだ。「え、それは……」と絶句していると彼はいった。

「いや、ないよ、刺青なんか」

「なんだよ。びっくりさせるなよ!」 私は笑ったが、彼は真面目な顔つきでこういった。

「けど、そうじゃなきゃ、どこに行っても拒絶されることの説明がつかないよ……だからさ、もしかしたら、と思ったんだ」

私には彼の苦しみが痛いほどわかった。できるだけ励みなるようなことを言おうと頑張ったが、彼はどことなく上の空で聞いているようだった。

それからしばらくして、彼が、近所のクリニックに押しかけて、大騒ぎを起こしたと聞いた。刺青を除去してくれと、しきりに訴えたのだ。もちろん、彼には刺青などないのだから、消すことなどできない。それでも、消してくれと言い張って動かないので、ついには警察を呼ぶまでになったという。

なんとなくだが、彼が何を消そうとしていたか、私にはわかるような気がする。

風刺・戯文

夫婦別姓の真相

あなたは、ある人が夫婦別姓の賛同者ということを知ったら、その人についてどう思うだろうか?

リベラル、個人を尊重する人、フェミニスト、新しい社会を見据えた人、革新政党支持者……、そうポジティブに捉える人もいるだろう。

だがそのいっぽう、別の人は、家族と伝統を破壊する淫乱な悪魔、反日主義者、日本の敵、とみなすかもしれない。そうした人にとっては、夫婦同姓こそが、日本の揺るぎない伝統なのであり、真の保守ならば命を賭しても守らねばならないものなのだ。

だが、はたして、この問題はそのような思想上の問題、つまり右と左の闘争なのだろうか? 私はそうではないと思う。右にせよ左にせよ、マスコミが作り上げた虚像に過ぎないのだ。

なぜなら、私が独自に行なった調査によれば、夫婦別姓の反対者と賛成者のそれぞれに次のような傾向が見られたからだ。ご覧いただきたい。

夫婦別姓に反対の人の苗字:佐藤、鈴木、高橋、田中、伊藤、渡辺、山本、中村、小林、加藤、山田など

夫婦別姓に賛成の人の苗字:小鳥遊、四月一日、道重、九十九、安蒜、肉丸、興梠、根路銘、武者小路、岩迫、七五三掛、熊切など

そうなのだ。この問題は、思想問題ではなく、苗字の生き残りをかけた戦いだったのだ。

風刺・戯文

ガハハとウヒャヒャのいる店

居酒屋で飲むグループはたいてい二つに分けられる。ガハハ群と、ウヒャヒャ群だ。

どちらの背広を着た人たちが多い。おそらく、ネクタイに締め付けられていた喉を急にアルコールに晒すことによって発生する痙攣を、うまく利用しているのだろう。

このガハハとウヒャヒャにどんな機能があるかというと、ナワバリの誇示だ。「自分たちはこんなにガハハだぞ」「いや俺たちのほうのウヒャヒャにはかなうまい」 居酒屋内では、客のグループがそんなふうに競い合っているのが観察されている。

あるとき、いつも一人での酒を飲む私が、たまたまガハハ群とウヒャヒャ群の間に座ることになった。ガハハとウヒャヒャがずっと私の左右に聳え立っていた。まるで険しい山のようだった。私は酒を味わいながら、自然豊かなその山々を見つめていた。

そうした経験もあり、私もガハハとウヒャヒャをやりたくなった。ガハハとウヒャヒャに守られて、酒を飲んでみたくなったのだ。だが、どうやっても私の喉は痙攣してくれなかった。もしかしたらなにかが自分には欠けているのかもしれない、と悔しくなった。私はガハハとウヒャヒャの世界から締め出されていたのだ。

だが、私のような人はたくさんいるものらしい。「ガハハとウヒャヒャのいる店」という居酒屋では、客が希望すれば、ガハハかウヒャヒャの音声を発するスピーカーを持ってきてくれる。毎晩の酒宴がもう楽しみでしかたがない。

