苦い文学

幸福の方程式

世の中には幸福な人もいれば不幸な人もいる。だが私は、この世から不幸というものが一掃され、世界中のすべての人々が幸福になるべきだと思う。

私は、世界中の人々を幸福にするための研究に打ち込み、ついにそのヒントを発見した。次の数式が幸福の鍵だったのだ。

      X-Y=Z

この数式が表しているのは、Z が 1 以上のときは、必ず世界に不幸な人が存在するということだ。それゆえ、私たちは、Z が 0 以下になるように努力しなくてはならない。

私はこの数式を「幸福の方程式」と呼びたい。なぜなら、ここにはじめて、すべての人間が、だれひとり取り残されることはなく、幸福になりうる、という可能性が数学的に示されたのだから。アインシュタインのあの有名な方程式に匹敵する意義を持つといっても過言ではあるまい。

なお、この数式で、X は「捨てる神の捨てる行為の総数」を、Y は「拾う神の拾う行為の総数」を表している。

万人を幸福のために、この方程式を役立てていただければ、私にとってこれに勝る幸福はない。

苦い文学

「間違いない」ができるまで

「私がやりました」と彼は罪を認めた。だが、警察はそれでは満足しないようなのだった。

取調官は机をドンと叩いた。「それじゃダメなんだよ! ちゃんと言え!」

彼は怯えながら答えた。「だから、私がやりました。すみません」

「口答えするな! そんなんで済むと思うなよ!」と取調官はさらに机を叩いた。すると、背後にいた別の取調官が制止した。「まあ、そうムキになるな」

「ですが、先輩……」

「俺に任せろ」とその取調官は彼のほうを向いた。「お前は自分の罪を認めてるようだな」

「はい。罪を償うつもりです」

「きいたふうな口を聞くんじゃんねえ。ことの次第によっては、その罪の償いってのも怪しくなるぜ」

「ですが、私はやったと認めているのです」

「うーん、やった、やらないんじゃないんだ。残念ながら。ほら、あの言い方があるだろう。知らないか、テストで答えが正解じゃない、不正解だ、これをなんというかい」

「バツですか」

「ちがう!」

「……間違い」

「その通り。そいつを使って『やった』ってことを言ってほしいのさ」

「え?」

「つまりだ、こう言うじゃないか。ナニナニしたのは……」

「あっ、間違いない。そうです、間違いないです」

「そうだ!」 取調官は同僚のほうを向いて怒鳴った。「なにをボヤボヤしてんだ。調書、調書だ、早く!」

……そして、翌日、新聞にこんな記事が載った。

〈都内の飲食店で料金を払わずに逃走したとして50代の無職の男が逮捕された。容疑者は警察の調べに対し「食い逃げしたのは間違いない」と容疑を認めている。〉

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サブスク詐欺

SNS で有名人の名を騙り、虚偽の投資話を持ちかけて現金 100 万円をだまし取ったとして 15 日、詐欺の疑いで池袋の自称ミュージシャン、山本足朗(たすろう)容疑者(23歳)が逮捕されました。

警察によりますと山本容疑者は今月、都内の 70 代男性に対し SNS のダイレクトメッセージで、シンガー・ソング・ライターの山下達郎さんを名乗り「世界中のシティ・ポップのブームに合わせて、近々サブスクリプション・サービスで自分の曲の配信を始める予定です。配信解禁前に出資してくれれば、印税の1%をお渡しします」などと嘘の投資話を持ちかけました。

男性は現金 100 万円を振り込みましたが、その後、予定された配信解禁日になっても、山下達郎さんの曲が配信されなかったため、警察に被害届を出しました。

被害にあった男性は「待てど暮らせど曲が配信されないため、がっかりしてサブスクにある竹内まりやさんの「元気を出して」を聞く毎日でしたので、犯人が逮捕されてホッとしております」と語りました。

警察の取り調べに対し、山本容疑者は「私の逮捕は不要でしょう」などと語り、容疑を否認しています。

苦い文学

仕事がないので、サイトに登録して、試験監督のバイトをした。なんの試験だかは言えないが、検定や資格試験のようなものだ。

当日、会場に行き、本部となった一室で試験の流れについて打ち合わせを済ませる。腕章をつけ、問題用紙やマークシートを抱えて担当の教室に行く。同じ教室の担当は他に2人いた。

