苦い文学

地球温暖化の顔

猛烈な暑さの中、世界各国の代表たちが集まって、地球温暖化対策について協議を始めた。

ある大国の代表が主張した。「我が国は国際的な基準を遵守している。問題は一部の国々が責任を果たさないことだ」 もっとも、その大国こそが数字をごまかして、基準などないかのようにふるまっていたのだった。

いくつかの国々がただちに賛意を表明した。実は、それらの国もまた、国際的なルール破りの張本人だった。

すると、今度は別の大国が立ち上がり、非難した。

「一部の国々が問題を軽視したせいで、このような温暖化が生じたのだ」

だが、一部の国々がそうせざるを得なくなったのは、この大国が不当な圧力をかけたせいなのだった。

協議は続いたが、どの国も、自分にも責任があるのに、まるで何の関係もないかのような顔つきをしていた。

この協議の様子は、テレビやネットでライブ中継された。人々は、世界各国の代表たちが涼しい顔をしているのを見て、「おや、地球温暖化問題が解決したのか」と喜んだ。

苦い文学

冒涜

保険金不正受給問題が発覚した中古車販売大手、ビッグモーターの本社前に今日、抗議者たちが集ってデモを行いました。目的は、昨日行われた会見での社長の発言の訂正と、社長の謝罪です。

デモ参加者「社長はこんなことを言ったそうじゃないですか。『ゴルフボールを靴下に入れて、振り回して、水増し請求する。本当に許せません。ゴルフを愛する人への冒涜ですよ』と。いや本当に許せないのは、私たちですよ」

別のデモ参加者「そうだ! 私たちだって冒涜されたんです。私たちの愛する靴下がそんな用途に使われていたなんて!」

参加者一同「靴下を愛する私たちへの謝罪を求める!」

サンタクロースの格好で大きな靴下を掲げているのが抗議活動の主催者です。

主催者「靴下を冒涜することは、サンタを信じる子どもたちの夢を踏みにじることですよね。この会社がやっているのは、サンタが靴下にプレゼントを入れて、それでトナカイを殴っているのと一緒ですよ!」

抗議者たちが猛暑のなか抗議活動を続け、参加者たちの履き古した靴下から発する臭気で、ビッグモーターの本社前は一時騒然となりました。

苦い文学

ブルース加速エネルギー

温室効果ガスを排出する化石燃料資源に代わるクリーン・エネルギー。先日、大学の研究チームが、クリーンエネルギーに関する画期的な発表を行い、話題を呼んでいます。

研究代表者「クリーン・エネルギーは、石油や天然ガスに比べ、非効率的で、コストも割高になるため、これが導入のネックとなっていました。ですが、私たちの新技術はこの状況を大きく変えてくれるでしょう」

大学の研究者チームが着目したのは「炎上」でした。ネットの炎上からエネルギーを取り出すことに成功したのです。

「化石燃料の燃焼は CO₂ をなどの温室効果ガスを排出しますが、その点、ネットの炎上はいかなるガスも生み出しません。完全にクリーンなのです」

(炎上したサイトやネットの誹謗中傷が研究室のモニターに映し出される。そのモニターと電球をつなぐと電球が輝く。拍手する研究者たち)

記者「ネットの炎上によって自殺者が続出する点についての批判もありますが……」

研究者「倫理的にはダーティでも、エネルギー自体はクリーンです」

研究チームはさらなるクリーン・エネルギー源にも注目しています。

研究者「私たちはいま『弱い者達が夕暮れさらに弱い者をたたく、その音が響きわたればブルースは加速していく』のブルース加速エネルギーの実用化にむけて取り組んでいます」

研究チームは、近いうちに、追い詰められた人々を集めて、幼児をたたかせる実証研究を行う予定です。

苦い文学

背中の盗難

帰宅した彼は、背中がないのに気がついた。普通、背中を落とす人はいないから、どこかで盗まれたにちがいない。そういえば、駅前の人混みを歩いているとき、誰かに背中を撫でられたような気がした。きっとそのとき盗まれたのだ。

