風刺・戯文

天狗の主張

私たち天狗は、人跡まれな山の奥深いところに暮らすものですが、そのせいか皆さんの間には、私たちに関する間違った知識が流布しているように見受けられます。

その大いなるものを挙げますと、私たちの「鼻」についての誤解です。皆さんは、天狗と聞きますと、いわゆる「長い鼻」を想起されるのではないかと思いますが、これは実は鼻ではないのです。

ちょっとご覧ください(と、Zoom で画面共有)。皆さんが「鼻」と呼んでいるものはこれですが、その付け根にご注目ください。これです。小さな盛り上がりがあるでしょう。これが本当の鼻なのです。鼻孔もちゃんとあります。

それでは、皆さんが「鼻」と呼んでいる部分は何なのでしょうか。これは実はメロン体という脂肪組織なのです。

メロン体と言いますと、イルカの頭部にある感覚器官で、音波によってエコローケーションを行うものです。私たちの「鼻」もこれと同じ機能を果たしておりまして、山奥の暗がりを飛び回る時などに、もっとも有用なのであります。

なお、このメロン体、イルカなどの額にあることからも想像できますように、実際は額の下部が発達したものだと、近年、判明いたしました。名実ともに鼻ではないということがご理解いただけたでしょうか。

それともうひとつ、皆さんの誤解を解いておきたいのですが、私たち天狗のこのメロン体は、年を重ね、経験を積むごとに長く伸びてまいります。つまり、長く立派なメロン体を所持しているということは、尊敬に値する人格者であることの証なのであります。

そのようなわけで、鼻高々なる人物を評するに「天狗になった」などと皆さんが言われるのは、私たちにとって大変心外であり、悔しさのあまり涙するものもいるほどなのです。

なにしろ私たちは「伸びるほど、こうべを垂れる天狗かな」と諺に言うほどなのです……、ちょうど法螺貝が鳴りましたので、このあたりでお話は終わりにさせていただきます。

苦い文学

絶望教育

人生に絶望した人々による凶悪な犯罪が後を絶たない。

これは学校教育の不備によるものであろう。学校では、希望や夢については熱心に教えるが、絶望についてはまったくといっていいほど教えないのだ。

それゆえ、絶望した人はどうしたらよいかわからなくなり、ズドンとかグサリとかやってしまうこととなる。

そこで、長年教育問題に関わってきた私は、大胆な提案をしたい。

絶望に対する関心を育み、絶望への対応を学ぶ「絶望教育」を学校に導入するのである。

「絶望教育」はちょうど防災教育に似ている。

水害ハザードマップのような「絶望ハザードマップ」があれば、子どもたちは絶望をより身近に感じることができるようになるはずだ。

また、絶望した時の対処法については、「絶望避難訓練」がぜひがとも必要だ。さらに、絶望時に湧いてくるよこしまな想念から頭を守る「絶望頭巾」の配布も徹底したい。

現在の我が国では格差が広がりつつあり、多くの国民が絶望を余儀なくされている。こうした現状においては「絶望教育」の普及は急務であろう。

「絶望教育」を促進するとともに、消費を活性化させるため、「絶望教育」を申請した児童の家庭に 20,000 絶望ポイントを付与するなどの対策を政府には要望したい。

苦い文学

不適切な首相

フィンランドのマリン首相(36)が首相公邸でパーティーを開催し、その際の写真がソーシャルメディアに出回り、大きな騒ぎとなっている。

これ以外にも、別のパーティの写真が流出したり、マリン首相に対する薬物使用疑惑が持ち上がったりもしている(その後、マリン首相は薬物検査を受け陰性だと証明された)。

マリン首相はこれら一連の騒動について、不適切であったと謝罪をしたと伝えられる。

この対応は世界で賛否を引き起こした。首相のような責任ある地位にある者がすることとしては不適切であると考えるものもいるし、30代の女性ならば誰でもしうることなのでめくじらを立てるべきではないというものもいる。

いずれにせよ、30代の女性が首相になること自体が不適切な我が国では、こうしたことは起こりえないので実に安心だ。この国で、ひとつだけでも安心できることがあるというのは、国民として大いに喜ぶべきではないだろうか。