風刺・戯文

誰ひとり取り残さない

世界と人類がよりよく存続するために、2015 年、国連総会で採択されたのが「持続可能な開発目標」、略称でSDGsと呼ばれる 17 の目標だ。私はこの目標のどれも素晴らしいと思っている。

だが、素晴らしいのはそればかりではない。これらの目標の実現にさいして、「誰ひとり取り残さない」ことが重視されているのだ。つまり、この目標は一部の特別な人のためではない、そう、私のためでもあるのだ。

私はこの SDGs のことを聞いてからというもの、国連からの連絡を心待ちにするようになった。もちろん、私にもわかっている。世界にはたくさんの人がいるから、いくら誰一人取り残さないと言っても、順番というものがある。いきなり全員など無理なのだ。

「今ごろ、国連はどこの国の人に連絡をしているだろうか。日本は有名で素晴らしい国だからきっと最初のほうに連絡をするに違いない」

「しかし、日本だってたくさん人がいるのだから、一人一人連絡するのは大変だぞ……きっと一斉メールで通知が来るのだろう」 だが、待てど暮らせど連絡がない。私はだんだん不安になってきた。

「もしかしたら、私のことを忘れたのでは? ミスかなにかで! あれほど、誰ひとり取り残さない、と言っていたくせに!」

明日の朝、私は始発に乗って、東京の国連の事務所に行くつもりだ。もしかしたら、自分だけ取り残されたのではないか、と思うと、もう居ても立ってもいられないのだ。

風刺・戯文

無ゴミ箱社会の到来

異国の大通りを歩いていたら、数名の日本人に出会った。日本人たちは、道端に立ち、行き交う人々を真剣な面持ちで見つめているのだった。そのうちのひとりが叫んだ。

「あっ、あれあれ、あの男性、見事ですねえ!」

「ほうほう、でどんな?」と別のひとりが尋ねると、叫んだ方は「こうでした!」と手をブラリとさせて身をよじってみせた。すると誰かが言った。「いや、もうちょっと肩が下がって、脇を引き締めていた」

「なるほどなるほど、ではそれでもう一度お願いします」と別のひとりがビデオを向けて、その「フォーム」を記録しはじめた。

私は異国で異常なふるまいをするこれらの同胞が気になって、思い切って尋ねてみた。するとリーダーらしき男性が答えた。

「私たちは将来の日本のための調査をしているのです。現在、日本では深刻な少ゴミ箱化が進んでおり、じきに街中からすべてのゴミ箱が消えることでしょう。私たちは、この本格的な無ゴミ箱社会の到来に備えて、どのようにしたら日本人がさりげなく道でゴミを捨てられるようになるかを研究中なのです」

そのとき、誰かが声を上げた。「ほら、見ましたか! あの男性! タバコを口に持っていくその瞬間に、脇から紙屑がはらりと落ちました」

「見ました! 実にスマートなポイ捨てぶりでした!」「忘れないうちに記録記録!」

うれしげに騒ぐ仲間たちにリーダーが微笑みながら私に言った。「私たちはこれらの貴重なデータを持ち帰って、帰国後、日本初の『ポイ捨て研修』を東京で開催する予定です。ここでお会いしたのもなにかの縁でしょう。会の案内を差し上げますから、どうぞご連絡ください」

私はそのリーフレットをありがたく頂戴すると、お辞儀をして立ち去った。そして、角を曲がったところで、放り捨てた。

風刺・戯文

同意に同意が

【ヘッドライン】同意を抑えられなかったか JR駅構内で、女性に同意を求めた男を逮捕

県警は今日、土井駅で、女性に詰め寄り、むりやり同意させようとしたとして、不同意同意強要の疑いで、50代の会社員の男を逮捕した。

県警によると、男は2月25日の夕方、JR土井駅構内で、面識のない20代女性に同意を無理じいしていたところを、通報により駆けつけた警官に取り押さえられ、現行犯逮捕された。