彼は警察に行った。盗難届を出したい旨を伝えると「背中が盗まれた?」などと取り合ってくれない。しかたなく彼は服を脱ぎ、元背中があった場所を見せた。

「見事に盗まれてますね」と警察は感心し、盗難届を受け取ってくれた。

彼はそそくさと家に帰った。恥ずかしく惨めで、妻子にも隠れるように自分の部屋に入った。家長としての威厳を示すのは背中なしには無理だった。

灯りを消してベッドに横になる。はじめは仰向けだったが、だんだん失われた背中部分が崩れていくような不安な感覚がしてきた。

腹ばいになると、不安な気持ちは消えた。身をよじって毛布にくるまる。そのままじっとしていると暖かく安らいだ気持ちになった。やがて彼は眠りに落ちた。

夢の中では、立派な甲羅を身につけて、海を自在に泳いでいた。

苦い文学

いま若者があぶない

若者への大麻のまん延がかつてなく深刻になっている。その理由には、「かっこいいから」というファッション的なものもあるにちがいない。

昔の未成年はタバコをふかしてイキがったものだが、今はそれが大麻になったのだ。だが、どうして、タバコが大麻に変わってしまったのだろうか。

答えは簡単だ。

タバコはもうカッコ悪いからだ。ここ 10 年の間に日本の社会も変わって、喫煙率も下がり、喫煙自体が過去の習慣となりつつある。いまやタバコは古臭さ・かっこ悪さの象徴となったのだ。

だから、芸能人でもタバコを吸う人はいない。いや、いることはいるのだが、それを公言する人はまずいない。イメージ的になんの得にもならないからだ。

いっぽう、大麻を吸う芸能人は確実にいる。なぜなら警察が逮捕するからだ。これ以上のエビデンスはない。そこで、若者は、大麻は芸能人がやるから、タバコよりもかっこいいと思ってしまう。

しかも、若者には、大麻を吸う大人がどんな様子だかはわからない。なぜなら、逮捕されるのでみんなこっそり吸うからだ。いっぽう、タバコはどこでも平気で吸う人がいる。そして、そうした人にかぎって確実に汚らしい(かつ臭い)。

こうした状況で、若者たちが大麻を選ばなかったらどうかしている。

禁煙が進めば進むほど、若者は大麻に魅力を感じるようになる。皮肉な事態だが、実はここに若者の大麻使用増加を防ぐ鍵がある。

80 歳以上の大麻使用を合法化すればいい。そうすれば若者はもう大麻に見向きもしなくなるだろう。

「わー、おばあちゃんの家の匂いだー!」

そんなふうに言われるものを吸いたがる人がいようか。

苦い文学

【ネタバレなし】君たちはどう生きるか

宮崎駿の新作映画「君たちはどう生きるか」が 7 月 14 日に公開された。宣伝も行わず、内容もわからなければ、誰が出ているのかもわからない。すると、バカは余計に興味をそそられて見たくなる、そういう宣伝手法だ。私も興味をそそられて見に行った。

感想としては、面白かった。もう一度見てもいいくらいだ。

まだ見ていない人のためにあらすじを紹介しておこう。

貧しい靴職人が、ある日、礼拝堂で不思議な男に出会う。この男、冬だというのに素っ裸でいる。靴職人はその男に自分のコートを着せて家に連れ帰った。

その男はミハイルといって、居候して靴職人を手伝っうことになった。ミハイルはむっつり顔で働くのだが、ごくまれに笑顔になる。すると不思議な出来事が起きるのだ。そして、三度目の笑顔を見せたとき、ミハイルは自分が天使であることを明かす。神から与えられた罰が許されたと語り、翼を生やして天に昇っていった。

*お断り:ネタバレなしのため、ここに紹介したあらすじは「人はなんで生きるか」(トルストイ作)となっています。

苦い文学

日本はロシアに人を送れ

欧米によるウクライナへの軍事支援が増加の一途をたどっている。

最大の支援国はアメリカだ。何億ドルもの資金に加え、戦車、装甲車、地対空ミサイルシステム「パトリオット」、高機動ロケット砲システム「ハイマース」などをウクライナに送ってきた。

また、最近、アメリカはクラスター弾を供与したが、これはウクライナ支援国の間でも賛否が分かれている。

アメリカほどではないが、フランス、ドイツ、イギリスもウクライナへ積極的な軍事支援を続けている。

いっぽう日本はといえば、現行法では、日本から武器の無償供与はできない。しかし、日本も欧米並みに軍事支援すべきだという考えも根強い。

私は日本はウクライナに軍事支援をすべきではないという立場だ。そんなことのためにわざわざ法律を変えるには及ばないし、もっと簡単な方法があるからだ。ただロシアに人を送るだけでいいのだ。これが、逆にウクライナ軍を利することになる。

誰を送るかというと、もちろん「ビッグモーター」の人々だ。

ゴルフボールさえ渡すのを忘れなければ、ロシアじゅうの戦車も軍用車も戦闘機もあっという間に台無しにしてくれることだろう。

苦い文学

炎上

成熟した女性がもっとも憎むものはなんだろうか。

不正、性差別、理不尽な思い、無責任な組織、卑怯な男……これらは成熟し、まともな分別のある女性が等しく憎むところだ。だが、それらは最上位ではない。私の見るところ、女性が憎むものベストワンは日光だ。