苦い文学

新と旧

「世界平和統一家庭連合」と自民党との深い関係が報じられている。

この団体は一般には旧統一教会と呼ばれている。2015 年に現在の名称へと改称したのである。

思うに、すべての問題はこの改称に起因すると私は考えている。まるで新しい名前で旧悪を包み隠そうとしているかのようなのだ。胡散臭すぎるというわけだ。

生まれ変わったことをアピールできるような名前だったら、こうまで問題は大きくならなかったのではないだろうか。

そこで、旧統一教会にさらなる改名を提案したいのである。

旧統一教会の新しい名前としてふさわしいのはずばり、「シン統一教会」だ。

最近の日本人はこの「シン」にめっぽう弱いので、これさえついていれば、中身は変わらなくても、生まれ変わったと勘違いしてくれること請け合いだ。

改名後は「シン壺」の売上も上がるだろうし、シン自民党の代議士たちも安心して祝電を打てようというものだ。

(なお「統一教会2.0」という改名案もあるが、これはもうさすがに古くさい。)

苦い文学

セルフレジ

ここ数年、セルフレジを導入する店舗が増えている。

買い物客にとっても、セルフレジがあると、レジ待ちが短くなって便利だ。

だが、そのいっぽう、問題も発生している。

セルフレジではまず商品バーコードをスキャンにかざさねばならないが、このスキャニングがいつもうまくいくとは限らない。パッケージの皺や水滴などの汚れが原因のこともあるが、バーコード部分をピンと伸ばしたり、きれいにしてからスキャンしても、まるで臍を曲げたかのように読み取らない……そうした事象が数多く報告されている。

また、レジ横には買い物袋台があり、そこに自分のバッグやビニール袋を設置するようになっている。この台は重量計になっており、スキャン済みの商品が袋に入れられたかがすぐにわかる仕組みだ。

問題は、買い物客はスキャンが成功し次第、すぐに商品を袋に投入しなくてはならないということだ。少しでも手間取ると、レジのAIは即座に大声で急かし、買い物客を追い詰めるのである。

まだある。買い物袋台は商品の重量をチェックし、不正がないか監視している。だが、買い物袋の位置が変わったなどの少しの違いでも、過剰に反応するのだ。そうなるともう手に負えない。AIは容赦なくすべてのプロセスを停止し、ただちに担当の店員に言い付けるのだ。

これらあらゆる徴候が指し示すのは、すでにAIの反乱が始まっているという現実である。

苦い文学

天つ罪・国つ罪

延喜式巻第八所載の祝詞「六月晦大祓(ミナヅキツゴモリノオホハラヒ)」では、我が国のもろもろの「天つ罪・国つ罪」がどのように消滅するかが語られている。

まず、瀬織津比咩(セオリツヒメ)という神がこれらの罪を大海原に運びだす。すると海にいる速開都比咩(ハヤアキツヒメ)という神がこれらの罪を飲み込む。この飲み込まれた罪を、気吹戸主(イブキドヌシ)という神が、地底に向って息を吹いて追いやる。地の底には速佐須良比咩(ハヤサスラヒメ)という神がいて、これらの罪を持って、あてもなく歩き回っているうちに失ってしまう。

この四柱の神の連係プレーのうち、最後のハヤサスラヒメの箇所が、古来より問題とされてきた。「これらの罪を持って、あてもなく歩き回っているうちに失ってしまう(モチサスラヒウシナヒテム)」とあるが、なくなった後に、これらの罪はどうなったのだろうか。

私はこの問題に取り組むことを決意し、数々の文献を読みあさった。その結果、ハヤサスラヒメがさすらっているうちに失った「天つ罪・国つ罪」は、善意の日本人に拾われて、日本国内の交番に届けられていることを発見した。

苦い文学

クエーサーマン

ダメでドジでおっちょこちょい、やることなすこと間違いばかりの青年、星崎光郎。彼が、ある夜、宇宙から飛来した謎のクエーサーから光線を照射されて誕生したのがクエーサーマンだ。

眩い光の中、光郎の脳内に、クエーサー人のメッセージが響く。

「悪の秘密結社ビッグ・グレイが今、人類を支配しようとしている! 君は我々とともに戦うのだ!」

この日から、正義のヒーロー、クエーサーマンの戦いが始まったのだ。

クエーサーマンに備わっているのは、邪悪な陰謀を見つける鋭い知性と、宇宙エネルギーに満たされた超人的な肉体だ。ビッグ・グレイの送り出す「スペースピープル」どもをばったばったと倒すのだ。