県内では、若い女性が同意を強要される同様の事件が相次ぎ、県警は注意を呼びかけている。そのいっぽう、「同意の同意もなく同意を求めることについての同意に無理やり同意させられたという同意」を若い女性に強要する事件も先月発生するなど手口の巧妙化も進み、「同意に同意が同意に同意の絵を書いた」と対策の遅れを指摘する声も上がっている。

県警は、男が同意を抑えられなかったとみて慎重に取り調べを進めているが、調べに対して男は「同意ぴょこぴょこみぴょこぴょこ合わせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ」などと容疑の一部を否認している。

風刺・戯文

万博の汚い目玉

このままだと大阪万博は失敗に終わる——

時の流れのある瞬間に、為政者たちはそう考えた。なぜなら、鳴物入りで発表された「空飛ぶ車」はタコの糸が切れたのかどこかに飛んで行ってしまった。頼みの綱のアンバサダーも天岩戸にお隠れになったっきり、どんな芸人たちが騒いでもいっこうに出てくる気配はない。パビリオンは小粒になるいっぽうだし、チケットはまったく捌けなかった。

為政者たちがぶち上げた万博の目玉がことごとく消えてしまっているのだ。

「たぶん」と人々は考えた。「目玉はすべてミャクミャクに行ってしまったのだろう」

為政者たちは対策会議を開いた。「我々は新たなメダ……いや展示を企画しなくてはならない」

「そうだ」と別の為政者。「世界中がアッというものでなくてはならない」「うむ、それこそ誰も見たことがないものがいい」

別の為政者が口を挟んだ。「それだけではダメだ。日本人が誇りに思えるようなものでなくてはならない」

為政者たちの指令はただちに万博関係者に下され、やがて為政者の望み通りのものが完成した。

万博の開会式で、為政者は胸を張って世界中に告げた。

「みなさん! 私たちは日本で実現不可能なものをこの万博に実現することができました。世界中の誰もが『こんなものが日本にあるとは!』と驚くことでしょう。さあ、この誇るべき展示をご覧ください!」

幕が取り除かれると、そこには、これ以上ないほど汚く臭いトイレがあった。

風刺・戯文

視点の違い

【ザンゲー通信社・記者の目〜一味違う視点でニュースを分析!】
ミャンマーの特殊詐欺グループの拠点で、詐欺に加担させられていた十代の日本人の少年が保護されました。タイ警察によれば、この少年は騙されて誘拐され、監禁状態に置かれていたといいます。

ミャンマーに限らず、東南アジアでは、偽の求人や誘いなどにより拉致された外国人が詐欺に無理やり加担させられるケースが相次いでいます。今なお、何人もの日本人が拉致・監禁され、暴力にさらされながら働かされている、という証言もあります。

このような詐欺グループに若者が巻き込まれないようにするにはどうすればいいでしょうか。ネット上の情報を不用意に信じない、というのも確かに重要です。ですが、詐欺グループの巧妙な誘い出しに騙されないでいるのも難しいことです。

ここで、詐欺グループがどうして日本人を必要とするのかを考えてみましょう。それは日本国内で特殊詐欺を働くのに日本語話者が不可欠だからです。つまり、特殊詐欺のために日本語を話す能力自体が重要なのです。とすると……

《ここでズバリ記者の目!》
ならば、日本語でのコミュニケーション能力をもつ AI を犯罪者たちが容易に利用できるような形で配布すればいいのではないでしょうか。そうすれば、特殊詐欺グループもわざわざ日本人の若者を誘拐せずに済むはずです。

もちろん技術的には困難もあるかもしれませんが、下町の優秀な技術者たちが力を合わせてオールジャパンで取り組めば、きっと素晴らしい日本語会話 AI を詐欺グループに提供できることでしょう。

風刺・戯文

ゴミ箱民族闘争

「日本はなんてキレイなんだろう!」「ゴミ箱などないのに、道にはチリひとつ落ちていない!」「きっと日本人は心が清潔でクリーンなのだ!」

来日した外国人たちが、驚きとともにこう賛嘆するとき、私たちは鼻高々だった。あまりにも得意だったので「日本ではこれが当たり前ですよ。他の国では違うのですか?」などと、トボけてみせたりしたものだった。