でなければ、どうしてあのような忍者みたいな格好をするのだろうか。カラスのくちばしのようなサンバイザーで顔を覆うのだろうか。顔を布でぐるぐる巻きにした上に、カマキリのようなサングラスをかけるのだろうか。まるで日光を浴びたらたちまち灰になってしまうかのようではないか。

これはみな、女性が日光を憎むことはなはだしきによるのである。

だが、私はこうした女性たちを揶揄しているのではない。むしろ、激しい憤りを感じているのだ。

考えてもみてほしい。男は裸で歩いて平気だというのに、女性はそうではないのだ。これこそ太陽によるあからさまな性差別ではないだろうか。

ゆがんだ性差別行動をくりかえす太陽は、いちど炎上して痛い目にあったほうがいいと思っているのは私だけではないはずだ。

苦い文学

表と裏

表だか裏だかわからないという話をさせてほしい。

非常に孤独な男がいた。だれひとり寄りつくこともなく、何年もひとりぼっちで過ごしてきたのだ。おそらく性格もあるのだろう。

あまりにひとりぼっちだったので、彼のところに若い男女が入れ替わり立ち替わりやってきて、体を激しくまさぐりあうようになったほどだ。ひと気のない場所だと思われたのだ。

その程度ならまだしも、やがて不審な人々もやってくるようになった。ひと気のない場所は、悪事を働くにもうってつけだったのだ。

犯罪者たちは、彼の目の前でありとあらゆる凶行を繰り広げた。その恐ろしさもさることながら、自分が孤独なせいでこんなむごたらしい犯罪が行われているかと思うと、彼は道義的責任も感じずにはいられなかった。

そこで、彼は一計を案じた。彫り師に頼んで、背中に大きくこう彫ってもらったのだ。

「警察官立寄所」

これではさしもの悪人たちも逃げ出さざるをえなかった。ようやく平穏な生活をとりもどした彼であるが、それでもたまに ATM だと間違えてやってくる人はいる。

それはさておき、背中に「警察官立寄所」の刺青がある人がいるとしたら、その人は、裏の人間だろうか。それとも表の人間だろうか。

表だか裏だか、どっちだか……

苦い文学

ハリッサの謎

最近、スーパーや輸入食料品店に行くと「ハリッサ」という赤い辛味調味料を見かけることが多くなった。パッケージを見ると「地中海生まれの調味料」とか書いてある。

より正確に言えば、「ハリッサ」とは、地中海に面した北アフリカの国、チュニジアの名産品だ。これはこの国を代表する食品のひとつで、日本の味噌・醤油、韓国のコチュジャンのような地位を占めている。

「ハリッサ」は乾燥させた唐辛子にクミンやコリアンダー、塩などを加えて作るそうだ。チュニジアではスーパーなどで買うこともできるが、本来はそれぞれの家で作るもののようだ。

いろいろな料理に入れるが、そのまま「ハリッサ」とオリーブオイルにパンをつけて食べてもいい。

さて実のところ「ハリッサ」というのは少しおかしな名称だ。チュニジアのアラビア語では「ハリーサ(hriisa)」だ。どうしてハリーサが「ハリッサ」になったかというと、これはフランス経由でこの調味料が日本にもたらされたことによる。

フランスにはたくさんのチュニジア人が住んでおり、チュニジアの料理も普及している。「ハリーサ」もフランス語化して「harissa」と綴る。これを日本語のローマ字読みで「ハリッサ」と読んだのである。

しかしフランス語の「ss」は日本語の「ッ」とは関係ない。フランス語の綴りのルールでは、語中の「s」ひとつのときは、濁音(つまりザ行)、「ss」のときは清音(つまりサ行)で読む決まりだ。例えば「chaise」は「シェーズ(椅子)」、「chasse」は「シャス(狩り)」だ。だから「ハリッサ」の小さい「ッ」は不要なのだ。

しかも、「harissa」はフランス語として発音すると「アリサ」となる。これはフランス語では「h」を発音しないためだ。それで、この「ハリッサ」が日本に入ってきた当初はフランス語風に「アリッサ」という名で売られていたこともあった。

要するに、「ハリッサ」というのはアラビア語的でも、フランス語的でもない、いわば日本風の呼称だ。これはこれで、文化の伝播のひとつのありかただといえるだろう。

また、チュニジアからフランスを経て日本に来るまでの間に、小さい「ッ」が混入したことについて、食の安全、品質、風味の観点から懸念する人もいるかもしれない。だが、まったく問題がないのはもちろんである。