2人は私よりずっと若い。あまりやる気のなさそうな感じだ。それで結局私がなんでもすることになった。教卓の上に用紙をきちんと並べたり、忘れた人用の筆記用具を確認したり、教室の時計が合っているか確認したり、黒板に注意事項を書いたり……。若い2人は私があまりにもテキパキしているので、驚いているようだった。

準備をしている間に受験者が集まり、試験開始時間も近づいてきた。まずマークシートを配る。

私はマークシートを抱え、もう片方の手の指に唾をたっぷりつけた。できるだけスムーズに配るにはこうしたほうがいい。すると、若いのが駆け寄ってきて「配らせてください!」と私からマークシートを取った。

マークシートを配り終えると、次は問題用紙だ。私は問題用紙を持ち上げ、指をしっかり舐めた。すると別の若いのが慌ててやってきて「代わりにやらせてください!」と問題用紙を奪い、どんどん配り始めた。

さて、試験が始まり、無事に終わった。問題用紙とマークシートの回収・確認も済み、あとは教卓を教室に隅に移動するだけだ。

私はひとり教卓の前に立ち、最後の一仕事だと、両手にぺっぺっと唾を吐いて、揉み手をした。

すると、すぐに若い2人が飛んでくるではないか。「代わります! 代わります!」といいながら教卓を掴んで移動させてしまった。

短い間であったが、若者2人はどうやら私にずいぶん感化されたようだ。私たちは本部に戻り、残りの作業を終え、解散となった。

別れぎわに前途ある2人を激励しようと、私は握手の手を差し出したが、恥ずかしかったのか早足で行ってしまった。

苦い文学

自殺をなくそう

ネットの誹謗中傷が引き起こす自殺を、ひとつでもなくすために私たちに何ができるだろうか。

「誹謗中傷をなくせばいいのだ」という人もいる。だが、これはふたつの点で難しい。まず、誹謗中傷とそれ以外の発言(批判・非難など)の区別をつけるのはそう簡単ではない。これは言論の自由にもかかわる重要な問題だ。

また、自殺をする人の精神状態の問題もある。実際、追い詰められた人にとっては、肯定的な意見ですら、非常につらく響くもののようだ。「うつにがんばれは禁句」ということもしばしばいわれる。

かように難しい問題だが、私にひとつ提案をさせてほしい。それは誹謗中傷をなくすどころか、それを活用することで自殺を確実に減らす方法だ。

しかも、簡単でお金もほとんどかからない。何をするかというと、SNS のあらゆる投稿の後にデフォルトで次の文言が入るようにするだけなのだ。

<相談窓口>
【いのちのテレフォン】
・フリーダイヤル 0120-XXX-XXX
・ナビダイヤル 0570-XXX-XXX

考えてほしい。特定の相手に「死ね」を繰り返した投稿の末尾に、これがあったとしたら。毒を飲ませた後に、すぐに解毒剤を渡すとしたら、それはむしろ善をなしたということではないだろうか。

ぜひ、日本政府にはこの案を採用していただき、私たちの国がいつまでも卑劣な誹謗中傷に溢れる国であるようにしてほしい。

<相談窓口>
【いのちのテレフォン】
・フリーダイヤル 0120-XXX-XXX
・ナビダイヤル 0570-XXX-XXX

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最初の男

ビルマの北部にカチン州というカチン民族が多く住む州がある。カチン州では昔からビルマ国軍とカチン人との間に戦争があって、停戦期間を挟みながら現在まで続いている。そのため、カチン州の農村はいま非常に悲惨な状況なのだという。

先月、私の友人の在日カチン人の男性がカチン州を訪問した。私は彼と会う用があり、喫茶店でその時の話を聞く機会を得た。彼は私より10以上年上で、健康状態も良くはないが、自分の民族のためにできることをしているのだった。

カチン州の州都はミッチーナーといい、ビルマの最大都市、ヤンゴンとは 1000 キロほど離れている。

私の友人によれば、ヤンゴンからこのミッチーナーに行くには3つの方法があるそうだ。鉄路、道路、空路だ。鉄路が一番安いが、2021 年 2 月の軍のクーデター以来封鎖されている。