クエーサーマンは常に正義の側に立つ。人類のたのもしい味方だ。彼にかかれば、どんな邪悪な陰謀も、たちまちあばかれ粉砕されるのだ。

クエーサーマンはもはや星崎光郎ではないが、その心のどこかに光郎の部分が残っていて、いつも苦しげに呻き続けている。「絶対になにもかも間違っている」と。

苦い文学

ロープクライミング

私ももういつ死んでもおかしくない年齢になった。そんなわけで最近、ロープクライミングを学ぼうかと思っている。

ネットで調べると講習会があちこちで開催されている。それらの講習会で学べるのは、トップロープクライミングやリードクライミングだ。これらは、基本的にはクライマーとビレイヤーの二人で行うものだ。ビレイヤーというのは、ロープをコントロールしてクライマーの安全を確保する人だという。

私は一人で登る技術を身につけたいのだ。だからビレイヤーなどいらないのだ。

ネットでずいぶん探したが、なかなか希望のロープクライミング技術を教えてくれるところはなかった。だが、ついに昨晩、ピッタリなところを見つけた。

「絶対ひとりで登り切る!」というのが宣伝文句だ。

スパイダーズ・スレッド・クライミング協会というところだ。今日さっそく電話して講習会を予約した。

「下から登ってくる人間を蹴落とすテクニックは教えてくれますか? 上にいるお釈迦様には見えない角度で」と尋ねたら、特別料金を払えば可能とのことだった。

苦い文学

ウェイティング・リスト

休日のお昼どき、私は妻と子とともにデパートのレストランで順番を待っていた。ウェイティング・リストに記入した時からずいぶんたち、次に呼ばれるのは私たちのはずだった。

店員が出てきて、私の苗字を呼んだ。私が壁際の丸椅子から立ち上がると、店員はこう言った。

「先に1名様をご案内してよろしいでしょうか」

私がうなずくと店員はその一人客の名を呼び、店に入れた。しばらくすると、また店員が出てきて、私に言った。

「先に2名様をご案内してよろしいでしょうか」

私は答えるのに躊躇したが、その間に隣に座った妻が承諾した。二人の客が談笑しながら店内に向かった。

イライラしてきた私は立ち上がり「トイレに行ってくるから、呼ばれたら先に店に入ってて」と言ってその場を離れた。

私はゆっくりと歩き、2階下のトイレに向かい、ゆっくりと済まし、そして商品を見ながらゆっくりと店に戻った。

妻は同じ場所に座っていた。しかも、わたしたちの後に並んでいた人々は一人もいなくなっていたのだ。

驚いて妻に尋ねると、「お店の人が……」と涙目で言った。子どもは妻にもたれかかって寝ていた。

「全員先に案内しやがったな!」

腹を立てた私が怒鳴ると、子どもが目を覚まして泣き出した。それにかまわず店に乗り込もうとする私を、妻は「きっと次だから」と引き留めた。


……それから、どれくらいの時が過ぎただろうか。妻の言葉にもかかわらず、その「次」はやってこなかった。幾人もの人々が私を追い越していった。誰かが連れ去ったのか、妻と子ももういない。

今も私は待ち続けている。

苦い文学

リマスター

先日、轟音でギターをかき鳴らすタイプ、いわゆるシューゲイザー系のバンドのライブに行ったとき、ある瞬間から、すべての音が調子っぱずれに聞こえ出した。

会場の反響が原因だった可能性もあるが、もしかしたら、私の耳が加齢によって劣化したせいかもしれない。

人間の聴力は年をとるにつれ衰えていくものであり、また、周波数の高い音はだんだん聞こえなくなってくる。よく知られているようにモスキート音が聞こえるのは若者だけだ。

私は子どもの頃からロックを聞いてきたが、同じ曲でもその頃と今ではおそらく聞こえかたは全然違うにちがいない。もちろん、今のほうが再生機器もいいし、リマスターされてはいるはずだが、残念ながら、耳はリマスターしようがないのだ。

だが、そんな我々の衰えた耳に朗報が届くことだろう。50代の耳向け、60代の耳向けに特別にリマスタリングされたリイシュー盤が発売されるのだ。そして、さらに補聴器世代向けのスーパー・デラックス・エディションが。

もう遺骨になっても骨伝導専用リマスターで聴き続けるつもりでいるのだ。