最近、スーパーや輸入食料品店に行くと「ハリッサ」という赤い辛味調味料を見かけることが多くなった。パッケージを見ると「地中海生まれの調味料」とか書いてある。
より正確に言えば、「ハリッサ」とは、地中海に面した北アフリカの国、チュニジアの名産品だ。これはこの国を代表する食品のひとつで、日本の味噌・醤油、韓国のコチュジャンのような地位を占めている。
「ハリッサ」は乾燥させた唐辛子にクミンやコリアンダー、塩などを加えて作るそうだ。チュニジアではスーパーなどで買うこともできるが、本来はそれぞれの家で作るもののようだ。
いろいろな料理に入れるが、そのまま「ハリッサ」とオリーブオイルにパンをつけて食べてもいい。
さて実のところ「ハリッサ」というのは少しおかしな名称だ。チュニジアのアラビア語では「ハリーサ(hriisa)」だ。どうしてハリーサが「ハリッサ」になったかというと、これはフランス経由でこの調味料が日本にもたらされたことによる。
フランスにはたくさんのチュニジア人が住んでおり、チュニジアの料理も普及している。「ハリーサ」もフランス語化して「harissa」と綴る。これを日本語のローマ字読みで「ハリッサ」と読んだのである。
しかしフランス語の「ss」は日本語の「ッ」とは関係ない。フランス語の綴りのルールでは、語中の「s」ひとつのときは、濁音(つまりザ行)、「ss」のときは清音(つまりサ行)で読む決まりだ。例えば「chaise」は「シェーズ(椅子)」、「chasse」は「シャス(狩り)」だ。だから「ハリッサ」の小さい「ッ」は不要なのだ。
しかも、「harissa」はフランス語として発音すると「アリサ」となる。これはフランス語では「h」を発音しないためだ。それで、この「ハリッサ」が日本に入ってきた当初はフランス語風に「アリッサ」という名で売られていたこともあった。
要するに、「ハリッサ」というのはアラビア語的でも、フランス語的でもない、いわば日本風の呼称だ。これはこれで、文化の伝播のひとつのありかただといえるだろう。
また、チュニジアからフランスを経て日本に来るまでの間に、小さい「ッ」が混入したことについて、食の安全、品質、風味の観点から懸念する人もいるかもしれない。だが、まったく問題がないのはもちろんである。