だが、やがて、ただでさえ少ないゴミ箱が街から姿を消し、駅からもあらゆるゴミ箱が撤去され、チェーンの喫茶店ではゴミ箱に封印がされ、そして、セルフレジのレシートを捨てる小さなカゴさえも消え去ったとき、私たちはなにかおかしなことが進行していると気がついた。

いつのまにやら、もはや私たちはどこにもゴミを捨てることができなくなったのだ。私たちはそれでも信じていた。「日本人ならばゴミ箱などなくてもやっていける」と。

だが、だが、だが、その結果、すべてのゴミをカバンやリュックに詰め込んで、家まで我慢して持ち歩かねばならなくなったとしたら、どうだろうか。

私たちは何度も試みた。手に持ったゴミを道端に放り投げようと。空き缶をホームの下に投げ入れようと。ああ、だが、それをするということは、日本人であることを捨てることにほかならないのだ!

ここで、ある悲しい、つらい話をさせてほしい。その人は駅で自殺したのだ。ゴミ箱のない砂漠のど真ん中で、手に空のペットボトルを握りしめたまま、これをポイ捨てするくらいならばいっそのこと、と線路に身を投げたのだ。この知らせを聞いたときほど、私は悔しかったことがなかった。ゴミ箱を奪ったこの国を憎んだ。そして、鼻高々だった己を憎んだ。

私たちは、いまや疑いはじめている。ゴミ箱がないことは、自慢に思うことでもなんでもない、と。私たちは調子に乗りすぎたのだ。ちょうどインフルエンサーが、賞賛欲しさに崖っぷちで自撮りをすると決まって転落死してしまうように、私たちの「日本はゴミ箱ない芸、日本人はキレイ好き芸」もいまや私たちの首を締めだしたのだ。

このままだと私たちの未来には絶望しかない。なぜなら、あらゆるゴミ箱が消滅した社会では、人間がゴミ箱になるしかないからだ。人間として生まれてきて、ゴミ箱になりたいものなどあるだろうか? そうならないために、ひとつでもいいから、ゴミ箱を増やそう。命を捨ててゴミ箱を増やす戦いを始めよう。

風刺・戯文

偉大さ国家フェスティバル

「アメリカを再び偉大にしよう!」と叫ぶ人々が立ち上がって、ひとりの男を再び玉座に舞い戻らせた。その名はドナルド・トランプ。そして、その日から、世界は偉大さを求めて熾烈に争うことになった。

トランプがカナダやグリーンランドに目をつけたのもそのせいだ。偉大さの埋蔵量が半端ないと踏んだのだ。

だが、偉大さにかけては中国だって負けてはいない。そもそもアメリカみたいに「偉大にしよう」だなんて言わない。「中国はいつも偉大ですが」とデーンと構えている。4000年の歴史で蓄えた偉大さをさらに増やすべく、現在、周辺海域を好き勝手に調査して、海水中の偉大さを濾過しようと計画中だ。

いっぽう、偉大さを手荒く補給しているのが、プーチンのロシア。ウクライナでの偉大さ特別獲得作戦のテコ入れのため、北朝鮮から新鮮な偉大さを輸入することに決めた。もっとも、北朝鮮の偉大さは、品質管理が悪いせいか、前線に着く頃にはだいぶ目減りしているという。

偉大さをめぐるこの過当競争のなか、厳しいのは日本のように限られた偉大資源しかない国だ。我が国はどう生き残るべきだろうか? 高い関税と金の兜を渡して、アメリカから輸入すべきだろうか? それとも、チャイナリスク覚悟で、中国と取引するか。いや、いっそのこと偉大さなどあきらめて、手痛い負けを喫する前にレースから降りるか……。

そっちのほうがじつは偉大かもしれない。