次は道路、つまりバスだ。朝ヤンゴンを出て、翌日の朝に着くのだという。料金も安いが、いまバスで行くのは危険だという。ミッチーナーへの長い道のりでは、いくつもジャングルを通らなければならない。するとそこにはビルマ国軍の兵士たちがいる。兵士たちはバスを止め、金品を要求するのだそうだ。拒否なんかできない。銃を持っているからだ。

ビルマ軍をやり過ごしたとしてもまだ安心はできない。別のジャングルに入ると、今度はビルマ軍と敵対している武装組織が潜んでいる。もちろん銃をもっているから、ここでも金品を奪われる。

そして別のジャングルには、また別の武装組織が潜伏している。金品を差し出すのはもちろんだ。ヘマをして機嫌を損ねでもしたら大変だ。食べ物も飲み物もないジャングルの中で、丸一日、足止めを喰らう可能性だってある。

結局いちばん安全なのは飛行機ということになる。料金が今や何倍にもなっているが、これしかないし、私の友人もそうせざるをえなかったという。

ところで、タイトルの「最初の男」というのは、彼がハンディファンを持っていたからだ。

かねてから、おじさんは絶対にハンディファンを使わない、と主張してきた私であるが、例外との最初の出会いにもう笑いが止まらない。

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名画の防御システム

熱烈なる美術愛好家にして、著名な発明家であるコンスタンタン・ドールヴィイ伯爵のパリの邸宅、《美麗荘》では、錚々たる名士が呼び集められ、伯爵の発明品の公開を興奮の面持ちで待ち受けていた。

その発明品は「現代のヴァンダリスムに対する輝かしき勝利」をもたらすものだと招待状には記されていた。客人たちはその証人として招かれたのであった。

やがて伯爵が現れ、額に入った大きな絵画が運ばれてきた。伯爵はその絵の隣に立ち、語り出した。

「今、ヨオロッパの藝術は未曾有の危機に瀕しております。不遜なる環境活動家どもにより、名画という名画に、スープ・テロという野蛮な攻撃が加えられておるのです。私は、人類の遺産たるこれらの名画をテロから守り、環境活動家どもの行為を葬り去るべく、防御システムの開発に打ち込み、ついに完成したのです」

どよめきが沸き起こった。ついにあの頭のおかしい連中に鉄槌が下されるのだ。その瞬間に立ち会うことができるとは!

伯爵は一人の若い召使いを呼び寄せた。あらかじめ打ち合わせしていたものらしく、召使いは缶を持って、絵画の前に立った。伯爵は額縁の四方を指し示した。

「角に設置されたセンサーが、ただちに不審者を感知します。そして瞬時にその手にある缶を分析し、内容物を完全な精度で突き止めるのです」 伯爵は額縁の下辺中央に取り付けられた表示板を示した。そこには「トマトスープ」という文字が浮かび上がっている。

召使いはすぐに缶のラベルを人々に見せた。それは確かにトマトスープの缶だった! 客たちの息を呑む音が響くなか、伯爵は召使いを促す。

召使いは素早い手つきで缶を開け、絵画に向かって缶を掲げるや、ぴたりと停止した。「いま、この瞬間、人間の認知よりも遥かに速いスピードで、額縁に仕込まれた防御システムが作動しているのです」と、伯爵は語り、召使に呼びかけた。

「さあ、やりたまえ」

召使いは振りかぶって缶の中身をぶちまけようとする。その瞬間、額縁の上下左右から内側に赤い液体が噴出し、絵画全面がトマトスープで覆われた。

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ちがかった

「ちがかった(違かった)」「ちがくて(違くて)」というのは、「違った」「違って」ということだが、若い人はよく使っている。

のみならず、若い人たちの中には「違かった」「違くて」は標準的な日本語だと思っている人も多いのにも気づかされる。

もちろん、標準的な日本語と異なるからといって間違いではないし、どこかの方言から広まったという可能性だってある。

いずれにせよ、「違かった」「違くて」は、標準的な日本語から見て活用の点で非標準的だ。というのも、「違う」は動詞なのに、まるで形容詞のような活用をしているからだ。つまり、形容詞「強い」が「強かった」「強くて」になるように活用している。

「違かった」「違くて」の問題で面白いのは、「違う」に似た動詞はそんな活用になはならないということだ。たとえば「疑う」は「違う」に似ているが、「うたがった」「うたがって」を「うたがかった」「うたがくて」というのは聞いたことがない。「まちがう(間違う)」もそうだ。

となると、「違かった」「違くて」の原因は「違う」の形ではなくて、意味にあるのではないかということになる。一説によれば、「違う」は状態を表すから形容詞に似てきたのだそうだ。だが、私はもうすこし突っ込んで、「違う」と形容詞の「ない」が意味的に似ていることに着目したい。

「これは私の欲しいものではない」は「これは私の欲しいものとは違う」ということでもある。否定というのは、これ以外の何かである、ということを表すから、その点で「これとは異なる」ということを表す「違う」と似てくる。「〜とちがった」は「〜ではなかった」だし、「〜とちがって」は「〜ではなくて」だ。

そこで、この「ない」との類似性により、「違う」は形容詞的な活用をされ出したのではないだろうか。

というのが私の推測だが、違かったらごめんなさい。

苦い文学

桃太郎の本

桃太郎の本、好評発売中!

『合言葉はハッピーチ! 桃から生まれた魔法の言葉』
『偏差値30だった僕が鬼を退治した話』
『仲間を作るきびだんご術』
『犬・猿・雉を動かす』
『きびだんごダイエット』
『きびだんごが冷めないうちに』
『人生を変える退治力』
『鬼に嫌われる勇気』
『鬼を10万匹殺した僕が笑っているワケ』
『鬼は殺し方が9割』
『はじめよう! つみたてONISA』

【作者:桃太郎さん紹介】
・桃から生まれたという出自に悶々とした日々を過ごすが、ある日突然、鬼退治を思い立って旅に出る。
・たくさんの仲間ときびだんごに支えられて、みごと鬼退治に成功。その活躍がメディアで報じられる。
・鬼退治までの経験をまとめた『合言葉はハッピーチ! 桃から生まれた魔法の言葉』が大ベストセラーに。以後つぎつぎにベストセラーを刊行。現在は執筆・講演活動に大忙しの日々。
・退治実績100%の鬼退治コンサルタントとしても著名。夢は世界各国の鬼ヶ島の征服?!
・猿のコーチングの第一人者として各地のボスザルから圧倒的な支持を受ける。
・鬼退治で鬼の資産を獲得したこときっかけに、資産運用にのめり込む。大胆かつ華麗な投資術が話題を呼び、ブログなどで推薦する銘柄が「金棒株」として注目を集める。
・芝刈りと川での洗濯にはうるさいという一面を持つ。

苦い文学

男がマスクを外すとき

【男の色気ひきたつ「セクシーなマスクの外し方」】

厚労省の方針で、マスクの着用が「個人の主体的な選択」になり、街中でマスクを外す機会が増えました。

そんなとき、ただ単に何も考えずにマスクを外しているとしたら、もしかしたら絶好の恋のチャンスを逃しているかもしれません。

じつは男性がマスクを外す瞬間は、女性がキュンとする仕草として注目を集めているのです。なんでも男性がマスクを外すときの「コロナを乗り切ったぜ」感が、女性をドキッとさせるのだとか。

こうなったら男の色気にあふれたマスクの外し方を身につけるしかありませんね。女性をトリコにするセクシーなマスクの外し方を3つご紹介しましょう! 

【その1】
まずは基本の外し方から。マスクの表面をソフトにタッチした後に、片手でやさしくマスクを外しましょう。セクシーかつエレガントなその仕草に、女性のドキドキが聞こえるようです。「愚かなり、我が恋」とばかりに熱い吐息を漏らせばなお効果大。

【その2】
片手をぶるぶる振るわせながら頬にあて、頬を引っ掻くようにマスクを片側から剥ぎ取るのは、ワイルドさをアピールしたいときに。マスクを外すと現れる頬の古傷にもう女性の視線は釘付けです。

【その3】
両手の人差し指を回しながらゆっくりと耳に近づけ、マスクの紐をそれぞれの指で絡めとるように外す方法。人差し指がまるで求愛ダンスをする小鳥のような可愛らしさを演出します。マスクが外れた瞬間に、意中の女性にウインクしながら、小声で「LOVE」とささやいてみたらいかが?

みなさん、ぜひ鏡の前で練習してみてください!

(公共の場で実践する場合は、逮捕されたときのためのマスクも用意しておきましょう)